ユーリは日本の高等学校の校門前にいた。任務で来ているのではない、娘の参観日に妻が用事があっていけないため、ドミンゴに相談したところ許可が下り、来日している。着馴れないスーツ姿を見た門番の教員は声をかけた。
「あ、あのぅ、どちら様でしょうか?」
「アナスタシアの父、ユーリだ。教室はどこかね?」
「申し上げにくいのですが、その授業が始めるのは1時間後なんですよ。どこかで時間を潰してから、もう一度いらしてください」
恥ずかしくなり、ユーリは近所にあった喫茶店で時間を潰すことにした。持ってきたノートPCを用い源太に連絡を入れた。
「こちら真田源太、どうしましたか?」
「ゲン。今現在待機中なんだが、参観日に気をつけた方がいいことはないかね?ロシアにはそんな風習がないんだ」
「そうですね、恥ずかしくないように堂々としておけばいいでしょう。それと、男子生徒が彼女を口説いていても、絶対にこちらから攻撃しないでください。いろんな意味で問題になりますから」
「わかった。つまり、基本的に口出し無用ってことだな」
「その通りです。それが出来れば成功です」
腕時計を見て、時間を確認する。
「ありがとう。そろそろ授業の時間だからまたな」
「健闘を祈ります」
緊張した顔つきで授業のあるアナスタシアの教室に入る。男女共学で、男子生徒の多くが彼女の方を向いている。
「いつ見ても可愛いなぁ。護ってあげたい・・・」
「無理だって。隣の西間が狙ってるって噂だぜ、アイツ、何人も女口説いて来て100%成功して、ヤリ捨てるって聞いたぞ」
(・・・その西間って男に会わせてくれ、シベリア送りにしてやる)
職業柄聴覚の鋭いユーリは内心怒りに満ちていたが、落ち着いて見守ることにした。男性教師が入ってくると、一瞬にして沈黙し、世界史の授業が始まった。
「・・・でね、紅茶は一般的になったけど、昔は湯呑みたいに取手のないカップで飲んでいたんだ」
この日は茶がどのように広まってきたのかという授業だった。通常、歴史の授業は政治史が中心となっているが、彼の授業は身の回りの物から見た歴史について語っていることがわかる。
(実に興味深い。当時のソビエトでは、考えられない授業だな)
少年時代を思い出してしまう。あの頃は非常に厳しく、態度が悪ければ教師に鞭打たれるなんてしょっちゅうだった。しかも自由なんてなく、共産主義のなんとやらを叩きこまれたことを覚えている。
(もし彼らと同じ時代を生きていたら、もう少し冷静になったのだろうか・・・)
そうしみじみ考え込んでいたら、終了を告げるチャイムが鳴った。
「ここで終わりにします。保護者の方はこれから、体育館に集合してください」
人の流れに任せ体育館に向かう。そこでは学校内で話題になっている問題と、生徒と保護者間の進路相談についてのことが大まかに説明があり、それらが終わったあと、三者懇談に移る。
「えっと・・・お父様で、よろしいですか?」
「えぇ、まぁ」
先ほどの世界史の授業をしていたのが、担任の先生のようだ。
「去年は奥様がお越しになったのですが、何か聞いてますか?」
「妻からは成績が国語と社会、体育以外は高いと聞いているのだが、どうだろうか?」
「確かにその通りですね。生活面ではクラスメイトからも信頼が厚いですし、やっぱり、異性からモテモテですよ。しょっちゅう告白されると聞いておりますが、全て断ってるみたいですね」
「(そりゃそうだろう、そこらのガキにプロポーズされて頷く娘じゃない)少々複雑な気持ちになってしまうな」
「・・・アナスタシアさん、この機会に相談したいこと、ないですか?」
彼女の表情が少し曇る。
「最近、西間君が私を口説いてきます。この前、壁ドンされました」
「壁ドン?」
「男が女の子を壁に追いやって、壁に手をつく行為です。それで心を射止めるかもしれないって勘違いしてる生徒が多くて・・・」
一つ間違えれば傷害沙汰になってもおかしくない行為に、またしても憤りを覚える。
「その西間って男子生徒、問題があるのか?」
「その・・・言い辛いのですが、とある金持ちのボンボンでして、素行ははっきり言って悪いです。しかし、母親が非常に甘く、学校外で問題行動があったら金を積んで解決するうえに、しょっちゅう学校側に電話を入れる、いわばモンスターペアレントです・・・彼が早く卒業するのを、ひたすら待つだけですよ」
「なんと弱腰な。私なら、どんな逆風でも真実を伝え、彼を更生させるのだが」
こういう時に、源太がいてくれれば、どんなに心強いか。
「パパ。実はあの時、助けてくれた人がいました」
「なんと・・・誰だね?」
「カグラレイって男子生徒です。とても、いい人です」
「お前が言うのなら、善人なんだろうな」
参観日から数日が経ったある日。オーストリア・ウィーンにある二階建ての小さな宴会場でテロ事件が発生した。相手はホワイトマスクに影響を受けた過激派テロリストだった。人質は4名。346プロのアイドル3名に、315プロという、男性アイドル専門のプロダクションに所属する人間が1名囚われていることを確認した。
「大佐、降下準備してください」
「そう焦るなゲン。フゥーズ、アッシュ、準備いいか?」
「「はい!」」
4人は一斉に降下し、屋上に着陸する。アッシュがポイントマンになり、源太、フゥーズ、ユーリが続く。音もなく背後から忍び寄り、源太のサプレッサー付き45Tで倒す。
「クリア」
「相変わらずいい腕だゲン」
珍しくフゥーズに褒められる源太。
「・・・壁の向こうから誰か来る。頼めるか?」
「任せろ」
クラスターチャージを取り出し壁に設置、スイッチを押して向こう側に爆弾をばら撒いた。
「突入する。アッシュ、やってくれ」
アッシュはM320に装填した専用のブリーチング弾で壁を破壊し、四人は一斉に入り敵を一掃した。広い室内には人質全員がいた。
「安心しろ、助け・・・」
「こ、こっち来るな爆弾魔!」
せっかく解放しようとフューズが近寄ろうとするが、拘束されていない足をバタつかせる神谷奈緒がいた。数回蹴りが顔面に入っても平然と説得するフゥーズ。
「この前のやつは謝るからさ・・・」
「いやぁぁぁぁ!」
そんな二人を他所に、アッシュは人質の中では一番幼い少女、赤城みりあの拘束を解いた。
「奈緒さんどうしたんだろう?」
「さぁ・・・おチビちゃん、私について来て。助けてあげるわ」
みりあの手を握り、アッシュは一足早く脱出地点の屋上に向かった。
「源兄、怖かったよぉ~」
「わかった、わかったから離れろ。さっさと脱出するぞ」
未央に限っては源太に解放されるや否や抱きつき、彼は無理矢理引きはがし、どうにかして脱出ポイントまで向かった。フューズもどうにか奈緒を説得し、移動することに成功する。
「少年、我々について来い」
「貴殿らは一体・・・」
「我々はレインボー。凶悪なテロリスト達を撲滅するために集められた精鋭達だ」
「貴殿らが有名なレインボーですか、私は神楽麗。315のアイドルです」
「そうか。それよりも早く脱出するぞ、敵が迫って来てる」
切り揃えられた髪に端正な顔立ちの青年、神楽麗を解放し、共に行動する。
「下から誰か迫ってきます!」
「む!」
彼の言う通り、AK74を武装した男達がこちらに発砲してきた。
「隠れてろ。私に任せるんだ」
そう言うと、敵の弾切れを見計らい、PKPマシンガンで敵の遮蔽物ごと撃ち抜き始めた。マガジン内には貫通力の高いAP弾が使用されており、生半可な壁では意味を成さない。遮蔽物の向こう側の様子は想像するに容易かった。
「終わったぞ、行こうか」
最初に脱出ポイントに到着したアッシュと合流し、彼を屋上までエスコートし無事に脱出に成功した。ユーリは隣で座っている青年が、学校内で困っている娘を助けてくれた恩人だとわかった。先ほどのドンパチの中であっても冷静に行動できる人間が、他人に危害を加えるとは考えにくいからだった。
ヘリの中で泥だらけのフゥーズの姿を見た麗はユーリに聞く。
「あの方、大丈夫でしょうか?」
「なに、少女の蹴りぐらいで倒れるほど軟じゃないさ」
「・・・関係ない話ですが、隣のクラスに、あなたに似た雰囲気の女の子が困っているのを見て、助けたことがありました。困らせている男子生徒の表情が、とても邪悪なモノだった。それも、先ほどのテロリスト達と重なってしまって・・・」
先ほど人質にされていたことがダメージになっているようだ。
「レイ。君の勇気と判断は素晴らしい、もっと誇りを持ちたまえ」
「なんと!?」
「いいかね、君は困っている人間を放っておけない正義感を有し、実行する能力がある。それに誇りを持たないでどうする?テロリストの多くが通常じゃ出来ない狂った判断を下す連中ばかりだ。そいつらより君は立派だと、私は思うがね」
「・・・私も、強くなれるのでしょうか?」
「十分強いさ」
帰還後、麗はフェスで成功を収めた。今までよりも自身にあふれた内容だったという。