機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第4話  世界の胎動

 

 

 

 

  中央アジアとヨーロッパに存在する巨大な湖。

 カスピ海と呼ばれるその湖からほど近い場所に無骨ともいえる建造物が立ち並んでいた。

 

 『バルカナバート基地』

 

 カスピ海に面したこの基地はテタルトス軍が最初に地球に建造した軍事拠点である。

 滑走路には輸送機とモビルスーツが立ち並び、制服を着込んだ兵士達が緊張感を持ちながら、キビキビと動いている。

 

 「お疲れさまです、中尉」

 

 「ええ、お疲れさま」

 

 ピリピリする空気を漂わす基地内で部下から声を掛けられた女性は笑顔であいさつを返した。

 セレネ・ディノ中尉。

 ユニウス戦役において戦果を上げたエースパイロットの一人である。

 その顔立ちは美人と称しても何ら問題もないほど整っており、すれ違う兵士達も敬礼しながらどこか憧れるものを見るかのような視線を向けていた。

 しかし肝心の彼女の表情は明るいとは言えず、どこか陰鬱さを漂わせていた。

 

 「失礼します」

 

 目的の場所であるブリーフィングルームに足を踏み入れるとそこには長い赤い髪を持つ穏やかな印象を抱かせる一人の青年が立っていた。

 地球駐留軍指揮官ファウスト・クアドラード大佐。

 建国以来発生し続けいている紛争でも多大な戦果を上げ続け、若くして大佐の地位を与えられた天才。

 そう呼ばれるにふさわしい才覚とカリスマを持ち合わせている、テタルトスでも有名な人物の一人である。

 

 「クアドラード大佐、月から新たな命令書が届きました」

 

 「わざわざすまないね、中尉」

 

 「大佐、少しはお休みになられてください。東アジア共和国との会談や各部隊の指揮官との打ち合わせなどで殆どお休みになられていないでしょう?」

 

 ファウストは連日行われた会談で休む暇もなく仕事に追われていた。

 その理由がマスドライバーに関する事案だ。

 テタルトス軍が地球に拠点を建設する際、幾つかの懸念事項について議論された事があった。

 それが宇宙への帰還、すなわちマスドライバーに関する事だった。

 

 「マスドライバーに関する件で手を抜く訳にはいかない。我々の生命線の一つだからな」

 

 「それはそうでしょうが」

 

 テタルトスとマスドライバーを所有している勢力はほぼすべてが敵対関係。

 降下したが最後宇宙に戻れる手段がなかった。

 他勢力から奪取するという選択肢も無くは無かったが、地球での地力は相手が上であり現実的ではない。

 そこで唯一交渉の余地があった東アジア共和国と協定を結び、使用料を支払いや他に幾つかの条件を飲む事でカオシュン基地のマスドライバーを利用する事になった。

 それ故に東アジア共和国との外交は手の抜けない最重要事項の一つとなっているのだ。

 

 「このくらい大した事はないさ。それよりも先程、東アジア共和国で懇意にしている人物から情報が上がってきた」

 

 ファウストはセレネの方に端末の画面を向けた。

 

 「地球軍の部隊の一部がユーラシア大陸に入った……改革派ですか?」

 

 「ああ。その中には『GATーX141』の姿も確認されている、間違いないだろう。目的はヨーロッパ戦線の情報収集といったところか」

 

 激戦が繰り広げられているヨーロッパでは地球軍保守派が強い影響力を持っている。

 ユニウス戦役以降著しく弱体化した『ユーラシア連邦』もそれに呼応する形で動いている事やアメリカ大陸での戦いもある改革派はヨーロッパに対する行動を起こせないでいるのだ。

 今回の件も状況打開の糸口を探る為の情報収集が目的で間違いあるまい。

 

 「放置しておいても?」

 

 テタルトスと協力関係にある筈の東アジア共和国を抜けて、地球軍改革派の機体がヨーロッパに向かっている。

 つまり手引きした人間がいるという事。

 セレネはこちらに向かっている部隊に関してだけでなく、協力者を指して放置していいのかと問うているのだ。

 

 「今は構わないさ。東アジア共和国とはあくまでもマスドライバーに関する協定を結んだだけで、こちらと同盟関係になった訳ではない。それに月からの命令書の件もある」

 

 「本国は何と?」

 

 地球生まれであり、ヤキン・ドゥーエ戦役で家族を失ったセレネにとってヨーロッパ現状は気落ちさせるには十分すぎるものだ。

 先程の表情も斥候に出た部隊からの報告を聞き、憂鬱な気分になっていたからである。

 これ以上の戦場拡大は彼女の望むものではない。

 しかしファウストから告げられた答えはそんな彼女の願いとは反するものであった。

 

 「本国は『ヨーロッパ戦線』の現状を打開する為、新たに戦力を降下させると言ってきている」

 

 「……降下作戦ですか?」

 

 「ああ。我々地上部隊もそれを支援しろとの事だ。宇宙との連携が必要な共同作戦になる。セレネ、各部隊の指揮官を集めてくれ、これからブリーフィングを行う」

 

 「了解いたしました」

 

 敬礼しながら退室するセレネを見届けるとファウストはもう一度命令書に目を通す。

 

 「……ヨーロッパ戦線状況打開の為の降下作戦か。物は言いようだな」

 

 目を細めすべて見透かしているかのように呟くと、集まってくる指揮官達に説明する作戦内容の概要をまとめ始めた。

 

 

 

 

 戦闘によって傷ついた友好国からの救助要請に応える形で出撃した同盟軍の部隊を援護する為、駆けつけた量産型フリーダムとジャスティスの二機。

 地球軍のモビルスーツであるウィンダムを次々と落としていく中、二機の前に地球軍の新たな機体が立ちふさがっていた。

 

 「……フリーダムとジャスティス」

 

 新型機である『イリアス』のコックピットに搭乗していたのは、少女と思われる小柄な人物であった。

 顔は仮面のようなもので覆われ表情は見えないが、全身から溢れんばかりの憎悪はフリーダムとジャスティスに向けられている。

 

 「……パイロットは……」

 

 いや、それは今は関係ない事。

 奴らは敵であり、憎悪の対象である。

 ならばやる事は一つ。

 排除するのみ。

 イリアスはエールストライカーを吹かすと、援軍として現れた二機のガンダムに向かって急降下する。

 鋭い殺気を放ち、腰からを抜いたビームサーベルを下段に構えジャスティスに斬り込んだ。

 

 「速い!?」

 

 ラクスは咄嗟に後退しながら、半円形の軌跡を描くサーベルを回避すると至近距離からビームライフルを発射する。

 この位置からでは外さないと確信する。

 しかし次の瞬間、ラクスは驚愕してしまった。

 

 「なっ、避けた!?」

 

 近距離にありながらイリアスは最小限の動きだけで発射されたビームを見事に回避して見せた。

 驚異的な反応である。

 

 「なら!」 

 

 続けてトリガーを引き、ジャスティスはライフルを発射し続ける。

 しかしすべて避けてみせたイリアスはサーベルによる斬撃を急所に向けて繰り出してくる。

 

 「くっ、このパイロットは!?」

 

 動きが違う。

 無論、イリアス自体の機体性能もあるのだろう。

 だがそれ以前にこのパイロットの反応は尋常ではない。

 

 「ラクス!」

 

 イリアスと切り結ぶジャスティスを援護しようとキラも動くが、別方向から発射された砲撃がフリーダムの行く手を阻んだ。

 

 「別の敵!?」 

 

 空中を動き回るフリーダムを狙う正確な射撃と回避を許さないとばかりに降り注ぐ幾重ものビーム。

 

 「この数は!?」

 

 普通のパイロットでは10回は撃ち落とされただろうビームすべて避けきったキラは攻撃を仕掛けた相手の方に目を向ける。

 そこにはかつて戦った覚えのある機体がこちらに狙いをつけていた。

 

 GAT-X133 『ヴォルケイノ・カラミティガンダム』

 

 カラミティガンダムの発展強化型の機体であり、元々強力であった火力をさらに増強し、フリーダム以上の圧倒的な砲撃能力を持っている。

 蒼い翼を持つ機体をモニター越しに見つめながら、パイロットであるアルゼーネ・バルマは心底感心したように、笑みを浮かべた。

 

 「今のをすべて避けるなんてやるじゃないの。流石はフリーダム、いえ、フリーダムモドキかしらね」

 

 見るものが見れば分かる。

 かつてのフリーダムに比べ外見の違いだけでなく、武装も少ない上に、機動性も低く感じられた。

 おそらくは先行量産型といったところであろう。

 となれば動力も核動力ではなく、バッテリーに違いない。

 それでも先ほどの攻撃で撃墜されなかったのはパイロット自身の高い技量によるもの。

 相手にとって不足は無いという事だ。

 

 「エース級って訳だね。面白い!」

 

 アルゼーネは舌舐めずりしながら、空飛ぶ獲物を捉えるべく、素早く戦略を組み立てる。

 

 「まずはご挨拶ってね!」

 

 ヴォルケイノ・カラミティの胸部が光を発し、複列位相エネルギー砲『スキュラ』が火を噴いた。

 

 「ッ!?」

 

 直撃すればただでは済まないビームをキラは機体を翻し紙一重で回避、即座にビームライフルを叩きこむ。

 

 「そう来ると思ったよ!」

 

 それを読んでいたアルネーゼは口元を歪め、ホバーで高速移動しながらビームをやり過ごすと、右手で握ったバズーカ砲『トーデスブロック』と肩から伸びる二連装高エネルギー長射程ビーム砲『シュラーク』を発射する。

 

 「この程度なら!」

 

 キラはフリーダムの翼を広げると砲撃を潜り抜け、複雑な機動を取りながら、接近戦を仕掛けようと加速する。

 だが、そこでコックピット内に甲高い警告音が鳴り響く。

 攻撃を仕掛けようとしたフリーダムの直上から別の機体が急降下してきた。

 

 「上!?」

 

 上空から襲ってきた武装は鉄球。

 こちらの背中に向けて正確に狙ってきている。

 

 「まだ!」

 

 空中で機体を捻り、無理やり仰向けになるとその勢いのままシールドを横に振るって鉄球を弾き飛ばす。

 そしてすれ違う形で鳥を連想させるモビルアーマーが降下してきた。

 

 GAT-X372 『シュトゥルム・レイダーガンダム』

 

 レイダーガンダムの発展強化型の機体であり、レール砲以外目に見えた武装の増加は無いが、反面加速性、運動性などが大幅に強化されている。

 

 「うわ、今のをやり過ごすなんてどんな反応速度してるんだよ」

 

 「馬鹿、何やってんだ!」

 

 「す、すいません、姉御!」

 

 怒鳴りつけるアルネーゼの声にシュトゥルム・レイダーを操るジルベール・ブラジウスは乾いた笑みを浮かべて誤魔化した。

 

 「でもあれって俺のせいじゃないでしょ。相手の方が化け物で」

 

 「言い訳すんじゃないよ! アンタ、アオイの坊や相手にもしてやられてただろ!」

 

 「勘弁してくださいよ」

 

 ふざけた言いあいをしながらも、二機は攻撃の手を緩めない。

 レイダーが持ち前の機動性をもってこちらを翻弄しながら、隙を見てカラミティの発射したミサイルが降り注ぐ。

 

 「この二機は……」

 

 キラは絶妙なタイミングで攻撃を避けつつ、ビームライフルで牽制しながら、敵モビルスーツを観察する。

 あれらの機体群がかつて『オーブ戦役』と呼ばれた戦いで投入された機動兵器の後継機であるとするならば―――

 その時、背後に回り込んでいた別の機体が姿を現した。

 

 「やはりまだ!!」

 

 キラは背中の高インパルス砲『アータルⅡ』を振り向きざまに発射する。

 しかし、それが届く事は無く、敵に直撃する寸前で曲げられてしまった。

 

 「ゲシュマイディッヒパンツァー!? やっぱりもう一機いたか!」

 

 姿を見せた異形のモビルスーツが前面に展開した盾を横に、頭にかぶっていたバックパックを背後に移動させると機体の全貌が明らかになる。

 

 GAT-X256 『ストリーム・フォビドゥンガンダム』

 

 フォビドゥンガンダムの発展強化型の機体であり、ゲシュマイディッヒパンツァーの増設による防御力の増加と機体自体の火力を強化された事でより変則的な攻撃を可能になっている。

 

 「鋭い。こっちに気がついていたなんてね!!」

 

 フォビドゥンのパイロットであるカーラ・アルマディオはキラの技量に驚きつつも、楽しそうに笑みを浮かべる。

 

 「こんな強敵と戦えるなんてね!」

 

 接近戦武装である重鎌槍『ニーズへグ・トライデント』を握り締めフリーダムに斬りかかった。

 

 「はああ!!」

 

 変則的な死神の鎌。

 それを紙一重で捌きつつフリーダムは首を狙う鎌刃をビームサーベルで切り払う。

 空中でぶつかり合う刃が火花を散らした。

 

 「やるじゃん! でもまだまだってね!!」

 

 カーラは器用に鎌を操り、直上に刃を持ってくるとそこからビーム刃が発生する。

 

 「なっ!?」

 

 「串刺しになるといいよ!!」

 

 「この!」

 

 振り下ろされるビーム刃を機体を逸らして回避、フォビドゥンを蹴り上げレールガン『タスラムⅡ』を直撃させて引き離した。

 

 「ぐぅぅぅぅ!! こいつ!!」

 

 フォビドゥンを引き離したフリーダムに今度は背後からレイダーが口元のエネルギー砲『ツォーン』を発射してきた。

 

 「隙ありってね!」

 

 「こいつら!」

 

 ツォーンを防御しながら、キラは改めて三機の動きを冷静に観察する。

 

 強い。

 

 それは機体性能だけではなく、パイロットの技量も高水準である事も間違いない。

 それ以上に今までの地球軍のモビルスーツとは明らかに動きが違っているのだ。

 キラは知る由もないが、現在地球軍は(保守派、改革派問わず)ユニウス戦役で投入された『エクセリオンガンダム』に搭載されていた『W.S.システム』と呼ばれるシステムのデータを参考にした新型OSが配備され始めている。

 これによって全体的な戦闘力の底上げが図られているのだ。

 この三機に搭載されているOSも先行試作型として実戦配備された代物であり、他のモビルスーツとは一線を画した動きも可能としているのである。

 

 「キラ!? くっ!」

 

 「……お前の相手は私だ」

 

 ジャスティスは味方機を守りながらイリアス相手に攻防を繰り広げている。

 しかし強敵であるイリアスを相手にしながら、数の多い地球軍を押し留める事は難しく、残った機体も撃破されかかっていた。

 

 「アンタ達、ジャスティスモドキはあっちに任せて、私達はこのままフリーダムモドキを仕留める! しくじるんじゃないよ!!」

 

 「当然!」

 

 「分かってますよ、姉御。俺もこれ以上叱られたくないですからね」

 

 三機が同時にフリーダムに襲い掛かる。だがそこでキラもまた動き出した。

 

 「なるほど、確かに強い。けど!」

 

 背中のビーム砲をカラミティの進路上に叩き込むと、ホバーで加速していた敵機の動きが一瞬鈍る。

 その瞬間を見逃さず懐に飛び込むとビームサーベルを一閃した。

 

 「ここ!!」 

 

 横薙ぎに振るわれた光刃がカラミティの武装を斬り裂くと、破壊されたミサイルポッドが爆発する。

 

 「ぐっ!?」

 

 「この!!」

 

 「姉御!!」

 

 ミサイルポッドの爆発の衝撃波によって体勢を崩されながらも反撃しようとしてくる三機。

 だが、陣形の乱れをキラは見逃さない。

 

 「そう来ると思ってた!」

 

 ビームライフルの一射によって誘導したレイダーに回り込み殴り、フォビドゥンに向けて叩きつけた。

 

 「ぐあああ!!」

 

 「ちょ、アンタ邪魔だっつーの!!」

 

 「仕方ないだろうが! 全くうちのチームの女共は!」

 

 ぶつかり合い動きを止めた敵機に向け、キラは『アータルⅡ』で狙いをつける。

 二機同時に仕留める絶好の機会。最も厄介なゲシュマイディッヒパンツァーが使えない好機。

 これを見逃すほど甘くない。

 

 「落ちろ!」

 

 「させるか!」

 

 そこで体勢を立て直したカラミティが放った『スキュラ』がフリーダムの攻勢を阻んだ。

 強力なビームを宙返りしてやり過ごすと空中で逆さまのままカラミティを狙撃する。

 

 「もう体勢を立て直したのか!」 

 

 「そんなもの当たるか!!」

 

 『アータルⅡ』の砲撃を地面を滑るようにして移動したカラミティを捉えず、大地を抉る。

 そこで一旦仕切り直しとばかりに体勢を立て直す三機。

 

 「やっぱり反応が鈍いな」

 

 キラは調整を行いながら、不満そうに呟いた。

 全力で動かそうとすると、キラの反応に機体がついてこない。

 この辺は量産機の限界といったところなのだろう。

 それでもあの三機相手に立ち回れるのは、あの機体群との戦闘経験があるからだ。

 強化、改良はされているようだが、特性そのものに変化はない。

 これならばある程度昔の経験も役に立つ。

 

 睨みあうフリーダムと三機のガンダム。

 

 そこでカラミティのコックピットに通信が入ってきた。

 

 「暗号通信!? 撤退しろって……チッ、カーラ、ジルベール、退くよ!」

 

 「な、何でですか? これからでしょ!!」

 

 「詳しい話は後だ!」

 

 カラミティのバズーカ砲から発射された砲弾が途中で弾けるとフリーダムと共に周囲一帯を煙幕が包み込んだ。

 

 「煙幕!? 撤退する気か……」

 

 油断なくシールドを構えながら、煙の中から飛び出すと三機が後退していく姿が見えた。

 ジャスティスと交戦していたイリアスも同様に味方を援護しながら、下がっていく。

 

 「……何でこのタイミングで」

 

 戦況は物量で上回る敵の方が優勢だった。

 地球軍最大の武器はやはり、その圧倒的な物量。

 かつて中立同盟と地球軍の間で勃発した『オーブ戦役』で物量的に不利な筈の同盟軍が勝利する事ができたのは、洗練されたOSとパイロットの錬度の差があったからこそ。

 にも関わらず何故退く必要があるのか?

 

 「……退かざるえない事情があったって事か」

 

 「キラ、大丈夫ですか?」

 

 「うん。すぐに部隊を纏めて、僕達も撤退しよう。何かあるのかもしれない」

 

 「分かりました」

 

 キラは敵の撤退した方向を一瞥すると、ジャスティスと共に残存の味方機を纏める為に移動し始めた。

 

 この後、ストックホルム基地に帰還したキラ達は地球軍が撤退した理由を―――テタルトス軍が動こうとしている事を知る事になる。

 

 

 

 

 テタルトスが発見した施設の調査を終えたミネルバは補給と船体の補修の為、スカンジナビア軍事ステーション『ヴァルハラ』へ立ち寄っていた。

 この『ヴァルハラ』は『ヤキン・ドゥーエ戦役』から稼働している軍事ステーションであり、幾度も戦火に巻き込まれながらもその役割を全うしている同盟軍の重要拠点の一つである。

 

 「久しぶりの休暇だったわね」

 

 「うん、最近忙しかったもんね」

 

 独立部隊であるグラオ・イーリスは多忙である。

 最近は地球と宇宙を行ったり来たりで、休暇も基地内というのが当たり前だった。

 基地に居たら居たで、冷たい視線に晒される事もあったしで、休まる時間というのは貴重なものなのだ。

 満足しながらホーク姉妹が港を歩いていると接舷され、修復作業が行われているミネルバから施設で発見された機体が運び出されてゆくのが見えた。

 

 「あれ、あの機体運び出したんだ」

 

 「ホントだね」

 

 「プラントの方に送るんですか?」

 

 好きな服を買ったルナマリアとメイリンが上機嫌で両手で荷物を持ったアレンに振り返る。

 

 「いや、あれはこのまま地球へ降ろすらしい。例の襲撃者がいる以上、プラントに運ぶのはリスクがあるし、今スカンジナビアにはクレウス博士もいるらしいから、その方が調査も早く進むという事だろう」

 

 「なるほど」

 

 「ローザ・クレウス博士……どんな人なんですか? 私、会った事無いですけど」

 

 「良くも悪くも研究者だな。マッドサイエンティストって訳じゃないが……」

 

 ズッシリと重さが掛かる荷物を両手で抱えながら、アレンはため息をついた。

 

 「いつも思うが、女の買い物ってのは……」

 

 シミュレーター訓練を終え部屋に戻ろうとしていたアレンに待ち受けていたのはニコニコ笑うホーク姉妹だった。

 買い物に行きたいからついて来て欲しいと待ち構えていたらしい。

 要するに荷物持ちをして欲しいという訳だ。

 正直、遠慮したかったのだが、ニコニコ笑う二人の圧力には勝てず。

 まあ荷物持ちくらいなら手伝わない事もないのだがこの量は勘弁して欲しいものだ。

 ルナマリア、メイリンと三人でステーション内での買い物から戻ってくると、そこに見知った顔が格納庫に入ってくるのが見えた。

 向こうもこちらに気がついたのか、そのまま歩み寄ってくる。

 

 「久しぶりだな、イザーク」

 

 「ああ、お前も元気そうだな」

 

 荷物を持った右手の拳を突き出すと、向こうも手を上げて拳をコツンと軽くぶつけ合う。

 

 イザーク・ジュール。

 

 かつてはザフトのエリート部隊と言われたクルーゼ隊に所属していたパイロットでありアレンにとっても旧知の人物である。

 出会った当初は色々と諍いもあったが、今では仲の良い友人だ。

 もしかするとキラの次に仲が良いのはイザークかもしれない。

 

 「アネットさんは元気ですか?」

 

 ルナマリアが聞くと、イザークは少し照れくさそうにソッポを向いた。

 

 「ふん、元気過ぎるくらいだ。いつも小言ばかり言われている」

 

 「仲が良いのは良い事だよ」

 

 イザークはアークエンジェルの仲間の一人であり、共通の友人であるアネット・ブルーフィールドと半年ほど前に結婚したばかりだ。

 さらにアネットは妊娠しているらしく、軍からは離れて家で養生しているらしい。

 アネットは昔から面倒見のいい性格で、キラやアレンも何度も世話になった。

 だから結婚すると聞いた時は自分の事のように嬉しかったのを覚えている。

 生憎、丁度任務で結婚式に出席する事はできなかったが、送られてきた写真を見る限り、とても幸せそうだったのが印象的だった。

 後日、時間を作りルナマリアやメイリン達を伴って会いに行った時にはいつもと変わらず小言を言われてしまったのだが。

 

 「で、今日はどうしたんだ?」

 

 「ああ。グラディス艦長に会いに来た」

 

 イザークは今では中佐の階級を与えられ、部隊指揮も任されている。

 その彼が直接会いにきたという事は重要な事態が発生したのかもしれない。

 

 「何かあったのか?」

 

 「そうだな。説明の手間も省けるから、お前も来い」

 

 穏やかな雰囲気から真面目な表情に変わったイザークのただならぬ様子にアレンは頷く。

 

 「分かった。あ、ついでにコレ一緒に持ってくれ」

 

 「……ハァ。お前は全く」

 

 呆れた顔で荷物受け取ったイザークと一緒に荷物を二人の部屋に置き、制服に着替えたルナマリアを伴い艦長室まで足を運ぶとタリアとアーサーが待っていた。

 

 「さて早速話を始めさせてもらう。最近テタルトス軍の動きが活発になっているという報告が入った。軍上層部ではそう遠くない内になんらかの大規模な軍事作戦を行う気ではないかと予想している」

 

 「目的はどこか分かっているのですか?」

 

 「現在、調査中だ。だが、近いうちに動く事は間違いない」

 

 例の赤い機体についてもまだ調査中だというのに、ここで月が動くとは。

 やはりあそこでテタルトスと遭遇したのは偶然という訳ではないらしい。

 

 「……それで同盟はどう動かれるのですか?」

 

 「勿論、状況によっては黙っている訳にはいかない。上層部による話し合いで決着がつかない場合は、最悪武力衝突もありうる」

 

 最近の両国の関係を考えれば話し合いで解決するとはとても思えない。

 高い確率で戦闘になるだろう。

 

 「そこで不測の事態に備え『グラオ・イーリス』の方にも協力を要請させてもらった。アイラ王女にはすでに許可を貰っているし、カーライル議長の方からもすぐに連絡が入る筈だ。現在分かっている事はここに纏めてある。詳細が判明次第、再び連絡を入れさせてもらう」

 

 イザークから差し出されたディスクを受け取るとタリアはアレン達の方へ向き直った。

 

 「分かりました。アレン、ルナマリア、アーサー、主要メンバーをブリーフィングルームに集めて」

 

 「「「了解!!!」」」

 

 全員が敬礼しながら、部屋から退室すると若干気まずそうにイザークが声を掛けてきた。

 

 「……俺がわざわざ言う事ではないが、多分、次の戦いはアイツも出てくるぞ」

 

 「だろうな」

 

 ―――アイツとは誰か。

 

 お互いに確認せずとも分かっている。イザークにとってのかつての仲間だ。複雑な心境にもなるのも無理はない。

 

 「勘違いするな。正直に言えば戸惑いもあるが、それは『ヤキン・ドゥーエ戦役』でこちらに付くと決めた瞬間から覚悟していた事だ。それよりもアイツは多分お前を……どうするつもりだ?」

 

 気遣うように視線を向けてくるイザークに感謝しながら笑みを浮かべる。

 

 「その答えはずっと前から―――いや、アイツと出会った時から決まっている」

 

 ヘリオポリスで出会い、現在ここに至るまで互いに譲らず銃口を突き付けてきた。

 アイツもまた同じく、躊躇いはしないだろう。

 だから―――

 

 「決着はつけるさ」

 

 ずっと以前から決まっていた事実だけを口にするとイザークの肩をポンと軽く叩き、笑みを浮かべて歩き出す。

 

 

 再び二人が相見える瞬間が、刻一刻と近づいていた。

 




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