オーバーロード たっち・みーさんがギルマスを続けていたら   作:Qエスト

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01-正義のギルドマスターの下で

 ゆっくりと目を覚ました鈴木悟《すずき さとる》は、そこが自室だと気付いた。まだ室内は暗い。夜中だろうか。

 ベッドへ横になり、細く薄いカチューシャのような装置を頭に付けていた彼は、いつもの慣れた手際で枕元に置かれた薄型の目覚まし時計を握る。

 そして、頭上に翳すようにして時計の時刻を見た。

 

 

 ――午前4時32分。

 

 

 DMMOーRPGユグドラシルの終了から四時間半程経過していた。

 

「俺は、帰って来れたのか……。あれは――あの年月はなんだったんだ――――」

 

 夢ではなかった。だが彼はあの夢のような時間を思い出す。

 

 

 

 

            +      +      +

 

 

 

 

『皆さん、まず落ち着きましょう』

 

 冷静な彼の声が響いたこの玉座の間の大空間の場には、純白の鎧姿なアバターを操るHN(ハンドルネーム)たっち・みー率いる仲間達がいた。

 彼等は、それぞれ以下のHNを名乗っている。

 

 ウルベルト・アレイン・オードル

 タブラ・スマラグディナ

 ぶくぶく茶釜

 ぷにっと萌え

 武人建御雷(ぶじんたけみかずち)

 ヘロヘロ

 ペロロンチーノ

 ホワイトブリム

 やまいこ

 るし★ふぁー

 そして―――モモンガ。

 計12名であった。

 

 

 

 西暦2138年某月某日、12年間運用されてきたDMMOーRPGユグドラシルは、一つの時代が終わるように惜しまれつつ24時をもって終了することになった。

 ここは、ゲーム内のギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の本拠地であるナザリック地下大墳墓。『アインズ・ウール・ゴウン』は、数多のギルドの中で一時最高ランク9位にもなった有数のギルドである。参加条件は二つ。アバターの種族が異形種であること。そしてもう一つはユーザーが社会人であること。それ故に、時間が取れずゲームを辞めていった仲間達も少なくない。延べ41名のメンバーを迎えたが、最盛期でも35名程度のギルドであった。

 その後、半分以上はユグドラシルを去ったが、最強の戦士職(ワールドチャンピオン)の一人であるたっち・みーを中心に最後まで常時2名から5名の少数精鋭を誇り、また退会せず偶にログインする者らも15名程が残り、9位を取って以降、順位で25位を切ったことは無い。

 その本拠地の地下第十階層にある玉座の間で、ゲームでの最後の時を玉座へ着いたギルドマスターのたっち・みーを中心に、幾名かは自作のNPCを引き連れて集まっていた。

 

 この日、ログイン出来る者は朝から入っていた。そして今日は、使用しない事を条件に世界級(ワールド)アイテムの宝物庫からの持ち出しや、ギルド武器『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』の円卓会議室からの移動、また地下第九階層における戦闘メイド六連星(プレアデス)の警備解除、第八階層とメンバー個室を除く各階層へ出入り自由等のかなりな無礼講になっていた。

 所属メンバー中、延べ接続時間で最長記録を持つギルド副長のHN(ハンドルネーム)モモンガを持つ鈴木悟(すずき さとる)は、現実世界にて早めに営業の仕事を終え帰宅し、途中で晩飯用に買ったファーストフードを腹へ収めると、急ぎログインし死の支配者(オーバーロード)なるアンデッド系の骸骨なアバターに、ローブと魔法系の装備を纏う姿でナザリック内第九層にある自室を後にする。

 夕方から地下第六階層の闘技場で、メンバー同士での最後のガチな模擬戦大会があるという事でずっと楽しみにしていたのだ。

 だが、部屋を出た後すぐ――るし★ふぁーがこの日の為にナザリック内へ仕掛けていたフレンドリーファイアーである赤ゴーレムと遭遇して、モモンガの漆黒なローブの背中に赤い文字で『バカ敗者はコイツ←』と書かれてしまう。「ふざけんなぁっ!」と叫ぶも完全に油断していたことを後悔した。

 それが影響したのか、モモンガは闘技場で対戦した、種族がバードマンなペロロンチーノにも惨敗。

 

「あの試合前の精神攻撃がなければ、もう少し善戦出来たはずなんですけどね……」

「はははっ、私としては、楽しい試合でしたよ、モモンガさん」

 

 ペロロンチーノは楽しそうに答えた。

 モモンガとしては、流れを全く引き寄せられずボコられた感じで、不本意な一戦に終わってしまった。少し残念である。

 結局優勝は、ウルベルトとの決勝を最終的に接近戦へ持ち込んでからの持久戦で制した、たっち・みーであった。敗れたとはいえ、ウルベルトも魔法技のみで接近戦にわざと乗り、その身にいつ終わるのか分からない10枚以上の分厚い防御璧を重ねて無限展開した上で、攻撃上位魔法を後方からの遠隔も交えて連発し対抗したのは圧巻の一言に尽きる。

 

「くそぉ、もう少しだったのになぁっ」

「最強の戦士として、貴方には負けられない。だが際どい勝負だったのは確か。この戦いは、ずっと忘れないです」

「ふん」

 

 目線を逸らし軽くそっぽを向くウルベルトは、種族が最上位悪魔なアバター使いだ。ユグドラシルでも有数な最強の魔法職(ワールドディザスター)の一人であり、魔法で最強を目指したギルドメンバーである。またユグドラシル内では「悪」にとても拘っていたため、たっち・みーとは良く意見が対立していた。

 だが、ギルマスとしてのたっち・みーを認めている存在でもある。結局ウルベルトは、他のギルドからのどのような誘いにも決して乗ることは無かったのだ。

 

 模擬戦大会が終わったあと、互いの武器の装備交換を試す等の幾つか催し物を経て、それから終わりの催しとして、るし★ふぁーの仕掛けたフレンドリーファイアーに引っ掛かった者への罰ゲームが行われた。

 引っ掛かった者は2人。

 遭遇は確率によるもので、メンバーの強さには関係ないという設定の為、事後報告で全員に認められた悪戯だ。

 そして、罰ゲーム。まあゲームと言っても、何かをされるわけではなかった。

 

 ただ、最後だから――言えと。

 

 24時までの残り時間は、すでに25分を切っていた。玉座の間に皆が集まる中、ゴーレム風な姿のるし★ふぁーが敗者2人の片方である、種族がブレインイーターという人型で特に手の指が異様に長い姿のタブラへと近付く。彼もマント状の背中に赤い文字で『バカ敗者はコイツ←』と書かれていた。この落書き姿で、最後の時を迎えなければならないのは少し空しいが、思い出の一つにはなるかと諦め気味に放置である。

 るし★ふぁーが尋ねた。

 

「さてと……じゃあ、もっとも――苦手なNPCはどいつだよ?」

「そんなの、恐怖公以外にいないでしょ? 虫は大抵平気なんだがアレだけはなぁ。リアルでも近い群れとか見ているし」

 

 タブラは即答する。ホラー大好きな彼だがアレはダメらしい。女子陣で、溶岩溜まりのようなスライム系な姿のぶくぶく茶釜と、ゴツいガントレットを両手に嵌める長髪な鬼娘なアバターのやまいこも頷いている。しかし、甲殻質ながら鳩胸な虫の身体に、口から大きな人風の歯が覗く武人建御雷だけは、「そんなことは無い、どの虫も造形は素晴らしいぞ」と反論していた。

 次にるし★ふぁーは、もう一人の敗者であるモモンガへと近付き尋ねる。

 

「んー、そうだな。じゃあ、NPCの中で――嫁にしたい好みなタイプはどいつだよ?」

 

 皆の視線が、モモンガに集まった。

 るし★ふぁーが更に煽る。

 

「まあ最後だし、別に野郎のNPCでもいいんだぜっ?」

 

 完全にネタにしている様子。周りも小さな笑いが起こる。

 ぶくぶく茶釜までも、「まさか……マーレじゃ?」と追い打つ。マーレとはぶくぶく茶釜の作った、階層守護者なNPCの一体である。

 

(た、確かにマーレは幼い感じな金髪の闇妖精(ダークエルフ)で特有のエルフ耳とか可愛いいけど……そう言えば男の娘だったんじゃ?)

 

 モモンガは、そもそも仲間達の子供と言えるNPCに懸想をする趣味は無いのだが……1体だけ気になっていたNPCがいた。時々玉座の間で見掛ける程度だが、背が高く胸も大きく、美しいその表情と姿は好みであった。

 

「さあ、モモンガくーん、言えよぉ」

「わ、わかったよ……その、アルベドだよ」

 

 モモンガの顔は骸骨なので、その表情を見られることは無いが、流石に個人の趣味を言ってしまうのはちょっと恥ずかしい。僅かに赤い彼の目が泳ぐ。おまけに、アルベドはすぐ近くの玉座の脇に静かに立って待機していた。

 アルベド。黒髪でその腰に黒い羽を持つ白い肌の美しい姿は、種族がサキュバス、小悪魔(インプ)から来ており魔性的なものがある。このナザリック地下大墳墓の全NPCの統括でもある存在の100lv(レベル)のNPCだ。製作者はタブラ・スマラグディナ。

 周囲の者らは、自然とアルベドとモモンガを交互に見た。

 

「ほぉっ」

「へぇー」

「なるほどなるほど」

 

 何が「なるほど」なのか良く分からないが、ナザリックのNPCのデザインの多くを手掛けた、悪魔とケンタウロスのハーフで白に黒のストライプ入りなスーツ姿のホワイトブリムが呟く。皆もなにやら頷いている。

 すると、最後なのもあって、タブラが急に叫ぶ。

 

「よし、わかった! しょうがないなぁ。ギルド長、ちょっとその(スタッフ)を貸してもらえるかな」

「ああ」

 

 最後なので玉座の席に着くたっち・みーが、黄金のギルド武器『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を持っていたが、それをタブラは受け取った。

 そうしてタブラはアルベドの前まで行くと、何を思ったのか彼女の設定を表示し、『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』でその欄をクリックした。するとその場に、キーボードが出現する。

 本来、設定の書き換えにはツールが必要なのだが、この杖状のギルド武器はツール無しでの書き換えが出来る機能を有しているのだ。

 

「こいつは、ビッチ設定なんだが、最後だし特別に変えてあげるよ。えーっと、最後の一行を消してと――モモンガを愛する妻であるっと。モモンガさん、これでいいだろ?」

「えっ? ちょっ」

 

 モモンガが何か言おうとしたが、「まぁまぁ」と後ろからペロロンチーノとるし★ふぁーに羽交い絞めにされていた。

 

「終了!」

 

 タブラはそう言うと、アルベドの設定上書きを行ない変更作業を完了した。

 

「うーん、娘を嫁にやる父親の気持ちが分かる気がするなぁ」

 

 アルベドの造物主はしみじみと、そんなことをほざいていた……。

 その直後にモモンガは、ペロロンチーノとるし★ふぁーに両脇を掴まれ引きずられるようにアルベドの傍へ連れて来られた。

 

「まあ、あと15分もないけど、夫婦生活頑張れや」

「モモンガさん、お幸せに!」

 

 るし★ふぁーとペロロンチーノの二人の声の後、ノリノリな他のメンバーからも一斉に「おめでとう!」の祝福を受ける。

 

「どうしろって言うんですかっ?!」

 

 玉座の横でアルベドと並んで、皆の前に立たされるモモンガであった。

 残り時間はワイワイとそのネタで過ぎて行き、そして本当に最後の1分を迎えた。

 

「じゃあ、みんな元気でね」

「バイバイ、楽しかったよ」

 

 そう言う、女性陣達は少し啜り鳴きな声になっていた。

 そして、黄金の杖を握るギルドマスターのたっち・みーがギルドの終わりを締める。

 

「10年以上だけど、あっという間だった気がします。今までずっと一緒で楽しかったです。皆さん、有難う。特に副長のモモンガさん、軍師のぷにっと萌えさん、それに――ウルベルトさん、世話になりました」

「くぅっ……なんか、ギルマスの姿が滲んで来たじゃねぇか……」

「知恵を上手く採用したのは、結局貴方や副長ですから。楽しい時間でした」

「たっちさん……楽しかった。誘ってくれて……本当にありがとう」

 

 そうして、終わる瞬間「ギルマスお疲れさま! アインズ・ウール・ゴウンとナザリック万歳! さよなら皆さんっ、またどこかでっ!」と全員で告げ合って別れた。

 

 

 

 しかし―――日付を越えた瞬間、全員ログアウト時の様に視界が暗転することは無かった。

 

 

 

「……あれっ? おかしいですね」

 

 十秒ほど後、スライム体であるヘロヘロが、最初に皆の感じている疑問の思いを呟いた。

 その状況に、メンバー全員が湿っぽい思いだった頭を困惑させ、顔を見合わせていく。

 この直後から異変のオンパレードである。

 まず、この場にいたNPC達が自発的に稼働し始める。その中でも、アルベドの行動は突出していた。

 

 

「くふぅーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 いきなり、彼女の喜声から始まったのだから。

 そして、アルベドは――モモンガにギュッと抱き付き美しい声で話し出す。

 

「不束者ですがよろしくお願いいたします、モモンガ様。妻として末永く♪」

 

 嬉しいんだが、モモンガもそんなことに浸っている場合では無い。彼は完全に固まっていた。終わらない世界と、NPCが言葉を発した上で、コマンドを与えずに勝手に動いていたのだから。

 またアルベドの他に、今、この場にいるNPC達は、十階層あるナザリック地下大墳墓の階層守護者達5名に執事とプレアデスの6名、そして至高の四十一人それぞれについている一般メイド達であったが、いずれも造物主や仕える主の名を呼んでその前に跪いていた。

 

(一体何が起こっているんだ?!)

 

 モモンガを初め、この場に居る至高の者達の多くは、完全に想定外な状況に恐怖すら感じていた……。

 だが、たっち・みーは、そんな状況を冷静に一言で皆を落ち着かせる。

 

「皆さん、まず落ち着きましょう。これは――イベントかもしれません」

 

 よく考えれば、ユグドラシルの運営が無茶をやったことは、いままでにも何度かあったのだ。これも最後の未発表な『ビックリイベント』かもしれない。

 だがモモンガは、抱き付かれたアルベドから若い娘のいい匂いまでするのは、どういう仕掛けなのかが一瞬分からなかった。

 

(脳の嗅覚を感知する部位へ、信号を直接送る仕様が使われずにあったのかな……。それにしても日付を越えてから、異常に現実感を感じるのはなんだろう)

 

 その時に、ぷにっと萌えが告げた。

 

「アイコンやコンソール類の表示が一切出ないんだが……でも、ちょっと集中すれば感覚的に情報は把握出来るみたいですね」

「……本当だ」

「どうなってるんだよ、運営っ」

「あれっ? チャットもGMコールも使えないわ」

「おいっ。それより、ログアウト出来ねぇじゃないかっ!」

 

 最後の、るし★ふぁーの指摘に皆が感じた。

 

 

 ――何かがおかしい、と。

 

 

 課金しているユーザーが殆どである。自由にログアウト出来ないというのは、余りにも異常な仕様過ぎる。それによって受けた弊害によりユーザーから、損害賠償が発生してもおかしくないリスクなのだ。

 どうやら他のギルドの知り合いとも、チャットや〈伝言(メッセージ)〉による連絡は出来ない様子。ただ、ギルドメンバー間では普通に通話は出来るようだ。

 さらに――。

 

「――はい。愛しのアルベドですが、モモンガ様?」

 

 モモンガは、目の前のアルベドへ〈伝言(メッセージ)〉が繋がるのを確認した。これまでNPCは会話を一切しない存在であり、この状況も新たな発見である。

 ここで、たっち・みーが皆へと指示を出す。

 

「ユグドラシルのシステムが、運用を終了する過程で部分的に壊れたのかもしれません。今は現状を把握することが重要です。なので、このナザリック内の安全を順に確認しましょう。まずは、各自装備や魔法の使用についてを確認しつつ、この玉座の間の調査です。そのあと部屋の外へ出てナザリック内を調べましょう」

 

 ギルドマスターの言葉に、皆が動き出す。

 ウルベルトが、まず試しにこの広い玉座の間の中へ大き目で厳重な結界魔法を展開する。これで魔法が発動することが確かめられた。後はその中で各自がそれに向かい、弱い魔法や装備を試した。そうして装備や魔法が問題なく作動する事を確認する。もちろんギルド武器の『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』の動作も。個人であれば色々迷うところだが、みんなで行動すれば怖くはない。

 この間にプレアデス達が、玉座の間内に危険な未知の空間の歪みなど、トラップ的な異常がないことを確認した。

 では次にと、玉座の間の外の確認へたっち・みーが先頭で出て行こうとした。それを、モモンガが止める。

 

「たっちさんとウルベルトさんはここにいてください。ギルドメンバーで最高戦力の二人が不意で最初に失われてはいけないと思いますから」

「私も、副長の意見に賛成です。予測不能な異常事態ですから、最初は念を入れて」

 

 ぷにっと萌えも、モモンガに賛同する。すでに『何か』が始まっていると想定して動き始めていた。

 すると、メンバーでたっち・みーに次ぐ剣の実力者な武人建御雷が、たっち・みー達へ背中越しに語る。

 

「そう言う事だ、安心しろ。このナザリック内に不審者がいれば、ギルド長達の代わりに俺とコキュートスで切り倒しておく」

 

 まず武人建御雷が、切り込み隊長らしく上層階へ先頭を切って部屋を出てゆく。すでに二振りの大大刀を抜き放ち、第五階層守護者のNPCにして自作品でもあるコキュートスを従えて。

 ペロロンチーノも愛用の武器ゲイ・ボウを握り締め、自作のNPCで第一から第三階層の守護者にして吸血鬼の真祖である、美しい少女なシャルティアを率いて出て行く。

 

「では、皆さんまたあとで」

「気をつけなよ」

「姉ちゃんも」

 

 姉のぶくぶく茶釜に見送られる。それにモモンガも続く。

 第一階層は特に正面出入り口に直結しており、第三階層まではもっとも警戒すべき階層群であるためだ。実はモモンガにも自作の強力な100lvのNPCがいるのだが、いつも爆笑の動きとポーズをすると楽しみにしていた皆の期待を裏切り、今日は宝物庫に置き去りにしてきていた……。

 NPCを連れていないモモンガを心配し、アルベドが声を掛ける。

 

「モモンガ様っ、私も」

「全NPCの統括であるアルベドは、ここに残っていたほうがいいかな」

「でも」

 

 モモンガの言葉にも、妻としてアルベドは瞳を潤ませ、ついて行こうとする。以前では考えられない光景。

 そこに彼女の造物主である、タブラが声を挟む。

 

「アルベド、スキルを使ってギルド長とウルベルトさんを守っていなさい。お前の旦那は私が守っておこう」

「は、はい、タブラ様、有難うございます」

 

 タブラも加え、モモンガ達はついでにと第四階層、第三から第二、第一階層への確認に向かう。

 第四階層には、ガルガンチュアという元々ゲーム上に居たゴーレムを階層守護者に付けている。ナザリックで最強の巨体ゴーレムである。

 次にぶくぶく茶釜が、第六階層守護者のNPCである双子な姉弟のアウラとマーレを引き連れ、プレアデスの六人の長姉ユリとその制作者である やまいこ と共に出て行った。

 第七階層へは、ホワイトブリムと階層守護者で上位悪魔のNPCなデミウルゴスが向かう。

 第八階層にはヴィクティムという天使だが全長1メートルほどの、胚子のような姿の階層守護者のNPCが守っている。死ぬと第八階層に連動した特殊な能力で、階層ごと足止め工作する。基本、この階層へ近寄ってはいけない。

 続いて、ぷにっと萌えと るし★ふぁーが、ユリを除くプレアデスの5体、ルプスレギナ、ナーベラル、シズ、ソリュシャン、エントマと、プレアデスの上司で執事のセバスを従え、第九、第十階層への調査へ出発する。

 玉座の間には、たっち・みーとウルベルトにアルベド、それと至高の者達に従っていた数名の一般メイド達が残った。たっち・みー達も、ぷにっと萌えが存在を思い出したナザリックの管理システムである『マスターソース』の稼働と情報を確認していく。「誰かが玉座の間でしか使えない、このシステムに異常がないか調べる必要がありますよね」という軍師の言葉に納得して残っていた。

 間もなくそんな玉座の間へ、顔が犬でメイド姿なメイド長であるNPCのペストーニャと、怪人風な使用人達の長であるペンギン姿のエクレアが参上する。

 

「至高の御方々、ご安心ください。第九、十層の立ち入り可能な場所についてはすでに問題ありません」

 

 ペストーニャ達は、ぷにっと萌え達と入れ替わりになったがそれを伝えに来ていた。

 ナザリックには、主達の考えを先取りして自ら動くNPC達が多く誕生していたのだ。ヘロヘロの開発したナザリック内のNPC達の基本AIが優れている証拠でもある。彼のAIは、コピーでは無く、凝ったことにAIの一つ一つに必ず小さくない差を持たせている。さらに造物主達の趣味や愛情も追加で加わり、空前の思考とそれから生み出される強さと個性を有するNPC軍団になっていた。

 各階層では、到着した至高の者達に従いシモベ達も率先して動いてくれていた。

 

 結局一時間ほどで、ナザリック内の全階層でほぼ異常がない事が確認される。

 メンバーの個室等、一部の場所には立ち入っていないが、周囲の変わらない状況から問題はなさそうだと軍師であるぷにっと萌えは判断する。

 時刻は現在、午前1時半過ぎであった。

 ナザリック内の安全を確認し、ギルドマスターのたっち・みーを初め全員が第九階層の円卓会議室に移り一息をつく。一般メイド達が、お茶やお菓子をワゴンに乗せて持って来ると優雅に給仕をしてくれる。

 

「外だよなぁ、次は」

 

 悪童るし★ふぁーが、次の作業についてだるそうに呟く。

 実はモモンガ達は先程、正面出入り口から一歩外へ出ていた。見渡すと平地。

 そこには、現実世界では遠い昔に喪われた澄んだ空気と、空に満天の星空が広がっていたのだ。

 外へと出たモモンガ、ペロロンチーノ、タブラの3名は15分程ただただじっと空を見上げていた。もちろんそれも皆へと報告している。

 女子陣は直ぐに外へ見に行こうとしたが、たっち・みーにより待ったが掛かる。

 現在正面出入り口は、シャルティアとコキュートスの2体の100lvの階層守護者と80lv以上のシモベら12体が守り、〈伝言(メッセージ)〉を繋いで、5分おきに定時連絡を入れる事にしている。

 ナザリック内も、デミウルゴスに指揮権を持たせ、全階層で階層守護者の元、シモベらで防衛線を構築させ臨戦態勢を継続中である。

 たっち・みーが、るし★ふぁーの言葉に続く。

 

「その通りです。しかし、モモンガさん達の話では、周囲に以前の沼地は見えない。そして、凄く綺麗な星空が見えるとの事。それが、余りにも雄大で自然だと」

「ええ、第六階層の天井にブルー・プラネットさんが膨大なデータで作ってくれた星空も見事なのですが、データ量が更に多いように見えます。とても現実的に見えました」

「そうだなぁ。どうなってるのか」

「確かに凄かった」

 

 モモンガの意見にペロロンチーノ、タブラも同意する。

 たっち・みーはそれも考慮して考えを皆へ伝える。

 

「どうも、前と違った場所にこのナザリックは有るようです。移動したのかもしれない。やはり慎重な調査が必要でしょう」

「でも、何があるのか分からないわよね。不用意にうろうろと動くのは怖いし不安かなぁ」

 

 やまいこの意見に、ぶくぶく茶釜を初め数名も頷く。

 

「じゃあ、取り敢えずこれを使いましょう。ヘロヘロさん、お願いします」

 

 そこで、ぷにっと萌えは予想しましたという様に告げ、ヘロヘロはソレをアイテムボックスから出した。

 1メートル程の大きな鏡のようなアイテム――遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)。この場で、遠隔地の情景を見ることが出来るものだ。但し、対策が立てられ易いアイテムで、活用は結構限定される。

 今、鏡へ表示されているのは、ナザリック地下大墳墓のようであった。

 しかし、随分上空からの俯瞰である。ヘロヘロが説明する。

 

「多分1000メートル以上上空からなら、距離が有り過ぎて攻勢防御は発動しないでしょう」

「なるほど、拡大表示しなければ感知されようがないか」

「ええ。これは一応結構対策済な鏡ですけど。それに今は大雑把な周辺状況が分かればいいですしね」

 

 ウルベルトが感心し、ぷにっと萌えの補足が続いた。

 ヘロヘロの手慣れた操作で鏡面の映像が変わって行く。

 まず視点を、うんと上空に引き上げる。成層圏を抜け大気圏外だろうか、丸い星の上に大陸が有るのが確認出来た。

 

 どうやら、ここは大陸の東側らしい。右手の少し先に海も見える。巨大な大陸は西側へ広く続いていた。

 少し高度を下げる。ナザリックの少し北側へ東西に山脈が横たわっている。

 さらに高度を下げつつその周辺を少し検分したみんなは、一斉に以下の旨を呟いた。

 

 

 

 ――ここは一体どこなんだ、と。

 

 

 

 ユグドラシルの地図は、結構全員の頭の中に入っていた。しかし、見下ろす大陸上の地形に全く見覚えがないのだ。それは現実社会での知識の中からもである。

 どんどん高度を下げて行った。

 ナザリックのある平原から少し離れたところを東西に街道が走っていて、それは都市へと繋がっている。大きな都市が周辺にいくつか存在した。

 だがいずれも位置も街道の形もギルドメンバーの記憶から掘り起こせる情報はなかった。

 一時間半ほど周辺をざっと眺めた後、討論会となった。

 

「全然、分かんないんだけど」

「ヤバイなぁ」

「何なんだよ、ここは」

 

 るし★ふぁーとヘロヘロ、ウルベルトがボヤく。

 

「しかし、夜中なのに都市から光が殆ど漏れてなかったな」

「ですね。村みたいなのもあったけど、真っ暗でしたね」

「ユグドラシルの都市だと、どこも明るかったわ」

 

 武人建御雷の言葉にペロロンチーノとやまいこが相槌を打つように話す。

 そんな意見を、たっち・みーがうまい具合に纏める。

 

「知らない世界で、時代的に……レトロな感じがしますね」

「だなぁ」

「ああ、なるほど。夜に明かりが無いってそう言う発想ね」

 

 ホワイトブリムとぶくぶく茶釜が返す。

 

「でも……住民全員、〈闇視(ダーク・ヴィジョン)〉が使える可能性も当然ありますよね。我々のように100lvで」

 

 モモンガは心配そうに皆へ考えを伝えた。

 

「モモンガさん、それはちょっと考え過ぎかも」

「そうそう。普通は、明かりを求めると思いますよ」

 

 ホワイトブリムとペロロンチーノが答える。

 上空に視点が上がった際に分かったが、この星というか世界にも太陽は存在するのが確認出来ていた。

 

「住民の皆が100lvなら魔力も多いだろうし、都市は燦然とした光で輝いている気がしますけど」

「そ、そうか。そうかもしれません」

 

 ヘロヘロの言葉に、モモンガは概ね納得する。

 

「しかし、人が集まり都市が存在することから、権力を持った集合体があるように思いますね。油断はしない方が良いでしょう」

 

 ぷにっと萌えは、モモンガの考えを全否定しない。

 依然としてログアウトの手段は失われたまま。不安要素はてんこ盛りなのだ。

 

「とにかく少し様子を見ましょう。焦っても今は情報が無く動きようがありません。運営に文句を言うのは後ですね」

 

 たっち・みーは皆へそう告げると、結局、メンバー達はそれに従った。

 不思議な事に、誰も眠くならずにそのまま朝を迎える。その間、流石に暇なので先に外へ出たモモンガ達3人が十階層に残り、他の面々も一度だけ、正面出入り口から外へと出た。

 雄大な星空を眺めた全員が口を揃えた――「本当に素晴らしい澄んだ空気に星空だ」と。

 日が十分に昇ったが、余りお腹が空かないという意見が数名から出る。特にアンデッド系の者達だ。昨晩、ログアウトしてから夜食を食うつもりでいたという、奇特な者が二人いたにも関わらず。一方で、武人建御雷はお腹が空いて仕方がないと言う。彼は普段、朝食はほとんど食べないらしいのだ。

 何か小さな異常さを各自が、自分の身体に感じ始めていた。

 

 午前中も相変わらず、暇つぶしに遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)による周辺の『覗き見』を鏡の枚数を増やして続行していた。

 そんな中で、異変を捉える。昼前の事だ。

 

「おい、これってNPCじゃねぇのか?」

 

 悪童るし★ふぁーが、勝手に鏡の倍率を上げて危険な拡大表示で見ていたのだ。だが、それを身咎める以前に、集まって来た者達は映像へ目が釘付けになった。

 ユグドラシルの世界で見た事のないモンスターは、ほぼプレーヤーかNPCである。だが、NPCでも手軽に作れるように、デザインが用意されている簡易NPCがあったのだ。

 鏡面に映っていた赤い鎧を着た大きな長いバスターソードを振るう水色髪な少女型の姿は、正にそれであった。だから直ぐにNPCと判断出来た。

 そこは大陸中央よりも西側の山岳地域。百を超える(ドラゴン)の軍団と、一体のNPCが戦っていたのだ。

 

 それは殺戮と言える光景であった。

 

 良く見ると竜の軍団と思っていたのは、竜の集合的な住処で、逃げ惑う弱い竜達や年老いた竜。そして、まだ子供のような小さい竜達の姿も見えた。主力が居なかった隙を突かれたのだろう。

 その子供の竜達を雌の(ドラゴン)達が必死に守ろうとしている様子が伺えた。周囲の年老いた竜や若い竜が、何体も身を犠牲に少しでも時間を稼ごうとしているのが分かった。

 仲間愛や愛情あふれるその行動は、どう見てもユグドラシルのモンスターな『竜』の行動では無かった。

 

「こいつは……酷いな」

「誰の命令なのかしら」

「何かここまでする事情があるのか――」

 

 るし★ふぁーにぶくぶく茶釜、武人建御雷、ヘロヘロ、そして、たっち・みーが見守る。

 少女型のNPCは、容赦なくバスターソードを振るい殺傷を続けていた。そして子供達を守る一匹の若い雌の竜へと近付いて行く。

 そこに割って入る、勇気ある屈強なオスの(ドラゴン)が現れた。

 全身を乗せた強烈な蹴りで、NPCを後方の壁に叩き付ける。だがNPCはケロリと立ち上がって来た。怒りを露わにする少女なNPC。

 そのあと、オスの竜は善戦するも、NPCの方がレベルで70近くあり、50lv強ほどのオスの竜はパワーと剣技で徐々に圧倒されてゆく。

 そうしてオスの竜は、右羽の先を切り飛ばされ、左足も失い体の鱗にも多くの裂傷を受け、満身創痍になった。だが、『彼』は一歩も引かなかった。

 女や子供を守り、もう死ぬ覚悟が出来ている姿。

 その潔い竜の姿は、もはやモンスターには見えなかった。漢の姿である。

 

 

「誰かが……困っていたら助けるのは当たり前――」

 

 

 『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドマスターは、怒りを込めてそう呟くと鏡を覗き込んでいた身を静かに起こていった。

 

 

 

 『アインズ・ウール・ゴウン』の彼等が、八人の王を名乗るプレーヤー達と数十体のNPCの存在を知るのは、もう間もなくの事である――。

 

 

 

 




スミマセン……至高の方々等、結構設定を捏造してます……。
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