訓練も陽気なイタリアとは思えないほど厳しいもので、世界でもトップクラスの戦闘力を有している
源太・ヨハン・レイモンドは食堂にて顔をそろえている。彼らの手にはシンデレラの舞踏会への招待状が届いており、場所と日付について細かく記されている。今までそんな事とは縁がなかったため、雁首揃えて会議することにしたのだった。
「これより、オペレーション・シンデレラのおさらいをする。ゲン、俺らの共通点はなんだ?」
「アイドルの恋人がいて、服装に困っていること」
「前半間違い、後半正解だ。俺はまだだ」
「とっくに交際してると思ったがな」
「うっせ。パーティーのテーマはなんだったか覚えてるか?」
「特にない。アーニャは去年雪の女王だったけど、今年は和風メイドにするらしい」
「じゃあお前は執事ってのはどうだ?あっ、それマズいか」
「レイモンド、何も同じジャンルじゃなくってもいいんだぜ?」
顎から頬にかけて髭を蓄えた、ガタイの良いイタリア人が3人の近くに座る。彼の名はアドリアーノ・マルテッロ、イタリアGISのオペレーターで、ヨハンの指導教官でもある。
「なんだ若造共、隅っこで恐怖に震えてるカルロスは呼ばなくていいのか?」
「ええ。彼、日本には行きたくないって言ってるんで」
「・・・ヤンデレって危険な存在に狙われてんだってな。怖いね女ってな」
「あなたこそ何か御用ですか、マエストロ」
髭男のコードネームはマエストロと呼ばれている。一度特殊部隊を引退した身だが、ホワイトマスク事件解決のため先代シックスにスカウトされたベテランである。
「パーティーの服装の話だろ?俺に一任してくれ」
「え?いやしかし、あなたに手を煩わせるわけには」
「その代わり、お前らに一番似合いそうな格好にしてやるぜ」
マエストロの目がギラギラ輝いていた。まるで恰好の獲物を見つけた狼の目。紙とペンを取り出し、簡単なイラストを描いてみせる。棒人間に服を着せ銃を持たせたようなデザインなので、お世辞にもうまいとは言えなかったが、緑の謎の獣だけは非常に似ていた。
「ほれ、ゲンは日本人だろ。だからサムライチックに羽織りと袴プラスHK416を持たせてみた。ハンティングキャップにチュニックとスナイパーライフルでどうだヨハン。最後にレイモンドだが・・・ぴにゃこら太とMP7でいいな」
あまりにもセンスの無さに数秒間時間が停まった。
「いや待て!なんで俺だけ着ぐるみなんだよ!」
「ほらアレ、ドクとキャラ被るから」
「せめてタキシードと片眼鏡ってアイディアにしてくれ~!」
「タキシードにお面にシルクハット?某月の戦士のお助けマンになりたいのか?」
「言ってねぇよ!?」
半べそかいてしまったため、冗談だと笑ってごまかす。
「すまんすまん。第一次大戦の衛生兵でどうだ?違和感ないぞ」
「もうそれでいいっす・・・」
それは既にドクがやっていたため、彼にも相談した結果、インドの王子様風の衣装になった。後日、3人揃ってメンバー全員の前で披露したところ、思った以上の好評を得たのだった。しかし、恥ずかしくなった3人は芸術センスのあるグラズに相談することにしたのだった。
日本・幕張。パーティーの日が来る。いくら346プロとはいえ、さすがに名物の施設は借りることができなかったため、ホテルの宴会場を借りている。もっとも、大方のメンツが仕事なので、オフもしくは開催時間に自由な人間しか訪れていない。これはレインボー部隊も同じで、暇だったのは3人とGISの2人だけだった。だが、GISコンビは見当たらない。
「はぁ・・・緊張するなぁ。俺さロンドンのスクールでも仮病使ってパーティーだけは欠席した性質なんだ」
「気にすんな。あのグラズが提案したコスチュームなんだ、心配ないさ」
「行くぞ、そろそろ時間だ」
ドアが重く感じながらも大きく開け会場内に入る。会場にいた人々から眺望の眼差しを感じた。
「おぉ来てくださるとは・・・いやぁ何をテーマにされたのですか?」
重役らしき男性から熱い握手をされる源太。
「俺はその、夏の将校さんってことで」
キッチリした白の軍服に肩章、右手にはサーベルの代わりに愛用のHK416A5カスタムがあった。暴発しないように弾を抜きセーフティーをかけている。腰にマガジンポーチがあるが、これはいつでも戦えるようにするため。
「将校にしては現役バリバリだな。俺は狩人です」
そう言っているヨハンは緑のチュニックに動きやすい茶色のズボン。何故かMSG90A2を背中に掛けていた。色彩と細かいところ以外ほとんどマエストロの提案したデザインをいじっていない。もっとも、マガジンポーチが現代的で不自然だが。
「・・・っで、どうして俺がこれなんだ?」
茶褐色の上下に鈍い緑のヘルメット、パラシュートを背負った一昔前の空挺部隊を思わせるコスチュームのレイモンド。両肩にSASのエムブレムが縫い付けてあるのが特徴的だ。
「ヨハンと俺、明らかにパーティーに行く服装じゃないし」
「細かいことはいいんですよ。見てください、みんなが輝いていますから」
ステージの衣装だろうか、通常のパーティーでも着ないような奇抜なものから着ぐるみまで、個性の枠を超えた集団がそこにいた。
「彼女達は様々な理由があってここにいます。真田さんは恋人の何処に惹かれたのですか?」
「とても純真で人を疑わないところです。彼女といると安らぎを得られるのですよ」
彼が後ろを振り向くと、ハイカラメイドの衣装を纏った愛しい人が満足そうに立っていた。重役に頭を下げ、彼女とともに人混みに消えた。
「知ってるか?日本でいう大正ロマンってヤツらしいぜ」
「そんな言葉、どっから覚えたんだ?」
「え?ゲンからに決まってんだろ」
意外と博学なところのあるヨハンに感心する。
「スナイパーだけに情報を仕入れてんのか?」
「まぁな。そういやよ、お前んちの墓周辺に幽霊出るって噂があるんだぜ。霊媒師でも呼んだか?」
「え?小梅連れてきてないけど・・・それにな、夜中に墓歩く好き者が一番怪しいと思うぞ」
「彼女は霊的なもの寄せそうなところはあるけど、違うみたいなんだ。急に背後から現れたと思ったらな、笑いながら煙のように消える。何だかそそられないか?」
ヨハンが何故、そのような話をするのか。レイモンドの恋人、松永涼がホラー映画が好きなのでホラーネタを提供して話に華を持たせようとするためだ。だが、そのネタが原因で涼が気を失ったのは、十数分後の話である。
一方、パーティー会場から離れた袋小路で、複数の男達がサンタクロースを思わせるような袋を片手に集合していた。
「皆の衆、我々の共通点はなんだ!」
「はい、346プロを解雇されたことです!」
「そうだ!我々はアイドル達のことを思ってやった行動を誤解され、ストーカー扱いされ解雇された者達!何がレインボー部隊みたいなタフガイになれだ、いつも側にいない彼らが評価され、側に寄り添う我々が悪者扱い。しかし、彼らに一泡吹かせる作戦、担当アイドル救出作戦を説明しよう。この袋の中にある蛇やネズミのおもちゃを使って混乱させ好きな子の手を引き駆け落ちさせるのだ。さあ同志よ、出陣の時!」
あまりにもお粗末で作戦にもなっていない。壁に張り付けたイーヴィルカメラ越しで様子を伺っていたマエストロは呆れた顔で見守っていた。
「(アホか、カルロスでも考えねぇよ)アリバイ、いっちょやったれ」
一つしかない狭い出入口に銃を構えた何者かが現れた。大勢が腰を抜かし、狼狽する。これはGIS女性隊員アリア・デ・ルカことアリバイが開発した自分のホログラムを映し出すデバイス、プリズマである。
「えぇい、撃ってこない奴はこうだ!」
リーダー格の男がVP70を抜き、数発発砲。弾はすり抜けビルの壁に当たる。
「はっ、ハッタリか。さぁ進軍だ!」
しかし動かない。その理由が目線の先にある固定銃座を構えている大男がいたためだ。笑ったかと思えば足元目掛け乱射し始めた。いつ狙ってくるかわからない銃弾に恐れをなし一目散に袋小路へ戻ってしまう。
「くそ、待ち伏せか!アリアって女が怪しいと思ってたが・・・痛てて!」
尻に何かが刺さった感覚に襲われる。後ろを見ると大型のカメラがレーザーで自分を狙っていたのだ。
「どんだけ準備周到なんだ!こんなカメラ壊してやる!」
防弾ガラスが閉じ、カメラモードになったイーヴィルアイに向かって発砲する。しかし攻撃は通っていなかった。
「よーし残念P軍団、お前達のだらしない作戦は終わりだ。全員投降しろ、さもなくば地面に仕掛けた俺の神経ガスを吸い込んでもらう」
ガスマスクの男がスイッチ片手に現れる。リーダーが意味わからず足元を見るとオレンジ色の爆弾が設置されてあったことに気がついた。負けを悟ったのか、大人しく両手を上げVP70を捨てた。
「警官隊に突入許可頼んますぜマエストロ」
大勢の警官達が現れ、テロリスト擬き達を大量逮捕した。彼らの情けない姿は子牛が荷馬車に乗せられていく様にも思える光景だった。
「でも不思議に泣けないな。むしろ滑稽だ、なぁスモーク!」
「まさかシックスが俺達にパーティー会場を守る任務を任せてくれるとはな。アリアはどう思う?」
防塵ゴーグルに赤いベレー帽を被った女性が答える。
「単純すぎて潜入任務する意味あったのか疑問に思えたわ・・・帰ったらティラミスでも食べましょ」
「そんなに疲れたのか、アリア」
「タチャンカ、あなたこそこの後どうするの?」
「タケを飲みに誘うさ。どうせ暇してるだろうしな」
ここでチームは解散した。任務を終えたメンバーはそれぞれの休暇に戻り満喫したという。
タチャンカの噂
彼が行った機関銃ダンスは、346プロ年少組に人気があるらしい