日本・松本。珍しいメンツがこの地を訪れている。
「やることは、わかってるな」
「あぁ」
「食うぞ、信州蕎麦を」
小さな蕎麦屋に入ったFBISWATの男3人がテーブルに置かれた信州蕎麦に固唾をのむ。
「結構豪華だな、天ぷら付きザル蕎麦」
パルスが慣れた手つきで箸を持ち、麺に少量のワサビと汁をつけて食べる。そして頭を傾げる。
「ゲンが以前、喉で味わうって言ってたが、喉に味覚なんてないぞ」
「そうじゃない。コシというヤツだな、麺がまるでするりと腹に入る感覚。ほんのり薫る香りも味わいだと聞いてる」
「・・・そういうもんかね」
キャッスルは疑問にもちながら、パルスより多くのワサビを麺に付け、そのまま啜る。
「グ!?つ、ツーンっとする・・・」
「おいおいそりゃつけすぎだ。笑えんぞ」
「水だ、飲め」
水を一気に飲み、どうにか凌ぐ。
「こ、これはエキサイティング・・・」
「しっかしキャッスルにこんな弱点があっただなんてな」
「今度訓練する際にワサビでも塗ったぐってやるか」
「おいおい冗談はやめてくれ」
その後、信州蕎麦を完食し、街を歩くことにした。それにしてもこの面子、とても逞しい組み合わせである。
「そういえば、今日ゲンは休暇だったな。同じ日に休暇のヨハンと日本に来てんだとよ」
「ちょっと関係ないんだが、ゲンは変わったな。今までは戦いを好む堅物だったのに、まさか日本を救うなんて考えてもいなかった」
「女が出来たからじゃないか?あのユーリ大佐の娘さんって話だぜ」
「義理で交際って感じじゃないし、なんだかいい感じだな」
「っでだ、どうしてヨハンも一緒に日本へ?」
「知らないのかキャッスル、ヨハンに会いたいって女の子が駄々こねたからさ。なんでも一目惚れしたらしいぞ」
「ヨハンに惚れたねぇ。玉砕する姿が見えるな」
「ハハハそうかものな」
面白そうに会話しながら松本を堪能する3人であった。
同じ時間の名古屋ではヒバナが実家の肉屋に帰ってきた。しかし、そこではくつろぐことが出来ず、代わりに見せられたのはお見合い写真だった。
「お母さん、もうなんでこうなのかな。仕事の都合で結婚する暇なんてないよ」
お母さんと呼ばれた、背が低くパンチパーマで身体は太めという、テンプレ中年女性が昔話を展開する。
「ユミコちゃんもいい歳なんだし、婚活必至よ。お母さんとお父さんのなれ合いなんてもうこれはこれはすごかったわよ。見合った瞬間もう惹かれ合うのなんのって、もうや~ね~照れてきたわ~」
「ア~ア~ア~、もうこのくだり1日で60回も聞いたわ!始まったら明日の朝になるから中止!」
「いいじゃない、娘が実家に帰ってきたんだから、ねぇ。お父さんも孫の顔を見たいって言ってるし、安心させなさい」
「私の職場・・・どれだけ危険か知ってるよね?」
「・・・あなたの活躍、テレビでしか見てないけど、見てて背筋が凍るわ。だからお母さんを安心させようと思ってさ」
「学校じゃ女番長、愛知県警でもヒグマとか売れ残り・・・そんな女が活躍する場は多くの命をテロの脅威から救うことだと思うの。あそこは、私にとって第2の家族みたいなものだし」
「・・・わかった、何も言わない。その代わり、絶対に死なないって約束して。親ってのはね、我が子が先立たれることが一番悲しいものよ。だから生きて帰って来てくれて嬉しいの」
店側の入り口から中年ハゲのある男が現れる。
「母さんタンの下処理まだ?」
「あらいっけない、シックスさんから注文受けたタンの下処理忘れてたわぁ。ユミコちゃんもダラダラしてないでガラ詰めのお手伝いしてね」
「あ・・・うん(母さん、アタシのこと大事に思ってたんだ。せっかくだし、鶏ガラの袋詰め手伝おっと)」
久しぶりに肉屋の手伝いをするヒバナであった。
ところ変わって夜の東京。この日、高層ビル六本木タワーの最上階にある高級レストランの前で、ヨハンは里奈を待っていた。普段の動きやすい服装ではなく、タキシードに赤のネクタイ、磨き上げた革靴を履いている。
(ちょっとハードル高かったかな)
前日、彼女を悲しませてしまったせめてもの償いのつもりだったが、今思えばいきなり高級レストランに誘うのは厳しいものではないか。そう思い始め、スマホを取り出そうとした瞬間、エレベーターから綺麗なドレスに、剃り込みを隠した髪型の里奈が現れる。
「ごめーん、ちょっと怖じ気ついちゃって・・・」
「俺こそすまなかった。もう少しカジュアルな店が良かったか?」
彼女は首を横に振る。
「ヨハンさんが誘ってくれたんだし、断れないポヨ」
「よくこんな不愛想を好いたな。普通のファミレスとは違うから、気をつけてね」
予約した席は窓からは遠かったものの、それでも夜景が見える位置だった。それに加え、ヨハンは少しばかり驚いている。里奈がテーブルマナーを知っていたことだった。
「驚いたな、どこから習ったの?」
「ミナミンから。このドレスも選んでもらったよ」
「(美波には感謝しかないな)良い友達を持ったな」
楽しい時間が終わりを告げ、それぞれの場所に帰ろうとしたが、里奈がヨハンを引き留める。
「もう遅い、シンデレラはそろそろ眠る時間だ」
「ちょっと心細いっていうか、その・・・一緒に帰りたいかなって・・・」
「・・・わかったよ。寮まで送ろう」
彼女を寮まで送ると、ヨハンは暗い夜道に消えていった。
朝の成田空港。日本を訪れたオペレーター達は全員、同じ便に乗り、近い席に座る。
「これから帰りか?」
「そうよジョーダン。松本はどうだった?」
「この時期は肌寒いな。薄着で来るんじゃなかったって後悔はあるが、蕎麦がこんなに美味いとは思わなんだ」
「へぇ~。私なんかお見合い写真見せられて実家の手伝いで終わったわ。おかげで休暇じゃないって感じ」
「お前んとこの母ちゃん破壊力高いからな。仕方ないわな」
ハハハと爽やかに笑うアメリカ人3人。
「ちょっと何それ、酷くない?ヨハンはどうだったのよ、彼女とデートでしょ?」
「楽しかったですよ。それはもう、ねぇ」
「俺に振るなヨハン。まぁ似たようなもんだったけど」
「はぁ私だけか疲れてんの・・・カルビ食いまくって任務行くわよ」
「これがホントの肉食系女子ってか?」
サーマイトはヒバナの拳骨を受け、完全に沈黙する。彼女が機嫌が治るのに2週間は掛かったという。