レインボーシックス346   作:MP5

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「誰もが無理だと言った、金持ちで引きこもりのガキを復帰させるは無理だと。無気力感しか感じない人間を再び歩かせるのは不可能だと言った・・・だが違った」

 ちょっといじってみました


市原仁奈編  お姉さん

 少女は布団の中に入り安らかに眠っていると、仕事でお世話になった女性が夢の中で現れた。声を掛けるが背を向けて暗い闇の中へ歩いて行く。自分も追いかけようとするが見えない壁に阻まれ追うことができない、必死の呼びとめも虚しく闇の中に消えたと同時に目が覚めてしまった。

「・・・ちひろおねぇさん、仁奈寂しいでごぜぇます・・・」

 頬を伝って泣いているのがわかった。あの忌々しい事件から1年ぐらい経って自分も成長したのだが、お姉さんと慕っていた女性がテロリストとなり日本中を騒がせた挙句、さよならも言わずに去って行ったことに心を痛めていたのだ。それに加え、姉ポジションの双葉杏が理由も言わずに姿を消したこともあって余計にダメージを追っていた。

「仁奈が、仁奈が悪い子だから怖い人になったんでごぜぇますか?」

 イギリスでの仕事を最後に休業して学校に通っているが、友達も気を使って声を掛けてよこうとしない。それもあって彼女は土日以外は孤独な時間を送っていた。

「夕美おねぇさんがお家に遊びに来てくれますけど、さみしいでごぜぇます」

 

 

 

 

 

 

 気がつくと朝になっていた。リビングのテーブルの上に母親が作ってくれた朝食があり、それを電子レンジで温めて食べる。慣れたはずの一人だけの食事が寂しく感じる。ウサギの着ぐるみを着て1日を過ごそうと思ったその時、チャイムが鳴る。ドアを開けると金髪ショートカットの、仁奈より一回り年上の女性が立っていた。

「仁奈ちゃんこんにちは。朝ごはん食べたかな?」

「食べたでごぜぇます。夕美おねぇさん、今日はどこにも行きたくないでごぜぇます・・・」

「今日はね、仁奈ちゃんが元気になるように助っ人呼んだのよ?」

 夕美と呼ばれた女性が手招きすると、体格の良いドイツ人の男性が現れた。普通なら構えてしまうのだが、仁奈は彼に見覚えがあった。

「やぁおチビちゃん、ヘリフォード以来だな。夕美から元気がなくって休みがちって話を聞いてな、休日使って来てやったぞ」

「・・・あっ、ヘリコプターのおじちゃん!」

「覚えてくれてたか。そんな良い子にはドイツのバームクーヘンをプレゼントだ」

 左手で持っていた紙袋を仁奈に渡す。暗い表情から一転、無邪気な笑顔が戻った。

「わぁ、嬉しいでごぜぇます!」

「元気になって結構。おじさんも嬉しいぞ」

 ベターなものをお土産に選んだ彼、本当は自分が作った投擲物迎撃装置、マグパイも一緒にプレゼントする予定だったのだがパルスに止められて断念したのは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、どうしてお仕事休むことにしたんだ?」

 リビングに入り、テーブルをはさんで向かい合う。先ほどの笑顔は失われ、今にも泣き出しそうになる。

「つ、辛いんなら言わなくていいぞ、仁奈ちゃんが言うことで辛くなるのなら言わなくて大丈夫だからな」

 普段、気持ちの汲み取りなんてしないイエーガーも、子供相手には自分なりに汲み取ろうとする。

「おじちゃん・・・お姉さんかお兄さんはいるでごぜぇますか?」

「え?」

「事務所にはお姉さんがたくさんいるでごぜぇます。・・・でも、ひとりだけさよならも言わないで遠い場所に行っちゃったでごぜぇます」

「名前はわかるかい?」

「ちひろお姉さん・・・」

 イエーガーは動揺した。自分の元職場を襲ったテロリストを、未だに慕っている少女がここにいる。そして今、彼女が殻に閉じこもった理由を知った。

「仁奈が・・・仁奈が悪い子だから、ちひろお姉さんが怖い人になったんでごぜぇますか?」

「・・・」

 掛ける言葉が見つからない。変に慰めようとすれば彼女が壊れて第二の千川ちひろになってしまうのではないか、そう思って沈黙を貫く。

「おじちゃん、どうしてちひろお姉さんは仁奈達を襲ったでごぜぇますか?悪い子だからで」

 泣き出した仁奈にそっと近寄り、彼女の目線と同じ高さにしゃがむ。右手で頭を優しくなでた。

「辛かったけど我慢したね。そのお姉さんがなんで悪い人になったかはわからないけど、仁奈ちゃんが悪い子だなんて、おじちゃんは思わないぞ」

「・・・え?」

「実際に仁奈ちゃんは事務所の他のアイドル達と仲良くやってるって夕美から聞いてるし、こんな俺をおじちゃんと呼んで笑顔を向けてくれた。しかも作っていない自然なもの。だから悪い子だなんてとんでもない、もしそんなこと言ってる奴らがいたら俺が君の素晴らしさを叩きこんでやるさ」

「おじちゃん・・・」

「でも、殻に閉じこもったらおじちゃん悲しいな。一人で悩み抱え込んで解決なんて出来ないことが多いから、今度から夕美でもプロデューサーでも俺でもいいから、話しておくれ」

 仁奈はイエーガーの胸の中で泣いた。それは寂しさからではなく、自分を思ってくれている安心感からの涙だった。十数分後、泣きつかれたのか眠ってしまった。

「あーあー、こっから先は俺の領分じゃないな。夕美、後は任せていいか?ちょっと用事思い出した」

 

 

 

 

 

 向かった先は346プロ。仕事帰りの武内を捕まえ、先ほどの出来事を話した。

「・・・市原さんが・・・」

「お前は不器用だが気持ちには敏感だったはずだ、何か回避する方法があったんじゃないか?」

「いろいろ試しました。ですが、ここまで思い詰めてしまっていたとは・・・」

「あの歳は俺らに比べて傷つきやすい。大人達が盾になって癒してやらんと千川みたいなのが生まれかねん。それと双葉杏の再出発も頼んでもいいか?俺らも出来る限り協力する」

「わかりました。ですがイエーガー、我々と小学生の精神力を比べるのはちょっと・・・」

「まぁそれもそうだな。完了したらビール奢ってやるよ。それとな、夕美に礼を言っておけ。あの子が俺に直接頼み込んできたんだ」

 そう言うと頭を掻きながらホテルへと戻って行った。数日後、事実上無期限引退だった双葉杏がスレッジを筆頭にした復帰支援部隊の支援と言う名の訓練を受け、見事復帰に成功する。支援の様子を見ていたきらりも驚いて口調が変わるほど真面目に頑張っていたと報告も上がっていた。こうした出来事は一人の少女を元気にするためにメカニックの男が働きかけたことが切っ掛けだったのは極少数しか知らない。




 パルスの噂

 髪型にこだわりはないらしい
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