ダンジョンでウホッするのは間違っているだろうか。 作:アルとメリー
自分は常々思うのです。
アニメのメインヒロインってリリだよね?
絶対リリだよね!
異論は認める。
ダンジョンを出たホーリィは一旦ファミリアのホームへと帰ってきていた。
帰ってきていたのだが、現在ロキの部屋で座らされている。
何を言っているのか判らない、事もないかもしれない。朝の件でリビングで待機しておくように言われていたにもかかわらずブッチしたのである。
当然の結果であった。
「んで、ここ数日どこにおったんや?怒らへんから正直に言い?」
ロキの口調は優しい。
怒ってるのは確かであるのだがどこか無理をしているかのようであった。
(あかんあかん。うちは出来る女やから小さいことで束縛したらイタイ女になってしまう。ただでさえホーリィは放浪癖みたいなんがあるみたいやし、うちんところに帰ってくるように躾とかんとフラッと何時の間にかどこかのファミリアに入っとるかもしれん。幸い、行き先は殆どダンジョンみたいやしそこまで心配いらんみたいやけど。)
「あー、殆どダンジョンにいたな。他に行ったといえばバベルとファイストスっていう鍛冶屋と豊穣の女神っていう飲み屋ぐらいだな。」
「一人でか?」
ロキはホーリィを見上げるように聞く。
現在の体勢は胡坐をかくホーリィの上にロキが座っている。
ロキは背中をホーリィに預けお互いの腕で抱きしめあっていた。
傍からみたらどう見てもロキが甘えているようにしか見えない。
なので全く怒られているという雰囲気ではないのである。
「アイズと一緒に2回潜ったかな?後は他の冒険者と一回、サポーターを連れて一回、一人で潜ったのは何回だっけな、覚えてないわ。」
「そーなんかー。」
(朝にアイズたんに聞いた話とおんなじやし、嘘吐いてる感じやないし、ほんまなんやろうなー。)
「あ、そうそう。今朝な、アイズたんレベル6に上がったで。」
「おー、おめでとう?」
さり気無く言われたロキの爆弾発言。
確かにこの二日間のアイズの戦闘経験は生半可なものではなかっただろう。特に昨日はボスと何回戦ったか分らないほど戦っている。レベルの一つ、上がってもなんらおかしくはない。
しかしホーリィはレベル6といわれてもピンとこない。精々が『ああ、新しいスキルが使えるようになるレベルね』といった認識である。
DIABLOⅡのレベル上限は99である。スキルは6レベルごとに新しいスキルが開放され、30レベルですべての種類が使えるようになる。クエスト等全てこなせば110ポイントのスキルポイントを最大20ポイントまで同じスキルに振って自分なりのビルドを作っていくのである。
なので、レベル6というのは本当に最序盤という認識である。
「………ホーリィ絶対わかっとらんやろ?」
「レベルが6に上がったんだろ?いいことじゃないか。」
そういってロキのお腹を優しく撫でる。
「ええ機会やし、説明したる。今このオラリオで最高レベルは7や。せやからレベル6って言うのはその一個下って言うことや。つまり、単純なレベルだけの話でいったらアイズたんはこの街で2番目ぐらいには強いんや。ああ、ホーリィは除くで?」
「はいはい。」
お腹を撫でる手がロキの服へと潜っていき、素肌をなぞっていく。
「せやからな、このまま行けばうちのアイズたんがオラリオ最強って言う日もそう遠くないわけや。って、ちょ!どこまでてぇいれてんねん!?こらぁ!」
服の中に手を入れて胸の下をなぞっていたホーリィに対して抵抗するように体重をかけていった。
それに抵抗することなくホーリィもまた後ろに倒れる。
自由になったロキは体勢を入れ替えてホーリィに馬乗りになる。
「あ、そういえばホーリィもステータスの更新せな。ちょいベットで横になりぃな。」
―――――筋肉脱衣中。
「なあロキ、この神の恩恵ってどんな効果があんの?」
ホーリィは今まで疑問に思っていたことを口にする。話を聞く限り元々の身体能力に上乗せされるステータスであるようなのであるが、いまいち分っていないのだ。
「あー、そういやなんも知らんのんやったなぁ。この基礎ステータスってのは、恩恵を受ける前の状態をI0としてそこから積んだ経験をうちら神が引き上げてその身に刻むんよ。そうすることによって限界を超えた力が手にはいるっつう寸法や。」
「へー。なるほどなるほど、じゃあ俺も頑張れば今より更に強くなれるってこと?」
「せや。けどまあ、ホーリィは恩恵受ける前からめっちゃ強いからあんま意味無いかもしれんけどなぁーーー…………。」
そこでロキは一旦言葉を区切る。
ホーリィのステータスを更新しようとしていた手が震える。ありえないような現象がその身に起こっていた。
「なあ、参考までに聞きたいんやけど、ホーリィ何階層まで行った?」
「あー、多分59階層?51階層から吹き抜けになってて良く分らん。それがどうかしたのか?」
さらりと答えるホーリィの言葉に戦慄を覚えるロキ。
ここで冷静になって考えてみよう。
ホーリィはレベル1である。その出鱈目な強さは置いておくがレベルは1である。そのレベルが1のまま、59階層へとほぼ単身で潜り生還する。しかも道中の敵、階層主を含めて全て駆逐しながら。
その戦闘による経験はいかほどのものであるのだろうか?
「そ、そういえばホーリィはもうギルドに登録したん?」
恐ろしい事実に気が付いたロキは関係ない質問をする。
「あ?そういえばしてないわ。やっぱしたほうがいい?登録しなくても今のところ不都合は無いけど。」
「すぐにやり!ほんま今すぐにでも!」
いきなり慌て出したロキに急かされて服を着るホーリィ。
「とりあえずギルドに行って登録してくるんやで?」
扉から追い出されるホーリィ。
残ったロキはさっき更新したホーリィのステータスを思い出しながら呟く。
「やばすぎる。このまま行けばほんまに神へと至るかもしれん。なんやねん、上限無しって。意味わからんし。」
【ステイタス】
Lv.1
力:D598 耐久:E490 器用:C606 敏捷:S981 魔力:B721 強欲:A801
《スキル》
【イカイノコトワリ】
・この世界の法則に縛られない
・ダンジョンに入る度にダンジョンリセット
・ステータスの上限が無くなる
【信じるものは報われる】
・強欲を得る
・ドロップアイテムの質が上がる
・想いの丈により効果上昇
《魔法》
【一は全、全は一】
・キャラクターセレクトできる
・全ては選んだキャラクターに準ずる
■ ■ ■
のんびりと歩いてギルドに向かっていたホーリィであったが、気が付いたらダンジョンの入り口にいた。
「はっ!?ダンジョンに潜りた過ぎて何時の間にかこんなところに………。あー、ちょっとぐらい潜っても。っていかんいかん、まずはギルドで登録登録。」
どうやらダンジョン潜りたい病のようである。末期過ぎて治る見込みは無さそうだ。
そこで踵を返してギルドに向かおうと歩いていたホーリィの目にある物体が映る。
それは小さな人であるようであった。
それは怪我をしているのか、蹲っている様であった。
それはボロボロのローブを身に纏っているようであった。
それはいつも持っているトレードマークでもあるバックパックを何故か持っていなかった。
その物体に近づくホーリィ。
その直ぐ側に辿り着くまでそうだと認めたくは無かった。
しかしそれは紛れも無いリリルカ・アーデであった。
その目の前にしゃがみこむホーリィ。
「おーい、生きてるか?」
声をかけながらホーリィは冷静にリリの状態を把握する。
顔にはいくつもの殴られた跡。
相当抵抗したのか、右腕と左足が折れている。
肋骨も折れているのか、辛うじて呼吸はしているがどこかかすれた様な呼吸音がする。
「う、ぁ………。」
辛うじて喋れるが後は死を待つのみといった感じである。
片腕でリリを抱き上げる。
ホーリィは腰のポーチからスーパーライフポーションを取り出すと無理やりリリに飲ませた。
見る見るうちに傷が癒えていく。
折れた足も、腫れた顔も、今まで激痛を放っていた体の各所からのシグナルが消えうせる。
「どうだ?もう大丈夫か?」
リリは呆けた顔をすると掌をにぎにぎとする。そうして体の全ての傷が癒えたことを確認すると顔を上げて立ち上がって深く腰を曲げた。
「見ず知らずのリリを救ってくださって有難う御座います。その、今は何も返すものはありませんがこのご恩は必ずお返しします。」
俯いた顔からは悔し涙が零れ落ちる。
口は引き結ばれ必死に耐えているようである。
そしていつまでたっても顔を上げない。
「あー、多分なんだがお前がそんな状態になってるのは俺のせいかもしれん。」
「えっと、どういうことですか?」
「ああ、このままじゃわからんよな。おれおれ、ネク・サマナーだよ。」
そういいながら立ち上がるホーリィの足元から魔法陣が上に抜けていく。そこに残っているのは少し前まで一緒にダンジョンに潜っていた白髪の中年だった。
「え?あ、ああああああああああ!!!!?」
姿の変わったホーリィにやっと気が付いたリリ。
しかしそれは残酷な結果を更に突きつけるものであった。
一気に後悔や自責、怒り等の感情が爆発したリリはその場にしゃがみこみ泣き始める。
「落ち着け。落ち着くのだ、リリよ。」
「うわあああああああぁぁぁぁ!!!」
「すまなかった。こういったことが起こるとは思っていないままリリに頼んだわが身の責任よ。」
そういいながらしゃがみ込んだホーリィは優しくリリを抱き擁くと背中をさする。
しばらくするとやっと泣き叫ぶことは無くなった。
「全部、全部、ネク様が悪いんです!私にあんなにも高価なものを持たせて!盗ってくれと言わんばかりに渡して!だから、だからちょっとだけ、裏で捌こうかなって魔が差して、でもやっぱり嫌だったから!ヘファイストス様の所に行こうと思ったのに!思ったのに。」
その独白は心の棘を一本一本自分の手で抜くように、走る激痛に耐えるかのように。
「そうだな。私が悪かった。」
優しくさする手は徐々にではあるがリリの震えとともに心のつかえを取り除く。
「………違います。悪いのはリリです。大穴から直ぐに向かえば取られることなんてありませんでした。リリに魔が差さなければ裏路地に行きませんでした。今までの悪いことをしてこなければこんなこともされませんでした。それに、リリがこんなにも弱くなかったら。リリは、リリは、弱者です。」
この時、ホーリィは激しく怒りを感じていた。
目の前の少女に瀕死の重傷を負わせることに。心に傷を負わせることに。
そして何よりも。
自らのドロップアイテムを奪ったことに。
自分が渡したリリにちょろまかされるのはまだ許せるかもしれない。きっと。
だがしかし、見ず知らずの赤の他人に奪われるなどホーリィには我慢が出来ない。
そう、これは必死に貯めたHR(ハイルーン:ドロップ率が平気で宝くじ以上を叩き出すレアアイテム)でグリーフ(超級レア武器、後書きの解説参照)を交換したらそれがDUPE品(バグ利用のコピー品、同じ素材を用いたものを持つ人同士が出会うと消える)で消えてしまった時以来の怒りである。
リリをお姫様抱っこで抱きかかえたホーリィは何時の間にかガチムチになっていた。しかしその装備品は有り得ないほどの威光を放つ。正しくガチ装備であった。
「リリ、そのままでいいのか?奪われたままでいいのか?今此処には俺がいる。そしてリリがいる。俺は奪われたままなど我慢できん。奪った奴の居所がわかるなら案内をしてくれ。」
言葉は優しくリリに語り掛けるようであったがその端々から明確な意思を感じる。
それを感じ取ったリリは頷いた。
「私から奪ったのは同じファミリアのソトスさんです。あの人は頭が悪いのできっとギルドで換金しているはずです。今からならギリギリ間に合うはずです。」
「おおそうかそうか、ギルドには用事があったしちょうど良いな。ああそうだ、リリはそうやって何か悪巧みをしているほうが可愛いぞ?」
未だ泣きはらした目は赤い。
それを差し引いても全体的に赤くなっていく。
「な、なんてことを言うんですかー!!馬鹿馬鹿馬鹿!こんなか弱い乙女を捕まえて悪巧みしてる顔がか、か、可愛いなんて!」
大人しく抱きかかえられていたリリがぽかぽかとホーリィの胸を叩く。あからさまな照れ隠しであった。
「はっはっは!ちょっと飛ぶから舌かむぞー?」
そう言ってホーリィは一瞬で屋根の上に飛び上がる。
その次の瞬間には次の屋根へと飛んでいた。
正しく両足でカエルジャンプ。人間とは思えない瞬発力である。
またしてもあっという間にギルドへと到着してしまった。
■ ■ ■
いつも賑やかなギルド内部は現在違う意味で騒がしかった。
その原因は買い取りカウンターでの職員と冒険者のいい争いである。
「だーかーらー、全部ダンジョンで拾ったんだよ!今まで売らずに取っておいた奴を全部出したんだって言ってんだろ!?」
「それがおかしいと言っているんです。貴方は確かレベル2と先ほど仰られていましたよね?今回のドロップ品の中には到底レベル2程度では入手が困難なものが大量に含まれています。階層主からのドロップ品と思われるものも大量に。それをどうやって入手したのかお聞きしているんです!」
「だーかーらー、それは団長とか強い人と一緒に潜ったときに手に入れたんだって!」
「それでも困難というか、不可能です。中には51階層以降のものも含まれているんですよ!?ソーマファミリアの貴方が手に入れれるはずが無いのです。ドロップ品の量と各階層のバランスから考えてどこかの遠征にいったドロップ品丸ごとだと考えたほうがしっくり来ます。なのでこれが盗品であるかどうかしっかりと調べる必要があると我々は考えています。」
「はぁ!?なんだよそれ!じゃあもう売るのはいいよ!もう売らねぇから全部返せよ。」
「それは出来ません。ギルド規約にも盗品についての売却拒否及び持ち主への返還についての項目も先ほどお見せしたとおりです。」
「ふざけんじゃねぇぞ!?」
男がカウンターに乗り出そうとしたとき、その横から手が伸びる。
それは男の顔を片手で掴むと持ち上げる。
「間に合ったみたいだなぁ?」
「はい。ソトフさんは馬鹿なので絶対にギルドにそのまま売ると思いました。私だったら絶対そんなヘマはしませんけど。」
器用にも片手でリリを抱き上げ、もう片方の手では男を吊り上げている。その男の名はホーリィ。
「おい、お前か?俺のドロップアイテムを奪ったのは、なぁ!」
片手で吊り上げた男の顔にホーリィの指が見る見るうちに食い込んでいく。
男が抵抗するようにホーリィの腕に掴みかかるがビクともしない。まるで腕が金属で出来ているかのように。
「ネク様ネク様、ソトスさんが泡を吹いています。死んじゃいそうですよ?」
「おお、すまんすまん。いまいち力をどれぐらい入れればいいのかわからんからな。」
そう言いながら手を離すとソトスと呼ばれた男は地面に落ちる。四肢からは力が抜け、完全に痙攣している。
それを見たギルド職員が恐る恐る話しかける。
「貴方達は、もしかしてこのドロップアイテムの持ち主ですか?」
「ああそうだ。ちょいとこいつに預けていたんだがそのときに強奪されてな。返してくれるとありがたいんだが。いいか?」
言葉上では下手に出ているがその威圧たるや歴戦のギルド職員でも逃げ出したくなるだろう。
しかしグッと耐えた職員は用意していた言葉を発する。
「では少々質問しても良いですか?」
「おう、いいぞ。」
「このドロップ品は何処で拾いましたか?」
「1から59階層までのモンスターから拾った。」
「ではこのドロップ品は何階層で?」
「ああ、それは33階層にいたでかいトカゲから落ちたな。」
「ではこれは?」
「20階層の王冠被ったリザードマンからだな。」
「ではこれは?」
「59階層の火竜からだな。その皮と鱗とあと、魔石とは別に宝石みたいなのも落ちたかな?」
「………わかりました。その他に何か証明できることはありますか?」
ホーリィには無いのかリリのほうを見る。
見られたリリは控えめに、致命打を放つ。
「そのドロップアイテムが入れられていたバックパックの持ち手の右側の裏に名前が書いてありませんでしたか?リリルカ・アーデと。後は中に入っているものを全部言えます。まずにおい袋が二つに毒消しが2本、」
「いやいやいや、もういいです。有難う御座います。一応ではありますがもし何かあったときのためにお名前をお聞きしても良いですか?」
「あー。俺はロキファミリア所属のホーリィ・馬場だ。そういうわけでそのドロップ品は持って帰ってもいいか?一応約束でな、ヘファイストスに持っていかなきゃならんのよ。」
「はい、わかりました。少々お待ち下さい。」
ちらりと買い取り金額に目を移す職員。査定不能のボスドロップを除いても軽く5億ヴァリスは超えている。
ドロップアイテムをまとめる職員を眺めつつその足でホーリィはカウンターで口をパクパクさせているハーフエルフの下へと移動する。
「よう、久しぶりー。ちゃんと恩恵もらってきたぜー?ロキファミリアに所属することになったからよろしく頼むわ。そんじゃあな。」
そういうと纏められたリリのバックパックを片手でひょいっともつと出て行った。
嵐のような男は帰るときもあっという間であった。
そこには口をパクパクさせるエイナと冒険者、ギルド職員だけが残された。
「あれ、59階層?まだ攻略されてないはずじゃ………。っていうかついこの間まで一般人じゃなかったの?もう分けわかんない………。」
エイナの小さな呟きが静かな部屋に木霊した。
■ ■ ■
冒険者ギルドからバベルへと歩く最中、未だリリはホーリィの腕の中にいた。
少し怒ったような何とも言えない表情でホーリィを睨み付けている。上目遣いなのでむしろ可愛いのであるが。
「ホーリィ様?」
そんなリリからホーリィを呼ぶ声がする。
もちろん罠なのであるが気づかずに返事をするホーリィ。
「ん?なんだ?」
「リリは少々確認したいことが出来ました。もしかして、もしかしてなのですがホーリィ様は昨日リリと一緒にダンジョンを探索しましたか?」
「おう、したぞー?」
「その時、少女の姿でしたか?」
「おう、そうだぞー?」
「ネク・サマナーという名前もホーリィ様の偽名ですよね?」
「おう、そうだぞー?」
押し黙るリリ。
固まる空気。
そんな中平然と歩くホーリィ。
「リリの胸、揉みました。」
「………。」
スキンヘッドから流れる汗はなんだろう。
「リリの耳も、尻尾も。」
「………な、何が望みだい?」
「お尻だって。触るだけじゃなくて舐めたり。」
ダラダラと流れる汗が止まらない。そんな事をした様な気がしないでもない。
「………ホーリィ様は色んな姿を取れるんですね。どれが本物なのですか?」
「いやー、一応今の姿が本物?装備とか色々違うが概ねこれが本物かな?」
「ということは男性なんですよね?」
リリの睨む瞳に力が入る。
「ホーリィ様のえっち!変態!なんで姿を誤魔化してたんですか!女性だと思ってまだ良いかなって思って我慢してたのに!最悪です!リリの純情を弄んで!」
(このパターン、見た事あるなぁ。)
現実逃避をしているホーリィ。
「あー、悪かった。」
「本当に悪かったと思っているんですか!?」
「おう本当本当。」
「………じゃあ誠意というものを見せて下さい。」
「そうだな、お前の願いを一つだけ叶えてやる、ってのはどうだ?まあ、俺に出来ること限定になるけど。」
「は?何を言って」
「なんか、あるんだろ?今日ダンジョンで別れる時そんな顔してたぜ?」
「良いんですか?リリは自分で言うのもなんですが強欲で意地汚くてこ狡いサポーターです。身包み剥いじゃいますよ?」
「はっはっは!子供が遠慮すんなって。別に今は保留してても良いんだぜ?」
今までの良い雰囲気が霧散する。
一気に顔を膨らませたリリに戸惑うホーリィ。
「ん?あれ?なんか地雷踏んだ?」
「リ、リ、は!これでももう立派な大人です!小さいのはそういう種族なんです!一般的です!これでも小人族の仲ではスタイルが良い方なんですからね!」
「お、おう。まあ、自分でやり遂げたいってことがあるなら保留にしておけ。俺はいつでもウェルカムだぜ?」
「………はい。ちょっと考えさせて下さい。そのときまでは保留にします。」
「そうだな。」
街を歩く二人。
傍目には親と親にじゃれ付く子供だろうか。
そこで思い出したかのようにホーリィが呟く。
「じゃあその保留の間はお触りし放題ってことで。」
「はぁ!?何を言ってるんですか!?ホーリィ様のエッチ!スケコマシ!物で釣って無理やりなんて鬼畜です!最低です!………でも、女性のときだけですからね。男の姿でしたら噛み付きますからね!」
「はっはっは。」
「きぃーーーー!ちゃんと返事をしろー!こらー!」
■ ■ ■
「おう久しぶりー。」
荷物(リリ)を持ったホーリィが扉を開けるとそこは工房だった。ヘファイストスの店員に言われるがままに付いてくると何時の間にか来たというわけだ。
「そんなに久しぶりじゃないと思うけど。こんにちわ、ホーリィ。それで?また持ってきたの?」
鍛冶の手を止めて振り向くヘファイストス。
その表情には多分に呆れの感情がこめられていた。
「おうそうだぜー?この前渡した素材だけじゃ足りなかっただろ?追加でとってきたぞー。」
「はぁ、貴方が取りすぎると市場が崩壊するんだけど。まあいいわ。そこに広げてくれる?」
言われたホーリィはリリを降ろすとそこにドロップアイテムを積みだした。それを眺めつつリリは思う。
(これはどういう状況でしょうか?ホーリィさん(少女形態)の話では冒険者になって数日というのにこの状況。目の前の眼帯をした女性はかの有名なヘファイストス様ですよね?もしかしてもしかすると、専属契約?いえいえ相手は神様です有り得ません。でもぱっと見たところそうとしか見えません。)
そこでリリはヘファイストスと目が合う。
「はじめましてで良いわよね?私はヘファイストス、一応神々の一人よ。」
「は、はい。リリはリリルカ・アーデと言います。初めまして。」
深くお辞儀をするリリに近づくとヘファイストスは耳元に囁いた。
「申し訳ないけれど、今日ここで見たことは他言無用でお願いね?じゃないと、うちのファミリアが敵に回ってしまうかも、ね。」
「ももも、もちろんです!神に誓って言いません!」
そこで全てのドロップ品を積んだホーリィがやって来る。
「そういやリリ、今日色々と物が駄目になっただろ?新調してやるから見て回ろうぜ。」
「え?あ、はい。って私のことは良いんです!何かヘファイストス様に話があるんじゃないんですか!?」
「ん?別にドロップ品を搬入に来ただけで話は何もないけど。ああそうだ、頼んでおいたやつはどんな?」
やっと思い出したのかヘファイストスに話を振るホーリィ。
「やっと素材の下拵えが終わったところね。後は繋ぎ合わせて装飾を散りばめるだけ、ってところ。もうちょっと時間がかかるわね。」
「まあのんびり頼むわ。んじゃ、リリいこうぜー。」
部屋の入り口に歩いていくホーリィ。
「待って下さいホーリィ様!ヘファイストス様失礼しました!」
恐縮しながら立ち去って行く二人を見送ったヘファイストスはギラギラとした瞳でそれを見送る。
「なにあの装備。あんなものを装備していたら、うちの商品なんて目もくれないはずよ。でも、ちょっとやる気は出てきたわー!追いかける立場なんて久しぶり。素材はいくらでもあるし、がんばってみますかね。」
※解説(読む必要が全くありません)
バーバリアンのスキルにリープというスキルがあります。これは目標地点に向かってカエルジャンプするスキルなのですが、着地地点の敵を押しのけてのけぞらせる効果があります(ダメージは皆無)。
レベル1だと本当に着地地点の直ぐ側しか効果が無いのですが、レベルを上げると凶悪なものに変化します。具体的に言えば、レベル25ぐらいからのけぞらし効果が画面いっぱいまで及びます。
はっきり言って無敵です。
これを用いてPVPを行うバーバリアンをBvPバーバリアンといいます。
作者もやったことがあるのですが、後衛職に対しては無類の強さを発揮します。
パワーレべリングが出来るようになったら遊びで作ってみるのも一興です。
つまり、作中でのジャンプはリープとなるわけで。
その時、半径30メートルぐらいの人は全て仰け反っているわけです。
はた迷惑ですね。←