まぁ、覇王っ子は飛んだとこ見たこと無いけどさ。
午前1時。貴族のお坊っちゃん、お嬢ちゃんたちが完全に意識を手放しだらしなく眠っているであろう時間に俺とサイト少年はトリステイン魔法学院の庭にある小屋の近くでトークタイムである。
と言っても俺はあぐらをかいて座り込み、サイト少年は一生懸命女性もののパンツを洗っている。もちろんサイト少年の趣味ではない。自分の主人のルイズのものだ。かなり理不尽なのに文句一つ言わないサイト少年を哀れとも思うし、ざまぁとも思う。ざまぁと思うのは仲が良くなってきた証拠だと思う。え?俺はって?シャルティエ嬢は自前のメイドさんが要るから俺は基本的にはボディーガードだけなんだよ。
「ところでエルさんは何してるんですか?」
サイト少年はパンツを洗う手を止めずに聞いてくる。まぁ、喋り相手がいないと人の、しかも女性もののパンツを洗うのは辛かろう。うむ、と俺はサイト少年の方を見ずに答える。
「最近空を飛びたくてな。ちょっと頑張ろうかなと思ってさ。」
じゃぶじゃぶという音が止まる。それを不審に思いサイト少年を見ると此方をアホを見るような目で見ていた。やべぇ、ちょっとイラッとした。
「お前、俺のことアホだと思ってんだろ。だが俺は馬鹿で煩悩でキチガイだと認めるが断じてアホではない。その証拠を見せてやるからその桶を貸せ!」
と半分ひったくるように桶を奪い取りそれに力を込める。俺の足元に緑色の魔方陣が現れる。サイト少年が驚いた顔をしているがまだまだこれからだ。
俺には詠唱を短くする技術はないため時間がかかる。長い詠唱を終えると俺は桶にその力を写し、手を上に振り上げる。するとその桶は空高く飛んでいった。
「スゲー!」
サイト少年からの素直な感想を嬉しく思いながら桶を手元に戻す。サイト少年が輝く目で此方に説明を求めている。そんなに俺の説明を聞きたいのか。いやしんぼめ。心の中でやっているのに何故か恥ずかしくなってきた。
「今のは重力魔法だ。完全に俺の家系、イングヴァルトの血筋のどっかの俺みたいな馬鹿が空を飛びたくなって生み出したんだってよ。魔力の総量で飛べる時間は限られているから長い時間は飛べないんだよな。」
「それでもすごいよエルさん。」
弱点をサイト少年にはなす。サイト少年は魔法を使えないためとても羨ましそうである。まぁ、その気持ちは俺にも分かる。使える魔法といったらこれと治癒魔法ぐらいだしな俺も。
重力魔法で、ひとしきりはしゃいだ俺たちはルイズのパンツを思いだし洗い始めた。洗っていたのはサイト少年だけだったが。洗い終わったのは午前2時。俺たちはその日はお開きにし互いの主人の部屋へと戻るのであった。
次の日の昼、貴族たちが食べ終わり食堂が暇になってから俺たちは食堂に足を運んでいた。
「あ、サイトさん!エルヴィスさん。」
何故だろう。今呼ぶときの覇気が違ったような・・・。シエスタが俺たちに駆け寄る。正しくはサイト少年にだが。なぜこんなことになったかというと少し前、シエスタが他の貴族に気に入られて学院を離れてしまったときサイト少年が助けたそうだ。サイト少年はキュルケのおかげだとは言っていたが。
くそ、リア充が。と心の中で悪態をつきながらサイト少年を見るがサイト少年は当たっているであろうシエスタの胸に気を捕られ気づいていない。やっぱり煩悩だな。
「お、来たかキチガイども。」
最早生徒だけでなく教師や使用人たちにもキチガイ認定されている俺たち。いやー、さすが俺。
「今日も貰いに来たぜ。」
待ってな。と言って親父が厨房へと引っ込む。それを見計らったようにシエスタがサイト少年の手を取りながら質問してくる。リア充が!
「昨日の夜、エルヴィスさんが何か魔法のようなものを使っていませんでしたか?凄いとは思うんですけど魔法って貴族にしか使えないんじゃないんですか?」
「んー?言ってなかったけ?イングヴァルト家は元々貴族の家系だぞ。」
サイト少年はなに食わぬ顔をしているがシエスタはかなり驚いているようだ。
「俺の親父が平民に金を配るべきだー。とか言い出して家を売りやがってよ、没落貴族になっちまったというわけだ。」
すみません、と謝ってくるシエスタ。まぁ、嫌な過去でもない。むしろ親父のことは尊敬するぐらいだしな。今じゃ、親父はガリアの国境近くでホームレスになっててお袋はホームレス狩りになってるけどな。
軽く重力魔法をレクチャーするとシエスタが尊敬の眼差しを此方に向けてくる。シエスタが俺を見上げてくる。その大きな胸が眼前に迫ってきて正直嬉しい。
「いいですね、空を飛べるかも知れないって。なんか夜中にお化けの格好をしながら飛んでたらいい肝試しになりそうですけどね。」
ははは、と笑う俺とシエスタ。サイト少年はどうしたんだ?と思い振り替えると顎に手を当て何かぶつぶつ言っている。
親父が大ざらに色々な賄い料理を載せて戻ってくる。その大皿を受け取り未だにぶつぶつ言っているサイト少年をひきづりながらいつもの昼飯スポットへと歩き始めた。
「ねぇ、エルさん。」
「どうした?迷える少年よ。」
飯にがっついていたサイト少年が俺に話しかけてくる。目の前の光景は何時も通りの女子の体育である。もちろんこの授業にシャルティエ嬢やルイズは参加していない。というか学年が違う。
最近俺とサイト少年が気づいたことだがシャルティエ嬢やルイズの二人がいない体育なら下心丸出しの俺たちの目でもあいつらにはバレない。つまり俺たち勝ち組という訳だ。
「エルさんに手伝ってほしいことがあるんだ。」
「お?お兄さんに言ってみな。」
「ルイズに仕返しがしたい。」
遂にサイト少年も俺のように馬鹿になったか。やっぱり毎日毎日鞭で叩かれてるからだろうな。全てはルイズのせいだ。許すまじ。
「と言っても大したことじゃないんだ。重力魔法を使ってちょっと驚かせようと思ってさ。」
「ナニソレ、チョー楽しそう。乗った。内容何も聞いてないけど俺やるわ。ついでにシャルティエ嬢も驚かせようぜ面白そうだし。」
そうして俺とサイト少年は不適に笑いながら今晩を楽しみに待つのだった。