第102話
どこか判らない紛争地ではヴォドォンによる蹂躙が連日連夜行われていた
「さぁ!その命を我らの神にささげなさい!」
【プロヴィデンス】
全身を甲冑が包み込んでいく。私の能力のせいで生身で戦えないのは不便だが、致し方ない
「ば、化け物だ!ニゲロ!!!」
戦い合っていた人間達が武器を投げ捨て逃げていく。私はそれを見ながら
「背を向けて逃げる。実に愚か」
腰にマウントしていたルシファーを抜き逃げていく人間に照準を合わせる
「神の祝福が訪れる事を」
そして2発銃弾を放った。その2発は一撃で人間を死に至らしめ骨も残さず消滅させた
(神に選ばれませんでしたか)
あの2人は残念ながらネクロになる事は出来なかった。つまり神に選ばれなかったということ、折角同胞を増やそうと思ったのに残念です。私はゆっくりと消えていく人間の骸に手を伸ばし魂を掴み取る
「神の捧げ物程度にはなってくれるでしょうね」
魔力回復のためにベエルゼ様やベルフェ様に捧げる供物としては使えるだろう。私はそれを魔力で閉じ込め
「さて、私の前からは逃げれませんよ。神の僕の私からわね」
結界を張っているので人間達は逃げることが出来ず、半狂乱になっている。私はその憐れさを感じさせる姿を見てくすりと笑いながら
「貴方達に神の祝福を」
50人近くいるが、ネクロに慣れるのは一体何人だろうか?私はそんな事を考えながら震える手で銃を拾い上げる人間達を見て、もう1度小さく笑い人間達へと向かって行った
「結局0人ですか。全く魂が弱いとは思いませんか?」
大体人間を殺しつくし、わざと1人残した人間にそう尋ねる
「ひ、ひいいいい!?」
腰を抜かしているのかみっともなく逃げる人間の足を踏み。逃げれないようにしながら
「人が話をしているのに逃げるのはどうかと思いますよ」
プロヴィデンスのメモリを腰から抜き。逃げようとしていた男と目線を合わせる。恐怖の余り言葉を発することも出来ないようだ、私は苦笑しながらカソックを捲り上げる
「見てくださいよ。この肌をこの身体もそろそろ限界なんですよ」
前に取り替えてから2週間。すでに腐敗は限界まで進み骨が見ている。青い顔をしている男に
「そろそろ次の身体が欲しいんですよ。判ります?」
私がそう言うと男は自分に何が起きるのか理解して逃げ出そうとするが、私が足を押さえているので逃げることは出来ない
「痛みは一瞬ですよ。ええ、直ぐに終わりますとも」
逃げようとしている男の頬を軽く撫で、今まで使っていた身体から抜け出す
「はーああああ。この姿は余り好きませんねえ」
男が持っていたナイフに私の姿が写り、苦笑する。黒い骸骨の上半身に腐ったローブ姿。私は数世紀前に神の徒となる事が出来、不死に近い能力を得たが、この身体はあんまり好かない。この異形の姿は恐らく、私の信心が足りなかったせいなのだろうと思いながら
「よるな!来るな!化け物おお!!!」
振り回されるナイフがローブに当たると金属が腐り落ちる。余りに強力な腐食能力、これが私の力
「化け物でなく、神の僕ですよ。さぁ貴方の体を私へ」
逃げようとしている男を掴み上げ、その身体に骨を付きたて、男の身体を取り込むのだった……
「今回の身体はあんまり良くないですね」
カソックを着込みながらぼやく。今回の身体は私にあんまり適応せずに少しぎこちない、あまりネクロに適した人間がいないので妥協としてあの男にしたがあまりよくないですね
(早く身体を取り替えないと動きにくいですね)
適合率が余りに低い。あの男のネクロへの適性値が低かったせいだろう。私はカソックの中から
「次の戦場はあそこが良いですね」
中東の宗教戦争の紛争地。そこならばもう少しましな魂があるだろう。
「1度魂をベリト様に届けてから行きますか」
私はそう呟き。ヨツンヘイムへと転移しベリト様に集めた魂を渡す
「今回は大分集まったようですね」
「お褒めに預かり光栄です」
ベリト様の前で片膝を付き頭を深く下げる。ベリト様はベエルゼ様の側近。私のようなネクロとは立ち位置が違うのだから
「この魂は全てベルフェに渡します。貴方の活躍は私からベエルゼ様に伝えておきます。ではまた魂集めを頼めますか?」
「勿論でございます。今度はもっと多くの魂を集めてまいります」
私はベリト様の前でもう1度頭を下げ、ヨツンヘイムを後にし中東に向かったのだった……
身体に力は入らない者の何とか動けるようになってきたのでヨツンヘイムの奥のベリトのラボに向かっていると
「ベール」
「ん?なに?モモメノ」
あたしの足元に居たモモメノにそう尋ねると、モモメノは
「一夏、いない。出撃駄目」
駄目って言われなくても判っている。それに今のあたしでは出撃する気力も無い、桜鬼とか動く気がないようで身体を休めている、じっとしていると気が滅入るので少し気分転換に散歩しているだけだ
「言われなくても判ってるわよ。ありがと、モモメノ」
「それなら良い」
ぬいぐるみを抱き抱えたまま歩いていくモモメノの背中を見つめる
(なんか変な感じよね)
ネクロなのに人間としての意識もある。前のイチカと戦った世界ではただイチカを殺したい、それだけしか考えれなかったのに今は別のことを考えることが出来る。いいことなのか、悪い事なのか良く判らないが
(一夏。この世界にいないのは残念ね)
イチカと一夏は違う。イチカはあたし達を殺したイチカ、絶望と狂気に飲まれて変わり果ててしまったイチカ。そっちが良いと言うのも居る。だけどあたしは一夏が欲しい。その為なら桜鬼やヴィスティーラ達を全員殺して、一夏の心を砕いてどこか別の世界であたしと一夏だけの世界で一生を暮らす。一夏が死ねばネクロにする、そうすれば永遠に一緒にいることが出来る
(それが元々報酬なんだし、文句を言われる筋合いは無いはずよね)
ベエルゼは協力するなら望みを叶えると言った。あたし達全員が一夏を寄越せと言った、ベエルゼはならば一夏というのは自分達で手に入れろ。そうすれば私が望みを叶えると言った、だからこうして協力しているのだ
(とは言え暇よね)
戦いに出ても一夏がいないなら戦いに行く意味はない、ヨツンヘイムにいては気が滅入るだけどうしようかなと思って歩いていると
「ベール暇なの?」
聞こえてきた声に振り返る。モモメノがいたんだからネルヴィオも居て当然よね、モモメノを抱っこしているネルヴィオに
「まあね。暇じゃないのがおかしいじゃない?こんな所」
何も無い闇だけの城。こんな所に普通の感性の人間がいたら気が狂うところだ。とはいってもあたしもネクロだからあんまりおかしいとは思わないんだけどね
「あっははは!最高、ベール最高!そうそう気が狂いそうになるよねこんな所」
楽しそうに笑うネルヴィオ。その笑みは子供じみた邪悪さに満ちていて
「もう狂ってるんじゃないの?あんた?」
思わず思ったことを言うとネルヴィオは更に楽しそうに笑いながら
「ぷーっ!!!あっはははっ!!!!もう最高!あったりまえじゃん!ネクロが狂ってないわけないでしょう!」
あっははははと心底楽しそうに笑うネルヴィオ。何が壷なのか判らないわね、こいつ……外見はあたしと同じ人間そのものだが、その能力はあたしよりも高い。だけどそんなことで屈したくないので睨みながら言うと
「ベール。私はこれから街に行くの、一緒に来ない?」
「はぁ?」
驚きの余りへんな声が出てしまう。ネルヴィオは前回の出撃で命令拒否をして出歩くのを禁止されていたんじゃなかったのか?」
「そんなのいつまでも続かないよ。モモメノもお菓子食べたいらしいし、ちゃんとベエルゼに許可を取ったよ。で如何する?一緒に来る?」
そう尋ねてくるネルヴィオにあたしは少し考えてから
「行くわ。暇だしね」
「OK♪幻術をかけてあげるから目は気にしなくていいよ。じゃあ行こうか?」
そう笑って歩き出すネルヴィオと共にあたしは街へと出かけていった
「で?なんであたしだったのよ。桜鬼とかも起きてたでしょ?」
カフェでコーヒーを飲みながら尋ねる、あの時ヴィスティーラも桜鬼もおきていたのに何であたしだけを誘ったの?と尋ねると
「似てるから。自分の好きな人と永遠に続く時間と世界を望むベールは私に良く似てるから誘ったの」
似てる?考え方が?ネルヴィオはふふふと笑いながら
「そうだよ?私はお父様と永遠に続く日々が欲しい。だからベエルゼに協力してる、それだけだよ」
「モモは?」
「勿論モモメノも一緒だよ」
モモメノの頭を優しく撫でているネルヴィオ。お父様ねえ……それって守護者の事よね
「出来るの?守護者相手に?」
どう考えても守護者相手にそんなことできるわけが無いと思うんだけど
「やるの。絶対に、私にはそれだけの力がある」
強い意志をその目に宿すネルヴィオ。なんか本当にやりそうだから怖いわね
「頑張って。あたしは応援するわよ」
同じ考え方をするもの同士応援するのは当然だからねと言うとネルヴィオは嬉しそうに笑い
「ありがと♪じゃあ今度私がとっておきのプレゼントをするよ」
にこにこと笑うネルヴィオにあたしは
「とっておきって何よ?」
あたしがそう尋ねるとネルヴィオはふふふと笑って
「ひ・み・つ♪楽しみにしててよ」
それから何回か尋ねてみたがネルヴィオは答えることはなく、あたしはネルヴィオに1日街中を引っ張り回されるのだった……
ネルヴィオとベールが街を回っている頃。ヨツンヘイムの一室では
「ああ?ベリトか?なんだ俺に何か用か?」
守護者に受けた傷が原因で弱っていたのに、更に守護者の魔力を散布され動くことも出来ず。休んでいる所にベリトが姿を見せる
「これを受け取ってください」
差し出されたのはISコアに人間の魂を封じ込めた擬似リンカーコア
「んだあ?俺が喰らっても良いのか?ベエルゼ様とハーデス様のじゃねえのか?」
これはベエルゼ様とハーデス様の為の物。それを俺が喰らっても良いのか?と尋ねるとベリトは
「構いません。早く傷を癒し、早くもとのレベル4に戻ってください。そうすれば早く魂狩りが出来ますから」
「ひゃははは!それが目的かぁ?」
くっくっくと笑いながら擬似リンカーコアに手を伸ばす。守護者は俺をベルフェゴールと読んだが、俺はあの時はまだ不完全だった。ISコアとパーツを取り込み擬似的にLV4になっていただけだ。その証拠に今の俺はLV3の姿へと退化している
「ありがたく頂くぜえ!直ぐに魂狩りをしてきてやるよ!!」
擬似リンカーコアにかぶりつき中に閉じ込められていた人間の魂を一気に喰らう
「くっくっく……ひゃーははははははっ!!!!!戻ってきた!戻ってきたぜええ!!!俺の力が!!!!」
失っていた狼を模した肩周りの甲冑と山羊の角が再生し、2枚だった翼も4枚になる。そして最後の両腕に赤い爪を装備した手甲が装備される。
「くっくくっ……ベルフェゴール様の復活だアアアア!!!!」
4枚の翼を広げ、叫ぶ。失っていた力を漸く取り戻した!こんなハイな気分になる事はない
「嬉しいのは判りますが、うるさいです。静かにしてください」
ベリトの言葉に悪いなと返事を返し翼を閉じ、そのまま歩き出す
「どこら辺が良い?魂狩りは?」
「ヴォドォンが中東の宗教戦争の参加しています。そこらへんがいいでしょうね」
ヴォドォンか、あいつの能力は面白いからなあ。一方的な殺戮。これほど楽しい者はない、俺はくっくっくと笑いながら愛用の鎌を作り出し左手に構え
「ベエルゼ様に伝えてくれ!俺が直ぐに傷を治して差し上げますってなあ!!!」
俺はそう叫び空間を引きさき戦場へと転移したのだった……
「ひゃーははははははは!!!!最高だ!殺してやるぜ人間共おおおおおおッ!!!!」
蘇った力を確かめるように俺は鎌を振るい、爪を振るい、魔力で人間を焼き払いながら、気が済むまで殺しを楽しむのだった……
どこか判らない山の中に佇む青年。彼を照らすのは血のように赤い満月だ。赤紫色の髪をした青年、いやネクロのペガサスは突然胸を押さえてしゃがみ込んだ
「がっ、ぐうううう……時間が、時間がない……」
日に日に強くなるネクロの破壊と殺戮衝動。それを何とか押さえ込んできたが、そろそろ限界だ
「よりに余ってクラナガンに行くとはな、守護者のやつめ」
ISの改修の為にクラナガンに行った守護者達の魔力反応は今この世界には無い、ベエルゼ達は守護者の魔力のせいで動けない。俺は自由に動けるので指示を出せれる前に姿を隠したが、ネクロの本能を押さえるのもそろそろ限界になってきた
「まだだ!」
クラウソラスを作り出し、腕に突き立てる。強烈な痛みのおかげでなんとか意識がハッキリしてくる。俺はゆっくりと近くの大木に背中を預け
「はぁー……はぁー……」
大きく何度も深呼吸を繰り返し、呼吸を整える。痛みは既に傷が回復していることで引いているが
(不味いな、間隔が段々短くなってきた)
発作の感覚が短くなってきている。それは俺が完全にネクロ化する日が近いことを示していた、俺が完全にネクロ化するまでもうそんなに時間がないだろう。それにあの月も不味い、出来るだけ月の光を浴びないように気をつけ木々の陰に移動し、大きく息を吐く
「急がなければ……」
俺が俺である内に……あいつを倒す。それだけを心に決めて何年も何年も世界を渡り、あいつの姿を探し続けた。そして漸く見つけた、この世界で
「まだだ。まだ俺はこんな所で終われない」
ネクロでありながらまだ人間としての意識を辛うじて残している俺はベエルゼ達からは厄介者だ。だから俺には何の指示も出ていない……だがこれは好都合だ。僅かに残っている意識を繋ぎとめる事に集中できる
(早く戻って来い。守護者、そして織斑一夏)
出来るなら俺1人で仇を取りたい。だがあいつは強い。俺ひとりでは到底勝つことなどで気はしない、だからこうして従順な振りをしてきた、だがそれも終わりだ。守護者が戻れば俺はあいつと戦うことが出来る
「覇皇ハーデス。貴様だけは俺のこの手で……」
俺の世界を滅ぼし、全てを破壊したハーデス。あの時の貴様は半ば暴走状態だったから俺のことなど覚えていないだろう、だが俺は忘れない。貴様の策略のせいで互いに殺しあった仲間達の姿を!そして死んでいった者達の事を!
「どうして忘れることが出来るというんだ……」
あの場所は間違いなく俺の居場所だった。それがたった数日で全てが無になった、俺は死んでしまった仲間達を全て埋葬し、復讐を誓った、だが生身では到底勝てない相手だった。だから俺はあえてネクロを受け入れネクロとなった。そして意思でネクロの破壊衝動を押さえ込み、この力を手にした
「絶対に貴様だけは俺のこの手で……」
クラウソラスを杖代わりにし立ち上がり身体を引きずるようにして、俺はその場を後にした
(月が見えないところへ行かなければ……)
満月と言うのは古来から魔の者の力を増大させると言われて来た。それはネクロも例外ではない、普段なら押さえ込むことの出来るネクロの意思が俺を乗っ取ろうとしてくるのを感じる。このまま月の光を浴びていては確実に正気を失う。そうなっては敵討ちところではない、俺は足を引きずりながら森の奥へ向かい。大木の下に据わり目を閉じた。ここなら周囲の木々が月の光を隠してくれる
(あとは朝を待つだけだな)
さっきまで暴れていたネクロの魔力も静まっている。これならば今日一晩は問題ない筈だ、俺は眠るわけでないが目を閉じ少しでも身体を休めることを考え、休息をとるのだった……
ペガサスが眠れぬ夜を過ごしている頃。IS学園の近くの浜辺に龍也達が転移して来ていた。そしてこの世界でのネクロとの戦いは激しさを増していく事になる。その切っ掛けはネクロや龍也の行動ではなく別の人物が切っ掛けに激しさを増していく事になるのだった……
第103話に続く
次回は話を大きく動かしてみようと思います、ここからは濃いイベントを多めにして行こうと思います。前半はIS学園、後半はネクロと束の話で行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします