レインボーシックス346   作:MP5

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 SASRはオーストラリア陸軍の特殊部隊

 名前も活動内容もSASに似ているのは、彼らを手本に設立されたためである 


向井拓海編  分岐点

 日本・湘南。里奈は珍しく東の夜空を見ていた。見慣れているであろう、湘南の空は変わらないが彼女は何故か寂しそうな顔をしていた。理由は、ユニットのことと初恋の相手、ヨハンのことで板挟みになっているからだ。アイドルでテッペンを目指す約束を取るか、はたまた乙女心を取るべきか。

「おい風邪引くぞ、心配になって来ちまったじゃねーか」

「たくみん」

「なんだよ白けた顔して。話してみろよ」

 自分の胸の内を相棒である拓海に話す。ヨハンのことはアメリカで会って以来交流があり、彼の事は知っているつもりだった。

(確かに一緒にテッペン取るって言った。しかし、他の面々も不愛想だが真面目なアイツと里奈は釣り合ってると言ってる。アタシも応援してあげたい、だがそれだと一緒にテッペンは取れなくなる・・・ゲンさんみたいに賢かったらな・・)

 今回ばかりは拓海も、どう言えば前向きに考えてくれるのかわからずにいた。しかし、その答えは後日、オーストラリアのツーリングロケで答えが出ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 オーストラリア・ウルル=カタ・ジュタ国立公園。南半球にあるこの場所は日本が冬なら夏になり、しかも乾いた風が環境の過酷さを物語る。去年、国際免許を取った拓海は衛星放送向けの旅番組のロケとして、現地で借りたオフロードバイクに跨り荒野を駆けっていた。その途中、後ろから自分と背丈の変わらない男が追い付き、ハンドサインで追い越してみろと挑発すると、そのまま抜き去った。

「へっ、特攻隊長なめんなよ」

 荒野の道なき道を行く男は思わず唸った。挑発した女が想像以上に技術があり、自分についてくるだけの度胸に。

「思った以上にいい女だぜ」

 この男の名前はマックス・グース。実はオーストラリア陸軍特殊部隊、SASR出身のレインボー部隊オペレーターである。ちなみにコードネームはモジー。バイク技術に関して言えばイングにも負けない腕で、下手なモトクロス選手よりもアクロバティックな走行も出来る。そんな男を相手に張り合う拓海も大概である。

「だが、そろそろ終いにするか」

 モーテルの目の前でブレーキを咆哮させながら止まる。それに応えるように拓海も止まった。

「やるじゃん。かっこいいぜ」

「そういうアンタもな。まさかアタシが追い抜けないなんてな」

「これでも40前なんだぜ。若い子に褒められて俺っちうれしいなぁ~」

 呑気なことを言ってると、近くに停めてあった装甲車両からガタイの良い女性が降りてくる。

「モジー、いい歳して何してんの。ごめんなさいね、コイツ人からかって遊ぶの好きだからさ」

「お、おぅ・・・(なんだありゃ、すっげえ筋肉)」

「?なにか顔についてる?」

「いや、その、なんでもない」

「私脳筋に見えるかもしれないけど、これでもエンジンばらしたりロボットにも強いのよ」

「!?か、考えてることわかんのか!?」

「カマかけただけ。でもメカニックは本当よ」

 この女性、グリッドロックことトーリ・タリヨ・ファイルースもまたSASR出身のレインボー部隊オペレーターで、見た目以上に手先が器用で優秀なメカニックでもある。

 

 

 

 

 

 

 

「ところでモジー、何してたの?」

「いい走りしてたから、ちょっとからかって」

「っで、映画ばりのレースしながらここに来たと。それとね、この子の他に誰かいなかった?」

「・・・あ、なんかデカイカメラ持ってたのいたな。置いてきちゃった」

「あ、じゃないでしょ?合流したらちゃんと謝りなさいよ。拓海ちゃん仕事の邪魔してごめん」

「?なんで知ってんだよ」

「オーストラリアじゃ有名よ。この前もバイク雑誌の表紙飾ってたほどだし、陸軍の中じゃファンもたくさんいるしね」

 自分の知名度がオーストラリアでも高いことに驚く。

「紹介が遅れたね、私はトーリ。こいつはマックスって言うんだけどモジーと呼んでもいいわ」

「お前もグリッドロックってあだ名あるじゃん」

「どう呼んでもいいわ。それよりも、なんか浮かない顔だね」

「関係ねぇだろ、つーか初対面なのに相談事はねぇだろ普通」

「確かにそうね。でもこれは何かの縁ってヤツ、もう他人じゃないわよ」

 

 

 

 

 

「・・・アタシに相方いるの知ってるか?ソイツが、好きな男と結婚するかしないかで迷っててさ、うまく言えなかったんだ。いつもならふざけんなって喝入れんのに、何故か出来なくて」

 モジーが気だるそうにヘルメットを取り口笛を吹き始めたため、グリッドロックが拳骨で静める。

「互いに本気だから止められなかったのね」

「その通り。しかも男の方が外国住んでてさ、仮に同居することになっても里奈がソイツのところ行っちまうと思う。それだと、一緒にテッペン取るって約束を果たせなくなる。だから何も言えなかった」

「・・・別に良いと思うよ」

「は!?」

「だって外野が口出していい問題じゃねーじゃん。当人同士で話せばいいんじゃね・・・!?」

 今度はグリッドロックの背負い投げがモジーに決まる。

「この馬鹿、デリカシーなさすぎ!・・・けど、モジーの言ってることは正しいわ、二人の問題。でも」

「?」

「夫婦の在り方は女が男のいる場所へ行くだけじゃないわ、逆パターンもあるし、籍だけ入れて別居ってのもある。後者は決して暗い意味合いを含んでないからね。同僚に、夫と小さい娘を祖国に残して暮らしているのがいるからさ」

「マジ!?」

「仲は非常に良いわよ、こっちが嫉妬するぐらいにね」

 彼女は昔、ゾフィアの家族と会ったことがある。たとえ普段から離れていてもとても仲睦まじく、端から見ても至って普通の家族にしか見えなかった。

「里奈って子があなたとの約束を終えたら、その彼の元へ行くかもしれない。でも、離れてしまっても拓海との友情は消えないと思う。それともし、約束を果たせそうにない場合、笑顔で手を振って彼女を送ってあげて。そうした方が拓海と里奈のためでもあるわ」

「ありがとよ、グリッドロック・・・さん」

「『さん』はいらないわ。・・・撮影スタッフがようやく追いついたみたい」

 その後、無事撮影は再開され何事もなく終わった。しかし、拓海の頭の中でひとつだけモヤモヤしたものがあった。

(軍隊って外国人がなっていいのか?外人部隊ってのは亜季から聞いたことけど・・・まさかな)

 グリッドロックとモジーがレインボー隊員と知ったのは、別件でドキュメンタリー番組で再会したことが理由なのだが、それはまた別の話。




 エラのうわさ


 姉との仲は悪いままだが、姪っ子とはそれなりらしい

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