ダンジョンでウホッするのは間違っているだろうか。   作:アルとメリー

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 お詫び。

 この作品はDIABLOⅡのビルド紹介を頻繁にするため、TS表現が度々見られることとなります。それらに耐性のない方はブラウザバック推奨となります。
 こんな作品でもたくさんの方に見ていただけて幸せです。
 DIABLOⅡラダーに人が増えることを祈っております。←


 ところで、
 R15って何処までの描写を言うんでしょうか?
 解せぬ。


我が名はサモンネク!無敵の我が軍勢を見るが良い!ふはははははは!!!

「今帰ったぞー!」

 

 勢い良くロキファミリアの扉を開けるのはホーリィであった。

 その姿はいつものガチムチマッチョ、掘り馬場である。なんだかんだ言いつつこの姿が一番落ち着くホーリィは豊穣の女神で一杯やった後に姿を戻すとそのまま帰って来たのである。

 

「おおー、誰もおらんのかー。」

 

 返事のない室内もそのはず、今は深夜2時をまわっている。とっくに皆寝入っている頃だろう。

 

「しゃあない、眠くないけどやることもないし寝るか。」

 

 その足で寝室へと行くのであった。

 もちろんロキの。

 

 

 部屋に入ると服を脱ぎ、全裸になるとベッドへと移動する。

 部屋は鍵がかけられていたが無駄に高性能なホーリィはソーサレスのスキル、テレキネシスで鍵を開けて侵入した。これ人は不法侵入という。

 

 言い訳をするとこの時、ホーリィ個人の部屋というものがまだ割り振られていなかった。その為、どこで寝るかとなるとやはりロキの部屋となるのである。

 

 そのホーリィはベッドの中に潜り込む。

 最初っから入っていたロキを抱えると自身の胸の上に置くとそのまま布団をかぶる。

 

 そのまま夜は更けていった。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 朝の訪れと共に目を覚ましたロキは暖かい体温を感じそれに顔を埋める。

 そのまままどろむ事数分。

 その不可解な現状に気がついた。

 

(暖かい………?)

 

 違和感に目を覚ますと上体を起こす。

 その目の前には彫像のような顔に筋肉に覆われた胸板。それを見てロキは現在の状況を悟る。

 今現在ロキは仰向けに眠るホーリィの上に跨って抱きついていた。

 少々あれな体勢であることを除けば昨日と同じ状況である。

 一気に赤くなるロキの表情。

 しかし、声を上げることはなかった。

 

「またおるし。ちゃんと鍵閉めといたのにどうやってはいんねん毎回。」

 

 小さく呟くと両手をホーリィの胸板に付くと上体を完全に起こした。

 くくっていないロキの髪がサラリと流れる。

 流石に2度目ともなると騒いだりしない。ロキには学習能力があるのだ。

 

「毎回毎回うちばっかりドキドキさせられるのは不公平や。それにこういうのも良いかもしれへんなぁ。」

 

 髪を搔き揚げると再度ホーリィの体へと身を預ける。

 お互いの心臓の鼓動が優しくロキの体に響く。

 密着した体はお互いの熱を余すところなくココロへと伝える。

 そっと手を動かすとロキはホーリィの指に自身の右の指を絡ませた。

 あたかも恋人同士が戯れるかの如く。

 

(はぁ、ものごっつ安心する。もう何も考えられへんわ。)

 

 とりあえずこのまままどろもう、そうロキは決めたのだった。

 

 そこでふと視線を横にやる。

 そこにはベッドの横に体育座りで座るアイズがいた。

 

 

 ものすっごい見ていた。

 

 

 

 まるで珍妙な生物を見るような視線でロキを見やるアイズ(ロキ主観)。

 自分の主神の新たな一面に興味津々であるようだった(ロキ主観)。

 もはやこれは「昨日はお楽しみでしたね」であるかのような視線(ロキ主観)。

 

 ここまで考えたロキは小声でコミュニケーションを取ろうと試みた。

 

「お、おはようアイズ。」

「うん、ロキおはよう。」

 

 やはりこれは幻覚ではないようであった。

 一気に体温が上がるロキであったが現在の体勢を思い出したのか身動きを取れない。

 そのままホーリィの胸に顔を埋めたままの体勢で話すことにした。

 

「アイズたんはなしてここにおるん?」

「ステータスの更新。でもロキが寝てたから待ってた。」

「鍵、かかっとらんかった?」

「かかってなかった。」

 

 ホーリィを恨むも後の祭りである。

 何とかしようと考えるも良い言い訳が浮かばない。

 そんなロキに更なる試練が訪れる。

 

「………ロキはホーリィと何をしてるの?」

 

 今こそアイズの性教育を疎かにしたことを悔やんだ瞬間はないだろう。

 8歳のときからあれよあれよとそういったものから遠ざけてきたツケがやって来たのである。

 ここでロキの主神としての真価が問われるのであった。

 

(まずいまずいまずいまずい!)

 

 現在の状況は非常にまずかった。

 ロキはアイズに変な虫がつかないように偏った教育をしている。

 

 曰く、

 男と接触はなるべくしない。

 男に肌を露出しない(しかしロキの趣味や戦闘時の身軽さからアイズは少し露出の高い服を着ている)。

 男は獣、ほいほい付いて行かない。

 男と同じ部屋で寝ない。

 男となるべく喋らない(同じファミリア除く)。

 自分より弱い男はダメンズ。

 等々。

 

 とにかく男との接触を避けさせていたのである。

 アイズは意味は判らないがとりあえず言われたとおりにしていた。

 

 しかしである。

 

 現在のロキの状況はどうであろうか?

 男(ホーリィ)の上に裸(ロキはギリギリパンツ一枚)で跨って体を密着させている。

 しかも嬉しそうに(アイズ主観)。

 しかも現在進行形である。

 

 そんな状態でもロキは未だホーリィの胸に顔を埋めている。

 しかしこれには訳があった。

 

 ロキが起き上がるとホーリィが顕になってしまう。

 今更ではあるが可愛いアイズに見せるわけにはいかなかった。

 本当に今更ではあるが。

 

 その為、現状のまま上手い言い訳をしなければならなかった。

 

「あんな、これは新しくうちのファミリアに入ったホーリィと主神であるうちとのコミュニケーションや。アイズも入ったばっかの時はよう一緒に寝とったやろ?」

 

 小声で諭すように言うロキ。

 流石ロキ、こんな状況でもその頭はキレていた。

 そのまま何とかステータスの更新に話を逸らしてホールに行かせようとしたが、それは脆くも崩れ去る。

 

 

「………じゃあ私も一緒に寝る。ホーリィのこと、もっとよく知りたい。」

 

 凍りつくロキ。

 だが凍りついている時間はなかった。

 有言実行、すぐさま服を脱ぎだすアイズ。

 流石にそれをとめようとロキは動こうとしたがそれはできなかった。

 

「んあっ。」

「………。」

 

 少しだけ身じろぎするホーリィ。

 そして絡まるお互いの指。

 擦れ合う体。

 予想以上に火照っていたロキの体は思わぬ刺激に声を上げてしまう。

 

 もはや爆発しそうなほど赤くなったロキとアイズの視線が交錯する。

 それによってロキはアイズを止めるチャンスを永遠に失ってしまった。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 頭の上で小さな話し声が聞こえたホーリィの意識が浮上する。

 ぼうっとした頭でホーリィは現状を確認していた。

 

「ちょ、ちょいまちぃ!?少し落ち着きぃな?前から教えとるやろ?男の前でやたらに肌を晒したらアカンって!?ええ子やからまずは服を着てやな?」

「でもロキも裸。だから私も服を脱ぐべき。」

「いやいやいや、アイズたんうちが寝るときパンツ一枚ってしっとるやろ!?」

「これとそれは別問題。」

 

 頭のすぐそばで繰り広げられる言葉の応酬に現状を悟ったホーリィ。

 自分が起き上がれば丸く収まりそうな気がする一方でちょっとした悪戯心がムクムクと起立する。

 何しろ、寝る前はあまり考えず今の体勢になったがよくよく考えるとすごい格好なのである。

 しかも何故かロキは嫌がることなく体を密着させている。いつの間にか繋いでいるお互いの指も絡まり方がなかなかにエロティックであるし。

 そう考えるとホーリィは少し興奮してしまったのだ。

 その為、ちょっと大きくなってしまった。

 何がとは言わない。

 

 

 ナニが。

 

 

 ホーリィの体は性欲等生理的現象とは無縁の体である。しかし中身である男の精神に依存して反応してしまうこともある。男がゲーム脳である限りはどんなに長時間の作業であろうとも耐えうるし、世界のルールというものを認識してしまえばそれに縛られる。

 

 そう、それは若い男性であれば当然の如く存在する、朝における体の一部の膨張現象ですら存在しなかったのであったが中身の精神高揚によってムクムクと大きくなっていった。

 

「そもそもアイズたんは一緒に寝る必要ないやろ!?大人しく服着てロビーで待っあああああああぁ!?」

「………ロキ?」

 

 ちょっと大きくなったホーリィのアレが丁度良い位置にあったロキの股間をなぞる様に上を向く。それは鼓動を打つかの如く絶妙な刺激をロキに与えた。

 なんともいえない力の抜けた顔をするロキ。その体からは力が抜け、しかし絡ませた四肢に力が入る。

 絡まった指を優しく握り返すホーリィ。

 空いた左手をロキの太ももに沿わせるように上がり、お尻の際を撫でる。

 

「な、なんでもあらへんよぉ?って、起きんかい!」

 

 流石に触られると気がついたようである。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 ロキファミリアのホーム。

 大きなリビングでホーリィは椅子に座ってのんびりしていた。

 間男のように部屋を追い出されたのである。

 ロキはおそらくアイズのステータスを更新しているのであろう。

 

(今日はどうするかな。アイズと一緒にダンジョンに行くのも良いがドロップアイテムを置いてこないと嵩張ってきたし、一旦ヘファイストスのところに行くかな。)

 

 先ほど部屋を追い出されるときにロキから絶対にどこにも行かないように言い含められていたのだがそんなことはもうすでに忘れていたホーリィ。

 思い立ったが吉日とばかりに椅子から立ち上がりバベルへと旅立った。

 

 

 

 街を歩くホーリィは違和感を感じる。

 

(なんか、めっちゃ見られてるんだけど。)

 

 すれ違う人ほぼ全てから振り返られ二度見される。

 ガン見してくる人もかなり多い。

 それは単にここ最近のホーリィの行動によって知名度が上がっているというのもあるが元々目立つのである。

 スキンヘッドの頭というのに刺青まで入っている。

 目立つことこの上ない。

 あっという間にオラリオの街の住人に知れ渡ってしまったのである。

 

(なんか悪い事したかなぁ。というよりも、このガチムチが悪いのか?もっとスマートな感じだとこんな風に見られないんじゃね?)

 

 どうやらホーリィは現在の風体が好奇の視線を呼び込んでいると判断したようである。

 そう考えたホーリィは人目につかない路地裏へと入る。そこでキャラを変えた。

 

 新たに現れたのは趣味の悪い骨の衣装を纏った白髪の中年。

 その体は細く、とても前衛職とは思えない。

 そしてその纏う空気も悪く背後には気味の悪い青いオーラが幻視される。

 そんな姿を確認したホーリィは意気揚々と通りを歩く。

 

 バベルのダンジョン入り口まで到達したホーリィは辺りを見回す。

 適当なサポーターを探しているのであった。

 現在ホーリィには確認したい事があったのである。

 それはサポーターを傭兵として扱えないかという事である。

 

 DIABLOⅡというゲームにはプレイヤーのお助けキャラとして傭兵を一人雇える。

 その傭兵に自分の不得意なモンスターを倒させたり、サポート装備を装備させて敵を倒すのを効率的に行えるシステムである。

 つまりはホーリィはサポーターにサポート武器を装備させて効果を得られないかと思ったわけである。

 

 そんな考えを持って辺りを見回すホーリィは一人で佇む小柄な人影を見てにんまりする。

 やはり初対面よりも見知った人のほうが安心できるというものである。

 

「やあお嬢さん、一緒にダンジョンに潜ってくれるサポーターを探しているのだが、君はサポーターかな?」

 

 目の前に立つとそう話しかける。

 少々キャラに合わせてロールプレイをしているがそこはご愛嬌だろう。

 但し、今現在のホーリィは白髪の中年。しかも細部を骨で装飾された明らかに危ない系の風体をしている。声もおどろおどろしい。

 

 話しかけられた少女は飛び上らんばかりにビビリながら返事をする。

 

「はははい!サポーターです!サポーターがご入用でしょうか!?」

「そんなに畏まらなくてもよい。それで時間はあるかな?先約がいなければ今からでもお願いしたいのだが?」

 

 ホーリィ本人は普通に話しているつもりでもその威圧感は半端ないレベルである。顔を真っ青にした少女はこくこくと頷かされる。

 

「そうかそうか、では参ろうか?」

 

 そう、この時から少女―――リリルカ・アーデの受難が始まる。

 

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 リリルカ・アーデは恐ろしい雰囲気の中年にダンジョンへと連行された。

 これは身の毛もよだつ凄惨な虐殺劇の記録である。

 

 ダンジョンへと入った男(まだ自己紹介すらしていない)は手をかざすと地面から土の塊を呼び起こしだす。

 それは寸胴な人型となり動き出した。

 

 リリは感心する。

 

(見た目的に前衛ではないと思いましたが、そういう魔法を使う人なんですね。)

 

 自身の知らない魔法を使う中年の後ろを歩きながらそんな事を考える。

 このときはまだ余裕があった。

 

 最初の敵、ゴブリンが現れた瞬間、土の人形が突撃する。その土で出来た体からは想像が出来ない力で出された拳はゴブリンの体を何の抵抗も無く抉り取る。

 残されたのは抉られた死体だけであった。

 

(強い!ゴブリンとはいえ、鎧袖一触ですか。これは安全な旅になりそうですね。って、えええええ!?)

 

 先ほどの戦闘ともいえない戦闘の考察をしていたリリの目の前でおぞましい光景が広がる。

 ゴブリンの死体からベキベキと音を立てて立ち上がる骨人形。

 その光景は残酷で見るに耐えない恐怖を想起させるものであった。

 しかもそれをしていると思われる男は薄らと笑いを浮かべている。

 

(ひぃぃぃ!安全って何ですか!?何でさっき頷いたんですか!?)

 

 サポーターはかなりの数がおり、普通は所属しているファミリアに連れられていく為野良のサポーターというものは競争率が非常に高い。その為、本能では付いて行っては駄目だと思いながらも実利と興味と恐怖から付いてきてしまった事を早くも後悔しているのであった。

 

 そんな事を考えている間に新たに現れたモンスターが人形と骨で出来たスケルトンに駆逐されていく。

 そうして出来た死体から更にスケルトンが増えていく。

 そう時間がかからずにリリの周りは骨に埋め尽くされていた。

 

 その数30体。

 

 その半数が剣や斧を持った戦士のようなスケルトン、そして半数が簡単な魔法を放つスケルトンである。

 全周囲を覆い尽くすような集団の出来上がりである。

 その中心に男とリリはいた。

 

(完全に囲まれました。逃げれません。もうリリはこの骨さんと一緒の存在にされてしまうのでしょうか?)

 

 リリの仕事といえば魔石と何故かたくさん落ちるドロップアイテムの回収のみ。

 死体は残らない。

 全て骨になるか死体になった瞬間に爆発する。

 辺りに散乱するモンスターの肉の海から一生懸命回収するのみである。

 

(はやく、かえりたい。)

 

 そう、その時はまだそんな事を思っていた。

 

 

 

 どんどんと階層を進む二人とお供のスケルトン達。

 リリが顔を青くする間もなく既に39階層。

 前線にいる骨が現れるモンスターを全て屠って行く。

 ちょくちょく現れるボスっぽいモンスターは地面から生える骨の檻に囲まれ、身動きが取れないうちにタコ殴りにされ、死に絶える。

 そこまでは良かった。いや、良くはないだろう。

 しかし良かった。

 そこからが問題だったのだ。

 

 今しがた死んだと思われるモンスターが起き上がる。

 まるでゾンビのように光の無い瞳を揺らし、スケルトン達の輪に加わっていく。

 それは正しく死者の行進。

 骨とゾンビの行進である。

 

(神様、リリが悪かったです。これは天罰なのですね、今まで行ってきた悪行でリリはこのまま冥府の底まで連れ去られていくのでしょうか?)

 

 そんな事を考えながらでもしっかりと魔石とドロップアイテムを拾うリリ。

 

 恐ろしく安定したこの軍団は何の障害も無くダンジョンを進む。

 

 そこで男が何かを思い出したかのように言葉を発する。

 

「おおそうだ、これを持ちたまえ。」

 

 そういうと何処からか取り出したポールアックスをリリへと渡す。

 

「これを持っていると精神力の回復速度が凡そ8倍になるという優れものなのだよ。もちろんパーティーメンバーにもその恩恵はある。」

 

 受け取ったリリはその異常な性能に驚きはするものの完全に思考は停止していた。

 

(今更こんな物を渡されてももうどうでもいいのです。ダンジョンの奥は冥府へと繋がっているのです。リリはそこに連れ去られていくのです。)

 

 完全なレイプ目であった。

 

 そんなことがあっても関係なくダンジョンの景色は移り変わる。

 通常の冒険者の速度ではない。

 移動の方法ですら常軌を逸していた。

 なにしろ、

 

 移動は全てテレポートなのである。

 

 骨のスケルトンが出揃った辺りから面倒になったのか歩きすらしない。

 一瞬で切り替わる視界。

 切り替わった視界にはやはり男とリリを囲む骨とゾンビの群れ。

 そしてスケルトン達とゾンビに蹂躙されるモンスター達。

 色鮮やかな魔法の矢が飛び交い、戦士のスケルトンが切り込んでいく。ゾンビによる捨て身の攻撃。

 力尽きたゾンビは新たな死体によって補充されていく。

 

 あっという間に50階層へと到達してしまった。

 49階層で出てきた巨人は予定調和であるかのごとく骨の壁に拘束されている間に沈み、今はその巨体が死者の軍団の一員と化している。

 一体誰がこの行進を止められるのだろうか。

 一体何処まで行くのだろうか。

 そろそろリリのバックパックもいっぱいである。

 中身も本当に必要なもの意外は捨ててまで拾ったドロップ品をつめている。

 しかしそろそろ限界が訪れようとしていた。

 

「あの!まだ進むんでしょうか!?ここからはその、竜の回廊に入ると思うんです!その、危険ではないでしょうか!?」

 

 ぶっちゃけリリは欠片も危険を感じていない。この階層に降りてくる間、一度たりとも危険と思う状況に遭遇していない。

 ここまで安定感のあるダンジョン攻略は存在するのかというほどの安心感である。

 その安心感を与えるのが骨とゾンビということを除けばではあるが。

 しかし知識としてはここからは更に危険というのは知っている。

 もう荷物も入らないし、帰れるのなら今すぐにでも帰りたい。

 一縷の望みにかけてみたのである。

 

「ふむ。確かにそろそろ帰っても良い頃合ではあるな。では次の階層で火竜を倒したら帰ろうではないか。」

 

 リリは思う。何を言っているのだろうかこの男は。

 

「まあ、すぐに終わる。それが終わったら帰ろう。」

 

 そう男が言うと景色がまた変わる。

 とうとう竜の回廊へと突入してしまったのだ。

 

(あ、死にました。)

 

 入ってすぐにリリが感じたことは死であった。

 目の前に現れた巨大な二足歩行のトカゲ。

 もといドラゴン。

 その巨体に見合った威圧に弱者を睥睨する視線。

 それは息を吸うとリリ達に向かってブレスを吐き出した。

 それは正しく致死のブレス。

 全てを溶かすアカイロの世界。

 

(お父さん、お母さん、もうすぐリリもそこに行きます。………ベル様申し訳ありません。)

 

 目を閉じたリリ。

 しかしいつまでたっても何も起こらない。

 炎に焼かれる苦痛も吹き飛ばされる衝撃も。

 

 目を開けたリリはその眼前に広がる光景に最早どうでも良くなった。

 

 至る所に広がる骨の壁。

 そして常に切り替わる視界。

 そして転移するたびにスケルトンメイジから放たれる4色の魔法の矢の群れ。

 巨大なドラゴンの周りを飛び回りつつ確実にダメージを与えていく死者の群れ。

 そしてそれを効率よく扱う男。

 そこまで見てやっとリリは悟った。

 

 ああ、見た目はアレですがこの人、英雄なんだ。

 

 強大なモンスターに邪悪な手下を使い勇敢に立ち向かう。

 それは神話の時代から語り継がれる英雄譚のようであった。

 

 

 そんな事を考えている間にも戦闘は続いていく。

 確実に蓄積されるダメージはドラゴンの翼に穴を開け、足を凍らせ鱗は剥がれ落ち、見える地肌は毒で赤黒くなっている。

 遂には力尽きその身を横たわらせる。

 後に残ったのは無傷の男とリリだけであった。

 

「ふむ、では回収して帰るとしよう。」

 

 残ったドロップアイテムを拾うと男は踵を返す。

 そこからはあっという間であった。

 テレポートを高速で繰り返し、1階層にいつの間にかいたのである。

 

「ちょっと待ってくれるかな?」

 

 そういうと男はなにやら骨やゾンビに手をむける。

 向けられた先の死者はその役目を終えたとばかりに崩れ落ち、残ったのは灰のようなものだけであった。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 リリと男は二人して向き合う。

 今はもう二人しか居ない。

 恐ろしい死者の軍勢は土に帰ったのである。

 そうして男が口を開こうとしたとき、それに割って入るようにリリが話しかける。

 

「今更になりますが、リリはリリルカ・アーデと申します。英雄様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「ふむ。わが名は………、ネク。ネク・サマナーという。」

「ネク様とお呼びしますね。それとお借りしていたこの武器をお返しします。今回はネク様の英雄譚の隅にリリのような者を加えてもらいありがとうございました。」

 

 ぺこりと頭を下げるリリ。

 

「………何かを勘違いしていないか?まあいい。それで報酬なのだがね、私は最後に倒したドラゴンのドロップ品をもらえればそれでいい。他は君に上げよう。元々アレをとりに行くために今回は潜ったようなものでね、道中のドロップがもったいないから君を雇ったのだよ。」

 

 一体この男は何を行っているのだろうか。

 日々命がけでダンジョンに潜っている人々を馬鹿にしているのだろうか。

 力の無い弱者を哀れんでリリに施しを与えようとしているのだろうか。

 

(ふざけないでください!リリは、リリはそこまで堕ちては居ません!)

 

 リリの中に残る最後のプライドが男の提案を拒否する。

 

「いりません。今回私は何もしていません。こんな大金に化けるドロップ品をもらうような仕事は一切していません!」

「お、おお。」

 

 思いのほか強い否定の言葉にたじろぐ。ロールプレイが崩れているのはご愛嬌。

 

「おほん、ではそうだな。頼まれごとをしてくれないかな?その後、君が自身の仕事に見合うだけの物をその中から取ってくれれば構わない。」

「………どんな頼みごとでしょうか?」

「なに、簡単なことだよ。バベルに居るヘファイストスという神に今回のドロップアイテムを届けてほしい。ああ、その時にホーリィ・馬場からだというのを忘れないでほしいのだが。」

「わかりました………。」

 

 リリは有り得ない提案に歯噛みする。

 そうして結論を出した。

 先ほどの提案も今回の提案もこの男にとってはそこまで頓着するようなことではないのだ。竜の回廊で手に入れたボスドロップすらも他人に任せても良い程度の価値しかない。そしてリリがこれを持ち逃げするかもしれないということすらも問題ではないのだ。

 無くなれば、もう一度とりに行けばいい程度の認識。

 睨み付けるように男の提案を承諾するとリリは早足でその場を後にすることにした。

 今はこの男と一緒に居たくは無かった。

 自分の惨めさが浮き彫りになる。

 

 この日、リリルカ・アーデという少女は渇望することとなる。理不尽なまでの強さに、其れを当然とする精神を。

 

 

 




 ※解説

 RW Insight

Required Level: 27
Level 12-17 Meditation Aura When Equipped (varies)
+35% Faster Cast Rate
+200-260% Enhanced Damage (varies)
+9 To Minimum Damage
180-250% Bonus to Attack Rating (varies)
Adds 5-30 Fire Damage
+75 Poison Damage Over 5 Seconds
+1-6 To Critical Strike (varies)
+5 To All Attributes
+2 To Mana After Each Kill
23% Better Chance of Getting Magic Items

 皆お世話になるこの武器。魔法職でこの武器のお世話にならない人は居ないはず。育成をするときはとりあえずこの武器を作ることからはじめましょう。
 何が凄いかと言うと、レベル27から装備できるという装備条件。
 そして最大の目玉がマナの回復速度を最大8倍まで引き上げるオーラ(Level 12-17 Meditation Aura When Equipped (varies))を纏えることにある。
 これを装備した傭兵を連れていないとマナ切れで狩がしにくいことこの上ないです。材料も安価なのですぐに作ることをお勧めします。

  
 RW Enigma

Required Level: 65
+2 To All Skills
+45% Faster Run/Walk
+1 To Teleport
+750-775 Defense (varies)
+ (0.75 Per Character Level) +0-74 To Strength (Based On Character Level)
Increase Maximum Life 5%
Damage Reduced By 8%
+14 Life After Each Kill
15% Damage Taken Goes To Mana
+ (1 Per Character Level) +1-99% Better Chance of Getting Magic Items
(Based On Character Level)

 兎に角凄い鎧。
 色んな強化MODが付いているが最大の効果はテレポートできるようになることである(+1 To Teleport)。今までソーサレスしか使えなかったテレポートを誰でも気軽に使えるようにしたのがこの鎧。作るためには相当の資産が必要だがこれがあれば世界が変わる。文字通り全てにおいてゲームが楽しくなるのでこれを目標にとりあえずゲームをするのがお勧め。

 因みにDIABLOⅡにおけるテレポートは任意の地点を移動できるのではあるが短距離(画面内)しか出来ないため、作中でも視界内しか出来ないとさせていただいています。




 この頃、ベル君は魔法が使えるようになってはしゃいでます。

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