ダンジョンでウホッするのは間違っているだろうか。   作:アルとメリー

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俺達ゃ猪突猛進、フレ馬場さ!

 冒険者ギルド。

 それはオラリオという都市を代表する組織である。

 そんな冒険者ギルドで一人の受付嬢がカウンターに突っ伏していた。

 

「どうしたの~?お疲れじゃないエイナ。ため息なんかついちゃって、何かあったの?」

 

 突っ伏していた女性はエイナ。ハーフエルフのギルド職員である。そのエイナに話しかけたのは同じくギルド職員のミーシャ。そのミーシャにエイナが疲れた顔をあげる。

 

「少し前に来た冒険者登録希望の人がね………。」

「ん~?そんなに変な人が来たの?もしかしてナンパ、みたいな?」

「そう言うのじゃないんだけど、ホントに凄く聞いてくる人だったから、大変だったの。子供でも知ってることを平気で聞いてくるし。その割に装備品は一級冒険者並って言うかむしろ超えてたかも。なのに神々の恩恵を受けてないって言うし。ああもうワケわかんない。」

「え?それでどうしたの?登録しちゃったの?」

「するわけないじゃない。兎に角、まずはファミリアに所属してくださいって言ったわよ。はぁ、そのままダンジョンに行ってなきゃいいけど。」

「ふみゅ。これはもしかするともしかしちゃう?そんなにエイナが気にかけるって、もしかして凄いイケメン!?」

「そんなわけないでしょ、はぁ。筋肉モリモリの渋めの顔だったかな?声も渋いんだけど、話し方は若かったかな?ミーシャはタイプじゃないと思うよ?確か、スラッとしたイケメンが好みなんでしょ?」

「そうだけど~。一回見てみたいなぁ。あ、そうだ。エイナ知ってる?今話題の王子様。」

「王子様ってなんの話よ、はぁ。今日は朝からずっと受け付け業務してたの知ってるでしょ?」

「ゴメンゴメン。ーーーそれで王子様の話なんだけど、ななななんと!あのアイズ・ヴァレンシュタインをお姫様抱っこしてダンジョンから出てきたんだって!しかもだよ?別に嫌がってた感じじゃなかったらしいんだよね。」

「それは、凄い話題ね。あーあ、ベルくんが聞いたらしょげちゃうだろうなぁ。」

 

 エイナはここには居ない白髪の少年の事を思い浮かべる。

 

「にしし。あー、そうだよね。エイナには白馬の王子様がもういるもんね!ーーーーで、話の続きなんだけど。」

 

 エイナの睨みに慌てて話題を戻すミーシャ。

 

「なんでもー、身長2メートルはある筋骨隆々とした大男で、見たことのない豪華な装備品に腰には2本の剣を挿していて、寡黙な感じの渋いイケメンなんだって。」

 

 ミーシャの言葉にエイナは動きを止めた。心当たりがありすぎる。朝、出勤して直ぐに絡まれた男ではなかろうか、と。

 

「その人、知ってるかも。」

「ええ~!?ホントに?ねぇねぇ、どんな人なの?名前は?って言うか、どこのファミリアの所属なの!?」

 

 ポツリと呟いたエイナの言葉に身を乗り出して興味津々な様子のミーシャ。さもありなん、今現在、冒険者の話題はこれが独占している。

 

「どうどう、ちょっとは落ち着きなさい。っていっても私もそんなに知らないんだけどね。わかるのは―――。」

 

 そうねぇ、と言いながら顎に指を添えるエイナ。

 

「―――名前がホーリィ・馬場って言うのと、まだ神々の恩恵を受けてない一般人ってこと位かな。あと、見た目よりも凄く軽い感じだったよ。んん?って言うことは冒険者登録してないのにダンジョンに入ったの!?あれほど冒険者登録するまで入っちゃ駄目だっていったのに!」

 

 確かにエイナは口を酸っぱくしてまずは恩恵を受けてからもう一度ギルドに来るようにいっていたのだが、ホーリィは右から左へと聞き流していた。

 

「ーーーあ、私仕事があるから行くね~。」

 

 不穏な空気を感じ取ったのかミーシャが直ぐに撤退を始めた。その横でエイナは次にホーリィがやって来たときどうやってこらしめてやろうかと唸っている。

 

(ホーリィさん御愁傷様~。さーてと、この事を言い触らしてこよっと。)

 

 この日、本人の知らないところで一躍有名人となるのであった。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

「はっ!?」

 

 そこはロキファミリアのホーム。

 広いリビングの一角、ソファーの上に寝ていたベートはその体を起こした。

 

「あ、ベート起きたよー?」

「起きたんですか、この負け犬。」

 

 起き上がったベートに声をかけるのは褐色の肌をしたアマゾネスの女性二人。髪の長さや服装に差異はあるものの瓜二つの容姿をしている。唯一その胸部装甲が大幅に違うが。

 

「うるせぇなクソアマゾネスども!何で俺はこんなとこで寝てやがんだ?なんか、記憶がはっきりしねぇな。」

 

 そう言いながら頭を振るベート。

 

「あ、もしかして覚えてないんだー。」

「話を聞く限りじゃ切腹物だし、覚えてない方が幸せなんじゃないの?」

「確かにそうかも。ベート、強くいきるんだよ?うんうん。」

 

 双子の余りにバカにした発言にキレそうになるベートであったが徐々に記憶が戻っていく。

 

「って、あの野郎っ!」

 

 思い出した瞬間に頭に血が上ったのか、立ち上がるベート。そのまま辺りを見回して目的の男が居ないのを確認する。

 

「おいクソアマゾネスども!あの男はどこいきやがった!?ぶっ殺してやる!」

「できるんならやってみたら?またキャン言わされるだけ。」

「ベートには無理だと思うなー。それにしてもいい男だったよね!?何て言うか、寡黙で、まるで英雄潭から出てきたみたい!」

「ああ、ティオナはああいうの好きだよね。」

「うん。ちょっとどきってしちゃった。」

 

 まるでベートの事を無視するように話続ける双子。

 しかし、その内容は的を得ていた。なにしろ、彼の肉体はかれこれ数千回は邪神を討伐しているのだから、まるでではない、本物の英雄である。

 中身は別として。

 

「ごるぁ!無視すんじゃねぇ!」

 

 流石にイラついたのかベートが声をあげる。それに双子は答えた。

 

「あんたが寝てる間にどっか行ったわよ。」

「だよ~。」

 

 それもそのはず、今はもう昼である。もうとっくにホーリィはどこかにいっていた。

 

 なんとも言えない空気がその場を支配した。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 時は少し前に遡る。

 ホーリィの入団が決まった後、彼はロキの部屋へと通されていた。

 ついてこいと言われノコノコついていったホーリィであったが、その先でロキから発せられた言葉に戦慄を覚えていた。

 

「取り敢えず服脱げ。」

「えっ?そんな、出会って四半時なのに、でも仕方がないな。俺と君は出会うべくしてこうし、ヘブシっ!?」

「じゃかあしゃあ!つべこべ言わずにさっさと脱げやぁ!」

 

 ホーリィの装備品を無理矢理剥ごうとするロキ。

 どうやら相当お冠であるらしかった。

 

「お?ちょ、優しく、して?」

「厳つい顔してなにゆーてんねん!服脱がんと恩恵刻まれへんやろーが!」

「ああ、そういうこと。期待して損したわー。」

 そう言ってホーリィは目の前に手をかざすとなにかを操作するように動かした。

 その手の動きに連動するかのようにホーリィの装備品が一瞬で消えていく。

 動きをやめたホーリィは普通の服を着ただけの状態になっていた。

 

「なんや、もう突っ込む気もおきへんわ。取り敢えず上半身裸になってそこのベットにうつ伏せになりぃ。」

「ほいほい。」

 

 素直に従うホーリィ。

 その背中にロキは跨がった。

 

「なんや、おちゃらけとるけど修羅場を潜り抜けとるやん。」

 

 ロキの目が細められる。その視線の先には幾つもの切り傷から火傷、凍傷の痕からなにまで考えうる限りの傷が刻まれていた。自然、ロキの目も優しくなる。

 

「今から恩恵刻むから、じっとしときや。」

 

 ロキの手からこぼれ落ちる雫がホーリィの背中へと染み渡っていった。

 

 

……………………ロキお絵描き中

 

 

 静かな刻が過ぎ去り、終わりを告げる。

 

「終わりや。こんなん初めてやわぁ、って寝とんかい!?おーきーろー!」

「はっ!?ロキたんの手がテクニシャン過ぎて意識飛ばしてたわ。」

「アーハイハイ、ほなこれホーリィのステータスや。質問は受け付けへんから。」

「んー、どれどれ。」

 

 

 

【ステイタス】

 

Lv.1

 

力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷: I0 魔力:I0 強欲:I0

 

《スキル》

 

【イカイノコトワリ】

・この世界の法則に縛られない

・ダンジョンに入る度にダンジョンリセット

 

【信じるものは報われる】

・強欲を得る

・ドロップアイテムの質が上がる

・想いの丈により効果上昇

 

《魔法》

 

【一は全、全は一】

・キャラクターセレクトできる

・全ては選んだキャラクターに準ずる

 

 

 

 渡された紙を見たホーリィは頷く。

 

「うん、何となく言いたいことはわかった。」

「せやったらきりきり吐かんかい!」

「お代官様堪忍して~?」

「ここがええんか、ここがええんやろ?」

 

 こうしてホーリィはロキの尋問に屈し全てをゲロったのであった。

 決して上に乗ったロキのお尻の感覚とかちっパイの感触とか、調子に乗ったくすぐりのご褒美に屈したわけではない。

 

「はー、はー、はぁ~。」

「うう、もうお嫁に行けない。責任とってもらわないと。チラッ」

「デカイ図体してキモいことゆーな!せやけどよーわかったわ。これからゆーことようききや。」

 

 そう言って今までの弛緩した空気を引き締める。

 姿勢をただしたロキは口を開いた。

 

「まず最初にいっとくで。ここは夢やない。そんでもってホーリィのことやけど、多分どっかの神の悪戯やろうと思う。せやから同じ神の一人としてうちが責任もって面倒みたる。その代わりや、約束してぇな。あんたの力はでかすぎる。せやから地上の子供等にその力を使わへんって。」

 

 あまりにも真面目な視線にホーリィは姿勢をただした。そして手を差し出した。

 

 

「結婚しよう。」

 

 

 空気が凍る。ついでにロキのこめかみにも青筋が浮かぶ。

 

「何でやねーーーーん!!」

 

 差し出されたホーリィの手を神速の突っ込みが襲う。

 

「何聞いとったんじゃアホー!せっかく真面目な話しとったのに!」

「いや、面倒見てくれるって言ったじゃん!?」

「そう言う意味ちゃうわボケぇ!」

「オーケーオーケー、照れるなって、な?」

「こんの脳ミソ筋肉、そこになおれぇ!」

 

 掴みかかるロキをひらりとかわすとホーリィはそのまま窓を開いて足をかけた。

 

「ホーリィ・馬場はクールに去るぜ。」

 

 そのまま窓から飛び降りる。

 着地したホーリィは窓の手すりまで来ていたロキに振り返った。

 

「他のやつには興味はねぇ。その代わりロキ、ちゃんと責任とってくれよ?」

 

 じゃあまたな?と捨て台詞を残してホーリィは走り去っていった。

 

「ホーリィのあほーーーーーーーーーっ!!!!!」

 

 

 その日、ロキファミリアのホームで主神の叫びが木霊したとかなんとか。

 

 

■ ■ ■

 

「ロキ、顔が赤い。」

 

 いつの間にか部屋に入っていたアイズの言葉にロキは高速で振り返った。

 

「べべべ、別に赤くなんてなってへんで!?」

「嘘。それに凄く嬉しそう。」

「ちちちちゃうで!?そ、それはそうとアイズたんどうしたんや?うちの部屋に来て。夜這いか?夜這いなんか?うちは何時でもウェルカムやで!」

 

 あからさまな話題ずらしに怪訝な顔をするも本来の用件をアイズは伝える。

 

「……………ステータスの更新。」

「あ~、せやな。まあ取り敢えずベットに横になりぃ。」

 

 いつもよりもすんなりとステータスの更新にいくことに疑問を持ちつつも言われた通り背中を出してうつ伏せにになるアイズ。

 

 その脇からロキがその背中に指を這わせた。

 

 

…………………………ロキお絵描き中。

 

 

「ーーーー、アイズたん。今日はなんかあったん?」

 

 ロキが震える声で訪ねる。何故なら、ステータスの伸びがあり得ない。普段の二倍以上の数値を叩き出していた。そもそも、アイズのステータスは最近伸び悩みの傾向にあった。49階層への遠征でも今回の半分以下の延び代である。

 

「今日は39階層まで潜った。」

「は?39階層?ホンマに?って言うか、もしかして一人でか?」

「ううん、ホーリィと二人で。」

 

 その瞬間、ビキビキとロキ顔が険しくなる。

 

(あんのアホ、うちにあれだけ上手いことゆうとって今日はアイズたんと二人っきりでダンジョンやて~!?しばく、次におうた時しばきたおしたる!)

 

「へ、へぇ~。」

「ホーリィと一緒だと凄く調子が良い。」

「へ、へぇ~。」

 

 アイズにしてみれば純粋にビーストの効果で調子がよかったのだが、端から聞くとのろけ話のように聞こえる。そしてそれをロキに確信させるものがあった。

 

 新たなスキルの発現である。

 

【不可能可能】

・限界の上限が変わる

・共に高め合うものがいる限り効果持続

・共に高め合うものがいる限り上限上昇

 

 

 それがロキの手を止める。

 

 しかし、震える手でそれをステータスに反映させた。

 

「なんやアイズ、めっちゃステータス伸びとるで。この調子で頑張りぃ。ほなこれステータスや。」

「ん。」

 

 受け取ったアイズはその数値の伸びを見て少しだけ顔を弛ませ気を緩ませた。

 その為、ロキの表情に気がつくことはなった。

 

 その時、ロキの顔はなんとも言えない苦渋に満ちた表情になっていた。まるで溺愛する娘が彼氏のことを話すのを見つめる父親のような表情である。

 それも直ぐに消えてしまったが。

 

「そうや、アイズたん夜はまだやろ?一緒に食べに行こーや?」

「いいけど。………ホーリィは?」

 

 またしても表情が崩れかけるがぐっとロキは我慢した。

 

「あのアホなら窓からどっか行きよったわ。あんなんはほっておいて、な?ほらほらいくでー!」

 

 そう言ってロキはアイズの手を掴むと進み出す。気分が良いのかアイズからの抵抗もなかった。しかし、アイズから見えないロキの顔はやはり少しだけひきつっている。

 

(アイズはうちのもんや。誰にも渡さへんからな~!)

 

 

 記載されることはなかったスキル。

 その行動は奇しくも犬猿の仲にある女神と同じであった。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 ロキファミリアのホームから走り去ったホーリィはやはりと言うかダンジョン入り口である大穴の前にいた。

 

「困った。」

 

 ホーリィは困っていた。

 何しろ冒険者が来ない。来るといえば来るのだが、来る方向はもちろんダンジョンの中からである。

 もう既に空は暗く、夜の帳が世界を覆っている。

 つまりは寄生する人が居ないのである。

 

「困った、困った。」

 

 仕方がないのでホーリィは大穴の隅っこに行き、さっきもらった紙を見る。

 その上で書いてあることを理解すると早速実行に移した。

 

 キャラクターセレクトである。

 

 彼の制作したキャラクターは膨大な数に及ぶ。2PC以上(アイテムの移動などで必須)を駆使していたためその数は覚えていないほどである。

 その中でも彼にとって思い入れのあるビルドをホーリィは思い描く。彼の手が虚空をなぞり、何かをタップするような仕草の後、それは起こった。

 

 ホーリィの足元から魔法陣が浮かぶとそれはそのまま垂直に上昇し、彼の頭を過ぎると消えた。そこに残っていたのは装備品が全く違うホーリィだった。

 

「うわ、マジか。これ、できちゃったら、やるしかないでしょ。」

 

 そう呟くとホーリィはダンジョンへと入っていった。

 

 

■ ■ ■

 

 

 一人でダンジョンへと入った男の足は軽い。軽いどころではない。飛んでいるのではないかと言うほど速い。

 そして男の装備品もまた違う。両手に剣を持っているのは同じだがバランスが悪い。片手にはオーソドックスな両刃の剣を。もう片手には身の丈ほどの巨大な剣を持っていた。防具も以前と比べると幾分かしっかりとしている。

 そんなアンバランスな状態で男は進んでいく。

 すると哀れな第一村人、もといモンスターが現れた。

 モンスターはホーリィの接近に気がついた。臨戦態勢に移ろうとしたモンスターは斬られたというのに気がつく前に切られていた。

 

 しかも二度。

 モンスターを切り裂いた男はギアを上げたかのように加速する。そのまま進路上のモンスターをさらに切り裂いていく。そうすると更に加速する。

 

モンスターを殺す。

加速する。

モンスターを殺す。

加速する。

モンスターを殺す。

加速する。

 

 

 際限のない加速は最早視認すら覚束ない。

 

 其はフレンジーバーバリアン。

 略してフレ馬場。

 DIABLO Ⅱにおいて最速を誇るビルトである。

 最早モンスターの消滅など間に合わない。ドロップアイテムなど拾う暇などない。ただただ暴虐の化身となりダンジョンを駆けていく。

 

 階層を降りる度に何故か現れる階層主。それすらも数秒持たずに血煙へと変わっていく。

 

 止まれないのだ。

 止まると終わるのだ。

 次の獲物を常に求めなければ終わってしまう。

 

 何故なら。

 

 

 6秒しか効果時間がない。

 

 

 フレンジーというスキルは敵をスキルを使って攻撃すると攻撃力、攻撃速度、命中率、移動速度が上昇する。

 しかも、段階的に上がるため、最高速度に到達するには何回も殴らなければならない。

 しかし、6秒経つとリセットされる。リセットされないためには6秒以内にもう一度スキルを使って攻撃しなければならない。

 

 その為、この状態を経験すると止まれなくなる。止まりたくなくなる。

 まさに男はその状態であった。

 

「ウッヒョーーーーー!」

 

 まさに最高にハイである。

 

 途中、大きなゴリラや大きなトカゲ、大きな蜘蛛や大きな蟻とその取り巻きや赤黒い巨大な牛の怪物に三つ首の大きな犬に一つ目の巨人、巨大コウモリの群れにetc.

 

 兎に角駆け抜けた。

 

 彼が正気を取り戻したのは巨大な竜を激闘の末倒した時だった。流石に少し満足したのか余韻に浸っている間に効果時間が過ぎてしまいリセットされたのだ。

 

 そこで彼は重大な事実に気がついた。

 

 

「あ、アイテム拾ってねぇ。」

 

 

 今さらであった。

 

「うおおおおおぉっ!まじか、なにしてんだよおれ。………死にたい。――――――――― 帰るか。」

 

 そう呟くと男は最初の掘り馬場にキャラクターセレクトし直すとちゃっかり大きな竜を掘ってドロップアイテムを拾うとおもむろにその手を広げた。

 

 男の目の前に楕円形のポータルが現れる。

 それはタウンポータルと呼ばれるもので、拠点へと転移できる優れものである。

 その楕円形のポータルへと男は躊躇い無く入っていく。

 その通り過ぎた先はロキの部屋だった。

 

 

 

 その通り過ぎた先はロキの部屋だった。

 

 

 

 男は部屋に入ると装備品を全て外し、その上で着ている服を脱ぎ始めた。

 全裸になると目の前のベッドへともぐりこむ。そのまま意識を落とした。

 

 男が意識を落とすと同時に、開いていたポータルもまた静かに消えていった。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 朝日がカーテンを透過する。優しい光がロキの頬を撫でるとともに小鳥のさえずりが耳たぶを舐める。

 沈んでいた意識をゆっくりと浮上させたロキは目を覚ます。

 

 その目の前には男の顔。

 頭の下にはその男のものだと思われる逞しい腕。少し目線を下げると男の逞しい胸板が見える。

 

「――――――――――ひゃぁ!」

 

 いつもの勝気なロキからは考えられないような可愛い悲鳴が聞こえる。そのまま上半身をすばやく起こすと布団を自分の胸の前へと抱えるようにひったくった。

 

「へ?なして?意味わからんし。」

 

 小声で呟くように自分に言い聞かせるロキ。まったく回っていない頭は目の前の男の体へと視線をさまよわせる。

 

「見たことある。見たことあるんやけど意味わからんし。」

 

 徐々に冷静さを取り戻したロキは考える。

 昨日は確かアイズと一緒にいつもの所へと飲みに行き、半ばやけくそ気味に飲みまくって帰ってきた。アイズに肩を貸してもらってはいたが一応自分の足で帰ってきた。そして部屋に帰ってきて服を脱いでパンツ一枚で寝たところまでは記憶がある。

 

 そこからが記憶に無い。

 目の前の男がなぜここにいるのかも。

 お互いにほぼ全裸(ロキはぎりぎりパンツ一枚。)。

 何故寄り添うように寝ているのか。

 

 まったく記憶に無かった。

 

「なしてこいつがおんねん。」

 

 そういいながらおずおずと男へと近づく。

 そうして男の胸板にそっと指を這わせた。

 

「落ち着いてみればいい男に見えんことも無い。」

 

 全く冷静ではなかった。

 

「うち相手でも遠慮のぉ話すし、気ぃ使わんでもええといえばええ。」

 

 これっぽっちも冷静ではなかった。

 

「求婚されたし…………。」

 

 どうやらお花畑という迷路に嵌ってしまったようであった。

 

「こんなうちでもええんやろうか。」

 

 まるで恋する乙女のごとくしなやかなロキの指が男の体を撫で回す。

 それが合図となったのか、男が目を覚ます。

 体を起こした男ととっさに身を引いたロキの目線が交錯する。

 

「あ、おはよう。」

「責任とって。」

 

 空気が止まる。まるで某スタンドの技をかけられたのではないかと感じるほどであった。

 それが解けた男はもう一度何事も無かったかのように声をかけた。

 

「お、おはよう。」

「責任とって。」

 

 世界が止まっていたのはどうやら男だけであったようだ。ロキは未だ迷子である。

 

「いや、なにいって」

「責任とって!」

「意味わかんn」

「責任取れゆーとるやろ!」

 

 顔は赤く、耳まで真っ赤だ。しかし、少し潤んだ瞳で必死に何かを期待するように男を見つめる。

 もちろん上目遣いで。

 

 ややあって男が口を開く。

 

「あ、はい。」

 

 男の言葉を聴いた瞬間、ロキは花が咲いたような笑顔を浮かべると男に飛び込むように抱きついた。

 

「改めて自己紹介するな?うちはロキや。末永くよろしゅう頼むで?」

 

 そうやって、まるで恋人同士であるかのように額をくっつけて言うロキ。

 

「お、おう。俺はホーリィ、ホーリィ・馬場だ。っていうか、この状態は目に毒なんだが。いや、ロキがいいんならいいんだが。」

「へ?あ、ああっ!………まぁ、ホーリィならええかぁ?えへへへへ。」

 

 どうやらこのロキはもはやポンコツとなってしまった。

 そんなホーリィの首に手を回してだらしない笑顔をむけるロキとホーリィの距離が更に縮まると思われた、その瞬間であった。

 

「うるせぇんだよ!朝っぱらから唯でさえイラついてんのによぉ!」

 

 ロキの部屋の扉を乱暴に開けたのは銀色の狼人、ベートであった。またしても団長に様子を見て来いといわれたのである。

 なんともいえない空気が漂う。

 そんな中、ベートは自身のイラつきの原因である男を視界に収めると一気にその距離を詰める。もうすでにベートの視界には男しか映ってはいなかった。

 

「てめぇ!よくもやりやがったなぁ!!!!?ぷげらっ!?」

 

 そう言いながらホーリィに掴みかかろうとしたベートであったがそれは叶わなかった。

 

「何さらしとんじゃボケェーーーーー!!!ありえへん、ありえへんわ!最悪や!このボケ!アホ!かませ!死にさらせ!」

 

 ベートの視界に入っていなかったロキからのアッパーをモロに食らい飛ぶ意識。更に追い討ちをかけるようにゲシゲシと踏みつけられる。

 それでもまだやり足りないのか、フシャーと息巻いていた。

 一般人と同じ程度の腕力しかないはずのロキが起こしたとは思えない事態である。

 その間にホーリィはのんびりと服を着ていた。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

「紹介するわ。新しくうちに入ったホーリィや。みんなようしたってや!」

 

 そこはロキファミリアのホームのリビング。錚々たる顔ぶれが並ぶ中でホーリィの入団発表がされていた。但し、ベートはソファーの上で魘されているし、アイズスキーなエルフも用事があっていなかった。

 ロキからの紹介がなされたことで全員の視線がホーリィへと向く。

 少数精鋭を誇るファミリアであるロキファミリアへの新人である。自然皆の視線には期待がこもる。

 

「今紹介されたホーリィ・馬場だ。このファミリアでは新参者になるわけだが、どうかよろしく頼む。」

 

 その肉体から滲み出る強者としての風格と渋い声に全員が納得していた。但し、アイズだけは小首を傾げていたが。

 これには裏があり、この紹介を前にしてロキからおちゃらけ禁止を言い渡されており、渋々手短に挨拶を終わらせたのである。

 

「まあ、あんまり喋るんは得意やないんや。暫くはうちが面倒見るから気にせぇへんでええで?今回は顔合わせみたいなもんやし?ほ、ほなうちはホーリィに町を案内せなあかんからこれで解散や。」

 

 そう言いながらホーリィの手を引いて部屋から出ようとするロキ。

 だがそうは問屋がおろさないとばかりにロキの前に勇者が立ちはだかる。

 

「ロキ、それならば冒険者である僕たちのほうが適任だ。なんなら僕が案内してもいい。」

「え!?団長がしなくてもいいんじゃないですか?それに今日は団長は私と買い物に行く予定ですし。」

 

 流石勇者、針の穴も通さないほどの正論でロキの前へと立ちはだかる。が、それにティオネが待ったをかけた。

 

「すまないティオネ、僕もそのつもりだったんだが新人を案内するほうが重要だろう。それに今日はアイズもいる。代わりに消耗品の補充に付き合ってもらうのはどうだろう?」

「私は団長と――――、いえ、それだったらベートとかいるじゃないですか!」

「そうなんだけど、ベートは見てのとおり寝込んでるし、この中じゃ僕が一番適任だと思うんだ。どうかな?」

 

 流石勇者(以下略

 

 悔しそうに俯くティオネ。呪い殺しそうな瞳でホーリィを睨み、ついで使えない犬に一瞥をくれる。今にも蹴って起こしそうである。

 そんな中、すっとアイズが手を上げる。

 

「私がホーリィを案内する。」

 

 流石勇者はほぅ、と感心し、ティオネは見直したといわんばかりに目がキラキラとしている。他の面々もしきりにうんうんと頷いている。

 

 とうとうあのアイズが他人の面倒を見るようになったのか――――――。

 大きな勘違いであったが。

 

「うん、アイズがそれでいいならお願いしよう。ロキもそれでいいかな?」

 

 それまでまるで時が止まったかのように硬直していたロキが勇者の言葉で動き出す。アストロンは解けたようだ。

 

「え、いや、全然よくないわ!」

 

 ロキの反論にアイズが首を傾げながら言い返す。

 

「なんで?」

「いや、アイズたんに案内なんて」

「できる。」

「いやいや、うちのほうがちゃんとできるで!?」

「冒険者である私のほうが詳しい。」

「せやけど、せやけど………!」

 

 言いよどむロキに勇者からの追い討ちが襲い掛かる。

 

「何故ロキはそこまで頑なに自分で案内したがるんだい?まるで一緒に街を回りたいかのようだけど。」

 

 勇者は会心の一撃を放った。

 

「そそそんなんちゃうわーーーーーー!!!ホーリィのあほーーーーー!!」

 

 哀れロキ、勇者を前に逃げ出してしまった。

 

 静まり返る室内。その静寂を切り裂くのもまた勇者だった。

 

「今日のロキは何時にもまして変だな。それじゃあアイズ、頼んだよ?ティオネもいこう。」

「はい団長!」

 

 そういって部屋から出て行く勇者とそのお供。その暫く後にアイズとホーリィも続く。

 

 

 

 部屋に残されたアマゾネスの片割れはポツリともらす。

 

「やばいかも。」

 

 彼女の下着は少し湿っていた。

 

 

 

 




 解説(読まなくてもまったく問題がありません)

 フレバグ(フレンジーバグ)
 左右に持つ武器のベース速度の開きがあればあるほど攻撃速度が速くなる現象のこと。

 作中で左右の武器の大きさが違うのはこの為です。

 しかしこの状態で裏武器に一度スワップして戻すと、本来持つべき手に武器を持ち直してしまい、上記のバグが元の状態に戻ってしまう。
 これを防ぐために用いるのが次に説明するスワップバグ。

 スワップバグ
 装備品の要求ステータスを特殊な方法で満たすと齟齬が生じ、武器持ち替えが正常に行われなくなるバグのこと。本来なら不具合なのだが、フレバグ発生中ならこの現象を逆利用することで、武器スワップを何回してもフレバグ状態が継続した状態に保つことができる。




 ちなみに、この頃ベル君は某サポーターといちゃいちゃしてます。

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