音が少なく隠密性が高いため、操縦者の良識が求められる
訓練を終え、お疲れモードのジャンは重そうにドアに手を掛ける。城ヶ崎姉妹とはうまく行っておらず、衝突か悪戯を受ける等、もはや自分の家ではなく居候みたいに感じることも多々あったらしい。
「明日大佐に相談して、別の奴の場所に移してもらおうかな・・・もう無理」
いくらレインボーとはいえ年頃の少女の相手なんてものは教えてもらってるハズがなく、それどころか自分の服のセンスにケチつけられ、料理作ったら不味いと言われ散々な目にあっている。たとえ特殊部隊でなくとも精神的ダメージで滅入るだろう。
「ただいま・・・」
まっすぐ自室に入り椅子に座ると、机に並べられている工具キットに手を伸ばしドローンのメンテナンスを行う。ジャンにとって、機械いじりは一人になれる時間でもあり、集中できる時間でもあった。
「よしバッチリだ。次はデータ解析といくか」
ノートPCに美城専務の残したUSBを差し込み、データの解析を行う。わかっていることは、千川ちひろの奇行がプロジェクト・クローネを決行する1年前、現在から見て2年前からあったこと。ODTは元々、ある日本人達が集まり結成された小さな強盗組織だったが、殺害など派手にやったにも関わらず何故か捕まらないため海外の強盗団が彼らに服従し、国際組織になっていったこと。武器の多くは南米のブラックマーケットから購入したものだが契約したPMCからレンタルしたものもあるということだ。
「何だろうな、千川の奇行について記されたものが一つも出てこない代わりに、専務が危ない橋を渡ってまで調査した資料が山ほど出てくる」
購入した武器のリストに、AUG・AMD65・M11・M79といったロングセラー武器はもちろん、FNCや9mm機関拳銃といったコアなものまで様々だが、持たされている人間にも特徴があるメモに気づく。
(FNCは訓練された海外のメンバーに持たされているらしく、機関拳銃も好きモノが使っていた。M79は絶対に暴れん坊には持たせていない。他の武器は自由に使うことが可能である・・・ある程度は武器を見て何者かはわかるみたいだな)
その後も解析を続けていると、ドアのノックが聞こえた。
「どうぞ」
「ジャン、コーヒー飲む?」
コーヒーの入ったマグカップを持った美嘉が入ってきた。
「・・・またうがい薬じゃあるまいな」
「失礼な、あれは莉嘉がやっただけだって」
「ノリノリだったじゃないか。まぁ、ちゃんと飲むから置いといてくれ」
「・・・そっけないなぁ。そんなんじゃモテないよ」
「誰のせいでこんなことになってると?」
気まずくなった美嘉はマグカップを机に置くと、その場を去って行った。
次の日、ジャンは大佐に城ヶ崎姉妹の移送について懇談する。
「大佐、俺も勘弁です。毎日喧嘩ばっかりで彼女達も同じこと考えています」
「憶測で言うなジャン。確かに彼女達は君とは相性悪いかもしれん、だがどこに運ぶんだ?ゲンやレイモンドのところはすでに満員みたいなものだ」
「ありますよ移送先」
「どこだね・・・まさか」
「そう、大佐のところです!」
「待てジャン、年頃の娘がこんな他人、しかも中年と一つ屋根の下で生活できると考えているのかね?」
「娘さんはどうなんです、実際にはゲン達と時々すき焼きパーティーしてるって話じゃないですか?」
「それは・・・」
「よろしいですね?」
「・・・わかった。明日、私のところに移送させておく。引っ越しの手伝いくらいはしろ」
「ラジャ!」
ジャンの希望は通り、城ヶ崎姉妹はユーリ大佐のセーフハウスに移送されることになった。引っ越し完了後、姉妹そろって彼に挨拶する。
「はじめまして、城ヶ崎美嘉です」
「莉嘉だよ~!」
「ユーリ・ケブンスキーだ。さっそくリビングでくつろぎたまえ」
リビングに案内すると、美嘉は部屋に飾られている家族写真を見て驚く。
「あれ、なんでアーニャがいるの?」
「ホントだ、アーニャちゃんだ!」
「確かにアナスタシアは私の娘だ。それがどうかしたかね?」
「「えぇ~!」」
驚くことではないという顔で娘の自慢話をする大佐。
「知っていると思うが346プロ人気投票では上位をキープし、今なお多くのファンに愛されている。CDも売れ、写真集も完売、彼女はロシアと日本が生んだ天使だと思う」
「確かにカワイイよね~」
「ちょっと莉嘉、さすがに失礼よ!ごめんなさい、この子まだ敬語が苦手で」
「いつか覚えるさ。私もそこまで短気ではないよ」
さすがは年の功というところだが、彼がキレればどんな場所でも戦場になるほど恐ろしいことを知らない姉妹。莉嘉の言っていたことをジャンが言ったら、間違いなく銃口が眉間に向くだろう。
「アーニャって母親似なんですね、あなたと目の色しか似てませんから」
「私に似たらアイドルではなく、もっと違う人生だっただろうな。似なかったおかげで運命の人と出会えたし」
「え、運命?」
「誰誰?気になる!?」
「ゲンだ」
「ゲンって、あのイケメンさん?」
「そう、名前は真田源太。戦闘においては何をしても優秀で、勇敢かつ頭のキレる男だ。アナスタシアも彼の顔を見てうれしそうだったから、粋な計らいをしたのさ」
「それってデート?私達、仲良くしてるところ見ましたよ」
「出歯亀は感心しないが、どうだったかね?」
「お似合いでしたよ。羨ましいくらい」
派手な出で立ちの彼女達だが中身は意外にも乙女チックなところがあるため、源太とアナスタシアを見ていて、自分にもこのような日がくることを夢見ていた。
「その気持ち、忘れるちゃだめだよ。何故なら、君達のような子が抱くべきものだからさ」
引っ越しから1週間。訓練後の休憩中に、テレビでは西日本エリアの商業ビルにODTが攻撃したニュースが流れた。この日は未央がフェスでそのエリアに行っていたため、助けに行けない源太は内心苛立ちを覚える。
「クソ、俺達がいれば解決できるのに・・・ん?」
屋上に見覚えのある4人の武装した男達が降り立つ。肌の色から日本人ではないことがわかる。特に556xiアサルトライフルを装備する隊員を見て驚く。何を隠そう、自分にブリーチングチャージを教えた人物の武器だからだ。
「あれは・・・サーマイトさん?何故西日本エリアに・・・」
その時、ふと思い出す。ドミンゴが言っていた増援を派遣するという言葉、もし増援が彼らのことだと仮定し考えた。
(だとすれば他のエリアにも別チームが派遣されているとしたら、ホントに首都圏に集中できそうだな)
「あれ、あのグラサンまさかパルスさんか?ってことはFBI SWATの面子も日本入りか。俺達日本中飛び回るかと思ったぜ」
定食のとんかつを頬張りながらしゃべるヨハン。
「責任重大だな。いつでも動けるように準備していよう」
一足早く自分の銃の整備に向かう源太。整備室にはジャンがFAMASの整備に勤しんでいた。
「ジャン。あの姉妹とうまくいってなかったみたいだな」
「いなくなって有意義だ。おかげで胃痛が無くなったぜ、大佐には悪いけど」
「・・・おまえなぁ、いくら機械の相手するのが楽だからって、追い出すみたいなことして良かったのか?」
「いいんだよお互い不仲だったんだから。嫌いな奴と同居なんてしたくないだろ?」
そう言ってはいるものの、反省色が見え隠れする。
「悩んでたんだな。すまない」
「いいんだ、ゲンも苦労してるんだからさ・・・」
なんとも空しさ漂う空気に海野巡査部長から通信が入る。
「どうした?」
「大変です源太さん、土橋が動きました。場所は千葉・木更津の産廃場です」
「海野、無理はするな。今どこにいる」
「自分も近くにいます、GPSに座標を表示します」
源太のスマートフォンに座標が表示され、それをジャンのPCに転送する。
「みんなを呼んでくる。急いで向かおう」
源太達は大佐の許可を得ると、ヘリで木更津に向かった。
実際に城ヶ崎姉妹と一つ屋根の下で暮らすことになったら、もっと大変なことになっていると思います