アメリカ・カルフォルニア州。一隻の大型クルーザーがハイジャックされた。犯人達は船が沖に出て早々銃を取り出し制圧。船員全員を海に投げ、興奮状態の客たちも同じように投げた。唯一残った人質、浜口あやめは恐ろしい事態に言葉を失い、地下倉庫内で恐怖で震えあがっていた。
(これが時代劇だったら、こんな事態でも冷静に敵を倒すけど、そんなことできないよ。ニンニン・・・)
一方その頃、カルフォルニア州はレインボーに救出作戦を依頼した。
「遅れたな。レインボーのブラックビアードだ」
髭が特徴的な男、クレイグ・ジェンソン。コードネーム・ブラックビアードが姿を現した。
「州警察のブラックです。沖に船が浮かんでいるのですが、そこに日本人一名がいます。彼らを救出してほしいのです」
「なるほどな。船の見取り図はあるか?」
「ありませんが、このタイプのクルーザーには後方部に手すりがついていて、危険事態になっても上がれるようになっています」
「わかった。交渉を続けといてくれ、俺はその間に救出作戦に乗り出す」
桟橋にあるボートに乗り込み、クルーザーに近づいた。ある程度距離を離し、そこから泳いで近づくことにした。
「休暇から無理矢理呼ばれた気分って、最悪だよなビアード?」
「そうだけど、どうしたんだ、そんなに苛立って?」
腕に特徴的なタトゥーを入れた男口調な女性隊員、メーガン・J・カステラーノ。コードネーム・ヴァルキリーはイライラした様子だった。なんでも、本来なら休暇であり、自分の応援する日本のアイドル、前川みくのコンサートに行けなくなったことに腹を立てていたのだ。
「みくのコンサートに行けなかった鬱憤をここで晴らす」
「落ち着け、その、みくって子も怖がって近寄らないぞ?」
手摺りでクルーザーに上り切ると、ブラックビアードは自分の得物、Mk17CQBに、透過アーマーライフルシールドを装備した。
「行くぞ」
さっそく背後から忍び寄り、銃口を突きつけた。
「動くな騒ぐな。人質がどこにいるか教えろ」
「そ、そっちです・・・」
「いい子だ」
手刀で気絶させ、敵の指差した方向に進む。ドアが突然開き、敵が強襲してきたが焦らず遮蔽物に隠れ、最小限に体を出しながら反撃に出、この場を制圧。ひとつひとつ部屋を回っていると、船の見取り図を見つけた。
「この構造からしておそらく、人質は地下倉庫だ。急ぐぞ」
ヴァルキリーは地下倉庫に向かう途中の各所に粘着性のカメラ、ブラックアイを仕掛けていく。
「よしここだ、合図で行くぞ。3・2・1、ゴー!」
ドアを破り、勢いよく入り部屋の中にいた敵を仕留める。その早業にあやめは驚いて口が塞がらなかった。
「・・・クリア。もう大丈夫だニンジャガール」
ブラックビアードが拘束を解いて終わると、ヴァルキリーが流暢な日本語で安心させる。
「え、日本語?」
「前川みくって知ってる?彼女のファンなんだ」
「みく殿のファンでしたか。でも日本でコンサートが」
「君を助けに来たんだ。おかげでコンサートに行けなかったけどな」
「ありがとうございます、ニンニン」
脱出前に専用のスマホを見て敵が来ていないか確認する。誰も映っていないため、一安心する。
「これから脱出するから、彼の後ろに隠れてなさい」
「御意!」
ヴァルキリーがポイントマンになり、警戒しながら歩く。いくらカメラがあるとはいえ、死角に隠れていたらこちらが危機になる。情報のプロである彼女がそのことをよく知っていた。
「誰もいない、走って!」
ブラックビアードはあやめの手を握り、州警察が用意してあった脱出用ボートに近づき、彼女を乗せ、自分達が乗ったことを確認すると、エンジンをかけクルーザーから離れる。
「任務完了だな。お疲れさん、二人とも」
「だがまだだ。彼女を安全な場所まで送っていくまでが任務だ」
「おっと、忘れてたぜ」
二人はあやめを宿泊予定のホテルまで護送し、自分達の連絡先を渡すとその場を去って行った。
それから数日が過ぎ、あやめは無事帰国を果たし、みくに自分達を助けてくれた人の話をすることにした。
「にゃ、その助けてくれたヴァルキリーって人がみくのファンだったの?」
「はい。この前コンサートあったでしょう?行けなかったって悔しがってましたよ、ニンニン」
「みくも大阪で似たような人に助けてもらったことあるけど、思ったより反応薄かったにゃ」
遠いヘリフォードで自分の愛用デバイス、スペクターをメンテナンスしていたIQがくしゃみをしたのを、二人は知らない。
「まぁいいにゃ。お仕事できるだけ、喜ぶにゃ」
「はい・・・あ、プロデューサー殿!」
二人が話してる最中に武内が入って来る。
「カルフォルニア州では大変怖い目にあったでしょう。少し休んでください」
「大丈夫ですよ、あやめは元気ですから」
「・・・ひとつ、話をしておきます。疲労は見えないところで体を蝕んでいきます。たとえ今疲れていなくても、ライブやフェスで予兆もなく倒れる可能性を孕みます。ですから、しばらく休暇してください」
「でも、ヴァルキリーさんとブラックビアードさんは、あやめをホテルに護送した後、また中東で任務があるからって、どこか行っちゃいました」
「アイドルとレインボー隊員を一緒にしてはいけません。彼らは日々過酷な訓練で鍛えていて、世界各国のテロ事件を解決するのに奮闘しているのですから、一般人と比べて体力と精神力が違いすぎるんです。同じように考えては体が持ちません」
「・・・そうですね。でも、どうして二人がレインボーの隊員だって、知ってるんですか?」
「元同僚だからです。私もレインボーとして世界各国飛び回っていました。特にブラックビアードとは一緒に作戦に参加したこともありますよ」
「「えぇ!?」」
「まぁそれはそれとして、今はゆっくりくつろいでください」
部屋を出た武内は衛星携帯で誰かに電話をかけた。
「私です。お願いしていた前川さんのサインをあなた宛でヘリフォードに郵送しておきました。ええ、喜んで書いてくれましたよ、写真を見せたら目を輝かせていましたしね。・・・浜口さんを助けてくれたお礼です。いつまでも大事にしてくださいね、ヴァルキリー」
電話の向こうでヴァルキリーがガッツポーズしたのを想像し、思わず小さく笑った。