1977年、ミュンヘンオリンピックの悲劇を繰り返さないために設立された。
スペイン・バルセロナ。旅行雑誌の仕事でサクラダファミリアを訪れた、両手首に赤いリボンを巻いたアイドル、佐久間まゆ。彼女は笑顔で仕事をこなしているが、内心笑顔とは言えなかった。前回のODT事件で担当プロデューサーがテロに加担した挙句、自分のことを人質にしようとしたからだ。幸い、いち早く気づき得意の縛縄術を用い拘束したものの、自分を裏切った彼を今でも愛していた。
(あの人がいなきゃ、アイドル・・・いいえ、生きてる意味がないわ。この仕事を終えたら)
最近、スペインではアフリカから渡ってきたテロ組織が各地で爆破を行っており、撮影クルーも警戒していた。
「すまんがちょっといいか?」
ガラの悪そうな男が声をかけてきた。彼はリャド・ラミレス・アルハッサル。コードネームをジャッカルと言い、彼はスペイン特殊部隊、GEO出身のオペレーターだ。
「この男を見かけなかったか?コイツがバルセロナに潜伏してるって話なんだが」
太ったラテン系の男の顔写真を見せる。
「見てませんよ。日本から来たばっかりですし・・・日本語上手ですね」
「まぁな。協力ありがとよ」
ぶっきらぼうに去っていく。
(・・・あの子、手首にリボン巻いてたな。そこからチラっと切り傷が複数見えたが・・・まぁいいか)
数日後、346プロ全体による防災訓練が始まった。ODT事件の際、テロリスト達に占領され経営陣達が殺されかけたからだ。346プロはレインボーに臨時の訓練場として、アイドル女子寮を貸し出すことにしたという。
「え~紹介に預かった、真田です。今日は人質になった時にどういったことをすればいいかを教えたいと思います・・・そこの本田未央、真面目に聞け!」
この日、源太が代表してマイクを握っている。
「まずこのケース。背後から銃を突きつけられたらどうしたらいいか?そこの太眉の子、答えてみて?」
マイクを奈緒に渡す。
「えっと・・・逃げるかな」
「真っ先に逃げたら撃たれるから不正解。正解は刺激しないように犯人の指示通りに動くんだ、最低でも命は保証される。間違っても抵抗したりしてはダメだ、我々ならともかく、君達は一般人だからね」
その後、2つほど講義し346プロのみ見せる訓練が始まった。2vs2で、内容は人質救出だ。人質役にアナスタシアが選ばれた。
「なぁゲン、ひとついいか?」
「なんでしょう?」
「ブリーチングチャージとかの爆発物は禁止なんだろ?どうやって戦うつもりだ?お前のアンダーバレルグレネードランチャーが飾りじゃないか」
「スモークしか持ってきてません。それに、何も無しでも行けるでしょ、あなたのゴーグルがあれば」
「まぁ頼りすぎんなよ」
源太とバディを組むジャッカル。彼は特殊ゴーグル、アイノックスモデルⅢを装備しており、敵の足跡を見つけることが可能だ。これを利用し敵の位置を突き止めることができる。
「そろそろ開始です。行きましょう」
一方、防衛側には武内ともう一人、スペイン人の女性がいた。
「初めまして、お名前だけは伺っています」
「元レインボーのタケね。ミラよ、よろしくね」
ミラことエレナ・マリア・アルバレスは簡単に挨拶を済ませる。彼女は彼のことは聞いていたが、直接会ったことがなかった。
「ゲンもジャッカルも腕利きだから油断しないでね」
「はい、わかってます」
今回実弾で戦うわけにはいかないため、模擬弾を用いて訓練することになっている。ちなみに内蔵されたカメラで訓練の様子が見える。
「来るわよ。そろそろ」
窓が割られ、床に何かが転がってきた。それは灰色の煙を多く吐き出し視界を覆った。源太のスモークグレネードだと、ミラにはわかった。
(彼は窓からスモークグレネードを撃ってきた・・・つまり別の個所から入ってくるわ)
煙から脱出し、廊下に出る。
(しくじったか)
そこにはジャッカルがおり、C7Eを横から突きつけられ一本取られる。アナスタシアのいる部屋から銃声が聞こえてくる。
「やるじゃんゲン。また昇って別の部屋からダイナミックエントリーって技ありよ」
「・・・銃声が止んだな。ゲン、どうだ?」
「取りました。こちらの勝利です」
訓練終了後、帰還しようとした矢先、シックスから指令が下った。愛知県名古屋市のビルでテロリストが立て籠もったのだ。現地でタチャンカとブラックビアードの二人と合流し作戦を見直す。
「結構狭いから気をつけろ。別のところから攫ってきた女の子がいるって話だ、誤射にも気をつけるように」
「了解親父」
「俺がポイントマンになろう、足跡を参考にする」
ジャッカルは解放されたスタッフから残っている人質の履物について聞き出し、早速アイノックスモデルⅢを使い、色鮮やかに浮き出た足跡を確かめる。
「敵と人質は上だ。二手に別れよう、ミラと親父は右。俺達は左からだ」
「任せろ」
広いビル内を足音に気をつけながら歩く。
「いたぞ!」
叫びと同時に敵が発砲してくる。三人は的確に敵の位置を把握し、鉛玉を撃ち込む。
「派手に行くぞ!」
慎重路線から攻め手に移り、源太も炸裂弾をふんだんに使う。大型爆弾を発見し、デフューザーをセットする。解除の途中で二人とも合流し、それぞれ得意のものを準備する。
「補強壁ありがと。大事に使わせてね」
ミラは金属製の補強壁に横長の板をセットし、窓を展開する。これはブラックミラーと呼ばれる防弾ガラスで、外から見えない仕様になっている。
「準備完了。さぁ来い」
解体阻止にかかる敵がわんさか現れ、緊張感が一段と増す。しかし固定銃座をセットしたタチャンカは鼻歌を謳いながら鉛玉をばら撒くため、敵は緊張感に加え恐怖感も一層増した。
「踊れ~踊れ~さもないとハチの巣だぁ~」
(妙に音程取れてるから余計怖いよな・・・)
解体が終わり、ウェーブも終わった。帰還しようとしたその時、重大なことを思い出した。まだ人質を見つけていないのだ。
全ての階の部屋中を探したがいない。
「だめだ、クローゼットの中もいない」
「わからんなぁ・・・あ」
「どうしたビアード?」
「あるじゃないか、捜してない場所」
ブラックビアードは指を上に向ける。
「屋上か!早速行ってみよう」
チーム全員で登っていき、ジャッカルは驚く。バルセロナで出会った少女が、ナイフを左手首の動脈に突き立てていたのだ。
「おい何やってる!さっさと帰るぞ!」
「来ないで!疲れたの・・・待つのに疲れたんです・・・」
彼女の情緒がおかしい。全員がそう感じる。
「あなたはまだ十代よ、そんなところで自殺なんてダメよ!」
「・・・初めて恋をしたのは17の頃・・・読者モデルだった私に声をかけて下さった、プロデューサーさん。まゆは彼のことを信じてました、まゆだけを見てくれる素敵な王子様だって・・・でも違った、ちひろさんに認められたくてまゆに構ってるフリをしてた!」
狂気ににじんだ目から悲しみを感じる。
「でもまだ好きなの!頑張れば、頑張ればまた振り返ってくれると思って頑張ってきた!・・・でも無駄なのよね。だって・・・塀の向こうに10年ぐらいいるって話ですから・・・だから自殺を考えたの、今回人質にされたのは良い機会だって思った・・・それなのに、それなのに貴方達はあっさり片づけた!だったら」
ナイフを握る手に力が入る。
「ここで自殺すればい」
言いかけた瞬間、ブラックビアードはハンドガンの空弾倉をナイフに向かって思いっきり投げつけ、ナイフを落とし怯んだ隙にジャッカルはまゆに駆け寄り抱きしめた。
「ここで死ねば、親御さんや兄弟にどれだけ悲しむか考えたことあるのか!残された人間の気持ちを考えろバカ野郎!」
彼は兄を殺された過去があり、長い時間、悲しみに明け暮れたことがあった。彼は今でもその犯人を追いかけている。ゆえに、身勝手に死を選ぼうとする彼女が許せなかった。
「死ぬんじゃない、絶対にな!」
彼の目に涙が浮かぶ。
「ジャッカル・・・そろそろ迎えのヘリが来るわ、彼女を乗せて脱出しましょ」
任務を終え、一人途方に暮れる。親友のブラックビアードはそっと肩に手を置く。
「まぁ辛いよな、肉親が殺されりゃあ。兄弟同然の仲間達が殉職するのを目の当たりにしたことあるからわかる」
「・・・」
「気分転換にな、ヒバナの実家の肉屋でバーベキューパーティーしろってシックスから命令が下った。参加しろよ」
「わかってる」
ふと空を見上げると、丸い月が顔をのぞかせていた。
ビアードが陰で活躍