ダンジョンでウホッするのは間違っているだろうか。 作:アルとメリー
バベルの塔。
それはオラリオという街を象徴する建物としてその中心に聳え立つ。
その中にテナントをもつ店はどれも一流と呼ばれるものであった。その中でも突出する存在、それがヘファイストスファミリアと呼ばれる鍛冶系ファミリアである。
ロキファミリアを出発したアイズとホーリィは一直線にバベルへとやってきていた。
オラリオの案内は?ダンジョン攻略のための必需品?飲食店?呉服屋?酒場?薬屋?etc...
そんなものはアイズの中で必要なものではなかったのである。なので一直線にヘファイストスのお店へとやってきたのであった。
奇しくもその思考回路はホーリィという男にとってはドストライクではあったのだが。
「ここがヘファイストス。」
何故かホーリィの手を引いてやってくるとドヤ顔で説明するアイズ。その説明を聞く前からホーリィは既に店の前のショーウインドウに張り付いていた。
「ほぉ~、へぇ~、なるほどねー。把握。」
いったい何を把握したのかは謎であるがホーリィは何かを得たようであった。
「ちょっくら中を見てくるわ!」
言うが早い、颯爽とホーリィはお店の中へと突撃していった。
あっ、という声とともに伸ばされかけた手をアイズは引っ込めると少し経ってからその姿を追いかけた。
「いらっしゃいませー!今日は何の御用でしょうかお客様ー!」
お店の中へと入ったホーリィを出迎えたのは小さな体に不釣合いなほどの立派な胸部装甲。むしろ大きすぎて体の動きを阻害しているのではないかとすら思わせる装甲である。強調しすぎである。その上にツインテールが揺らめいていた。
「おうお嬢ちゃんかわいいねぇ、店番かい?えらいねー。お駄賃あげよう。」
「わー、うれしー。って、子ども扱いするんじゃなーい!僕はこれでも立派なレディーなんだぞー!」
ぴょんぴょん飛び上がる店員だが圧倒的に身長が足りてない。まるでではなく大人と子供である。その事実に気がついたのか店員は無駄な抵抗をやめる。
「はぁー、はぁー、こ、これぐらいで勘弁してやるよっ!」
「でもお駄賃は貰うんだな。」
「それはそれ、これはこれだよ。それよりもここに来たってことは武具を買いに来たんだろう?ゆっくり見ていくといいよ。何なら僕が見繕ってあげようじゃないか!」
その立派な胸をそらして自信ありげに言う。
しかしその態度もすぐに終わることになる。
「随分偉くなったじゃないヘスティア。私にも見繕ってもらえるのかしら?」
後ろから現れたのは片目に眼帯をつけた女性。ヘスティアと呼ばれた店員の後ろに立つその背には何やらオーガのような陽炎が幻視できる。
哀れヘスティア。どうやら鬼に見つかってしまったようだ。そのまま引き摺られて奥へと連れて行かれてしまった。引き摺られるさなかに伸ばされる腕は何処か哀愁が漂っていた。
―――――――――少女折檻中
「ごめんなさい、待たせてしまったわね。お詫びではないけれど、私が案内してあげるわ。うちのお店に何を求めてきたのかしら?」
余裕のある大人の色香と何処か茶目っ気のある顔は何処かホーリィを値踏みしているかのようである。
「おおー、貴方の様に美しい女性にエスコートされるとは嬉しいですなー。」
「あらあらお上手。」
「しかし、今日は買い物をしにきたわけではないのですよ。持込で製作を頼もうと思いまして、よければ鍛冶師を紹介していただければなー、と。」
「うふふ、正直者ね?いいわよ。でもここじゃ何だから奥に行きましょうか?」
その時、一瞬ではあるが周りがざわつく。何故ざわつくのかがわからないホーリィは何も考えずに返事をした。
「ほいほい。」
こうしてホイホイ付いて行ったホーリィは明らかに重役っぽい部屋に通される。その部屋の隅では何故かヘスティアと呼ばれた店員が泣きながら正座している。うわ言のように「調子にのってゴメンナサイ」と繰り返していた。
ここに来てホーリィはちょっと違和感を感じていた。
「もしかして結構なお偉いさんだったりする?」
「あら、自己紹介がまだだったわね。私はこの鍛冶系ファミリアの主神、ヘファイストスよ。よろしくね?」
「へ~、つまりは店長さんか。俺はホーリィ・馬場。よろしゅうに~。」
そう言いながら手を差し出すホーリィ。
それに目を瞬かせて見つめるヘファイストス。
ややあってその手を握り返す。
「うふふ。こういうの、久しぶりね。」
「ん?まあいいや、それで持ち込み素材ってこれなんだけど、加工出来る?」
そういって握手した手とは逆の手からドロップアイテムを差し出す。
それは紅い皮と緋色の鱗であった。
何を隠そう、今では黒歴史と化しているフレ馬場狂乱事件においての唯一の戦利品である。
「これは、子供たちの手には余るわ。過ぎたるものはその子の成長を止めてしまうもの。それよりもこれはどこで手にいれたのかしら?」
細められる眼光には何処か剣呑な光があった。ホーリィには関係なかったが。
「ダンジョンで手に入ったけど。あ、もしかして素材の量が足りない?足りないんなら乱獲してくるけど。」
「あははははは!貴方、面白いわ。ふふ、良いわよ、造ってあげる。どんなものを造って欲しいのかしら?」
またもや何処かツボに入ったのか上機嫌である。
「いやー、自分の主神に服を送ろうかと。動きやすい普段着か、ドレスみたいなのか、悩んでるんですよねー。」
「あらあら。主神孝行なのね。ちょっと妬けちゃうかも。ふふふ、冗談よ?それじゃあ愛しの女神はだれかしら?」
「ああ、ロキって言うんだけどできるか?」
三度目の硬直をしたかと思うと受け取っていた素材が手からこぼれ落ちる。
それはガラスのように澄んだ音色を響かせた。
「ロキってあのロキ?」
「ロキってほかにもいんの?」
「居ないと思うけど一応確認しないと、ね?」
「それじや、オッケーってことで良いのか?」
「ああ、待ってちょうだい。この素材だけじゃ足らないかもしれないから他にも素材があるなら見せてくれないかしら?」
そう言われたホーリィは目の前に大きなバックパックを出すとその中身を開く。そこには先日の戦利品が大量に入っていた。もちろんITEM FINDで手に入れた分だけであり、アイズが出したドロップアイテムは分けてある。
「取り敢えず今はこれだけしかないけど、必要なものはありそうか?」
突如現れたバックパックにも驚いたが、ヘファイストスを一番驚愕させたのは出てきたドロップアイテムの膨大さである。ヘファイストスの見た限りでは30階層後半までのドロップアイテムがほぼ全種類存在する。もちろん、周期的にしか現れない階層主のものは揃っていないが、数があり得ない。
ドロップアイテムとはモンスターが極低確率で落とすから貴重であり、その価値がある。こんなにもたくさんあっては有り難みもない。
何よりも。
もしこれが一回のダンジョン攻略で手にいれたものだとすれば。
そこまで考えてヘファイストスは思う。
この男は鍛冶師と組ませてはならない。
溢れるほどの素材は唯一つの作品を作るための意欲を間違いなく削いでしまう。
そこまで考えて布石を打つことにしたようだ。
「貴方の装備品については取り敢えず私が受けるわ。その代わり、ドロップアイテムについても全部私に渡してほしいんだけど良いかしら?」
「いいよー。そのほうが俺も面倒がなくていいし。それじゃあ、この依頼、受けてくれるかな?」
「いいわよ。貴方が来たらここに通すように言っておくから。不在のときはそうね、そこの机の上にドロップアイテムを置いておいてもらえるとうれしいわ。」
「了解了解。それじゃあ連れを待たせてるから名残惜しいけどこのあたりで。しーゆーねくすとたいむ!」
厳つい顔で決めポーズをとる男を何とも言えない表情でヘファイストスは見送る。部屋を出るのを見送ったヘファイストスは未だに正座をしながら謝っている女神に向けて呟いた。
「フレイヤじゃないけど、奪ってもほしい子供って本当にいるものなのね。次に会ったときは根掘り葉掘り聞かなきゃね。」
積まれたままのドロップアイテムの中から最初に渡された竜の皮と鱗を手に取るとそう呟いた。
■ ■ ■
私、怒っています。
まさにそれを言葉に出さずとも自身の全てを使ってアイズは表現していた。
少し膨らんだ頬にキュッと吊り上げようと頑張っているまなじり。少し前に出ている姿勢。
ぶっちゃけ、かわいい。
「すまんすまん。待たせたな?ちょっとドロップアイテムの処理してたんだよ。って、そんなに怒るなって、な?」
「怒ってません。」
「ああ、そいつはすまなかった。しかしだな、フロイライン。それじゃあ男が廃るってもんさ。君のお願いを何でも一度聞くっていうのはどうかな?」
そういって手を差し伸べるホーリィ。
その手におずおずとアイズは手を重ねる。
「ホーリィ、ダンジョンに行こ。」
流石にアイズでも今日は街の案内を買って出た手前、ダンジョンに連れ込むのは躊躇われたのか、少しそっぽを向いている。
「え?願ったりだけどいいの?行こう行こう!」
重ねられた手をホーリィは引っ張りながら大穴へと進みだす。
そこでアイズは思った。
これはもう一個お願いしても大丈夫、と。
「あと、ホームに帰ったらもう一個お願いがある。」
「え?まあいっか。そん時はまた言ってくれや。」
ホーリィの適当な答えに内心でガッツポーズを取るアイズ。
その心のうちでは一つの欲望があった。
この前の熊、ものすごくもふりたい。
そんな微妙に温度差がある両者ではあるがとりあえず大穴へと進んでいた。
――――――――――――少女移動中。
アイズはダンジョンを進みながらホーリィの動きについて考えていた。
まずこの男、常にアイズの後方10メートル程の位置をキープする。
言葉で言うのは簡単だが、実際にはエアリアルを纏ったアイズにつかず離れず、しかもその位置取りをしながら魔石とドロップアイテムの回収にもう一度死体を掘って更にアイテムを回収する。
しかも、アイテムを掘るときは装備を変更して終わると直ぐにまた戻すという小技込みである。
敵が居ない移動中はどこから取り出したのか何故かポールアームを装備している。そのポールアームを装備しているときは何故かリラックスして精神力が回復して言っているのを感じることができる。
たまに意味のわからない気合を入れている。
そしてたまにニヤニヤしている。
アイズは一旦足を止めるとホーリィへと歩み寄る。
「ん?どうかしたか?」
怪訝そうに聞いてくるホーリィを無視してアイズはホーリィの正面に立つ。
そうして自分のスカートをたくし上げ始めた。
「うほっ!」
一瞬でホーリィの顔が崩れ始める。
無言でたくし上げる手を止めるアイズ。そのままスカートを下ろす。
一瞬で元に戻るホーリィの顔。
もう一度無言でスカートをたくし上げるアイズ。
また崩れるホーリィの顔。
そして戻されるスカート。
「ホーリィの、えっち。」
「ぐっはぁっ!!!!」
あわれホーリィ、致命打を受けその場に膝を突く。
そんなホーリィに容赦のない追撃をするアイズ。
「えっち。」
もうやめてあげてほしい。ホーリィのHPはもうレッドゾーンである。
「………そんなに見たいの?」
そう言いながら徐々にまたスカートをたくし上げるアイズ。
それにホーリィは待ったをかけた。
「ま、まて!それは違う。それは違うんだ!」
「………?」
小首をかしげるアイズ。一旦止まる手。
ホーリィの言いたいことは何一つとして伝わってはいなかった。
「見せては駄目なんだ。見えそうで見えない、それがジャスティス!」
おもむろに立ち上がると腕を組んで頷くホーリィ。
一体何を言っているのだろうかこの男。もっとまじめにやれ。
「わからないけどわかった。」
何がわかったのか、アイズはまたダンジョン散策へと戻り進み始める。
余談ではあるが、常に後ろの視線を気にするようになったアイズは戦闘中の死角が減ったことにより被弾率が更に下がったとか何とか。
閑話休話
ダンジョンを進むアイズであったが、あることに疑問を感じていた。
何故か階層主などのユニークモンスターとの遭遇率が多い。
むしろ、多いなんていうものではない。
1階層平均1回以上遭遇する。
最初の階層のあたりであれば、少し強い敵が現れたと感じるだけであった。しかし階を重ねるうちにまったく馬鹿にできない状況になってきている。
特に、数十年に一度のリポップ時間があるはずの文献で見たことのある階層主ですら遭遇するのである。
可笑しいと言わざる終えない。
アイズの記憶では未だ数十年はリポップしないはずであった。
今、目の前にいるモンスターもそうである。
オークキング【率いる者】
ダンジョン10階層に出現する階層主である。
リポップ時間が200年と長いが、その強さはそのリポップ時間に比例して強大である。
自らの眷属のレベルを上昇させるこのモンスターは群れであるほどに強い。唯の10階層のモンスターであるオークがミノタウロスほどの強さへと上がるのである。そして一番特筆すべきなのは集団行動をするということである。唯でさえ身体能力の高いモンスターが知恵を持って挑んでくるのは恐怖以外の何者でもない。簡易ではあるが防具すらもつけているのであるから。
そんなモンスターの群れにアイズは手を焼いていた。
「………はぁっ!」
今もまた、一匹のオークの横腹を切り裂き距離を取る。
しかし思ったほど深くは切り裂けてはいない。時間を置けば直ぐに回復されてしまうだろう。集団で行動を取られ、致命傷を与えられていないのも原因である。
そして、徐々にではあるが押し込められてきている。
いくら個が強くとも、群れには最終的に屈してしまう。今もまた、新たなオークが壁から生まれ落ちるのが見える。
未だ英雄への扉を開けていないアイズでは打破は難しいであろう。
「………ホーリィ。」
進むべきか下がるべきか。一時撤退しギルドで応援を呼ぶかどうか悩むアイズ。
そこに軽い調子でホーリィからの声がかかる。
「しゃーねぇーな、よーくみてろよー?」
そういったホーリィの足元から魔法陣が浮かび上がる。
それがホーリィの体を通過すると、装備が変わった姿が現れた。
アイズは戦闘中であるにもかかわらずその姿に見惚れる。
白銀の輝きを纏う歴戦の英雄の姿がそこにはあった。
あまりの存在感に目眩がする。
その英雄はアイズの肩にてを置いていう。
「しっかり付いてこいよ?」
言葉と共に空気がはぜる。
ホーリィの踏み込みで地面が割れる。
恐れることをしない男はモンスターの群れにただ一人で突入した。
まさに弱肉強食。
体格で劣るはずの男はそんなものは関係ないとばかりに全てを押し退ける。
そして回る。
回る。回る。廻る。
只ひたすらに回り続ける男はその周りに有るもの全てを切り刻む。そこに小手先の技術が介入する余地などない。殺すか、殺されるか、二つに一つ。
暴虐の化身、修羅の如き形相で嘲いながら全てを血煙に変えていく。その通り道にはモンスターの肢体しか残っていない。
モンスターの中央を破った男は振り返るとアイズに向かって手招きをする。
「あ………。」
男の背中とその仕草を見てアイズは自己を革新させる。
あの背中に追い付いて見せると。横に並び立って見せると。
アイズの知らないスキルを初めて意識した瞬間だった。
アイズの手が一際屈強なオークを切り裂いた。
あれからホーリィは積極的に敵を倒すことはなかった。アイズの背中を文字通り守るように勤めていたのである。そしてついに最後の一匹を仕留め終えた。
なんとも言えない充実感がアイズを包み込む。
振り返りホーリィに声をかけようとしたアイズはそこで止まる。
「うほっ、うほっ!」
振り返ったアイズの目の前にはいつの間にか当初の姿に戻ったホーリィが嬉しそうにモンスターの死体を掘り返していた。やはり動きがキモい。
なんとも言えない空気がアイズを包み込む。
さっきまでのあの格好いいホーリィは何処に行ったのか。
もしかして時間制限があるのだろうかとすら感じる。
「うほっ、大漁大漁!」
台無しである。
結局その空気は払拭されることなくダンジョン攻略は再開された。
■ ■ ■
「うぅ~。」
其処は神々のみが入ることを許された聖域。
清浄なる空気が流れる水場。
つまりは浴場であった。
目の下まで湯に入ったロキはブクブクと小さな気泡を吐き出している。
その顔が赤いのは決して湯に浸っているのだけが原因ではないだろう。
そのロキは茹で上がった頭で考える。
(責任、とってくれるゆーたんやし、今日ぐらい一緒におりたかったわー。そしたら今日は一緒に街を案内してー、ご飯食べてー、お酒のんでー。そしたらその後は……………。)
「キャーーーーーー!!!!」
物凄く嬉しそうに水面を叩くロキ。この行動をとるのも既に3回目である。
好奇心旺盛な女神達ですら近づくのを躊躇うほどである。そんななか、全員を代表したのか一人の女神がロキへと近づく。それを見守るように浴場の柱にへばりつく他の女神達。
「どうしたの~?ロキが来るのって珍しいじゃない。」
「あ~、デメテルかぁ。別になんもないで、気が向いたから来ただけや。」
「ふぅ~ん。私の見たところ、何もないようには見えないけど。む、し、ろ!どう見たって恋する乙女じゃない!何があったの?やっぱり相手は同じファミリアの子供?やっぱりあの凛々しい勇者くん!?それとも確りしたおじ様?もしかしてやんちゃな感じの狼人くん?どなた?どなた!?」
「いや、ちが」
「ロキって男っけがないから心配してたのよね!あのロキのハートを掴むなんてよっぽど良い男なのね~。今度紹介してくれない?」
「絶対にいやや。」
静まり返る空間。しかし其は嵐の前の静けさだった。
明らかに赤い顔に少し照れたようなムッとしたような顔。何よりその答えがいるといっているようなものである。
「「「き、キャーーーーーー!!!!」」」
周りから一斉に上がる黄色い声。何処にそんなに隠れていたのか女神達が溢れ出す。
「ロキやる~!」
「ねぇねぇ、どこまでいったの?ABCは?」
「レベルは?」
「名前は何て言うの~?」
「どこが好きなの?どこが良いの?」
「なれ初めは?」
「ロキを相手にしてくれるなんて、逃がしちゃだめよ~?」
「初夜はいつ?」
「相性は良いの~?」
怒濤のように質問されるロキ。あっという間に臨界点を突破した。
「う、う、うるさいわボケーーー!!!」
「「「キャーーー!!」」」
蜘蛛の子を散らすように退散する女神たち。ちゃっかりと柱の影からロキを見ているが。
「それで、どこのどなたなのかしら?」
言葉は丁寧だが瞳はきらきらと好奇心を隠し切れない。離れることなく居座ったデメテルが改めて聞き返す。
「………その、新しくうちのファミリアに入ったやつやねんけど。」
「うんうん!」
「ホーリィいうねん。」
蚊の鳴くような声で湯に沈みながら言うロキ。
しかし、超強化された娯楽に飢えた女神たちの聴力はそれをはっきりと捉える。
「わたくし、知ってますわよ!今話題の殿方でしょう?あのアイズ・ヴァレンシュタインをお姫様抱っこでダンジョンから出てきた殿方。今日も二人で仲良く手を繋いでバベルにも来られていたと聞いていますわ~。」
それからも尾ひれ胸びれトサカの付いた噂話を披露するデメテル。
もはや誰それ状態にまで美化されたホーリィであった。
曰く、某国の王子であるとか。
曰く、嫁を探してオラリオに来たとか。
曰く、後宮に嫁が100人いるとか。
曰く、アイズ・ヴァレンシュタインと恋仲であるとか。
曰く、決闘で第一線級冒険者を瞬殺したとか。
曰く、実は神様であるとか。
あからさまな偽の噂が多いがその中でもチラホラとある本当の話に如実にうろたえ始めるロキ。
心配に駆られたのか、ザバッと立ち上がるロキ。
「うち、急用を思い出したわ。」
そういってそそくさと浴場を後にする。
残された女神たちは、物凄くいい笑顔でそれを見送った。
■ ■ ■
「へっぷし!」
突然の悪寒にホーリィはたまらずくしゃみがでる。
「………?どうかした?」
「いや、なんか、急に悪寒が。」
きっと恐ろしい勢いで拡散する神々のネットワークがホーリィに届いたのであろう。
其処はダンジョン25階層。
前回よりも明らかにペースは遅いがアイズとホーリィは順調にダンジョンを進んでいた。
そこでアイズはふとホーリィに質問をする。
「そういえば、ホーリィは戦わないの?」
当初より疑問に思っていたことを口にする。
明らかに自分より強いホーリィが何故かサポーターの仕事に専念するのはおかしいと思っていたのである。
それも10階層での姿を見れば尚更である。
「いやー、何て言うか、これが一番しっくり来るというかなんと言うか。俺の魂が敵を掘れと叫ぶというか。」
勿論事実、ホーリィは掘り馬場をメインで使っていたためこの状態が一番楽しいというのもある。しかし、それ以上にホーリィが掘り馬場を使うのには訳がある。
ぶっちゃけ、他のビルドは危険すぎる。
パラディンの属性オーラ極振り(ドリームショッカー)など、半径数十メートルは地獄の業火や雷撃で覆われるだろう。歩くだけで回りのモンスターは蒸発する。同じくすれ違う冒険者も蒸発するだろうが。
その他にも、使えばドロップアイテムなど無視してまたダンジョンの奥に突っ走ってしまう危険性があった。
なので、適度に余裕があり、趣味のアイテム収集もできる掘り馬場が一番ベターなのである。
その為、アイズと一緒のときは積極的に他のビルドを使おうとは思っていなかった。
他にも思惑はある。
あわよくばこのままアイズを強くして寄生したいとも思っている。今の状態は緩やかなパワーレベリングであった。
「そうなんだ。でも、私はホーリィと一緒に戦いたい。」
真摯な表情で伝えられる言葉は果たして欲に塗れたホーリィには眩しすぎた。その為、つい言ってしまう。
「そ、そうだな。じゃあ次からは一緒に倒していくか?」
「!!――――うん!」
更に眩しい笑顔にもう後には引けないホーリィ。
覚悟を決めてキャラクターセレクトを行う。
魔法陣から出てきたのは10階層でも見た全身を銀色に染めたホーリィだった。
バーバリアンというジョブにとっての王道とは何か、と聞かれると100人中97人はこう答えるであろう。
WW馬場であると。
WW馬場とはWW(ワールウインド)というスキルを主力として戦うビルドである。
その戦法は単純にして明快。
近づく、敵が死ぬまで武器を持ったまま回転し続ける。
ただこれだけである。
小手先の技術などいらない、ただただ暴力的なまでに敵を切り刻む。
それが馬場であるのだ。
ホーリィの装備はそのWW馬場に特化していた。
両手に持った斧は禍々しく揺らめき、意匠を凝らされた防具は重厚であり人には作り出せないような神々しさが迸る。
そこにはWW馬場の極地が存在した。
ぶっちゃけちょっと焦ってホーリィが選択をミスっただけである。戦力過剰も甚だしい。
しかし、その姿を見てアイズは嬉しそうにはにかむ。
「じゃあいくぞー。」
「うん!」
そういいながら二人は進む。そして大きな広間に入った。
その瞬間、一斉に生れ落ちるモンスター。何処に居たのかと思うほどに現れるモンスターの群れ。
其処はモンスターの生まれる場所。
「………食料庫!」
それでも引くことはない。何しろ今のアイズには共に戦うものが居るのである。背中を預ける戦友が。
その、覚悟を決めた目の前の天井から一際大きな塊が零れ落ちる。
ぬめる体毛を振り払うように生まれたのは巨大な蜘蛛。地獄の道先案内人【アビスガーデン】。
「いっちょ、やったりますかー!!」
大きくホーリィが吼えたぎる。
アイズはその瞬間にホーリィの姿を見失う。
隣にいたはずのホーリィはいつの間にか巨大な蜘蛛の足元に存在していた。
高速で移動したとか、気が付かない間に移動したとか、そういう次元の話ではなかった。風の揺らぎや踏みしめる足音すら聞こえない。まさに、転移したといわんばかりの状況である。
そのアイズの目の前でホーリィは回る。
ひとたび回れば蜘蛛の足は切り裂かれ、二度目の回転で蜘蛛は血煙に変わり果てる。
「くは、くははは!」
その全身を血に染めたホーリィは物足りないのか辺りに視線を這わせ、その瞬間にまた視線の先へと転移する。
そこからは一方的な蹂躙だった。
ところかまわず現れるホーリィに切り裂かれていくモンスター達。逃げることも適わず、ただただ切り裂かれるのを待つだけの存在。
一方的な蹂躙が終わりを告げるのはあっという間であった。
――――――――筋肉正座中。
「さーせん。」
男は何故か正座していた。
何処かで見たことのある顔をしたアイズがその男の目の前に立ってる。
つまりあれである。
私、怒ってます。というやつである。
「悪かった。一人で全部倒したのはほんとーに悪かったと思ってる。今では反省している。」
悪びれもせずに男はのたまった。
「………別に怒ってません。」
確かにアイズはそこまで怒っていなかった。ポーズである。それでも出番もなく一人で終わらせたことにすねてはいたが。
「あー、やっぱり俺はサポーターしているほうが性にあってるわ。」
今回のことで再度反省したのか男は愁傷な態度である。しかしアイズとしては内心微妙であった。ホーリィと一緒にダンジョン攻略をしたいが実力に差がありすぎる。今のままではただ付いていくだけになってしまいかねない。
「………それにアイズを後ろから見ているほうが楽しいし。」
ピクリとアイズの背筋が伸びる。ちょっとだけスカートのお尻の部分を手で押さえる。
「本当に、そう思ってる?」
「マジマジ。暫くはサポーターのままでいいかなーって。」
「本当に?」
「いやもう主神に誓って。」
「じゃあ許します。」
ははぁっ!とひれ伏すホーリィを見ながらアイズは考える。暫く、もうちょっと実力が近づくまで待ってもらおう、と。
ひれ伏した状態から許しを得て立ち上がるとホーリィは先を促す。
それにアイズもまた頷くとホーリィを追い越して進んでいった。いつの間にかホーリィはいつもの格好に戻っている。
それを確認しつつアイズは呟いた。
「………すぐ追いつく。」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもない。」
ごまかし紛れにモンスターを切り裂いたアイズは目標を新たにするのだった。
※解説(読まなくても全く問題ありません。)
RW Grief
Required Level: 59
35% Chance to Cast Level 15 Venom On Striking
+30-40% Increased Attack Speed (varies)
Damage +340-400 (varies)
Ignore Target's Defense
-25% Target Defense
+1.875 (per Character Level)% Damage To Demons (Based on Character Level)
Adds 5-30 Fire Damage
-20-25% To Enemy Poison Resistance (varies)
20% Deadly Strike
Prevent Monster Heal
+2 To Mana After Each Kill
+10-15 Life After Each Kill (varies)
前衛職にとっては忘れることのできない武器。
これを手に入れるかどうかによってDIABLOⅡが変わるといっても過言ではない武器。
皆さんもDIABLOⅡをやるときはとりあえずこれを目指すと良いと作者は思います。