ダンジョンでウホッするのは間違っているだろうか。   作:アルとメリー

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私事ではありますが
少し前にSUN値チェック事案がありました。
私が丹精込めて制作したディアブロ3のバーバリアン悪夢フレンジービルド
めちゃめちゃに頑張って作りました。

でもある日。

新しいセットが出たので確認してみると

フレンジーのセットだったのです!

しかも完全上位互換。

なんというか、暫くログインできなくなってしまいましたorz



ネタキャラ万歳ヒーラーだ!

 タウンポータル

 

 ディアブロ2をしたことがある人ならば誰しも当たり前のように使い、使えないという状態を思い浮かべるのすら困難であろう。

 それはどのようなところからでも拠点としている場所へと空間をつなぐことができる。

 いわゆる、どこで〇ドア、のようなものである。

 それはアクト1の3つ目のクエストであるケインという老人から教えてもらえる。

 ゲーム開始してすぐに使えるようになるものであり、ゲーム進行上なくてはならない。

 しかしもう一度思い出してほしい。

 

 どこに居ようとも拠点へと瞬時に帰還できる。

 

 恐らく、このようなスキルを持っていることがばれたら各ファミリアによるその人物の奪い合いが始まるだろう。

 それぐらいに強力な力である。(作中ではディアブロ3におけるタウンポータルを採用しております。スクロールではなく呪文で開けます。)

 わざわざ荷物を大量に抱え、何日にもわたって行軍する必要もなく、安全にダンジョンの階層を行き来する。

 

 正に、殺してでも奪い取る。であるだろう。

 

 勿論、ホーリィにとっても当然のものでありそれがバランスを崩すものであるという認識すらない。

 そのため、それは躊躇なく開かれた。

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 時は少しさかのぼる。

 

 ホーリィに置いて行かれたリリルカ・アーデは一人部屋の中でのんびりしていた。

 不貞腐れて眠った後、起きたら昼だったのである。

 ボーっとする頭で現在の状況を考えていた。

 

(なんというか、現在の状況についていけていません。)

 

 ベッドの上で起き上ると座ったままボーっとする。

 

(確か、ここはホーリィ様のベッドの上。)

 

 女の子座りをした状態からもう一度ベッドの上の枕へと突っ伏した。

 

(昨日のことは忘れましょう。私もどうかしていたのです。なんというか流されてしまいました。不覚です。)

 

「ううーーーっ!!」

 

 枕へと顔をうずめたままひとしきりじたばたすると、満足したのかガバリと顔を上げた。

 

(よし、充電完了!そうです。私はもう間違えません。ホーリィ様のようになるまではいかなくとも、せめてその後ろにはついていきたい。でも今は、雌伏の時です。)

 

 そこで現状を再確認する。

 

(しばらくはホーリィ様にいろんなことを教えてもらいながら同じぐらいのレベルの人とダンジョンに行き鍛えるのがいいかもしれません。さしあたっては……。)

 

 その脳裏に浮かんだのは白髪頭の気持ちのいいヒューマンの姿。

 

(暫く、ベル様にくっついてダンジョンでレベルアップしましょう。幸いにも前のファミリアと違ってロキ様はきちんとファルナの更新をしてくださるようですし。)

 

 そこまで考えてやっとリリルカ・アーデはベットの淵から立ち上がる。

 

「そうと決まれば善は急げです。確か次の約束は明日のはず。ダンジョンへ行く準備です!」

 

 服をきちんと着こむとリリは部屋から出ていった。

 

 

 

 

 リリは現在部屋に戻ってきていた。

 

 その姿はパッと見キャットピープルの少女に見える。

 頭から生える可愛らしい耳に縦に割れた瞳孔。

 何故なのかというとそれは当然の一言であろう。

 

 なにしろ、今現在のリリの立場は微妙の一言に尽きるのだ。

 何しろ、裏ワザともいえる方法でファミリアを移籍したのである。

 暫くは表に顔を出すことはしないほうがいいだろう。

 そういった事情もあり、現在はキャットピープルへと魔法を使い変身している。

 この格好で当分の間はダンジョンに行こうと画策していた。

 

 てきぱきとバックパックの中身を確認していく。

 そして目の前に広げられているのはリリの隠し財産であった。

 

 いつかファミリアから脱退するためにため込んでいた資金。

 それを眺めてからリリルカ・アーデは決意した。

 

 1億ヴァリス

 

 これを貯めて元の主神であるソーマに突きつける、と。

 別にこのまま何食わぬ顔で過ごしても問題は発生しないかもしれない。

 しかし、そういう問題ではないのだ。

 自らの誇りの問題なのである。

 頭の片隅にでも後悔は残しておきたくはない。

 

「よしっ、リリは頑張るのです。そしてリリが居ないとダメと言わせてやるのです!」

 

 立ち上がりこぶしを握ると決意を新たにするのであった。

 その後ろに、青いポータルが開いているということに気が付くことなく。

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 音もなくホーリィの部屋へとタウンポータルが開く。

 青い楕円形の空間がその場に展開される。

 そこから現れた男は女性を一人抱えていた。

 

 ホーリィとアイズである。

 

 体に力を入れるのも億劫なのか、完全にホーリィへと体重を預けている様子はまるで恋人同士のよう。

 だがしかし、ただ単にアイズが頑張りすぎて疲労困憊となっているだけなのであるが。

 

 その二人がタウンポータルから出てくると丁度目の前に小さな猫耳の少女がこぶしを突き出していた。

 

「よしっ、リリは頑張るのです。そしてリリが居ないとダメと言わせてやるのです!」

「おー、なんかよくわからんけど元気が出たようでよかった。」

 

 相槌がうたれるとは思ってなかったのか、びくりと体をさせると恐る恐るとリリは振り返った。

 そこにはあのアイズ・ヴァレンシュタインをお姫様抱っこして、今まさにベッドへと寝かせようとしている男が目に入る。

 

「え、ぁ、ひゃあああああああああぁぁぁっ!!!?」

 

 どこにそんな跳躍力があったのか天井近くまで飛び上がる。

 

「ほ、ほ、ホーリィさま!?どうしてここに居るんですか!?」

「いや、今ダンジョンから帰ってきたところ。アイズが疲れて寝ちゃったから帰ってきたんだよ。」

「え、いえ。そういう意味では……。」

 

 恐らく一つしかない扉のほうを向いていたはずの自分の後ろにどうやって居たのかということであろう。

 しかしその答えはホーリィの後ろにある青い楕円形のポータルを見て解決することとなる。

 

「その、ホーリィ様。後ろの青いのは何でしょうか?」

 

 リリは現在の状況から大体の予想はついている。

 ついてはいるのだが、余りにも非常識すぎて認めたくないのである。

 

「ああ、見せたことなかったっけ?これはタウンポータルって言って何処からでも拠点に帰ってこれる便利な魔法なのよ。」

 

 その時リリは何を言っているのだろうと唖然とした。

 そして再度思う。

 

(わかりました。本当の本当にホーリィ様は常識がないのですね。そう、常識というものが。)

 

 少し達観した目をすると同時に、こういう時こそ役に立たねばと意識を新たにする。

 

「ホーリィ様、それは今後人前では使ってはいけません。」

「ん?いや、これがないとトレハンに」

「いいですか!?」

「あ、はい。」

「ホーリィ様はこれがどれだけ危ういことかわかってません!もしギルドにばれたらきっと拘束されちゃいます!ファミリアにばれてもよくて囲い込みです。神様に見つかったらオモチャです!」

「あー、それは嫌だな。まだまだダンジョンに潜りたい。」

「で、あれば見つからないようにお願いしますっ。」

「えーっと、アイズはもう知ってるから使っていい?」

 

 そこでリリが視線をベッドに向けると剣姫と目があった。

 そう、疲れて立ち上がれないほどではあるが寝てはいなかったのである。

 

「別にみんなだったら言ってもいいと思うけど……。」

 

 特に何も考えていないアイズがボソッと言う。

 それに対してリリが切り返した。

 

「よく考えてください。もし皆さんに知られたらホーリィ様は引っ張りだこです。でも、このままの状態を維持するとアイズ様が一人占めできるんですよ?こちらとしても秘密が守られて、アイズ様も強くなれる。ういんういんです!」

 

 そこまで言われてアイズははっとした。

 この子、凄い!

 

「そのとおり。このことは皆には内緒にする。」

「それじゃあ、私たちだけの秘密です。」

 

 何故か意気投合してしまった二人を見ながらそういえばとホーリィはリリに話しかける。

 

「そういえばリリ、なんかやる気だしてたけどどうしたんだ?」

「ううー、それは忘れてほしいのですがそうはいかないというわけで。」

 

 そういうとリリはホーリィへと改めて向き直る。

 

「以前、ホーリィ様は何でもかなえてくれるとおっしゃられました。」

「ああ、そうだな。ただし、俺にできることだからな?」

「はい。私決めました。もう足手まといにはなりたくありません!時間がある時でいいので私に稽古をつけてもらえませんか!?」

 

 与えられるのではなく、自らの意志と行動でつかみ取る。

 ちっぽけなリリルカ・アーデという少女の誇り。

 

「そんなことでいいのか?むしろ願ったりよ。これからダンジョン行く?」

 

 あまりにも簡単に承諾されたことに拍子抜けするとともに、俺んちくる?みたいなノリでダンジョンへと誘うホーリィに微笑ましい笑みが漏れる。

 

「いきなりなのではありますが、何故か準備万端なのですよね。いいです、行きます!こうなれば自棄です!」

「お、いいの?実験したいことがあったしこっちはウェルカムよ。」

 

 その話を聞いていたアイズが手を伸ばす。

 

「私もいきたいー。」

「いやいや、7階層に行こうと思ってるからアイズには物足りないから暫く寝ておけって。また明日連れていくから。」

「本当に?わかった、おとなしくしておく。」

 

 どうやら今日の探索は十分に満足のいくものであったようだ。

 

「じゃあ行ってくるわ。」

 

 颯爽と部屋を出ていくホーリィに手を振って見送るアイズ。

 見送った後に未だ部屋の中に開いたままのポータルを見てふと漏らす。

 

「これ、いつ消えるんだろ……。」

 

 

   ■   ■   ■

 

 

「と、言うわけで7階層に到着!」

「何がというわけなのかはわかりませんが確かに到着です。」

 

 そこは何度となく通った洞窟型のダンジョン階層。

 メインのモンスターがキラーアントというフロアである。

 

「それで、実験とおっしゃっていましたがどうするんでしょうか?」

「うむ。まずはこれを持ちたまえ。」

 

 そういって差し出されるのは低レベル御用達のフレイル様。

 

「えっと、はい。これをどうするんでしょうか?」

「あの蟻の頭に叩き込むんだ。」

「えっ」

「そのフレイルなら一撃でいけるから大丈夫。」

「」

「あと、怪我をしても大丈夫。いくらでも治せるからいくらでもレベリングできる。アイズで確認したから安心してくれていいぞ?」

 

 早くも逃げ出したい気持ちになるリリであったが都合よく目の前にキラーアントが一匹やってきてしまった。

 

「最初はなれないだろうからバックパックは持っといてやるよ。さーて、始めるか。」

 

 ホーリィの足元から魔法陣が立ち上るとそこに居たのは肌の黒い男。

 

「よし、リリごー!」

「ちょっと後悔してます!」

 

 ホーリィの姿が変わるのも慣れたものである。

 驚きも少なくリリはキラーアントへと突撃していくのであった。

 

 

 

 

 最初、リリは完全に腰が引けていた。

 そんなリリが目の前のキラーアントと対峙する。

 その攻撃が正確に頭蓋に当たるわけもなく、少しそれて足へとかする。

 しまったと思った時には遅く、キラーアントの凶悪な顎が迫りくる。

 そう思って身構えたところで目の前のキラーアントの動きが止まる。

 びくびくと痙攣を起こしているようであった。

 

「あ、言い忘れていたがその武器にはライトニングダメージが追加であるから。」

 

 なぜそんな重要なことを言い忘れていたのか。

 リリは激怒するがそれよりも目の前のキラーアントである。

 今度は正確に、慎重に。そして大胆に鉄球を振りかぶりぶち当てた。

 

 グシャ!

 

 その鉄球はキラーアントの厚い外殻をものともせずに叩き潰す。

 

「すごい。これなら私でもキラーアントを簡単に倒せます!」

 

 どこかに掠りさえすれば動きを止めれる思うと少し勇気が湧いてくるというものである。

 

「ライトニングダメージはおまけだから気にしなくていいぞ。とにかく、攻撃速度だ。当たろうが当たらなかろうがすぐさま引き寄せて再度攻撃あるのみ!」

「は、はい!」

「よし、どんどん行くぞ~」

 

 ずんずんと進むホーリィについて進むリリは目に映るキラーアントに必死に鉄球を叩きつける。

 

「大分慣れてきたみたいだな。よし、ちょっと待てよ?」

 

 そういって少し離れるホーリィ。

 嫌な予感がするリリであったが流石に無茶なことはしないと思っていた。

 

 その手にキラーアントの頭を掴んで帰ってくるまでは。

 

「こいつら便利で無限に湧いてくるんだよ。つまりは無限に倒せるってことだからめっちゃレベル上げし放題ってこと!」

 

 一体何をドヤ顔で言い出すのかと思ったら。

 

「馬鹿なのですか?ホーリィ様は馬鹿だ馬鹿だと思っていましたがほんとーーーーーに馬鹿だったんですね!!言うに事欠いてレベル上げし放題って、それは死ななきゃってことじゃないですか!?リリはホーリィ様みたいに強くないんですよぉ!?」

 

 その通りである。

 

「安心しろ。常に回復するオーラを張っておくし、怪我をしたらすぐに回復させるから!リリは一心不乱に蟻を倒すことだけを考えれば大丈夫よ?あ、ほらきた。」

 

 ばっと振り返るリリの目の前に無数の赤い瞳が煌めく。

 

「後ろは任せろ。一匹も通しはしない!」

「そんなかっこいいこと言っても騙されませんからね!もう、やります、やってやります!」

 

 

 

 先頭の蟻を筆頭に列をなしてやってくる蟻の群れをリリは睨んだ。

 そして思い出す。

 ここまで使ってみてわかったフレイルという武器の特徴である。

 

 直線の動きである叩きつけと円運動を利用した振り回し。

 それをどのような体勢からでも放つことができる。

 それを思い出したリリルカ・アーデは動き出す。

 

 前に出てくる蟻に負けじと一歩踏みだす。

 その勢い全てを載せて先頭の蟻の頭へと鉄球を叩きつけた。

 叩きつけたフレイルの柄を更に下へと引き付けるとそれを円を描くように右の蟻の頭へと打ち付ける。

 伸びきった鎖を今度は無理やり左へと叩きつけた。

 

「ふうううぅぅっ!」

 

 

 目の前に居た3匹の蟻を叩きのめしたリリが息をつく。

 中々に使いこなしている。

 そう実感を持てる結果が目の前にあった。

 しかし、まだ足りない。そう足りないのである。

 

 目の前の蟻を屠ったところで天井からも襲い掛かる。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 下からの掬い上げでその顎ごと叩き割る。

 しかしそれは大きな隙をうむ行動であった。

 左右から来たキラーアントの大きな顎が襲い掛かる。

 それは振り上げた腕の半ばまでを噛み切った。

 

「うあああああっっっ!!!ああああ、ぁ。あ、あれ」

 

 噛み切った。

 確かにリリの二の腕は両腕仲良く噛み切られてしまった。

 しかしそこに後ろから白い閃光が飛んできた。

 それはリリルカ・アーデに吸い込まれると切られたばかりの腕を一瞬でくっつけてしまったのであった。

 

「ええっと。」

 

 痛みがなくなったことに疑問を浮かべるリリ。

 そこで目の前の四つの赤い瞳と目があった。

 お互いになんで?となっている。

 そんな一人と二匹であったが先に正気に戻ったのはリリであった。

 

「たああぁぁーー!」

 

 取り落としそうになっていたフレイルの柄を握りしめ渾身の力を込めて振り落す。

 それは蟻の頭蓋をまき散らし、次の一撃で残る一匹も叩き潰す。

 

「まだまだ、やれます。リリは、もう置いて行かれるのは嫌ですから!」

 

 その眼前には未だ数を減らすことなく無数の赤い瞳が煌めいていた。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 ホーリィは今リリの後ろに控えている。

 後ろから近づいてくる敵を適当に間引きながら様子を窺っていた。

 

 現在ホーリィは地味なビルドを使っている。

 完全にネタであるそれ。

 しかしこの状況であれば適している。

 なにしろディアブロ2というゲームにおいて唯一の回復スキルを有しているのである。

 

 そう、唯一

 

 何しろディアブロ2というゲームは

 やられる前にやれ

 敵を殴って回復

 自動回復(微)

 っていうか、回復はポーションがぶ飲みが常識

 

 というぐらい攻撃一辺倒なのである。

 

 そんじょそこらの協力ゲームのような専用の補助職業など存在しない。

 全員アタッカーなのである。

 

 しかしながら一応回復に使えるスキルもある。

 それがパラディンのスキルであるプライアーとホーリーボルトである。

 

 プライアーは自身を含めた周りのキャラクターを持続回復させるスキルである。実用段階にするためにはレベルを上げる必要があるが、ぶっちゃけるとこのスキルを上げる人は極極少数しかいないだろう。それぐらいに使い道がない。しかもレベルを上げるだけあげておいて実際に使うスキルはメディテーションというマナ回復スキル。可哀想なスキルであった。

 しかしネタビルドであるこのキャラクターは勿論マックス。

 そして次にホーリーボルトであるが、これは元々アンデッド用の攻撃スキルなのであるが、味方に当てると一応回復する。なのでとにかくこのスキルを連打するのが役割と言えなくもない。

  

 見守っているとキラーアントによってリリが負傷する。

 それを見越してホーリーボルトを放つ。

 それは一瞬でリリルカ・アーデの傷を治し体力を回復させる。

 

「ふむ。なんというか大丈夫そうだな。」

 

 一瞬動きが止まりはしたものの、それ以降は何かしらのリミッターが解除されたかのように敵に向かってのめりこむ。

 

 キラーアントによって切られたので回復する。

 体当たりを受けたので回復する。

 自動で回復する。

 回復する。

 

 

 何度攻撃を受けようが回復し、無限に湧いてくる敵を飽きることなく殲滅する。

 そんな異常な精神状況のリリルカ・アーデの耳に幻聴が聞こえ始めた。

 

 

 敵を倒し、その身へと経験値を貯めるのだ

 敵から奪い、我が物とせよ

 その魂に刻み込め

 それは与えられる恩恵にあらず

 神へと至る道である

 

 

 ほんのわずかであるが、倒されたキラーアントの魔素の一部がリリに吸い込まれていく。

 それは自らの経験をため込むファルナではなく。

 敵の魂の一部を自らの一部へとする経験であるかもしれない。

 

 

 その殺戮が終わるころ、リリルカ・アーデという少女に変化があった。何故か力が上がっている。細かい動作の正確性が上がっている。体力が上がっている。魔力の量が増えている。

 ファルナの更新をしていないはずであるのに。

 

「よっ!どうだ?問題なさそうだけど。」

 

 後ろから肩を叩いて声をかける。

 そこでホーリィは改めてリリを見る。

 どうやら体のあちこちを蟻のハサミで切られてしまい服がすごいことになっている。

 しかし見えそうで見えない。

 きわどい。

 

「はぁぁぁ~、疲れました。疲れました。疲れましたぁ~」

 

 あまりにも疲れたのか体の力を抜いてホーリィへともたれかかる。

 やはりぎりぎり見えない。

 

「でも、なんというか力がついている気がします。ホーリィ様の支援があったとはいえ、あんなにも沢山のキラーアントを一人でも倒せたのは初めてです。」

 

 そういったリリの瞳は誇らしそうでほめてほめてオーラをまとっていた。

 その頭をなでてやる。

 

「一旦帰って飯にでもしようぜ」

「いいですね!今の私は遠慮しません出来ません!あ、そういえば。……アイズさんも誘っちゃいましょう。今わかったんですが多分私と同じ目にあっているという気がします。」

「同じ目ってなんだよ」

「まさかホーリィ様にご自覚がないとは思いませんでした。奴隷も裸足で逃げ出すほどの労働環境です。待遇の改善を要求します」

「あー、一応聞いておくけどなに?」

「簡単です。帰りはお姫様抱っこで帰りましょう。」

 

 ドヤ顔でいうリリであったが少しばかり頬が赤い。

 

「それぐらいならお安い御用よ」

 

 そういって簡単に持ち上げる。

 

「ひゃあ!……やっぱりなしというのは駄目でしょうか?」

「いや、このまま一気に帰ってしまおう。」

 

 さりげなくリリの体が見えないように袋を持たせる。

 

「それは今日の戦利品だからリリが好きにしていいぞ」

「え?って、多くないですか?ドロップアイテムも多すぎます!それにホーリィ様にすごく手伝ってもらってるのに」

「今日の相手は殆どリリが倒したんだから別にいいだろ?施しってわけじゃないんだし」

「そうなんですけど、そうなんですけど」

「じゃあ今日の飯はリリの奢りってのはどうだ?それなら引け目に感じないだろう」

「うーん、じゃあそれで。って、騙されませんよ!?どう見てもその程度の金額で収まる量じゃないです!」

「はっはっは!速度上げるから舌かむなよ?」

「ううー、話はまだ終わってません!」

 

 

   ■   ■   ■

 

 二人が帰るころ、某主人公は様子を見に来たアイズ・ヴァレンシュタインに膝枕をされていたという。

 

 




   ■   ■   ■


「ベル様。今日はリリにも前衛をやらせてほしいのです。」

待ち合わせ場所でいつも通り合流を果たしたベルとリリはいつものようにダンジョンへと行く予定であった。
しかし、ダンジョンへと入るところで急にリリルカ・アーデが言い出したのである。

前衛がやりたい、と。

なぜこのようなことになったのかは小一時間語らなければならないが、死んだような目をしたリリルカ・アーデの顔を見ると何故?という質問をするのに躊躇してしまうだろう。

「う、うん。別にいいと思うけど、荷物邪魔になっちゃわない?前衛している間は僕が持とうか?」
「いえ、大丈夫です。大丈夫なのです。荷物を持ったままでも大丈夫なのです!」

リリルカ・アーデの死んだ瞳にヤル気が充てんされる。
それは一体誰に対しての殺ル気なのかは不明であるが。


そうしてその日の探索が開始されたのであった。

   ■   ■   ■


「リリ、左の3体は任せて!右の2体の足止めお願い!」
「わかりました!」

左に居たキラーアントへと疾走するベル。
しかしその横には同じく前へと出るリリがいた。
敏捷の数値でベルに劣っているリリは出遅れはしたものの右側に居たキラーアントへと肉薄する。
その手に握られているのは皆の育成武器筆頭のフレイルであった。

まるで何度も何度も同じ振り下ろしをしたかのように一切の無駄のないフォームでキラーアントの頭部に向かって鉄球が振り下ろされる。
それはグシャ、と音を立てて蟻の頭部を粉砕した。
そしてそれを引き戻すと更にその反動を使って次の蟻の頭部へと叩き込む。
無駄のない洗練された動き。

まるで、何千もの蟻の頭部を一撃で砕いたことがあるかのようであった。

ベルが3体のキラーアントを倒し、リリの加勢に向かおうと体を向ける。
そこにはもうすでに魔石を拾ってリリが待機していた。
相変わらず目が死んでいるがそれ以外は普通である。

「それじゃあどんどん行きましょう、ベル様。」
「う、うん。(こりゃあ負けていられないぞ!)」

無意識にリリはベルに発破をかけていた。


この日、9階層を危なげなく高速で巡回する二人組の冒険者がいたとかなんとか。


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