第103話
クラナガンでの長いようで短い1週間を過ごした俺はいつもの海岸に来て素振りを始めていた
(戦う覚悟か)
クラナガンで色々なことを知った。そして戦う為の術も教えてもらった。だけど実戦でどうなるかは判らない、熟練の魔導師でさえ常に死の危険性がある。それがネクロとの戦いだ
(千冬姉や龍也達との模擬線の中で色々と考えないとな)
暫くは実戦形式の訓練をメインにする。素早い状況判断や思考の高速化。それが必要と言うのが、龍也と千冬姉の共通の認識だ。そしてもう1つ慣れないといけないのが
(絶対防御の出力低下か……)
わざと絶対防御の出力を落とし、身体にダメージが来るようにする。傷は魔法で治せるから問題が……今までの事を考えると最初は怪我だらけになるんだろうなと小さく呟く。ISを展開していてもネクロと戦えば死ぬかもしれない。これはオータムさんやスコールさんに何回も言われた。2人はISでネクロと戦い死に掛けたのだから、ISの絶対防御など何の意味も無いと言うことを身をもって体験したから何回も言ってくれたのだろう。確かに俺も
(いざとなればって思うもんな)
絶対防御ならと言う考えがある。その考えを捨てなければネクロと戦うことなんて出来ないだろう。心構え・戦う術・覚悟。まだまだネクロと戦うには俺は未熟なんだろうな……そんな事を考えながら木刀を振るう
「ふー、次の訓練があるって言ってたよな」
もっと実践的な訓練があると言っていた、それが何なのか?不安に思う反面、若干楽しみでもあった。強くなる喜びとでも言うのだろうか?最近は素粉ずつ強くなっている自分が嬉しい、しかし慢心してはいけない、下手に自分強くなったなあなどと考えていれば、訓練が更に酷いことになるからだ。
(どんな訓練……いや、きっと必要なことなんだよな)
ネクロと戦う上で必要な事。覚悟だけではない戦う術を覚えなければいけないのだから。まだまだこれからだ
「今日はいなかったか……」
この海岸で俺はペガサスに剣術を教わっていた。とは言え俺はあいつの剣を何一つ理解できなかった。箒と同じ2刀流だが全く異なる剣術
(確かこうだったかな?)
木刀を2本構え、見様見真似で構えを取って見るが、全然違う。やっぱりなれた形で勝負するのがいいんだろうなと思っていると
「たわけ、俺の構えはそんなものじゃない」
突然聞こえてきたペガサスの声に驚きながら振り返るとそこには、疲弊した様子のペガサスが木に背中を預けていた
「ど、どうかしたのか!?」
ネクロには自己再生能力があると龍也に何回も言われた。それなのに今のペガサスは疲弊しきっている。何かあったのかと思い、俺がそう尋ねるとペガサスはふんっと鼻を鳴らして
「俺の事などどうでも良い。俺の事を守護者に話したのか?」
確認といいたげに尋ねてくるペガサスに
「一応昨日話しておいたけど……」
昨晩IS学園に戻ってきた時に部屋に帰る前に龍也を呼び止めて話をしたことを言うと
「それなら良い。行くぞ」
「ど。どこへだ!?」
ペガサスはゆっくりと振り返り俺を見据えて
「俺には時間がない、そろそろ貴様と守護者の力を借りてあいつを倒す」
それ以降ペガサスが口を開くことはなく、俺はペガサスの隣を歩きながらIS学園へと戻ったのだった……
私は昨日の夜一夏に聞いた事について千冬とツバキ。それにはやてを交えて話し合っていた
(御神流の剣士の誇りにかけてか……)
ペガサスは私と交渉をしたいと言っていたと一夏は教えてくれた。やはりペガサスはネクロの中でも人間としての意識が強いと言うのは判っていたが、まさか交渉をしてくれと言ってくるとは思わなかった。しかも御神流の名を出されては話を聞かないわけには行かない。やはりペガサスは平行世界のなのはの関係者だったのかもしれない
「龍也はどう思っているんだ?」
千冬の問い掛けに私は少し考えてから
「信用できると思う。ペガサスは人間としての意識が強い、十分に信用できると思う。とは言え会って話をしてみないと判らないがな」
どこまで信用できるかは実際話をしてみないと判らない。しかし今まで2回対峙しているがそのどちらも私や一夏を殺す機会があったのにそれをしなかった。その点も考えると1度話をしたほうがいいだろう
「ネクロにもそう言うのがいるの?」
「ネクロにだって人格はある。大体はネクロ化した時にネクロの考えに支配されるが、稀に人間としての意識が残る場合もある」
とは言え時間と共にその意識は薄れていくけどなと付け加える。ネクロと人間の魂だと、言うまでもなくネクロの魂の方が強い徐々に浸食され我を失い完全にネクロになる。固体差があり一概には言えない事だがな
「しかしネクロが兄ちゃんに協力を求めるとはな。何が目的なんやろか?」
それが少しだけ気になってはいる、ネクロが私の力を借りたいという理由が判らないと
「少し考えたほうがいいじゃないか?」
「しかし有益な情報を得れるなら話を聞いたほうがいい」
虎穴に入らずんば虎子を得ず。多少のリスクは覚悟してでも話をする必要がある。そんな事を考えていると
ウーッ!ウーッ!!!
結界にネクロが進入時に反応するブザーが大きな音を立てる。近くにネクロが来ているようだ
「はやてモニターに」
「了解や」
直ぐに会議室にモニターに画像が映し出される。そしてその画像を見て「どうやら向こうから来てくれたようだな」
モニターには一夏と並んで歩いているペガサスの姿がある。一夏の話では私に来るように言っていたのだが、そんな事を言っている余裕がなくなったのかもしれないな。私が座っていた椅子から立ち上がると
「どこ行くの?龍也君」
「向こうから来てくれたんですよ、出迎えるのが道理でしょう?」
私はそう笑いIS学園の入場ゲートのほうに向かった。丁度そこに一夏とペガサスが来ていて、一夏は私を見て困ったようにしている。一夏には悪いが無視し、ペガサスのほうに近づき
「ようこそ、歓迎するよ」
「ふん、どの口がそれを言う?俺には判っているぞ」
ペガサスは虚空を見つめている。そこは私が投影した剣があり、ペガサスが不審な動きをすれば攻撃できる位置に配置している
「ふふふ、当然だろう?話は聞くが信用するとは言っていない」
「狸め」
「褒め言葉として受け取っておこうか?」
くっくっくと互いに笑い合う、一夏は状況についていけず目を白黒させている
「まぁついて来い。ゆっくりと話を聞かせてもらおう」
「それはお前の態度次第だ。八神龍也」
互いにある程度は相手の事を理解しているが、必要以上に信頼しない。どこまで行こうが、人間とネクロ。分かり合えはしない……そう
(半ネクロとは違う)
半ネクロは人間の面も残っている。純粋なネクロはどうあがいてもネクロの本能には勝てないのだから
「俺はどうすればいい?戻ったほうがいいのか?」
一夏が私とペガサスを見てそう尋ねてくる。私は少し考え
「ペガサスはどうする?」
「小僧と貴様に用がある。そこの小僧も一緒だ」
一夏は自分も!?と驚いているが、連れてきたのは一夏だ、そこは責任を取ってもらおう
「判った。では一夏も連れて行こう」
いやいやと言う感じで頷き着いて来る一夏を連れて、ペガサスを監視しながら地下のブリーフィングルームへと向かったのだった……
ベエルゼに出した提案が通ったのでイナリに説明しに向かっていると
「あー漸く回復したわねえ!!」
イナリが部屋の肩を回しながら言う。確かにイナリは完全に回復しているようだ。魔力も回復しているようだし、気力も充実しているようだ
「じゃあさっそく、束を殺しに行こうかしらねえ」
にやりと邪悪な笑みを浮かべるイナリ。このまま行かせてもいいが、跡でベリトに文句を言われるのも癪なので
「ちょい待ち。それは駄目だから」
部屋に入りながら駄目だというと。イナリは出鼻を挫かれたことで不機嫌そうにしている
「あんたに言われる筋合いはないわよ。ネルヴィオ」
私を睨んで言うイナリ。あーもう、こいつは本当に鬱陶しい……本当なら消し飛ばすことも出来るんだけど、一応私はベエルゼに付き従っていると言うことになっているので下手に動けない
「指示に逆らうなら良いわよ?処罰されるだけだから」
私がそう言うとイナリは立ち止まり、不機嫌そうに足踏みしながら
「指示って何?私に関係あること?」
一応話は聞くという態度のイナリに私はにやりと笑いながら
「束を今すぐ殺すのは無し。それがベエルゼ様の決定」
ベエルゼに様付けするなんて本当はいやだけど、ここは仕方ない。ちゃんと配下の振りをしよう
「あんたベエルゼ様に何か言った?」
私は何も言ってない。これを考えたのはベリトなんだけどね、ベエルゼは私からの提案とベリトからの進言で決めたのだ。私は内心苦笑しながら
「ベリト様の指示だよ。束は人間としては使える、だからネクロ化させるけどあそこまで自意識の強い人間だと失敗しかねない」
ネクロ化が死体や死にかけの人間がいいのはそこだ、意識が希薄になりネクロの思考に染まりやすくなるからだ。だけどあそこまで自意識が強い束はネクロ化させても言う事を聞くとは思えない。下手をすると半ネクロにもなりかねない
「じゃあどうするって言うのよ?」
「簡単だよ。束はこの世界では人間に狙われている」
上質なネクロの条件は色々ある。例えば憎悪とか殺意。こういうのはネクロにとっては最高の糧になる。だけどそれとは別に良い素材がある
「憎悪。あの束って言うのは極めて自己的で自分の事しか考えてない……あえて私達が手を下さず……人間にやらせる。そう言うことね?」
ネクロの考えていることなんて大体似たり寄ったりだ、最後まで説明しなくても理解してくれる。こういうところは本当に便利だよね
「その通り。でも人間だと束を殺さない可能性もあるからすこーし、弄るけどね」
束を見つけたと知ればどの国も動く。そして乗り込んで捕まえようする人間達を見つけて精神操作をする。それがベリトの考えたプランだ。わざと痛めつけさせ殺さず生かさずで心を折り、人間に殺意を向けさせる。そうすればネクロ化した時もその憎悪と殺意は残る
「判ったわよ、そう言う手筈なら私は動かないから」
つまらなそうに鼻を鳴らして歩き出すイナリ。途中で耳と尻尾を消してスーツ姿に着替えて転移する。恐らく人間達に束の情報を流すためにだろう
(私の本命は束じゃないしね)
束は面白いけど私の好みじゃない、どちらかと言うと死の運命を知りつつ足掻いてるアズマの方がよほど好みだ
(アズマをネクロ化したら面白いだろうなあ……)
届かない、叶わないと知りつつ光に手を伸ばすアズマは実にこっけいで愚かしい。だがそれゆえに
「面白い」
人間もネクロも不完全だ。だけどその不完全差が玩具として面白い。最高の喜劇だ、自分は良かれと思って行動しているがそれが返って最悪のほうに進んでいるのだから
(足掻け、そして絶望しろ。アズマ)
その時がお前が最も輝くときだ。そして私の人形に相応しくなるときだ……私はくっくっと喉の奥で笑いながら、人間達が束に攻撃を仕掛けるときを待つのだった……
私は束に与えられた自分の部屋を整理しながら考え事をしていた
(昨晩またIS学園に魔力の反応が戻ってきた。と言うことは八神龍也達が戻ってきたのだろう)
ここ数日IS学園に仕込んでいたカメラには織斑千冬達の姿はなく、束が落ち込んでいた。恐らくだが、八神龍也達の技術力でISを改修する為にこの世界を去ったのだろう
(しかし何かしていってくれたようだな)
何をしたかは判らないが、活発に動いていたネクロの動きが弱まっていた。自分達が世界を去る前に何かしたのだろう……だけどそのおかげで色々と準備が出来た
(小型は出来なかったが魔力弾を打つ機構も何とか間に合った)
ネルヴィオは業と不完全な物を渡して、私と束の科学力を試していた。
私はその中の1つ。デバイスの修理をしていたが、ギリギリで間に合った
「とは言えどこまで使えるかだな」
ISの武器として考えればかなり強力だが。ネクロに通用するかどうかは判らない。それにネクロが直接仕掛けてくるとは思えない、やはりここのラボの1部も改造しておくべきか?対ネクロ・対人間。その両方で考えておかないといけないだろう
「やっほー♪アズマチャーン!」
「ぬお!?なにをする束!」
いきなり後ろから抱きついてきた束を振りほどく。束はイエーイとピースしながら
「昨日ちーちゃん達がIS学園に帰ってきたんだよ。いやー束さんは寂しかったよ」
よよよっと崩れ落ちる振りをする束を無視していると
「無視しないでよ!話聞いてよ~」
「ええい!纏わり付くな!話は聞いてやるからスカートから手を離せ!」
私のスカートを両手でぐいぐい引っ張る束を引っぺがし、イスの上に座らせる
「なんでちーちゃんは八神龍也の話を聞く気になったんだろうねえ?」
紅茶を飲みながら尋ねてくる束。そんな事を尋ねられても私に判るわけがない、私は織斑千冬ではないから、だけど大体の予想は付く
「ネクロに襲われてなにか考えが変わったのではないか?」
「えーだけどネルちゃんはちーちゃん達を襲わないって言ってたよ?」
何故そこまでネクロの事を信用できるのか理解できない。口約束ならなんとでも言えるし、向こうはこっちの約束など護る必要もないのだから
「それはネルヴィオだけの話だったのではないのか?」
どうせ約束したと言ってもネルヴィオだけだろうと思い言うと束はてをぽんっとたたき
「あーそっか。それなら判るかも、ネルちゃん言ってたもんね。ネクロも一枚岩じゃないって」
うんうんと頷いている束。ネクロの話を聞いていたのなら気付いてもおかしくないのだろうが
(また隈が酷くなっているな)
ネクロと合ってから束はおかしくなっていた。自分は気付いてないが、私とクロエは気付いていた。束の異変に……
「束。また徹夜していたな?少しは休んだらどうだ?」
「ん、んーそういえば、4日くらい寝てないかも?」
「早く寝ろ。そしたら考えも纏まるだろう?」
私がそう言うと束はうーんと考える素振りを見せるが
「ううん。寝ない、さっきね面白い者を考えたんだ!アズマちゃんの造
ってたあれを見て閃いたんだよ」
あれ?ブラッドバニーの強化パックの事か?
「そうだよ~あれでね。箒ちゃんの紅椿を更にパワーアップさせれるんだよ!」
えへへと笑ってじゃあ早速作ってくるから!と言って部屋を出て行く束。私はその背中を見て
(まだ大丈夫か……だがいつまで大丈夫なのだろうか)
私の見解だが、ネクロは少しずつ束に干渉してきている、最近の言動の変化そして時折見せる束とは思えない邪悪な笑み。少しずつ、少しずつだが……束はネクロ化しているのではないか?と言う不安が頭を過ぎる
「いや。まだ大丈夫だ、まだ間に合うはずだ」
とは言え私に出来ることは余りに少ない……もし束を救える存在がいるというのなら
「それは八神龍也以外にありえない」
この世界では束そして織斑千冬はお互いを越えるのはお互いだけだった。だからこそ自分の我を通して来れた。さっきは束には言わなかったが、千冬が変わったのは恐らく八神龍也に徹底的に論破されたのだろう、自分の考えを徹底的に否定されたのか、それとも叩きのめされたのか?そこは私には判らないが恐らくそうだろう。だが束と織斑千冬は違う
「束が素直に話を聞くわけがない」
ネクロの影響もあり、束が素直に八神龍也の話を聞く可能性は限りなく0に近い。しかし八神龍也には束を救ってもらわないと困る。もし私の考えている通りなら
「私の命はそう長くない」
元々私は長く生きれる体ではない、そして最悪の事態になったとき。その時が私の命の終わるときだと理解している
(ネクロには何一つ思い通りにはさせない)
束はネクロにはさせないし、私もネクロになる気はない。
(一泡吹かせてやる)
どうせ長くは生きる事のできない身体だ。自分の命に未練はない……ここで出来るだけ派手に暴れれば八神龍也が気付いてくれる可能性がある
(しかしそう簡単に上手く行くかどうか……)
ネクロも八神龍也の危険性を知っている、そう簡単に知らせることが出来るかどうか……私の願いと思いは全てクロエに託した。あと不安に思うことは1つだけ
(束とクロエをここから逃がせるかどうかだ)
襲ってくるネクロと人間はどうとでもなる、そのための準備はしてある……問題は二人を逃がす手段だ。ネクロも人間も束を利用しようと考える。逃がすほうが圧倒的に難題だ……
(ネクロは恐らく結界を使う。となれば通信は駄目だ)
どうした物かと考えていると私の目に止まる物体があった。それは試作段階のデバイスコア。真似をして作ってみたが想定していた出力に届かず、僅かながらのエネルギーをISに供給できるサブタンク程度の効果しかないものだが、その使い方を限定すれば相当なエネルギーを捻出できる。そうネクロの結界を破壊する程度の力はでるはずだ
「これしかないか」
小型化できず車のエンジンと同程度の大きさになってしまっている。これでは使えないと思った物の今こうしてやっと利用価値が出てきた
「こうなると大きくてよかったと思ってしまうな」
ISコアと同じ大きさでなければ使えない、失敗かと廃棄しようとしていたが、まさかこんな所で利用価値が出てくるとは思わなかった。私はそう苦笑しながら、そのデバイスコアのエネルギーバイパスを一極化し方向性を固定するようにプログラムを組みなおし
「出力を更に上げるために少し手を加えておくか」
今のままだと十分な出力を得れない可能性がある、それだと本末転倒だ。廃棄する予定だったISのパーツと組み合わせ、即席の爆弾を作り上げる
「これならば八神龍也も気付くだろう」
この爆弾の目的は1つだけ、八神龍也にこの場所を知らせる事。束は抵抗するだろうが、あの男なら束の抵抗も苦とせず無力化させることが出来るだろう……私は深く溜息を吐きイスの背もたれに背中を預け
「最近感じるこの嫌の感じ段々近づいているな」
ゆっくりと、だが確実に自分たちに迫っている殺意。これから逃げることは出来ないだろう。私は目を閉じて少しだけ眠りに落ちることにした。せめて夢の中では私が望む幸福があることを願って……
だがアズマの願いは叶うことはなく、終わりの時はもう直ぐ近くにまで迫っていたのだった……
第104話に続く
次回はIS学園とネクロの視点でお送りします。IS学園はペガサスと龍也の話し合い。ネクロ視点はハーデスをメインにやっていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします