イギリス・ヘリフォード。休暇で簡単なトレーニングを終え、近くの本屋で買い物をするヒバナがいた。店内に入ると、346プロのアイドル、島村卯月の写真集を手に取った。
(イギリスにも売られるようになったんだ・・・可愛くなったなぁ、日本の子も)
元の場所に戻し、目的であったジャック・ライアンの著書を買い、戻ろうとした矢先、呂律の回らない女の大声が聞こえた。気になったヒバナは声の聞こえたところまで走る。
「え・・・なにこれ・・・」
古いパブの前に大勢の人間がうつ伏せになって倒れている。おそるおそる店内に入ると、一人の日本人女性がウィスキーのボトルをラッパ飲みしている。
「あの、いったい何があったの?」
「酒弱すぎよ、ヒック・・・」
目も坐り、顔も真っ赤になっている。テーブルの上にある多くの空のボトルから、どうやら彼女が原因のようだ。
「アンタお金払えるの?」
「どんくらい飲めるかのチャレンジがあるって言うから、実力出したのよ・・・アンタも飲む?」
「飲まないわ。アンタもさっさとホテル帰りな」
「つまんないわね、帰るっての・・・ここに金置くから」
日本円を置き、その場を去る。心配になったヒバナは彼女を尾行することにする。
悪い予感は当たっていた。ヘリフォード陸軍基地前でその酔っ払いが警備兵とモメているのだ。ヒバナは背後からの一撃で寝かしつけると、急いで彼女を自分の部屋に連れて上がる。一人では面倒見切れないと判断し、トゥイッチとIQにも手伝ってもらうことにした。
「誰この酔っ払い?」
「身分証見るとさ、片桐早苗って名前なのよ。知らない人」
「おい大変だ、吐こうとしてる!」
どうにか洗面台に吐かせると、意識を取り戻した。
「え・・・どこ?ホテルじゃないよね?」
「ここはイギリス陸軍基地内。今から医務室運ぶからじっとしてて」
3人で早苗を医務室に運び込み、ドクに診察を依頼する。
「検査もしたんだが・・・圧倒的に肝臓が悪い。ところで普段、どのくらい飲んでんだ?」
「えっと・・・毎日ビール3杯に焼酎4杯は普通よ」
「やっぱりだ、アルコール中毒寸前じゃないか。診断書書くから、これを会社に提出、そして、1ヶ月禁酒を命じる。今から肝臓に良い食べ物のメモ渡すぞ」
「ひどいじゃない、楽しみがないじゃないのよ!?」
必死で訴えるも冷静に返される。
「飲みすぎでポックリ死にたいか?話によれば346プロ所属だろ、私が直接武内に伝えてもいいんだぞ?」
有無を言わさない眼差しに早苗も大人しくなる。
「わかったわよ。飲まなきゃいいんでしょ?」
「本当に飲むんじゃないぞ。そろそろお迎えが来るから、基地の外で待っているように」
早苗は迎えに来た武内に持ち帰られ、その日のうちに帰国した。後日、彼女は一週間の休業を言い渡されたという。
しかし医者の忠告なんて聞くようなタマではない、休みとばかりに飲みに毎日行っては泥酔する日々が続いた。そんなある日、バーのカウンターで飲んでいると、隣の椅子に壮年の男が座る。
「顔真っ赤で目が座って大変なことになってるぞ。そんなんじゃ酒がまずいだろう」
「何よ、ほろ酔いってやつを知らないの?」
「10杯カクテル飲んでる女に言われたくないな。俺はアレクサンドル、ロシア人だ」
この男、休暇で日本にやって来ており、ホテルでは暇なのでバーに入ったとのことだった。
「・・・イギリスでさ、いい感じに酔ってたらさ、軍事基地に連れ込まれて健康診断されて禁酒って言われたのよ?飲まずにいられるかチクショー!!」
「はぁ・・・こんな飲み方してる奴をロシアじゃなんて言うか知ってるか?酒の無駄遣いだ」
ウォッカを頼み、それをストレートでゆっくり飲む。
「酒は宗教によっては命の水って呼ばれてんだ。だから、大事かつ味わって飲まないとダメだ。面白味が無くなってただのアル中になっちまう。お嬢さんには楽しみ方ってのを知らない、だから無駄に飲むんだ・・・って寝てるのか」
ため息をつき、アレクサンドルは彼女を抱きかかえる。ホテルのロビーで見覚えある日本人を見つけた。
「よぉタケ。どうした?」
「片桐さんを見失ってしまって・・・どうしたんですか?」
「酔っぱらって寝ちまった。彼女は誰だ?」
「その方は捜してる方です。見つけてくださり、ありがとうございました」
「お前に預ける。そして彼女を部屋で寝かせたらバーに来い。俺が酒奢ってやる」
「あなたの酒の席は朝になるのですが・・・」
「タチャンカの名に恥じない酒豪ぶりって褒めてくれ」
結局、武内はアレクサンドルことタチャンカに奢ってもらうことにしたのだが、朝の仕事に大幅に遅刻したという。
平日の訓練終了後、自由時間に固定式LMGを手入れしていると、珍しい客人が現れる。
「タチャンカの親父、まだそれ使ってんの?」
訓練でコテンパンにされたヒバナだった。
「悪いか?俺にとっては命の綱なんだが」
「古すぎて化石じゃない?こういうの使わなきゃ」
「X-KAIROSは最新すぎてつまらん。俺はソビエトの武器が好きなんだ」
彼は赤軍一家で育ったため旧ソ連の武器や機械を好む。そのため、部屋にはその時代にまつわるものがたくさん置かれている。
「あっそ・・・そうだ、気になってたんだけどさ、普段どのくらい飲むのお酒?」
「は?そりゃウォッカ瓶1本は消えるぞ、時間をかけてゆっくり飲むんだ」
「いやさ、バカみたいに飲んで衛兵に絡んでる女がいてさ、看病したのはいいけど部屋で吐こうとしたんだよ!もう最悪で仕方ないったらありゃしないっての」
「・・・こんなこと言うのも嫌だがな、下戸には酒飲みの気持ちがわからん。まぁ、迷惑かけちゃだめだがな」
先ほどの日本人女性、早苗の顔が思い浮かぶ。
「本当の酒飲みってのはな、迷惑をかけず周りの人間を楽しませてこそだ。それは頭の片隅に入れておけ、わかったな。用がないならさっさと行け」
「へーいへい、帰りますよーだ」
へそを曲げた様子で帰っていくヒバナ。
「さて、飲むとするかな」
LMGを置き、ワインセラーにあるウォッカを取り出し、栓を開ける。
「うーむ・・・芳醇」
それをお気に入りのグラスに注ぎ、くつろぎながら時間をかけて楽しむのだった。
時にはテロリストハント無しでもいいと思います