ダンジョンでウホッするのは間違っているだろうか。   作:アルとメリー

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私は超級金喰い虫、FAzonだ!

 ヘファイストスは少しだけイライラしていた。

 先ほどまで、鍛冶師としてどんなものを作ろうか素材を片手に構想を練っているところを邪魔されたのである。

 その上でこの状況。少々イラついても許されるのではないだろうか。

 

「そんでなー、その、お願いがあんねんやー?」

 

 更にイラつかせるのはその仕草に表情である。

 ロキといえば天界において触らぬ神に祟りなしとまで恐れられる神である。

 下界に下りて丸くなったとはいえその本質は変わらない。

 それがなんだ、目の前のこの状況は。

 

「そのなー、えーっと、やっぱ恥ずかしいわぁ!」

 

 ヘファイストスの奥歯がギリギリとかみ締められる。

 ここまでこの女神をイラつかせるのも珍しい。

 そんなヘファイストスの状況に気が付かないほどロキは傍から見ても恋する乙女であった。

 

「………それで、結局なんなのかしら?」

 

 これ以上待っても自らのイライラを増幅させるだけだと判断したヘファイストスは先を促す。

 

「その、な?わらわへんといてーや?約束やで?」

「わかったから早く用件を言って。」

 

 これ以上引き伸ばすと血管から血が吹き出るかもしれない。

 

「………下着、つくってくれへん?こんなんファイたんにしか頼まれへんのや!」

 

 言葉としては少なからず友情を感じずにはいられないが、問題は内容であった。

 今この女(ロキ)、下着を作れとのたまったのか。

 

「出口はあっちよ。」

 

 無表情で立ち上がると部屋の入り口を指差すヘファイストス。その行動を誰が止められようか。

 

「まってや~!?ほんま頼む!一生のお願いや、神様ヘファイストス様!」

 

 何て空っぽな一生のお願いだろうか。こんなにも不埒なお願いは聞いたことがなかった。

 知らずヘファイストスの口からため息が漏れる。

 それをピンチととらえたのか、ロキはとうとう最終手段に訴えることにしたようだ。

 

 

 土下座である。

 

 

 東方の地に伝わるという、人にどうしてもお願いしたいことがあるときにやると必ず承諾してくれるという必殺技である(タケミカズチ談)。

 

 そんな姿を見てもヘファイストスの心は一ミリも動かなかったが。

 

「うちに出来ることならなんでもする。お願いやファイたん!」

 

 ピクリとヘファイストスの眉が動く。

 

「何でも、何でもするって言ったわよね今?」

「せや!無茶なお願いしとるんは百も承知や。それにその、内緒にしてもらわんとうち恥ずかしいし!」

 

 なかなかの好条件に少し考えるヘファイストス。何処かの貧乏神のように見返りもなくものを頼んでくるわけではないらしい。

 

「そうね、それじゃあまずはどんなものをつくってほしいか教えてくれないかしら?じゃないと、どれだけ対価を求めれば良いかわからないし。」

 

 尤もな話である。

 しかし直ぐに聞いた事を後悔した。

 

「そのな、その事なんやけど相談にのってほしいんや!下界の子供たちってどんな下着つけとん!?うちそういうの興味あらへんかったからスポーツタイプしか持ってないねん。勝負下着がほしいねんうち!」

 

 聞くんじゃなかったと既にヘファイストスは後悔していた。こんなこと、とてもではないがファミリアの子供には任せられない。むしろさせたくない。

 

「はぁ~。素材はどんなものが良いの?ピンからキリまであるわよ?」

「もちろんピンや!」

「ふぅ、わかったわ。それじゃあ報酬は作ってから決めるから取り敢えず採寸しましょうか。」

「ありがとー!やっぱり持つべきものは神友やな!」

 

 嬉しそうなロキの顔になんとも言えないヘファイストスであった。

 

 

 ーーーーーロキ採寸中。

 

 

「そういえばファイたん、さっきのとは別件でお願いがあるんやけど。」

「今度の話は真面目なものにしてよ?」

「わかっとるって。今度うちのファミリアで深層に遠征にいくんやけどその時何人か鍛冶師を貸してくれへん?もちろん報酬は弾むで!」

「しっかり守ってもらえるのならこちらとしても良い経験にもなるし構わないわよ。でもそうね、さっきの報酬と合わせてその遠征中に一人、此方にも貸し出してくれないかしら?」

「アイズたんはダメやで?他はまぁ、誰かによるわ。」

 

 思ったよりも軽い調子のロキにヘファイストスの目が光る。

 

「ホーリ」

「アカン。」

 

 にべもない。交渉の余地もなく断られたヘファイストスは切り口を変えることにする。

 

「あら、どうしてかしら?確か貴方のところの新人でしょう?遠征には不要だと思うのだけれど。」

「何でファイたんがホーリィのこと知っとるんか聞きたいわ!確かにホーリィは遠征には参加させへん予定やけど、ほ、他に予定があんねん!」

 

 どうやら勝手に予定を決められているようである。

 

「もしかしてさっきのお願いはそのときに使うのかしら?」

 

 みるみるうちに顔を赤くしていくロキ。

 

「そ、そんなわけあらへんやろ!?ただ、もしかしたらっちゅう………。」

 

 ゴニョゴニョと小声で言い訳を言うロキに流石に悪いと思ったのかヘファイストスは助け船を出すことにした。

 

「からかって悪かったわ。そうよね、入ったばかりの新人は特にかわいいものだものね。さっきの条件は無しで良いわよ。」

「ホンマか!ありがとうファイたん!」

 

 そう言って手を掴むとぶんぶん振りまくる。

 

「じゃあうちいくわ!ファイたん愛してるで!」

 

 嵐のように通りすぎていくロキを見るヘファイストスの眼光は今だ鋭い。

 

「でもま、個人的に頼み事をするのは構わないでしょう?」

 

 誰に言うでもなく呟いた。

 

 

  ■ ■ ■

 

 

 流れるように景色が流れていく。

 森を抜け、迷宮の中の街を抜け、石畳に囲まれたダンジョンを抜けていく。

 

 アイズはまたしてもホーリィにお姫様抱っこされていた。

 

 順調にダンジョンを進む二人であったがそれは29階層で起こった。

 もはや現れるのが当然となりつつある階層主との激戦を制したアイズであったがそこで思わぬ事態が発生する。

 

 お腹が鳴ったのである。

 

 それはもう芸術的なまでに否定を許さぬ程の空腹のサインであった。

 

「ん?腹減ったの?そういえば食べ物持ってきてないな。」

 

 慌てふためき否定しようとするアイズをよそにそうのたまうホーリィ。

 

「そんじゃあ今日はいったん帰りますか。次は食料も持ってこないとな!」

「………うん。」

 

 そんなこんなでいったん帰還する運びとなってしまったのだがそこでホーリィから余計な一言が入る。

 

「ほとんど一人でモンスター倒してたんだからそりゃ腹減るよなー。なんだったらまた運んでやろうか?」

「流石に、悪い。」

「いやいーって!気にすんなって!それに俺が運んだほうが早いし時間の節約にもなるだろ?WINWINの関係ってやつだ。」

 

 どこにホーリィの利益があるのかは解らないが。

 

「だから気にしなくていーぜ?」

「そういう問題じゃない。」

「じゃあどういう問題なんだ?」

「その、………かしい。」

「んん?」

「………恥ずかしい。」

 

 見つめあう二人。

 なんとなく甘酸っぱい空気が流れそうになる。

 だが男には無縁のものだった。

 

「なるほどなるほど。じゃあこれならどうだ?」

 

 そういった男は何かスキルを発動させる。

 瞬間、男の体が膨れ上がる。

 そこには巨体のクマが二足歩行で立っていた。

 背負ったバックパックがランドセルのように感じるほどシュールな光景である。

 

「………クマ。」

「どうよ?これならいいんじゃね?」

 

 先ほどとたいして状況的に変化はないが何故かホーリィはドヤ顔である。

 

「そんじゃーいきますかー。」

 

 

 

 そのまま抱きかかえられたアイズは現在の状況に至る。

 

(くま………。すごいもふもふ。それにすごく、大きい。)

 

 なんとなしにクマの顔を見つめるアイズ。

 その手でクマの鼻を触る。

 

「うおーい、くすぐったいぞー。」

「かわいい。」

 

 そのまま口元をぐにぐにとまさぐる。

 

「え?ちょ、アイズさん?」

「勝手なことするくまにお仕置き。」

「うほっ!」

 

 何故か顔の緩むホーリィ。解せぬ。

 

「………お仕置き。」

「すまんすまん。ちょっと強引だったな~!」

「別にいいけど。」

「いいのかよっ!」

 

 安心できる巨体に身を任せているうちにいつの間にかダンジョンの出口に到達していた。

 

 

 その日、熊に攫われるアイズ・ヴァレンシュタインの噂が流れたとかなんとか。

 

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 アイズをファミリアのホームへと送り届けたホーリィはその足でまたしてもダンジョン入口に戻ってきていた。

 一緒にご飯に食べていきたそうに見つめるアイズを振り切り舞い戻ったのには理由がある。

 

 そう、ホーリィは食欲というものがなかった。

 

 ゲームのキャラクターというのはプレイヤーが何十時間何百時間プレイしようがご飯も食べないしトイレにもいかない。睡眠もしないし性欲も感じない。

 

 ホーリィは身を以てそれを感じていた。もちろん、食べようと思えば食べれるし(ポーションが飲めることから確認済み)、寝ようと思えば寝れる(精神的に寝ようと思えば)。だが、恐らくではあるがしないでおこうと思えばきっと永久的におこなわなくても問題がないのではないかとすらホーリィは思う。

 

 なので、今現在一番気になっていることを試すためにホーリィはダンジョンへと来ている。

 

 

 

 俺、女になれんじゃね?

 

 

 である。

 

 

 DIABLOⅡというゲームのキャラクターは最初にジョブ選択をする。その際のアバターはジョブに由来する性別と体格が決められている。

 つまり、そういうことである。

 

 ダンジョン1階層の隅に移動したホーリィはおもむろに自らの魔法を行使する。

 はたして何時もと変わらずに発動する魔法。

 その後に残っていたのは少女だった。

 

 

 その場にはぽつんと少女が立っていた。

 

 

 自らの手を見るホーリィ。次いで足を見る。胸を見る。頭を触る。恐ろしい違和感に晒されたホーリィは急いで準備していた手鏡を覗き込んだ。

 

「おれ、もう死んでもいいかもしれん。」

 

 DIABLO2というゲームは硬派な洋ゲーである。そのグラフィックもそれに準じたものとなっている。バーバリアンであればガチムチの筋肉お化けであるし、ネクロマンサーなど根暗なおっさんである。そこに萌えも可愛いもない、硬派なゲームであった。

 

 ホーリィの選択したジョブはアマゾン。

 女バージョンガチムチ戦士である。

 豊穣の女主人の女将も裸足で逃げ出すほどのガチムチである。

 で、あるはずなのであるが、ホーリィの手鏡の前には全く違うモノが写しだされていた。

 

 すらっと伸びる手足に小さな顔。まだ発展途上を思わせる肢体に小さな顔。後ろに垂らした金髪が眩しく光る。

 

 正に誰これ状態である。

 これが原作の修正力というやつなのだろうか。

 恐るべしヤスダ○ズヒト。

 

「まるで自分の声じゃないようだ………。」

 

 声すらも修正が入ったのか鈴のなるような透明感のある声であった。

 気分はネカマである。

 

 気分よく少女はダンジョンを進むことにした。

 

 

 

 しかし直ぐに気が付いた。

 

 

 

 やべぇ、これまたしても戦力過剰ってやつだ、である。

 

 少女のビルドはFAzon(フリージングアロウ特化弓アマゾン)である。

 惜しみないほどの超級ルーンをつぎ込んだ男の傑作である。装備はもとよりその所持品にも選び抜かれたチャーム(ステータス等を持っているだけで上昇させるアイテム)を搭載し、並み居る敵を爽快に駆逐するガチビルドである。

 

 今もまた、少女の目の前にモンスターが現れる。目の前のいたいけな少女をその手で切り裂こうと目を光らせながら襲い掛かる。

 

 しかし、少女に到達することはなかった。

 

 少女の纏う冷気のオーラによってその身を止められると、すぐさま凍りつき、そして砕け散る。

 弓すら撃つ必要がない。

 流石にこれはどうなんだろうと少女は思う。懐かしいモーモー牧場(大量の牛の怪物が襲い掛かってくるステージ)とまではいかないが、オラオラと敵を駆逐しようと思った矢先がこれである。

 ため息もつきたくなる。

 

 急降下するテンションのまま少女は階段を下って行った。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 ふと歩くホーリィの元に剣閃の音が聞こえる。

 ちょっと気になったホーリィは足を運ぶことにした。

 迷宮の陰からその姿をうかがう。

 

(おー、やっとるやっとる。初々しいなぁ。)

 

 目線の先には1.5メートルほどの蟻数匹とトカゲや蛾を相手取る少年と大きなバックパックを背負った少女の姿が見える。

 

(おー、あんなにひ弱そうなのによく倒すなぁ。)

 

 目の前では少年にまた一匹モンスターが切り裂かれていた。

 

(装備品めっちゃ貧弱やん。育成用にもっといい装備つければいいのに。っていうか、これが普通の冒険者なんだろうなぁ。)

 

 ギルドの受付で聞いていた冒険者のことを思い出しつつ眺める。レベル1といわれる第3級冒険者は迷宮の浅いところで頑張ってレベリングしてレベルアップしてからさらに奥を目指すという。ということは目の前の二人はレベル1なんだろうなぁと自分を棚に上げて考えていた。

 その目の前で少年の状況が変わる。

 調子に乗ったのか、敵の集団に囲まれて被弾必至の状況に陥っていた。追撃をしようとしている大きな蛾のモンスターまでいる。

 

(おっ?やばいんじゃね?)

 

 迷わず弓を向けると引き絞り放つ。

 その弓から魔法の矢が放たれ、寸分たがわずモンスターに突き刺さる。

 

「――――――――えっ!?」

 

 自らの被弾を覚悟していたのか少年は驚きの声を上げる。

 貫かれ消滅していくモンスターを見ながらあたりを見回した少年はほかにモンスターがいないのを確認するとホーリィに向き直った。そのままホーリィに向かって駆けてくる。

 

「ちょちょちょっとまったーーー!ストップストップ!!近づいちゃダメ!!!」

 

 寸でのところで呼び止めると武器を裏武器に変えるホーリィ。もう少しで少年は氷の彫像と化すところであった。

 武器を変えたホーリィはほっと胸を撫で下ろしながら少年へと近づく。

 そのホーリィに向かってベルがぺこりと頭を下げた。

 

「あ、危ないところをありがとうございました!」

「本当です。ちょっと調子に乗りすぎてますベル様。」

「ごめんなさい。もうあんな事にはならないようにするよ!あ、リリもほらっ!」

「コホンッ。危ないところを有難うございました。」

「いやいや、見てられなかったからね。」

 

 そこで初めてお互いを確認しあう両者。

 

「~~~~!!!」

 

 途端にベルの顔が赤くなっていく。

 

「ベル様?ベル様!」

「はっ!ごめんなさい~~!!僕はベル・クラネルって言います。こっちはリリカル・アーデ。改めてありがとうございました!」

「眩しい、眩しすぎて眼がっ、眼が潰れるっ!!」

「えっ?」

「いやなんでも。」

「あの、もしかしてお一人なんですか?」

「うん。そうだけどどうかした?」

「すごいなぁって思って!さっきも颯爽とモンスターを倒されてかっこよかったです!あ、そうだ。名前を聞いても良いですか?今度お礼をします!ご迷惑でなければですけど………?」

 

 一体誰がこの申し出を断れるであろうか。庇護欲を掻き立てる雰囲気にこちらを窺うような表情。少し顔も赤らんでいる。 

 

「リリがせっせと魔石を回収している間にナンパとはいいご身分ですね、ベル様?」

「えっ!?違うよリリ!助けてくれたお礼をしようと思っただけだよ!?」

「本当ですか~?リリにはとてもそうとは見えませんでしたけど。」

「本当だって!ですよね!?」

 

 助けを求められたホーリィはたじろぐ。

 

「う、うん。別にナンパされていたわけじゃないと思うよ?」

「ほ、ほらぁ!あ、それでお名前はなんていうんですか?」

 

 聞かれたホーリィは考える。

 ホーリィ・馬場と名乗ってもいものか。

 ホーリィ・馬場は掘り馬場の名前である。

 このキャラクターにもきちんと名前がある。

 そちらを名乗ったほうがいいのではないだろうか。

 しかしてホーリィは言い放つ。

 

「ホーリィ・馬場といいます。ここで会ったのも何かの縁、よろしくお願いします。」

 

 ぶっちゃけ名前を使い分けるのが面倒くさかった。ホーリィというのも中性的で男女どちらでもいい気がする、と。

 

「ホーリィさんっていうんですか、よろしく願します…………って、ホーリィさん!?」

 

 ベルの驚きもわかるというものである。ここ数日、この名前はよく聞く。冒険者ギルドで聞かない日はないというほどよく聞くのである。

 そのホーリィが目の前にいるのである。驚くのも当たり前である。

 

「ホーリィさんって、アイズ・ヴァレンシュタインって知ってますか?」

「ん?知ってるよー?同じファミリアだし。」

「じゃあじゃあ!最近一緒にダンジョンに行きましたか!?」

「ここ二日ぐらい一緒に潜ってるけどどうかしたの?」

 

 そこまで話すとベルは天に向かって祈りをささげだした。

 

(最近アイズ・ヴァレンシュタインに恋人が出来たって噂だったけど、女の人だったんだ!よかったぁ!噂じゃ僕が逆立ちしても敵わない人だって聞いてたけど、違ったんだぁ!)

 

「申し訳ありませんホーリィ様。これはベル様の持病のようなものなのでほおっておけば治ります。それで、お聞きしたいのですが、あのアイズ氏をお姫様抱っこでダンジョンから出て来られたというのは本当でしょうか?」

「確かにそうだけど、よく知ってるねー。」

「冒険者なら皆知っているかと。」

「ふぅ~ん。ま、いいや。それで、これからどうするの?」

 

 未だ神に祈るベルを眺めながらホーリィは尋ねる。

 

「リリ達はもう少しこの辺りに籠ろうと思います。ホーリィ様はどうされるのですか?」

 

 リリとしては助けてもらったのは感謝しているが、ホーリィには早く何処かに行ってほしいと考えていた。

 そうしなければ本業に差支えてしまう。

 

「ねね、もう一回私の事呼んでみてもらっていい?」

「………ホーリィ様?」

「もう一回!」

「ホーリィ様。」

「はぁはぁ、もう一回!」

「…………………ホーリィ様?」

 

 明らかに興奮した様子のホーリィに知らず半歩下がるリリ。

 しかしその行動空しく襲われることとなる。

 

「うわー、可愛いなぁ!なにこの背徳感!すっごいお持ち帰りしたいんだけど!」

 

 抱き付かれるリリ。その瞬間、被っていたローブがめくれその頭が露わになる。

 犬耳であった。

 

「犬耳きたこれ!うわーうわーうわー、なんという手触り、っていうことはっ!!うほっ、しっぽまであるやん!?」

 

 もみくちゃにされるリリ。

 

「なんなんですか!?ってちょっ!どこ触って、こらぁ!いくら温厚な私でも怒りますよ!?」

 

 

 それは新たなモンスターが壁から生れ落ちるまで続いた。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

「サーセン。」

 

 ホーリィは正座していた。

 何故か一緒にベルも正座していた。

 

「本当に反省してるんですか?」

「海よりも高く山よりも低く反省しております。」

「それって反省してないよね?」

「ベル様は黙っててください!」

「ええっ!?」

「見ているだけで助けてくれなったベル様も同罪です!」

 

 そうなのである。

 正気に戻ったベルは女の子二人がにゃんにゃんしているのをあたふたと眺めるだけで止めなかったのである。

 

「はぁっ。それでホーリィ………様はこれからどうされるのですか?」

 

 一瞬言いよどんだリリが再度質問する。

 

「んー、暇だしついて行ってもいいかな?あ、もちろん取り分は無しでいいよ?」

「本当ですか!?頼もしいなぁ!是非お願いします!」

「………ホーリィ様はもっと深い階層に行かれると思っていました。」

「あっ、確かに。このあたりだとホーリィさんは経験値にならないんじゃないですか?」

 

 嬉しそうにはしゃぐベルとは対照的なリリ。尤もな質問に対して驚愕な事実が判明する。

 

「えっ?私はつい一昨日冒険者になったばかりのぺーぺーだよ?ここまで来れてるのは装備品がいいからだから。」

 

 嘘とはあながち言えない。

 しかしホーリィの体に刻まれた恩恵は云わばボーナスステータスのようなものである。あくまで現在のステータスに上乗せ加算されるものであるのだから普通の冒険者と一緒にしないでもらいたいものであった。

 

「ええ~~!?じゃ、じゃあ………僕のほうが先輩ってこと?」

「そうですよー?ダンジョン初心者の私に何卒ご教授ください~。」

 

 大袈裟な仕草で頼み込むホーリィにベルは小さく先輩っと呟く。

 

「ぼ、僕はいいと思うんだけど。リリはどうかなっ?」

「ベル様が決められたのならリリに嫌はありません。」

「えっと、それじゃあとりあえず今からダンジョンを出る間までですけどよろしくお願いしますっ!」

「よろー。」

「………よろしくお願いします。」

「よろしくリリちゃん!」

「引っ付かないでください!歩き辛いです!」

 

 

  ■  ■  ■

 

 

「ふっ!!!」

 

 ダンジョンの一角でベルのナイフがモンスターを切り裂く。それをサポーター二人が眺めていた。

 

「ベル君やるねー。それにしてもあのナイフ、すごい切れ味だねぇ。ほしいなー、ほしいなぁー。」

「それには全面的に同意します。何しろあのヘファイストスの作品ですから。」

 

 怪しく光るリリの眼光に気が付くことなくホーリィは何かを思いついたのかその弓を取り出すと引き絞った。

 出鱈目に放たれた矢は追尾するかのように鋭角に曲がると残されたモンスターへと殺到する。

 

「すごい………。」

 

 その光景にリリは圧倒される。

 どこの世界のレベル1が秒間8発もの矢を放ちそれが全てモンスターを貫通していくのだろうか教えてほしい。

 

「あ、ホーリィさんありがとうござい、って近い近い!?」

「ベル君、そのナイフ見せてー?」

 

 気が付いた時には目の前に移動していたホーリィにたじろぐベルであったが顔を赤らめながらもナイフを差し出す。

 受け取ったホーリィはおもむろに鑑定のスクロールを取り出すとそれをベルのナイフへと使う。

 

「へぇ~。これはすごい。すごいねこれ。でも条件がなぁ。使えないのかぁ。いや、ヘスティアファミリアの恩恵を受ければ何とか………?」

 

 あっという間の出来事に驚いていたベルが正気に戻る。

 

「うわあぁ!神様のナイフに何してるんですかぁ!?」

「あーごめんごめん。つい。あ、でも鑑定しただけで別に何もないから安心して?」

「あ、そうなんですか。よかったぁ。」

 

 そんな二人を見つめるリリの視線は少しだけ細められていた。

 

 

 

 

  ■  ■  ■

 

 

「「100530ヴァリス!?」」

 

 そこは冒険者ギルドのカウンターであった。

 つい再程今回の冒険で得た魔石とドロップアイテムの売却をしたところである。その換金額に二人は驚きを隠せないようであった。

 

「すごいすごい!こんなに貰えるなんて夢みたいだ!」

「リリもこんなに貰えるとは思いませんでした。でも今回はドロップアイテムが沢山出ましたし、運が良かったのかもしれませんねっ!」

 

 窘めるように言うが同じく嬉しそうにしているリリ。そんな二人の空間にはてなを浮かべ続ける人物が一人。

 

(あれ、もしかしてドロップアイテムって結構高く買取されるんだなー。あれっぽっちで100kで買取してくれるんだったら今日のドロップアイテム売り払ったらやべぇんじゃねぇの?)

 

 今日の前半だけで恐ろしい量のドロップアイテムを手に入れているホーリィは戦慄した。しかし、その脳内はオラリオの常識を遥かに超えていたため全く関係ないのであるが。

 

(っていっても魔石は売却専用アイテムみたいだし、やっぱドロップアイテムは取っておいて装備作るのに使ったほうがよさそうだなー。お金は余ってるし。)

 

 リリが聞けば刺されそうな事を考えるホーリィ。

 そんな事を考えている間に二人は盛り上がっているようであった。

 

「じゃあ報酬はどうしよっか?ホーリィさんもいるから3等分でいいかな?」

「またベル様はそんなことをおっしゃいます。何度も言うようですがリリはサポーターなのです。ここはお二人で分けられてその端数をリリに頂ければ構いません。」

「そういうわけにはいかないよっ!はい、これリリの分。それとこれはホーリィさんの分!」

 

 渡されるヴァリスに首をかしげるホーリィ。

 

「あれ、私いらないって言わなかったっけ?」

 

 確かに言ったような気がすると呟くとそれをベルが遮る。

 

「要所要所でホーリィさんの援護はすっごく助かりました!これはお近づきの印ってことじゃダメですか?」

 

 びっくりするホーリィを余所にベルは立て続けに言う。

 

「別に毎回ってわけじゃなくていいのでたまにパーティを組んでくれたらなーって。本当に、もしよかったらなんですけど!リリも良いよね!?」

「はぁ~。もう勝手にしてください。それにリリは別に嫌では無いですし。」

 

 二人の視線にちょっと照れるようにホーリィは返す。

 

「たまにだよ?もし暇だったら一緒について行ってあげる。」

「やったー!それじゃあ、もしよかったらこれから一緒にご飯でも食べに行きませんか?今回の報酬を使ってぱーっと!リリも一緒にいこう!」

「………しょうがないですね。余り散財はお勧めできませんが今日は特別ですよ?ホーリィ様はどうされますか?」

「しょうがないなー、ご同伴にあずかろうかなぁ?」

「それじゃあいいお店があるんですよ!こっちです!」

 

 

 3人は連れだって夜の街に消えていった。

 

 

 

 




※解説(読まなくても全く問題ありません。)


 RW Faith

Required Level: 65
Level 12-15 Fanaticism Aura When Equipped (varies)
+1-2 To All Skills (varies)
+330% Enhanced Damage
Ignore Target's Defense
300% Bonus To Attack Rating
+75% Damage To Undead
+50 To Attack Rating Against Undead
+120 Fire Damage
All Resistances +15
10% Reanimate As: Returned
75% Extra Gold From Monsters

 今回裏武器にこちらを装備しています。これを装備するといろいろ強くなるオーラ(Level 12-15 Fanaticism Aura When Equipped (varies))を纏えてかなり強いです。
 
 メイン武器についてはこちら。


 RW Ice

Required Level: 65
100% Chance to Cast Level 40 Blizzard When You Level-up
25% Chance to Cast Level 22 Frost Nova On Striking
Level 18 Holy Freeze Aura When Equipped
+20% Increased Attack Speed
+140-210% Enhanced Damage (varies)
Ignore Target's Defense
+25-30% To Cold Skill Damage (varies)
-20% To Enemy Cold Resistance
7% Life Stolen Per Hit
20% Deadly Strike
3.125-309.375% Extra Gold From Monsters (Based on Character Level)


 色々とフリージングアローを強化するMODが付いています。作中で周りのモンスターがパキパキ凍っていくのは周りの敵にスロウをかけて氷属性ダメージを与えるオーラ(Level 18 Holy Freeze Aura When Equipped)を纏っているためです。


 正直、ガチビルド過ぎてボケるところがないのが珠に傷。

 実際にこのビルドを使用すると敵が面白いぐらい簡単に殲滅できます。ヘルのモーモー牧場など爽快すぎてやめられません。


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