本名:モロワ・エヴァンズ
スコットランドヤード出身の女性オペレーター
元は差別主義に反対する団体のリーダー的存在だったが、友人が殺されてからはスコットランドヤードに入って暴徒鎮圧に奮闘するようになった
乱暴なところがあるが、さりげない気遣いができて面倒見の良い性格
電流を流すライオットシールド、CCEシールドが専用ガジェット
蒼よりの黒髪ショートカットの少女、岡崎泰葉は恐ろしい記憶が襲い掛かった。ODT事件の時の夢。深夜、仕事で山形の旅館に泊まっていたいた際、ODTの連中が襲撃してきたのだ。武装していた彼らによってあっという間に制圧、駆けつけた警官隊すら寄せ付けなかった。人質となった彼女と担当プロデューサーは手足を拘束される。
「俺らが何をしたって言うんだ!泰葉だけでも解放してくれ!」
「ダメだ。むしろ泰葉ちゃんだけが価値があるんだよ、子役時代からの名声がある。だがお前は何もない、だからここでってこともな」
MP5サブマシンガンを脳天に突きつけられるが、テロリスト相手に睨みつけたままだった。
「俺はプロデューサーだ、名声なんて」
「俺もな、最初はそうだった。真剣に向き合えば名声なんてとな・・・だがな、成長していく子達を見てると憎くてたまらなくなった!礼儀正しく振る舞ってても本当は俺のことをクソの味噌っかすとしか見てないってわかったからな!だから、お前みたいな青二才は嫌いなんだよ」
「・・・たとえそう思われても俺は彼女をトップあ」
銃声が響いたと思えばプロデューサーの脳天に風穴が空いた。目の前で見ていた泰葉は、衝撃のあまり声をあげることすらできなかった。
「だーから、そういうのなんだっつーの。さて、邪魔者もいなくなったし泰葉ちゃんと遊ぶk」
テロリストの背後に大きな影が現れる。振り向くと、迷彩服を着用し左手に鉄の盾を持った覆面男がおり、体当たりでテロリストをダウンさせたかと思えば右手のナイフで首を一突きする。
「すまない、遅くなってしまった」
震えが止まらなかった。血のついたナイフを持った男の姿がまるで、死神のように見えてしまったのだから。
「・・・怖い思いをさせて申し訳ないが、ここから脱出だ。歩けそうか?」
「は、はい・・・プロデューサー・・・」
泰葉の目線に気がついた男は、大きく目を開けた遺体の瞼を閉じ、両手を胸の上で組ませて安らかな状態にする。
「本来ならこうはしないが特別だ。君の大切な人なんだろ?彼の分まで生きる責任がある、死のうなんて思うな」
その後無事脱出し、1週間後にはODT事件は解決、事務所は混乱こそしたが今は平和になりつつある。しかし、新しく赴任してきたプロデューサーは事情を知っているからか、気を使ってあまり声を掛けようとはしなかった。
スペイン・イビサ島。かつてホワイトマスクが占拠していたこの島は、レインボーの活躍によって元の観光客に溢れた土地になっている。泰葉は受験を終えリフレッシュ目的で一人で来ていた。海を悲しい目で見ていたその時、左から40ぐらいの女性が日本語で声を掛けて来た。
「ねぇ、この風景は好き?」
「え?」
「綺麗よね、歴史もあるし活気あるし。でもあなたは悲しそう、私で良ければ話を聞くわよ」
「・・・」
「そう。そうよね、知らない人に話せないもんね。だから、まずは私が旅してきた場所の話をしてあげる」
モロッコ出身だと言った女性はヨーロッパやアジアにある秘境を訪れた話をしてくれた。最低限の荷物しか持たずにサバイバルしながら見つけた美しいをスケッチして残しているという。そのうちの一枚を見せてくれた。
「これはアルプスの景色。多くの冒険家、登山家がはるか昔から登ってみたい場所でね、途中で断念した人も多くいたけど、私は踏破して見てみたかったの。そして見たの、スケッチに書いてある風景をね」
相当過酷だったにもかかわらず、女性は笑っていた。まるで子供のような笑顔で。
「・・・あなたはどうして旅を続けるのですか?」
「心の奥底深くで旅をしなくちゃって思ったの。それで、旅をしてみてわかったことがあるんだけどそれは何だと思う?」
「えっと・・・達成感?」
「まだ旅をし足りないってこと。各国を渡り歩いていたけど、もしかしたら行ったことのない、見たことのない場所があるかもって思っちゃうの、なんだかワクワクしない?」
「・・・羨ましいです、私は籠の鳥でしたから」
泰葉は自分の出自を語る。幼い頃から芸能界に入り、売れっ子子役として生きてきた。しかし大人達の言いなりに近い環境だったため、自分が何者かわからなくなったこともあったが、アイドルに転向し自分の理解者ともいえるプロデューサーと出会い自分が出来ることを見つけた。仲間達も出来て順風にいくと思われたが、ODTのテロリストにプロデューサーを殺され、おおよそ1年たった今も立ち直れずにいるため、イビサ島に来たことを話す。
「辛かったわね。支えになってくれた人が目の前で亡くなるのは」
「これがドラマだったらすぐに前向きになれるのに、どうして立ち直れないんだろうって・・・」
「泣いても生き返らないのはわかってると思うけど、いつまでも泣いてちゃプロデューサーさん心配で眠れないわ。そこで、泣き虫な子が元気になる良い方法を思いついたから教えてあげる」
「?」
「どこでもいいから心から美しいと思ったものをスケッチして記録に残してみるの。そう、私みたいにね。やってみたら理由はおのずとわかってくるわ」
女性はそのまま立ち去ろうとする。
「あの、お名前は!?」
「いけない忘れてた。サナーよ、サナー・エル・マクトーブ!」
「泰葉です、私は岡崎泰葉!」
「またどこかで会えたらいいわね泰葉!」
サナーは笑顔で手を振って何処かへ向かった。彼女の正体はGIGR出身のレインボー部隊隊員である。コードネームはノマド。彼女は部隊の中でも特殊で、今も不定期に世界中を旅しており、ODT事件の際は日本一周しながらテロリスト達のアジトを捜索、発見と報告、ときどき攻撃していたのであるが、若手教育のため関東エリアに当時滞在していた源太達チームシュバリエとは会っていない。
心の負担が軽くなった泰葉は帰国し、歌の仕事はもちろんバラエティー番組やドラマの仕事も上手くいくようになった。今日は東京の小高い丘の上にある撮影スタジオで、同じドラマの出演者である葵と休憩中にイビサ島での出来事を話した。
「サナーさんって人は冒険家っちゃね。ウチはそんな勇気ないっちゃ」
「アルプスとかジャングルでサバイバルするのって、さすがに訓練いると思うけど、葵ちゃんも勇気あると思う。大分から大都会東京に行くのってすごいよ」
「泰葉さんも長崎からこっちに来たから言えないと思うけど・・・」
「あ・・・でも親と一緒に来たし、葵ちゃんは一人でしょ?」
一度話を区切り、今度は出演作の話をする。御手洗翔太演じる爽やか系男子に恋する、葵演じるヒロインが一生懸命振り向かせようとする甘酸っぱい女子高生向け青春ドラマだ。泰葉は暖かく見守るヒロインの姉役で出演している。
「最終回まであと3回でしょ?なんか撮り直し多いよね」
「ウチが噛んだりしてるから・・・?」
「なんだろう、まるで脚本が出来上がってないっぽい感じ・・・」
離れた場所で脚本家と監督が言い争っていた。最終回でのラストシーンを恋愛が成就するか否かで揉めていたのだった。
「・・・大当たりっちゃね」
「また撮影が長引くなぁ・・・!?」
非常口から銃を持った連中が現れ空気が変わる。多くの人間が逃げようとするが、戸惑いなく発砲し黙らせる。リーダー格らしき男がスマホ片手に前に出る。その男の指示によって泰葉と葵、翔太が人質となり他全員は解放された。
「君らには悪いが場所を移動してもらう。ここだと遮蔽物が少ないのでね」
3人は更衣室に移動させられ手を縛られ口には猿轡をされる。パニックに陥っていた翔太は暴れるがテロリストの拳で気絶してしまった。
「抵抗はしない方がいい、このガキのようになる」
冷たい眼差しで生きて帰れると思うなと言わんばかりに見つめる。年長者として葵にアイコンタクトを取って助けを待つことにした。
テロリスト達が占拠して1時間後。人質救出のため招集された源太・五郎・モナド・フゥーズが撮影スタジオ前に集結する。アサルトドローンで外の様子を映し出し、カメラの位置や警備の状態を3人に提供した。
「いつも通り外に誰もいないわね。中の様子はゲンがドローン使って調べて、あらかたわかったらそれぞれ突入と行くわよ」
「「「了解」」」
実を言うと源太はドローン操縦が少し苦手で、よく見つかって壊されることが多い。前回の任務で全て破壊されたことをトゥイッチに指摘されていた。
「俺はスネークカム派なのに」
「要練習よ」
いらないところでジャンプしてしまい、発見され壊されてしまった。それでも人質の位置とテロリスト達の位置は大方特定できた。
「できるじゃん」
「ギリギリ落第点でしょうな」
渋い顔しながらもノマドと共に突入する。足音に気を配りながら移動し、サイトに重なる敵の頭を撃ち抜く。別のところで激しく銃声を響かせているため、歩くペースを速める。人質のいる更衣室前に見張りがいるため、源太がM320に炸裂弾を装填し狙いを定めようとするが、ノマドに止められる。
「ここは私の出番よ」
AK74Mの左バレルに取り付けられているグレネードランチャーに、非殺傷の粘着性反作用グレネード弾を装填し敵の足元に撃ち込む。1.5秒後に爆発し、ドアごと派手に吹き飛んだ。立ち上がろうとした敵にとどめを刺し、中にいる人質の安否を確認する。
「もう大丈夫・・・え?」
ノマドは見覚えある少女に頭を傾げた。猿轡を外し、話せる状態にする。
「泰葉、だよね?」
「サナー・・・さん?」
思わぬところで再会する二人。どうしていいかわからずしばし沈黙する。まさかこんなに早く再開できるとは思ってもなかったからだ。
「ノマドさん、ボケっとしてないで脱出しましょうよ」
「え、えぇ。じゃっいこっか」
五郎とフゥーズと合流し、敵の反撃をかいくぐりながらスタジオから脱出し、待たせていた護送車に人質3人を乗せ、あとのことはSITに任せて現場を離れた。
「・・・」
「・・・」
フゥーズが泰葉の顔を見る。彼が先に口を開く。
「君はあの時の少女か。もう、立ち直ったのか?」
「立ち直ったかと言えばまだですが・・・サナーさんが勇気をくださって大分元気になりました」
「ほぅ」
「怖い人たちが来る前に、ちょうど葵ちゃんにイビサ島での話をしてたんです」
「ノマドのねぇ」
視線をノマドに移す。
「寂しそうにしてたからさ、元気になって欲しくて旅の話をしたのよ」
「そうか。良いところあるんだな」
「ちょっと何よ、アンタだって不愛想な割に面倒見良いじゃない」
「・・・恥ずかしいこと言うなよ」
マスク越しでわからないが、顔を真っ赤に染めている。
「まぁいい。それよりもだ、ゴローの膝の上にいる少女はとても幸せそうな寝顔だが」
彼の膝の上に座り、もたれかかるようにスヤスヤ眠る葵が見える。
「まるで歳の離れた恋人同士みたいね。なんだか和むわね」
そう言うと紙と鉛筆を取り出し、二人の様子をスケッチし始めた。短時間で描いたにしてはとても細かいタッチで描かれている。
「これを持ってグラズに渡してキャンバスに描いてもらうとね、カラーで見られるのよ。あぁ・・・ウチの隊員で絵が上手いのがいるのよ」
「・・・ねぇ、サナーさん。今度いつ会えそうですか?こういう形じゃあなくってプライベートで」
「さすがにわかんないわね、時間が空いたら旅してるから」
「そうですか・・・」
「あぁでもしばらく日本にいるからさ、私から電話していい?今度はサハラ砂漠横断した時のスケッチを見せてあげる。ちなみに次の行き先は富士山で一番険しい登山ルートよ」
すでに孤独で弱弱しい彼女はいなかった。冒険家から旅の話を聞き、勇気を得た泰葉はとても良い笑顔になっていたのだった。
カプカンの噂
日本のマタギに関心があるらしい