現在、日本人はたった1人だ
1話 真田源太
イギリス・ヘリフォード陸軍基地にある多国籍特殊部隊『レインボー』本部内。日本SAT出身唯一人の若き隊員、真田源太は、司令官であるドミンゴ・シャベスに呼び出されていた。
「ゲン。ODTを知っているかね?」
「ええ、10年前から世界各国の銀行を襲う国際銀行強盗団ですよね。国際通貨ばっかりもらっていく変わった連中の」
「そのODTの活動内容に、テロ活動が加わったとしたら?」
「はい?」
「実は奴らが日本政府に犯行声明を発表し、その内容が日本時間15日13:50にレッスンスタジオを攻撃すると。CIAの情報によれば奴らの装備が10年前とは比べ物にならないほど充実しているそうだ」
「ところでそのレッスンスタジオの場所は?」
「東京だ」
「は?東京?」
「君は千葉県出身の日本人だろ、地理にも詳しいだろうから話を持ちかけてきたのだがいいかね?」
「まさか一人でミッションを遂行しろと?誰か応援よこしてください」
「4~5人派遣するから安心して先に日本に行って待機しといてくれ、以上、拳闘を祈る」
「イエッサー!」
イギリスから約12時間の飛行で成田に到着した源太。2年ぶりに帰国し、最初に目に入ったのはピンクのパーカーが似合う346プロのアイドル、本田未央が元気よく写っているマナー推進ポスターだった。
「・・・大きくなりやがって、特に胸が」
到着ロビーで待っている現地協力者の車に乗り込み早1時間、普通の住宅街の一角にある住まいに着く。彼は迷うことなく家の玄関を開け、様子を見る。
「ここが俺の隠れ家ってことか・・・なんだこれ?」
テーブルの上にある置手紙には
お疲れゲン、ここは君のセーフハウスだ。ここに君を寄越したのは地理的理由だけでなく、レインボーの若手を育てるいい機会と思って君に依頼した。指揮官を除く応援も君と同じくらいの隊員だ、仲良くしてくれたまえ。
「・・・冗談きつい」
リビングにあるクローゼットを開けてみると、自分が好んで使っていた装備が入っていた。さすがに堂々と持ち込めないからだろう。
「HK416A5とM320、45Tにフラッシュバン、丁寧にM1014まで届いてる。なんでだろう、隅に申し訳程度にMP5Kまである」
それらを全て出し手入れと自分好みにカスタムしていく。
「もう夜も遅いし、寝るとするかな」
武器をしまい、この日はゆっくり寝ることにした。
13日9:00。朝一の筋トレを済ませシャワーを浴び、普段着に着替え現場近くまで足を運ぶ。今日はレッスンがないのか案外静かで、ゆっくり時間が過ぎていく。しかしそんな時でもいつ戦闘になるかわからないため、45Tを上着に隠して携帯していた。
「案外密集した場所にあるな。裏は住宅、両隣には広めの公園と公民館か・・・ん、あれは」
公園に見慣れた少女が楽しそうに準備体操していた。
「ふふん、しぶりんとしまむーが来る前に体ほぐしとこっと」
「早すぎるとかえって筋肉が硬直して動けなくなるぞ」
「え、そうなの・・・って、ゲン兄じゃん!」
「よっ相変わらず元気だな」
実はこの二人、言ってしまえば元ご近所さんであり、幼かった未央の遊び相手が彼だった。
「2年前にイギリス行ってから連絡なかったけど元気そうだね」
「何言ってんだか、お前だって育ってんぞ」
「どこどこ?」
「胸」
「!?!?」
思わぬ爆弾発言に顔を真っ赤にする未央。
「にゃわ~セクハラだ~!」
「声がでかい!ジョークもわからんか」
なんとか事態を収束させると、制服こそ違うが高校生らしい少女二人が現れる。
「誰?」
「見慣れない方ですね、どなたですか?」
「初対面の人間に誰とは失礼な。俺は真田源太、未央の知り合いだ」
「ふーん、渋谷凛です」
「島村卯月といいます」
「黒髪の無愛想なのが凛で、普通そうなのが卯月か。未央がお世話になっている(危うかった、もう少し遅ければひどい目にあっていた)」
その後少し雑談した後、源太も一緒にレッスンスタジオに入り、レッスンの見学をする。
(施設自体は狭くないし、まぁ戦闘しやすそうだな、ロッカールーム以外は)
天井を見上げてみると、不自然なものが設置されていた。
(あれは小型隠しカメラか?一般用にしては小さすぎる・・・誰かがこっそりつけたに違いない)
翌日。セーフハウスに防具一式が届き、全てあるかチェックしていると、チャイムが鳴り響く。
「はい・・・って、未央か」
「何それ未央ちゃんが来て悪い?」
「仕事中になんの用だ、お前だって暇じゃないだろ?」
「オフだもん、いいじゃん遊びに来たって」
「・・・入れ」
客間に未央を通すと、急いで防具をしまい、リビングをきれいにする。
(まさか遊びに来るとは・・・誰から聞いた?)
スコーンとイギリス仕込みの紅茶を淹れ、未央に飲ませてみた。おいしかったのだろうか、とてもにこやかだ。
「おお~いわゆるブレイクタイムだ~、ゲン兄ありがと~」
「イギリスで生活してるとそんなものしか出ない。ウナギのゼリー煮込みなんて食えたもんじゃないぞ?」
「なにそれ怖そう」
「・・・まぁそれはそれとして、誰からここの場所を聞いた?」
「実は昨日、こっそりつけてました、えへへ」
無邪気な笑顔にため息しか出ない。
「はぁ・・・ストーカーは立派な犯罪だ、二度とするなよ」
「はーい」
夕方になってようやく未央が帰り、仕事の続きをする。セーフハウスには地下射撃場があり、そこで試し撃ちができる。弾薬に不良品があるか、銃に不備はないかのチェックを行う。もちろん防音は完璧だ。アンダーバレルにM320を装着したHK416A5カスタムにマガジンを差し込み、ターゲットに向かってフルオートで撃ってみる。弾はほぼ頭に集中しており、調子がいいことがわかる。
「好調だ。弾薬も限りあるし、このくらいにするかな」
この時SAT時代のことを思い出した。彼は類い稀な戦闘能力と洞察力で同期の隊員とは一線をかしていたが、そのおかげで浮いた存在になり、居場所がなかった。しかし、SASとの合同訓練の際、偶然ドミンゴが視察に来ており、その時スカウトを受け、試験を合格しイギリスに渡った。そこでは充実した訓練に個人の能力を尊重するレインボーは居心地が良かった。唯一心残りだったのが未央が渡航前に泣きじゃくっていた姿が焼き付いていたのだが、元気な姿を見て今は安心している。
「作戦は明日だ、抜かりはないし、トレーニングしてから寝よう」
作戦当日、予告通り13:50にテロリスト達がレッスンスタジオを襲撃し、人質二人を盾に立て籠もった。要求は捕まった仲間の解放と現金300万ドルとベタなものだが、彼らは駆けつけた地元警察に発砲し負傷させただけでなく、重大な事件として派遣されたSATも全滅させるなど、かなりの実力だった。源太はHK416A5カスタムを手に、裏の住宅に待機しており、指揮官の合図を待っていた。
「珍しい、普段ならチームで動くハズだ。ここに俺しか来てないということは、まだ来てないのか?」
無線機に通信が入る。
「今回のODT殲滅作戦の指揮を執るユーリ・ケブンスキー大佐だ。君を部隊長として任命し、人質救出とテロリストハントに当たってほしい」
「了解大佐、ところでメンバーはどこに?」
「二人は公民館に待機している。もう一人なんだが、そろそろ来るだろう」
「・・・さっき見えたのですが、まさか、あのフランス人ですか?」
防具を身に纏い、ブーニーハットを被った少し冴えない白人系フランス人が走ってきた。年齢的にも若く、源太と同じくらいと思われる。源太は彼を知っている、名前はジャン・カンテ、通称オタクのジャンと呼ばれており精密機械の天才だ。
「遅くなった。すまない」
「・・・まぁいい、次からは無いぞ」
「イエッサー。二手に別れていることはわかっている、まずはブリーチン・・・」
「待てぃ。公園の方で既にブリーチングを行われて失敗している、するとすれば公民館側からだ、裏で突入するならラペリングで窓からがいいだろう」
「だったら良いものがある」
彼は小型ドローンを取り出し、小型PCで操作する。画面にはドローンに取り付けてあるカメラの映像が映し出される。それによると、ロッカールームにいるテロリストの装備にACOGスコープと取り付けたAUGにPP90、M870ショットガンとなかなか豪華で、SATのメンバーが苦戦する理由もわかる。ODTをたかが強盗団と思って舐めてかかったのだろう。
「全員に次ぐ、公民館側のチームは爆破によって敵の気をそらし、裏側チームはその隙に二階ロッカールームに潜入せよ、以上健闘を祈る」
大佐の指揮通り、源太とジャンはワイヤーで屋上に登り他チームの爆破を待つ。10秒後、C4を爆破した音が響き、もう一度ラペリングでロッカールームの窓まで降り、勢いよく窓を割って突入する。
「コンタクト!」
その掛け声と同時にテロリストの眉間に発砲し一気に制圧する。突然の出来事に人質の銀髪巻き髪ツインテールの少女は唖然としていた。
「クリア!待っていろ、すぐにほどく」
ナイフで少女の腕を縛っている縄を切り、解放する。
「もう大丈夫だ。大人しくしていれば襲われない」
「フフフ・・・ごくろうだった(あ・・・ありがとうございます)」
「ジャン、彼女の言葉の意味を訳してくれ」
「わからんが、感謝してると捉えていいんじゃね?」
大佐から通信が届く、どうやら作戦成功とのことだ。
「囮チームも人質救出に成功したらしい、さぁ帰ろうか」
源太に手を引かれ無事保護されたこの少女、神崎蘭子は初めて自分のキャラ作りを後悔した。
(うう、素直な自分になれない・・・)
帰還した源太は報告書を作っている。敵の装備と使った武器、人質の無事を記載していると、疑問に思うことがあった。押収したAUGが払い下げだったとはいえ使い古された感じがなかったことだ。
(手入れが入念にされていたってことか?いや、大抵のテロリストなら手入れの要らないAKが好まれるはず、訓練が必要なブルバップ式のAUGにする理由がない。だとすればODTにPMCが関与してる可能性があるな)
そう考えながら報告書を書き終え、次にインターネットで救出した少女について検索する。
「神崎蘭子。今回の事件の人質だった白坂小梅って子とのデュオ、ローゼンブルグアルプトラウムで人気上昇中か・・・アイドルには疎いけど発育良い子が増えたな。未央が聞いてたら怒ってるかもしれんが・・・って同じ346プロかよ」
どさくさに紛れてどこ見ていたかは別として、彼女の笑顔を思い出す。
「でも以前、どっかで会ったような・・・まっいっか」
同時間帯。346プロの寮で今日の出来事について、蘭子と小梅は話し合っていた。最初はドッキリだと思っていたが目の前で突入したSATの隊員が撃ち殺された光景を目の当たりにし恐怖で震えていたことを思い出す。
「怖かった・・・あの人達がいなかったら本当の幽霊になっていたかも・・・」
「うぅ・・・でもカッコ良かった」
蘭子は自前のスケッチブックで源太の似顔絵を描き始める。
「蘭子ちゃんを助けてくれた人?」
「うん。でも、ありがとうって言えなかった」
「熊本弁で言っちゃった?」
無言で縦に首を振る。
「もし会う機会ができたら、一緒にお礼言いに行こ?」
こうして最大級のスリルあふれる1日は終わりを告げた。
ちなみにハードラインとは異なる世界という設定です