日本・静岡の中学校で事件が起きていた。普段成績が悪い大沼くるみが期末テストで高得点をマークしたのだ。同級生はもちろん、担任の先生も驚きを隠せなかった。何故彼女がそこまで出来るようになったか、それは優秀すぎる家庭教師のおかげだ。
「あの、大沼さん、いったいどうしたらこんなに点数取れたの?」
「しぇんしぇー、くるみのお兄ちゃん達のおかげなの!」
「お、お兄ちゃん?」
「えへへ・・・喜ぶかな?」
担任の先生はその日のうちに彼女の自宅に家庭訪問することにした。そして、彼女の部屋に入ると、そこには30代中盤のイギリス人が日本語で理科の教科を教えていた。
「あのぅ、どちら様で?」
背後から声を掛けられそちらに目線を向ける。
「俺か?俺はスモーク、今はこの子の理科の先生だ」
スモークを名乗るこの男、本名はジェームス・ポーターといい、遠隔操作式ガスグレネードを用いるレインボーの隊員だ。
「私は大沼さんの担任です。ところで今は何を?」
「毒ガスの作り方を教えている、アンタも知りたいか?」
「えぇ!?」
「ククク、冗談だ、落ち着け」
真顔で冗談を言うこの男が家庭教師なのか、担任は内心焦る。
「まぁ実際に毒ガスが発生した時の対処法は教えたことはあるけどな」
「は・・・はぁ、実はですね」
学校のテストの点数についてスモークに教える。彼はとてもうれしそうな表情だ。
「へぇやるじゃないか、特に英語が満点近かったんだって?キングスイングリッシュを教えただけのことはあるぜ」
「キングス?まさかイギリスの方で?」
「UK産まれだ、だから本場だぜ」
イギリスのことをUKと言っている以上、本物なのだろうと確信する。しかし、くるみはお兄ちゃん達と言っていたが
「他にいるのですか?」
「あぁ、あと3人いる。音楽、美術以外なら教えてるぞ、難なら特別授業にしてもいい」
「大沼さんの点数上昇の秘密がわかりましたし、せっかくですので」
「話がわかるな、よし理科終わり。特別にスイスについての授業をする」
「スイス?アルプスのハイジ以外にもあるの?」
「あの国は優れた工業技術がある、時計や精密機械、そしてこれだ」
これだと言わんばかりにP226Mk25ハンドガンを取り出し、机に置く。
「え!ちょっとスモークさん、これモデルガンですよね?」
「何言ってるんだ、本物に決まってるだろ?」
マガジンを抜き、担任に見せると
「ほ、本物だ・・・まさか」
「俺らの事、学校に出向いて説明したハズだぜ?大沼家は保護されてるってな」
「・・・あなた達が有名なレインボーだったのですね?」
「ご名答、っで、話の続きだがこいつは水や泥に浸けても撃てる優れモノでな。しかもこのマガジンは15発入ってる、つまり」
二人に目線を向けるが、何を言っているのか見当もつかない。
「15人殺せるってことだ」
「ちょっ、幼気な大沼さんに、何教えとんじゃ~!」
担任の拳がスモークの腹に入る。
「ぐっいいパンチだ。先生やめてSATに入ったらどうだ?」
「なんでそこ教えるねん!畜産やら銀行やら教えるだろうがそこ!」
「悪い悪い、話を戻してスイスだが、他の国にはない特徴がある。くるみ、わかるかい?」
「ふぇぇぇヤギさんや牛さんがいる以外にわかんないよぉ」
「中立国だ。簡単に言えば、基本的に誰にもつかないってことだ。通貨だってユーロじゃなくてスイスフランだし、どこの国籍の人間でも、留学を受け入れたりスイス銀行に預金できる。まぁ庶民には銀行やら留学には縁がないから、知識に入れておけ」
その後もスイスや他ヨーロッパ諸国の知識について話し続けた。多くは銃についてのことだが。
翌日。疲れた顔でスーパーに立ち寄ると、大きな背中にぶつかった。
「す、すいません」
「こちらこそすまない。気づかなかった」
これまた流暢に日本語を喋る中年の白人男性が頭を下げる。
「おや、くるみの担任の先生じゃないですか。私です、サッチャーです」
「あ・・・このたびはどうも・・・大沼さんのこと、いつもありがとうございます」
「いえ。それよりも買い物ですか?」
「朝から何も食べてないんですよ・・・スモークのせいで」
「・・・何か粗相でも」
担任は昨日のことを話した。サッチャーこと、マイク・ベイカーは親身に話を聞いた。
「そうでしたか。私が注意しておきます、だからご安心ください」
「・・・えぇ。ところでサッチャーさんはここで何を?」
「惣菜を買いに来たんですよ。みんな料理ヘタですからね」
実際SASでは野生動物の調理方法を習うが、都会で且つ、食料の豊富なところではあまり役に立たない。しかもイギリス料理の多くはただ焼いただけや、揚げただけのものが多く、下味なんてない。そのためまずいと言われるのだ。
「はぁ・・・」
「そういえば先生。あの子は学校で浮いていたりしてませんか?」
「大沼さんですか?・・・アイドル業で普段学校にいませんが、特に荒れていたり、いじめがあったりとかはないですよ、男子からのセクハラはありますが」
真剣に耳を傾ける。
「ありがとうございます。今さらですが、くるみが困っていたら助けていただけませんか?さすがに学校内まで護衛できませんから」
「はい、担任として責任を果たしますよ」
サッチャーは会釈すると、ローストビーフを手に取りレジへと向かった。
家庭訪問から数日後、学校のパソコン室では大きな問題が起きていた。ホストコンピューターが起動しないのだ。困り果てた教員一同は技術科の教員に見てもらい、故障であるとわかったものの、原因がわからなかった。
「誰ですかコンピューター壊したの、昨日は生徒の出入りがないですから教員の誰かでしょ?」
「私は昨日来てないぞ。それといいのかね、早くしないと生徒達が来てしまうぞ?」
言い争いの最中、くるみが一番乗りで教室に来た。一瞬、空気が凍り付いてしまう。
「ふぇ・・・先生達どうしたの?」
「実は・・・機械が壊れちゃって・・・」
「そうなの?先生、けーたい持ってる?」
「あるけどどうしたの?」
教員の一人がくるみに携帯電話を渡すと、迷いなく番号を押す。
「あ、サッチャーおじさん?学校の機械が壊れちゃったの、見てもらってもいいかな?」
『わかった、ミュートと一緒に行くから待ってなさい』
たった数分後、サッチャーとミュートが工具箱と修理キットを手に現れる。さっそくPC本体から電源を切り離し解体していく。その手際の良さに一同舌を巻いた。
「大沼さんを保護してる人達って、ハイスペックすぎないかな?普通PCを本体剥き出しにするなんてできないよ」
「あっさっき原因らしいものを見つけたみたいですね。ちゃんと取り除いて今度は組み立ててますよ」
凄まじい早さで組み立て直し、電源を入れてみせた。ディスプレイにはログイン画面が映っている。
「終わりました。誰かが何らかのジャマーを組み込んだみたいですね、それが原因で接続不良になっていたのでしょう」
「ジャマー?」
「妨害装置ですよ。今後は犯人を捜すより、再犯防止に努めるのがいいでしょう」
そう言って二人は去っていった。
その夜。技術科の教員は自宅の地下にある作業場で時限爆弾を作っていた。
「くそ、大沼さんが来なかったらPCに仕込んだ爆弾が起爆したのに・・・どこで配線ミスったんだ」
ふと自分の足元を見ると、青く光る球情の物体が転がって来た。それが起爆すると一瞬で電気が切れ、辺りが真っ暗になった。
「通信衛星、無人ドローン、それにレーザーサイト。便利なものが多ければ多いほど、失うものは多いものだ」
声の覚えのあった教員は、背筋が凍る。
「あのPCに仕込んだの、ジャマーじゃなくて爆弾だな。しかも本体に分解の痕跡があった。こんなことできるのは一人しかいない。お前だ」
電気が復旧し、現れたのは作戦装備のサッチャーだった。手にAR33ライフルを持っている。
「だが想像より機械いじりが苦手だったようだな。今ならまだやり直せる、そんな物騒なもの作ってないで次の授業のことを考えたらどうだ?」
「・・・俺は、あの人が捕まって生きる目標が無くなった。財前時子、確かイギリス人に取り押さえられたんだろ、無実の罪で・・・もう楽になりたい・・・」
ポケットから折り畳み式ナイフを抜き、自分の喉に突き刺そうとしたが、サッチャーが急いで詰め寄り武装解除しこと無きを得る。
「その醜態、自分を信じてくれる生徒に見せるのか?死ぬんじゃない、精一杯生きて手本になるんだ、それが教員だろう?」
翌朝、教員は普段通り通勤し、自身を持って自分の受け持つ授業をしていた。
SASの授業ってどんなものなのでしょうか?
なかなかエグイものを想像してしまいます