346プロを代表するトップアイドル。クールな容姿と素直で疑うことを知らない性格というギャップの持ち主
源太とは346プロ公認の仲。卒業式のその日、新たな一歩を踏み出す
日本・東京。今日はアナスタシアの通う高校の卒業式。都合のついたユーリは妻とともに娘の晴れ舞台に駆けつけ、涙をこらえながら式を見届ける。
「パパ、まだ中盤なのよ、今泣いたら」
「わかってる、だが私は何もしてやれなくって・・・」
今まであまり側にいてやれなかったにもかかわらず、真面目かつ純真に育ち日本の生活に溶け込んだ娘の姿に、一人の親としてここまで嬉しいことはない。
「今日はあの子の結婚式もあるのよ。枯れちゃって泣けなくなるわ」
「なら笑顔で祝福できるはず・・・」
アナスタシアが卒業生代表として自分なりに来賓の方々に伝える。それが終わると卒業生たちは一斉に立ち上がり、ピアノの演奏が流れ、凛々しく体育館を退場していく。普段強面で冷徹な彼も、今回ばかりは涙を流し鼻水も垂れてしまっていた。妻はティッシュを取り出し鼻をかませ、気持ちを落ち着かせる。
「もうパパったらすぐに泣いちゃうんだから」
「昔っからだ。でも仕事じゃそうは言ってられん」
「わかってるわよ。次は笑顔で迎えましょうね?・・・また泣いてるわ」
そして式でも大泣きし、送る言葉が全く伝わらなかったのは言うまでもない。
卒業式終了より2時間前の日本・山梨。用事があるため本来ならここにいないであろう源太がSITに指導していた。本来はルークが指導する手筈だったが、緊急で任務に行くことになったため代わりに入ったのだ。あまり期待していなかった源太だったが、警視庁の連中よりも気合が入っており、個人の練度も上回っていたことに感心した。
「お前達に聞きたい、本当に緊急招集されたのか?」
「はっ、山梨でODTによるテロが発生したときに1名除いて全滅しました。我々は試験に落ちた面子から使えそうなメンバーをリストアップされここにいます!」
「その1名は?」
「警察を辞め上京したと聞いてます!」
「(ここにいないとは残念だな・・・)これからも精進していけ。解散!」
揺れる車内で訓練記録をつけていると、運転していたカルロスが源太に声をかける。
「おいゲン、そろそろ八王子だ。タキシードに着替えとけよ」
「カルロスのクセになに偉そうに、式をめちゃくちゃにすんなよ」
「俺だってな、締める時は締める。メリハリはあるぜ」
今回は無事に式を終わらせるため警護チームの一員として彼も参戦している。防衛側の司令塔カイド、式場から離れた場所で見守るグラズ、客が負傷、または病気になってもいいように衛生兵としてドクとレイモンドが来てくれる。
「なんか、平和?な面子だな。ところでヨハンはどうした?」
「そういやぁいねえな。お前の人生最初の友人なのによ」
「カルロス覚えとけよ」
そう言いながら作戦服から白のタキシードに着替えると、見慣れたビル群が見え始める。
「なんだか実感ないな。結婚なんてあの子と交際するまで考えたことなかったし」
「俺の周りなんか15で結婚して16で離婚したのいるぜ」
「着いたら覚悟しとけ」
「ひゃー冗談だって、謝るってば。っと、式場ついたぜ」
車から降り、式場スタッフに控室を案内される。一息ついてると、ノックが聞こえる。
「入っていいぞ」
入ってきたのはヨハン。だが、何故か彼もタキシード姿だった。
「なんでお前もその格好なんだよ?」
「あのジョーダン氏の提案だ、結婚パーティーを二組セットでやれってさ」
「!?本気かよ」
曰く、別々に式を挙げるより一か所で同じ日にした方が護衛する側も楽だし話題性もあるかららしい。346プロもそれに賛成し、挙式費用全額負担までこじつけたそうだ。
「・・・商才ある、のか?」
スマホで会場内の様子を見る。圧倒的に新婦側の招待客が多く、自分達の呼んだ人達は数えるほどしかいなかった。
「アイドルってすげぇな」
「あぁ。タチャンカの親父も式挙げたらこうだったりして」
遠くヘリフォードで大きなくしゃみをしたのは言うまでもない。
そして1時間後。西洋風の結婚式は順調に進み、リングの交換から誓いの口付け、そして修羅場が見え隠れするイベントが始まろうとしていた。
「それでは、ブーケトスを行います。まずはアナスタシアさんのから」
多くの客は美しいドレスを纏った花嫁より、殺気に似たオーラを放つ外国人女性客数名に注目が集まった。彼女達の共通点は独り身で連戦連敗の肉食系女子であったこと、そして、並みの男性よりも強いことだった。
「恨みっこなしよ、いいわね」
リーダー格であるアッシュの提案に、クラッシュ・トゥイッチ・アリバイ・ヴァルキリーが縦に首を振る。司会であるサーマイトの合図でブーケが放たれると、我先にとばかりに高くジャンプしたが誰の手にも届かない。
「ど、どこだ!」
「あ・・・私なんかがいいのでしょうか・・・?」
ブーケは自分達より一回り下のおかっぱ頭の少女がキャッチした。いくら婚期が過ぎているとはいえ子供相手に奪う気になれないため、次で取ることにした。が、今度のブーケはさらに大きく放物線を描き、やはりジャンプしても届かない。その落下地点には、客に扮して警備していたカルロスがいた。
「イエーイ!・・・あれ?」
鬼が裸足で逃げ出すほどの表情で彼を睨みつける5人。あまりにも恐ろしさに全速力で逃げ出した。
「待ちなさいカルロス!私によこせ!」
「いや私にだ!」
「私!」
「逃がすかこらぁ!」
「どこにいるかわかるから覚悟しな!」
外ではアッシュ達に踏んだり蹴ったりされボロ雑巾と化したカルロスが転がっていた。花が散り、茎だけになったブーケを手に取ったアッシュ。手に入れたものは幸福感ではなく、虚無が襲った。5人は同時に大きなため息をつくのだった。
式の後、別の部屋で二人の花嫁は芸能界最後の記者会見を開いた。フラッシュが大量に焚かれ、笑顔と一緒に左薬指のリングを見せる。記者の質問にも丁寧に答えていき、有終の美を飾ることに成功した。移動先にカメラがないことを確認すると、普段通りに接する。
「お疲れ様、アーニャちゃん。これから別の意味で大変なことになっていくと思うけど大丈夫かい?」
「ダー。源太さんと暮らせるなら、アーニャは大丈夫ですよ?」
「愚問だったか。家はヘリフォード基地近くの防犯防音も完璧なセーフハウスだ、そこで家族の時間を過ごそう」
「はい。アーニャは、良い奥さんになります」
彼らとは少し離れた場所で、ヨハンは里奈に問う。
「よかったのか俺なんかについて来て。里奈には約束があったんじゃ・・・」
「正直、迷ったポヨ。オーストラリアからたくみん帰ってきた時にじっくり話し合って、ダーリンについてくことにしたポヨ。それに、里奈に似せたチャオクマあげてきたから、約束破ったわけじゃないし」
「・・・あー、つまり、一緒にテッペン取る約束を別の形にして果たそうと・・・すごいな」
彼女の刈り上げ部分を優しくなでる。
「なんでだろうな、君の何もかもが愛おしいとは。今まで女に縁がなかったのが嘘のようだ」
「そーなん?」
「普段から難しい顔してるだろ、だから寄ってくる子がいなかった。だけど、君を救いに来て以降、それを気にしないで俺に声を掛けてくれた。何故かわからないが君を意識するようになった。だからこの場で言いたい、俺を選んでくれてありがとうって」
「これからも一緒に頑張っていこうね、ダーリン!」
式から数日間、ワイドショーでは二組のカップルのことで持ちキリになったが、この時既にヘリフォードへの引っ越しは終えており、それに加えてレインボーが得意とする情報規制によりマスコミが海を渡って押し掛けることはなかった。一ヶ月もの休暇を与えられ、それぞれが有意義に過ごしたのは言うまでもなかった。だが彼らは知らなかった、休暇の後、別の大きな戦いが待っていることを。
これでレインボーシックス346は終わりにさせていただきます
ではなく、別小説としてセカンドシーズンを書いていきたいと思います
そろそろ踏ん切りつけておかないとオムニバス形式は終われないので
そして最後に、うわさはこれにしたいと思います。ありがとうございました
ノマドのうわさ
自分の冒険談を本にまとめるのが夢らしい