この日珍しいことが起きた。東京近郊にある大型スーパーでODTによる立て籠もり事件が発生し、SATチームが負傷者を出さずにテロリスト達を捕まえたのだ。源太達は休憩室のテレビでその様子を見て出動を覚悟したが、その心配が杞憂だったことに胸をなで降ろす。
「最近、SATの質が良くなったな。俺達の影響か?」
「かもな、訓練も俺達と合同でやってから腕が上がった。まぁまだ五郎が撃たれるだけで他は未だ負傷してないけどな」
「それは言わない約束であります」
「頑張れよ新入り」
「レイモンドには言われたくないな、訓練とはいえ被弾しかけたじゃないか」
歳が同じというだけあってレイモンドとはいつもの体育会系口調ではない。馴染めてきたようだ。
「冗談はさておいて、今日は珍しい客が来ている。入ってくれ」
ドアを開き、入ってきたのは源太と同じくらいの背丈のガスマスクの男と、彼に連れられた140センチと小柄な背丈と不釣り合いな大きな胸を持つ少女。
「ミュート、この子は?」
ミュートと呼ばれたこの男、マーク・R・チャンダーは源太・ヨハンと同期の隊員で、普段から交流がある。
「この子は以前、静岡で助けた子だ。実は、昨日墓参りの時に親子共々襲われそうになって間一髪俺達が助けたんだ。ほら、自己紹介しなさい」
「お、大沼くるみでしゅ・・・」
「よくできたなエライぞ・・・っと、本題に入る。彼女はテロに巻き込まれたローカルアイドルなんだが、何故か二度も襲われた。その理由なんだが予想はつくか?」
くるみの頭をなでながら話をするミュート。
「東海・北陸にもODTメンバーがいた。おそらく墓の中に秘密があるんだろ?」
「さすがヨハン察しがいいな、墓の中に莫大な現金と多くの武器が入っていた。皮肉にも、この子がお参りに来ていた人間の墓だったんだ」
「ふぇぇぇぇ・・・ぷろりゅーしゃー、くるみのこと嫌いになったのかな?・・・ぐしゅっ」
「あぁ泣かない泣かない。ごめんな、この子泣き虫だから許して」
人種は違うが、もはや特殊部隊と一般人ではなく兄妹ように見える。
「ミュート、変わったな。もう立派なお兄ちゃんだ」
「今なら大沼家の養子になれるぞ」
「キツイジョークだなおい。まぁいいや、その墓には本来この子のプロデューサーの骨が入ってるハズだったんだが、そいつはお察しの通りの人間だ。だから嫌いになったって思ってる、俺もこの子に元気になってほしいから保護した日から週一でカウンセリングに行ってんだ」
この様子からして効果は薄そうだ。
「なるほどな。今日来たのは、良い兄貴になる方法を知りたいってことか。だったらゲンかレイモンドがいいんじゃないか?」
ジャンがからかうように二人を進めるが、ミュートは戸惑っていた。
「それって大丈夫か?いくらなんでも無神経じゃ」
実を言うとレイモンドは、レインボー入隊前に妹を暴行で亡くしていた。当然、ミュートはこのことを知っており、話を聞いてからずっと触れないでいた。
「ジャン。誰にだって苦い記憶がある、あまり触れることじゃないぞ」
「でもよ、いつまでも引きずっても戻って来ないんだ。いい機会だと思うけど」
レイモンドに代わって源太がジャンに拳骨を頭上に落とす。
「バカ野郎、それ以上言ったらしばくぞ」
「ゴメン・・・」
「構わんよ。ジャンの言うとおり、ジェーンは帰ってこない。今回はミュートの力になろう」
「助かるが、無理だけはやめろよ」
こうしてレイモンドは大佐の許可を得て、保護している二人も連れて静岡に出張することになった。メンバーと穴埋めについて議論したが問題なしと判断されたためだ。
一方その頃、トライアドプリズムの三人とニュージェネレーションの残り二人が、奈緒の部屋で最近の出来事について話し合っていた。一年前と大きく変わっている環境に不安があったからだ。
「かみやん顔色悪いよ、札幌以来ずっとだけど」
「あれはフュ・・・疲れだって」
「私も一緒だったけど、床突きぬけて爆弾ばらまくまでの作業過程見たら怖いよ」
加蓮も頷いていた。どうやらかなり怖い経験だったらしい。
「しまむーは・・・ってしまむーも大丈夫?」
「大丈夫です未央ちゃん、でも怖い記憶思い出しました・・・」
自分のファンでもあるバンディットの薄ら笑みが未だに脳裏に焼き付いてるらしく、睡眠不足気味らしい。
「未央元気だよね。西日本でも自宅でも大変な目にあったのに」
「偶然いい人達だったから怖い印象なかっただけだって(言えない、源兄の仲間だって言えない・・・)」
必死に秘密を守る未央。もし言ってしまえば自分を救ってくれた源太の気持ちを無視し、他のメンバーの命を危険にさらす可能性もあったからだ。
「私達、アイドル続けられるかわからないよ。あんなこと言ったけどさ」
「カプカン達じゃないからさ、そこまで強くないし」
彼女達は気づいてないが、300メートル外にあるマンションの屋上から、グラズがOTS-03スナイパーライフルのスコープ越しでその様子を見守っていた。理由は加蓮が身体が弱く、倒れていないか確認のためだ。もちろん大佐とその友人、タチャンカの命令で。スナイパーの職業柄、口を読むのは得意だった。
「薬局で漢方薬買ったが、フューズのせいで体調が悪かったのか。仕方ないか」
その後何食わぬ顔で神谷邸に向かい、呼び鈴を鳴らす。奈緒が反応してドアを開けた。
「はーい・・・」
「よぅ元気か?」
「ぐ」
「ぐ?」
「グラズだったよね、加蓮に事情聴取した」
普段着を纏い、フェイスペイントを落とし、口元を隠してる以外は一般的な恰好なのだが、かなり警戒されているようだった。あのフューズの仲間だからだろうか。
「俺は彼女が心配で来たんだ、尾行してたのは謝る。せめてこれを彼女に渡してくれ」
「これは?」
「近所の薬局で買った漢方薬だ。効用は血行促進らしい」
「ふーん、だったら自分で渡せば?加蓮、お客さん」
「何?・・・グラズさん」
「久しいな。君に買ってきた漢方薬だ、受け取ってくれ」
ぶっきらぼうに渡すと、そのまま立ち去ろうとする。すると、加蓮がグラズの袖を掴んだ。
「何のマネだ?今から北日本エリアに戻らないと」
「不安です。このままだと仕事行く度にテロに巻き込まれてしまうんじゃないかって・・・」
改めて察した。自分達が負荷をかけたのも要因だが、それ以前にODTが彼女達を狙うこと自体に不安が募って体調が悪くなっていることを。
「無理に元気出せとは言わん。だが、不安や恐怖をテレビカメラの前で見せない方がいい。敵の思うツボだ」
そう言うと、グラズはそのまま去って行った。
訓練を終えた源太は一人セーフハウスに帰る。五郎には留守にしているレイモンドの家に盗聴器や隠しカメラを仕掛けられないよう、そこで寝泊りするよう指示したからだ。
「・・・いないのか?」
HK416A5カスタムを持ち、家中を探る。普段なら出迎えてくれるからだ。一階を調べ終えたが人間どころか盗聴器や隠しカメラもなかったうえに侵入した形跡がない。
「まさか俺の部屋か?」
恐る恐る開けると、二人が自分のベッドに潜っている過程を見てしまった。いったい何をしたいのかわからない。ため息をつくと銃を肩に掛ける。
「部屋の物色は犯罪だ。今回は咎めないが二度はない」
「「はーい・・・」」
「っで、どうして俺の部屋に入った?珍しい物なんざないぞ」
「どっきりです、テレビでするからやってみようって」
「そうか。テレビでやることはたいてい許可あってなんぼだからやめような」
二人の頭を撫でると、今度は帰る途中で買ってきた、彼が一番好きなホワイトチョコレートを配る。
「これは俺が一番好きな菓子だ。君達に買ってきた」
「スパシーバ源太さん!」
「ありがとうございます!」
とびきりの笑顔を見て、無意識に笑みを浮かべる。
「これから少し仕事があるから、下でくつろいでてくれ。すぐに終わる」
二人が部屋を出ることを確認すると、自分のPCに向かい書類を作成し始めた。内容は今までの作戦内容と今現在の進行状況。これはヘリフォードにいるドミンゴへ送る機密ものである。
(なんでだろう、あの子達見てると時々愛おしく感じる。俺もヤキが回ったか)
救われた多くのアイドル達は彼らに感謝しているが、一部は勘違いで憎んでいた人間もいた。双葉杏、財前時子はSNSで知り合い、東京某所で落ち合った。変装しており、誰も彼女達に気づいていない。
「働きたくないのに余計なことしたんだよ、そのレイモンドってやつ。どう思う?」
「笑えないわね、私なんか軽蔑されたわよ。つき合いはしたくないやら女王キャラは痛いとか散々よ」
「苦労したね。アイツらに一泡吹かせようよ、銀行でも襲って」
杏は懐から銀行の見取図を取り出した。
「武器もあるけどここじゃマズイからレンタル倉庫しまってある。明日にでも決行しよ」
「ふふふ・・・いいわね」
この行動が原因で二人の人生に光が差さなくなることを、未だ知る由もなかった。
アーニャと蘭子と一つ屋根の下か。改めて考えると羨ましい