(未完作品)XenobladeX 焼却のワルキューレ 作:夏葵 涼
今回はサブタイトル通り、未完成のエピソードとなります。
当分の間は、「焼却のワルキューレ」最後の投稿となるでしょう。
「焼却のワルキューレ」は不定期の更新休止期間に入らせていただきます。
まずは謝辞を。ここまで、未熟な本作に貴重なお時間を割いて閲覧してくださった皆さん、本当に本当にありがとうございました。そして、本当に、申し訳ございません。
今までキチンとした形でご報告することなく、放置という最もじれったい形態をとっていた、自分の無責任さを痛感し、心底より反省しております。この場を借りて打ち明けさせていただくと、前々から判明していたことなのですが、本作品は完成の見込みがつかなくなってしまいました。
Episode.01を上梓したのは、実に一年前ほどの時期のことだったと記憶しています。当時の自分の執筆計画(計画と呼べるほどのものはどこにもなかったのですが)は放縦、耽溺の一途を辿っており、そのなれの果てとして、現状のように無様な垂れ流しの状況となってしまいました。なし崩し的な結末として、当然の帰結のように思えます。
本来であるならば、ケジメとして本作の完結を優先するべきなのですが、ストーリーとして今後の展開に破綻が生じてしまい、続投は非常に難儀だと思われます。悩み悩んだ末、少なくとも当時の自恣からは脱却し、幾分かは小説書きとして成長したであろう現在の自分による完全新作の計画的な連載をもって、誠に勝手ながら、これまでの多大なる不義とご迷惑に、お応えさせていただこうと思います。
今まで本当に、ご迷惑をおかけしました。
今話を、事実上の最終回とさせていただきます。
以下のシーンは今年の晩春に書き下ろしたものです。進展が一切見られないので詰まらないとは思いますが、一瞥でもくれていただければ幸甚に存じます。
朦朧とする意識が徐々に回復し、霞んで揺蕩う視界も鮮明さを取り戻していく。呻き声さえ掠れて音にならない。頬にべったりと貼り付いた黒髪が鬱陶しく、指を滑らせると怖気の走る感触があった。眼前に掌を翳すと――やはり、B.B.循環液のオイル色だった。ヒルデガルト・シラサギの傀儡。肉体の複製品を巡る血液は、そのあらゆる機能をナノマシンで代替しているため、わざわざ赤血球の原色に倣い染め上げる必要性、人体の表面的な容貌以外の見栄えに拘るプライオリティーはかなり低かった。むしろサージカルなグロテスクさと縁を切り、かつ全身のサイボーグ機能への常態的にアクセシブルな中継点として大きな利便性を獲得したと当時称賛を得たこの代物は、ヒトが心身一体という概念を超越し、肉体をただの精神の器に過ぎないという認識を得た2050年代未来人のスピリチュアルなパラダイムシフトを象徴する産物となった。
その夥しい放血の泉源は、五指の隙間から穿孔を覗かせていた。ヒルダの下腹部を貫くパイプ。パンケーキ大もの直径。衝撃で激しく暴れたのか、傷口は裂き広げられ、臓腑はずくずくに攪拌されていた。どう身を折ろうと耐え難い峻烈な痛覚は、端末による外部アクセスがないとマスキングしようがない。どうやらパイプはヒルダを貫通して背後の壁面に突き刺さっているらしく、身動きをとるのは至難の業だった。パイプを溶断する手段の到来を待てないのなら、片腹を引き裂くしかない。
どうにかしてこの悲惨な状況を打破すべく思索を巡らすのとパラレルに、脳髄を劈く空前絶後の激痛への慟哭がヒルダの痩躯を痙攣させていた。伝い落ちる鮮紅色の混淆した唾液を飲み込む余裕すらなく小刻みにがくがくと唇を震わせ、時折押し殺しきれない喘ぎが漏れる。焦点も虚ろな双眸は涙だけを必死に堪え、両手で胸郭を鷲掴みにしてえづきを抑える。その甲斐なく、やがて濁流のような吐血が口蓋から溢れ出した。
どうして、どうしてこうなった――記憶の混濁。真っ先に脳裏に浮かぶのは、数秒前まで言葉を交わし合い共闘していた仲間の安否。シェスカはどうなった。私が援護しなくては、やられてしまうというのに、これでは――
その刹那、状況を理解した。指令室の訓練フィールドに面する壁面は爆破され、ヒルダの真っ向の範囲が大きく穿たれており、構造体を剥き出しにしている。周囲には粗削りな瓦礫が散在し、破砕したコンソールから黒蛇の奔流のように潤滑油まみれのケーブルが溢れている。急速な追憶――数刻前――突如AKをかなぐり捨てた戦闘ヒューマノイドの一人が、こちらに向けるまた別の吸い込まれるような銃口――目測約70mm――
ふと物音がし、反射的に身構える。破孔の淵から突き出す拉げた鉄骨にフックが引っ掛かっている。ロープで登攀を試みる気か。周辺を見回すも、先ほどまで援護射撃に用いていた実弾装填のSMGは見当たらず、咄嗟に筐体のひしゃげたラジオから前世代的なアンテナをもぎ取ると、既に延伸仕切っているそれを後ろ手に、もう一方の手に瓦礫の破片を握る。まもなく「よっこらしょ」などとふざけた掛け声と共に両手が縁部にかかり、ヒルダは石飛礫を投擲すべく――――――――――――――は……?
喋った、のか―――――?
細身の敵は一息に跳躍し軽々と飛び乗ってくると、問答無用でヒルダの投げ出された右大腿部に亜音速弾を撃ち込んだ。驚嘆に一瞬挙動が硬直したヒルダは被弾の衝撃と激痛に、振りかぶっていた左手から石片を取り落とす。
「――――――――――――っぐ」
思わず息を飲むが、瞬時に思考を切り替え右腕をしならせてアンテナを擲つ。芯のぶれない銀灰の弾道を描き、無骨な頭蓋に不穏に耀く緋色の右眼に向けて先端部が切迫する。だがそいつは避ける素振りさえ見せず、軽合金のダーツは菱形のレンズを叩き割ってから、乾いた音と共に落下した。
「……あー」くぐもった男声が漏れる。「痛ぇなー。こりゃ破片で眼球裂けてるわ」
呆然とヒルダが瞠目する中、そいつは両手で頭蓋を掴むと、おもむろに引き抜いた――まるでヘルメットを脱ぐかのように。
露わになった男の顔は、その言葉通りガラス片が幾つも突き立つ隻眼からだらだらと流血しながらも、薄汚い無精髭の中に剣呑な嗤いを浮かべていた。
「…………貴様は――」
「おうおう心配なさんな。トレーニング用のヒューマノイドに扮装するなんざ、酔狂な俺しかやらんよ。下のポニーテールのお嬢ちゃんは残ってる
能天気で小馬鹿にしたような口調にふつふつと憤激が沸き起こるが、今度は銃口が真っ直ぐヒルダの額に狙いを定めているため微動だにできない。
「狂人さんが、ご高説どうもありがと。へらへらと戯言を……なぜ? 何の目的……」
「いやあ、ちょっと君に用があってさ、ミス・シラサギ。血の通った状態で連行しろとのお達しでね」
「へえ、なるほどね。生きてさえいればどのような傷害を追っていようと構わないと―――――――っ!」
次の瞬間、男は再びヒルダの大腿部に銃弾を撃ち込んだ。あまりにあっさりとした作業に、度重なる痛苦に気が触れてしまいそうになる中、彼の暴力への垣根の低さに慄然した……いや、おそらくこいつは、刃傷沙汰自体を嗜好しているのだ。
「ご名答。さあ、ここで肉体的かつ精神的な拷問に興じるのも結構だが、一緒に来てもらいたいねぇ。その朱唇皓歯なお首がふっ飛んだあとは、あっちの娘を屠殺しに行っちゃうだけだしね」
作業工程を説明するかのように淡々と告げた男が懐から取り出したのは、コンパクトなレーザーカッターだった。
「――ただ」
そこまで概説し終えてから、商業エリアと工業エリアを跨ぐ架橋を驀進するオフロードバイクの座面上で、ハンドルを握る彼女は嘆息した。フィリア・メルクロヴァ――数分前に顔合わせしたばかりの、リジーが所属となった班の頭目の女性。
「施設経営に携わっているのはBLADE隷下の教練管理部ではなく、キナ臭い民間企業だ。確か数か月前に違法B.B.売買組織との関連が疑われコンパニオンによる社屋捜索が行われたが、未解明に終わっていた。業務や管理は殆ど外注化、どれもBLADE関連アームズカンパニーだ。だから私もセキュリティの多少の杜撰さには目を瞑ってきたんだが……」
はぁ、と短いため息の直後、絶え間なく耳朶を打つ風切り音に軽快なポップメロディが混じり始めた。フィリアは激しく波打つスエード製らしきスカートに右手を突っ込み、ポケットから携帯端末を引き抜く。コバルトブルーのタッチパッド。
「―――えっ」
つい先刻彼女自身が常人離れした握力をして圧潰させたはずのその筐体は、新品同様の滑面を保持している。裂傷の痕跡すら見当たらない。
「ああ、二台目だよ。メンテナンスセンターで壊しちゃったのは
端末を耳殻と肩口で挟み、電話口の相手に応答する。
「ああマードレスか――そう、以前うちのシェスカが訓練に誘ったろ。そこであってる。利用状況はロビーの掲示板で確認できるから、先にトレーニングルームに突入しておいて……」
the story is unfinished......
本作品の続投の可能性は極めて低いですが、万が一僕の心変わりで残りのシーンを上梓できるようになるとしても、ずいぶん先のことになりそうです。
ブックマークしていただいた方々、感想をいただいた方々はもちろんのこと、閲覧していただいたすべての皆さん、900以上のアクセス数を記録できたり、これまでにない経験をいただき、心より感謝しています。そしてなにより申し訳なさで胸中がいっぱいです。
これまで応援してくださった方々には本当に申し訳ないですが、前書きにて前述のとおり、改めまして、本作品を当分の間「未完」扱いとさせていただきます。
拙作に最後までお付き合いいただき、誠に、誠にありがとうございました。
さよなら、皆さん。
さよなら、惑星ミラ。
また、どこかで会いましょう。
2016/10/13 Ryo Natsuki
(Ep01~Ep03投稿時名義:Ryo Hinatsuki)