日本・原宿。この日はアナスタシアとのデート。いつになく服装に気合を入れた源太は、待ち合わせ場所のカフェまで歩くことにした。
(レンタカー借りれなかったのは内緒にして、今日はどこ行こうかな)
先に着いたのか、彼女はまだ来ていなかった。晴れているためカフェテラスの席に座り待つことにする。視界には人々が行きかっているのがわかる。まだ余裕がなかったSAT時代、この人混みが非常に嫌いで署に通勤するのが億劫だったことを思い出した。今はすでに何とも思っていない。
「俺は何にイライラしていたんだ?」
「怖い顔、しちゃダメですよ?」
「それもそうだな・・・って、今日はどうしたの?」
青を基調にしたカジュアルな服に、伊達眼鏡をつけたアナスタシアが横に座った。
「変装です」
「可愛く言っちゃって、似合ってるよ」
優しく頭を撫でると満面の笑みを見せる。
「とっても、嬉しいです!」
「ところでアーニャちゃん、何処行こうか?」
「水族館、行きたいです。ショーが見たいです」
「水族館か。電車で移動することになるけどいい?」
二人は2時間かけて大規模水族館へ向かった。ちょうど同じころ、何者かが気づかれないように尾行していた。
楽しそうに談話しながら展示している魚介類を見たり、お目当てのシャチとオットセイのショーを堪能する。最前列にいたため水が二人に掛かる。
「うおっ!」
「ひゃん!?つ、冷たいですね」
「でも水除のアレがあって濡れなかったよ。おっ、飛んだぞ!」
非常に楽しそうにする二人を後ろの席で見る。その人物は内心、この二人のことを快く思っておらず、沸々と憎しみが煮えたぎっていた。
(あの人がパパを・・・)
源太は知らずか知ってか、時折背後に気を使っていた。
「?どうしたんですか、ショーは終わりですよ?」
「あぁ、何でもない。どうも職業病らしくって」
飄々と振る舞い、アナスタシアにあまり気遣いさせないようにする。
「そう言ってる源太さん、何だか怪しいです」
「え、そう?向こうじゃ結構普通に接してたハズなんだけどね」
「・・・じゃあこれで許してください」
左の頬に口付けする。突然のことに流石の彼も慌てた様子だ。
「え、ちょっ、驚いたな」
「ふふっ。乙女の誓いです」
夜の19時頃、アナスタシアと女子寮の前で別れ、任務中使っていたセーフハウスに戻ろうとする。帰路の途中にある空き地に入り、足を止める。
「追いかけっこはやめようぜ。さっさと出てきな」
振り向くと街灯に照らされた、両目に涙を流したミントグリーンの瞳の少女がいた。
「いつから気づいてたのですか?」
「俺と彼女が合流してからだよ。これでもプロだからさ」
「じゃあ私の目的もご存知で?」
「さしずめポケットのナイフで一突きってか?やめとけよ、女に手は出したくないんだ」
ズボンのポケットから折り畳み式ナイフを取り出す。
「親御さんいるんだろ、泣かすのはどうかと思うぜ」
「パパはあなたによって遠い場所にいった。黒井崇男、パパの名前」
その名前を聞いて源太に笑みが消える。
「アイツが何をしたのか知ってんのか?ODTのテロリストに資金提供したクソ野郎だ」
「それでもパパはパパ!あなたは別れの挨拶もさせてくれなかった!パパを返して!」
「断る。罪には罰、当たり前だろ」
少女が源太に目掛け突進する。しかし、簡単に躱されナイフを奪われ派手に転げる。
「君の親父は確かに世界でたった一人だ。だがな、人殺したって親父さんが喜ぶわけないぜ、むしろ同じ道を歩いて欲しくないって思うんじゃないかな」
刃をしまい、懐に入れる。
「お嬢さん。悪い事は言わない、こんなもの振り回すんじゃなくってさ、笑顔を振りまいてくれよ。そうした方が親父さんも喜ぶんじゃないかな」
手を差し伸べ彼女を起こす。泥だらけになった顔と膝をハンカチで拭う。
「もしだ、復讐を望んでんならソイツとは二度と口もきかなくていいし関係も絶て。君のことを道具だと思ってる証拠だからな」
そう言うと源太はセーフハウスに帰って行った。
翌日夕方。少女こと詩花は音楽番組で、尾行していた相手の恋人、アナスタシアと共演することになった。ソロでも実力が高いことは小耳に挟んでおり、負けないために気合を入れた。
「あ、シーカさん。一緒に盛り上げましょうね」
「・・・アーニャさん。一つ、よろしいですか?・・・誰のために歌うんですか?」
「ん~っファンの皆さんとアーニャを支えて下さった皆さんのために歌います。それと・・・これ以上はヒミツです」
デートの時と変わらない笑顔を見せ、ステージに上がる。
(・・・今は私情は出さない、楽しまなきゃ)
アナスタシアの番が終わり詩花の番になる。前奏が流れたと思った途端、武装した連中が現れ詩花とアナスタシアを堂々と誘拐、車で逃走。籠城先は別荘地にある2階建ての民家。彼らはODTの残党を名乗り、現金100億円を要求。家屋内には爆弾を多く設置し迂闊に突入出来ないようにしているという。詩花とアナスタシアは手を拘束され口をガムテープで塞がれる。
(怖い・・・アーニャさんも少し震えてる・・・)
テロリストの演説をテレビで見ていた源太は急ぎシックスに連絡し突入許可を得、ヘリに迎えに来させる。ヘリ内で作戦服に着替え、夜を待った。目的地周辺には報道のヘリが先に来ており周囲を飛び回っているため、少し遠くから降り、愛用のHK416A5カスタムを握る。
(報道の人間がいない裏から入るか。しばらくはやし立ててろよ)
裏の別荘から庭に入り、窓を覗き見る。床に敷き詰められていたC4とCR21を持った敵がテーブルを盾に構えているのが見えた。少し窓を開け、気づかれないようにドローンを入れ、スマホで操作する。人質は2階のフロア中央にいることを確認し、ソファの下にドローンを隠すとワイヤーを投げ、屋根に掛けるとそれを伝って2階に登る。M320にスモーク弾を装填し一呼吸終え、心拍数が落ち着いたのを確認するとスモーク弾を発射し敵を攪乱、ダイナミックエントリーで突入。素早く敵を撃ち抜き、1階から上がってくる敵には鉛弾と炸裂弾をおみまいし、返り討ちにした。増援がいないと判断した源太はバラクバラを外した。
「オールクリア。さぁ行儀悪いが窓から脱出だ」
「源太さん!」
「わかったからカメラの前ではしないでね。行こうか」
仇だと思っていた男に命を救われた。この事実に戸惑いを隠せない。
「どうして、助けたんですか?テロリストに資金提供した男の子供を何故?」
ヘリの中で源太に問う。
「君は君、アイツはアイツ。娘だからって親の真似をしなくってもいいんだ。それに、俺達の敵はテロリスト。人質がいれば救出するもんさ」
べったりくっついてくるアナスタシアの頭を優しくなでる。
「君は親のためにアイドルやってんじゃないだろ、見も知らない誰かを楽しませるためにやってんじゃないの?」
「!?」
「親父さんは東京の特別刑務所にいる。一応、面会できるから訪れたらいい」
「・・・ありがとうございます!」
昨日とは全く違う涙を流し、頭を下げた。ヘリは作戦地域から抜け出し、安全区域にへと飛んで行った。
後日、ヘリフォードに詩花から手紙が届く。無事父親に会うことが出来たらしく、笑顔で再会を喜んだらしい。
「人命を救う、それが我々の使命ってか。GIGNみたいだな、レインボーって」
手紙をテーブルに置くと次の訓練に向かう。この日の源太は少し機嫌が良く、カルロスのミスを豪快に笑って許したらしいが、その笑顔を見ていたトッケビからは気味悪がられた。
ちょっと短いですがご了承ください