第104話
IS学園の地下ブリーフィングルームを使う時。それは有事の際だけだが
(こんな事態は想定していないわよ)
私は心の中でそう呟いた。ブリーフィングルームは異様な空気に満ち殺伐としていた。はやてさんと龍也君、千冬と私と一夏君。そしてスコールさんだ
「なんだ?俺になにか言いたい事があるのか?」
射抜くような視線。ペガサスだ、刺す様な殺気を纏いながら椅子に腰掛けている。私と千冬は平気だけど一夏君の顔が青い。殺気に当てられているのだろう
「殺気を抑えてもらえないかね?子供には刺激が強い」
「ならお前も攻撃の態勢をやめたらどうだ?」
ペガサスの言葉に驚いて龍也君を見る。だけど龍也君は妙な素振りを見せてない……どういうことだろうか?
「それで?お前の出す情報はなんだ?」
龍也君の言葉にペガサスはふんっと鼻を鳴らしてから
「ネクロが用意している物と今後の動きの情報を出す。代わりに貴様とそこの小僧の力を貸せ」
あくまで高圧的な態度を崩さない。それは自分の有利さを理解しているからこその態度だ
「私は判るが、一夏まで?なのはとフェイトで足りるのではないのか?」
「まずはお前が力を貸すのかどうかだ」
「ふむ……ではネクロの情報を先にだ」
「俺も妥協は出来ん。先にお前が了承してからだ」
互いに完全な平行線だ。とは言え私とかが口を挟むと話がこじれるかもしれない……ここは龍也君とペガサスの話し合いを待つしかない。互いに睨み合っている、龍也君とペガサスを見ていると
「OK……力を貸そう」
折れたのは龍也君だった。向こうが折れないということを理解したのだろう、あのペガサスと言うのは自分の立場を知りその上でこの場に来た。折れる訳がないと判断したのだろう。はやてさんも仕方ないという表情で頷き
「それであんたの知ってる情報は?」
「ヨツンヘイムは改良こそ進んでいるが、想定していた戦略兵器としての価値はない。あくまで防衛装置としての役割に落ち着いた」
淡々と語るペガサス。その話をメモしながら龍也君は
「ネクロの科学力でも不可能だったわけか?」
「部品が無い。修理が限界だったわけだ」
嘲笑うように言うペガサス。私と千冬そして一夏君は完全な蚊帳の外になっているが、仕方ない。私達が知らない話だから無理に割って入ることも出来ず、話が終わるのを待つしかなかった
「それでもこの世界の人間の兵器では破壊は出来ないだろがな」
破壊できない防衛兵器。どこかの国が暴走して核ミサイルとかを持ち出さないと良いんだけど
「次にだが。量産型ネクロディア・ゼフィルスとゴスペル。ディース・ディースガルム。それと……平行世界の織斑千冬達のネクロ態、ベリト・ベルフェゴール・イナリ・アヌビス・ラクシュミ・ハーデス・ベエルゼだな」
なんか敵のほうの数が圧倒的に多いんだけど……ってそれよりもペガサスがネクロのことを知っているならこれだけは聞いておかないと
「平行世界の千冬とかの情報は?」
ネクロも脅威だが。前にアリーナに現れた千冬達のネクロも脅威だ、出来ることなら情報を知りたいと思い尋ねると
「無い。あいつらは精神が極めて不安定だ。常に調整中で滅多に合うことは無い」
精神が不安定……そう言えば前にアリーナに出てきた時も酷かったわね。あれがデフォルトってことか……判ったのが精神状態だけだが。それでももしかすると付け入る隙になるかもしれない。しっかりとメモをしておくことにする
「それとネクロの動きだが。近いうちにベルフェゴールとイナリが動く、目的までは知らんがこれは確実な話だ」
「イナリと言うのはあれか?狐耳の」
前にスコールさん達を襲っていたネクロの事だと思い。スコールさん達に尋ねる千冬。スコールさんはええと頷きながら
「ええ。イナリは人間に擬態出来るから、各国に積極的に関わっているみたいよ」
人間に擬態できるネクロか。そう言えば前にIS学園に進入してきたネクロもいたわね……本当にネクロって言うのは能力のバリエーションが多いわね
「ペガサス。1つ聞くけど、前にIS学園に侵入して来たネクロがおった。あれはなんて言うんや?」
「ラクシュミだ。この世界で生まれたネクロらしくてな、魔力は持たないが特殊な能力を持っている。自身をオリジナルとして自分自身をコピーできる。あいつは端末と言っていたがな、それから情報を集めて整理している完全な情報戦特化のネクロだ」
世界に適応したネクロってやつね。龍也君達が気付かないわけだ
「スコールは知っていたのか?」
「いいえ、そう言うネクロがいるとは聞いていたけど、まさかそんな能力とは思って無かったわ」
ネクロといえば攻撃特化。まさかそんな進化をしているとは私も思わないわね、プロでも知らないパターンか……考えるだけで怖いわね
「一応聞いておきたいが良いか」
今まで黙り込んでいた千冬がペガサスにそう声を掛ける。ペガサスは一瞬だけ千冬を見てからつまらなそうに視線を逸らし
「何が聞きたい」
「平行世界の私とやらの強さは?」
平行世界とは言え同じ自分。その力が気になるのは無理もない、ペガサスは少しだけ考える素振りを見せてから
「向こうの方が上だな。基礎は同じでも人間と魔導師。そしてネクロ化……腕力や耐久力は考えるまでもなくあちらが上だ。それにネクロ化の影響で攻撃的になっている。自分と同じだと高をくくっていると死ぬぞ」
その言葉は脅しでもなんでもないだろう。ネクロの力を考えればいくら警戒しても足りないくらいだ
「判った。肝に銘じておこう」
また考え事を再開する千冬。いかに戦うかと言うことを考えているのだと思う。あのネクロは一夏君を狙っていたから警戒するのは当然だろう
「さてではペガサス。今度はお前の要求を聞こう。お前は何故私と一夏を指定する?ネクロ相手ならなのはやフェイトの方が戦力になるとおもうのだが?」
ネクロなのに態々IS学園に来て、龍也君と交渉をしたいというペガサス。その理由が判らず、そして更に一夏君を指定てきたことを疑問に思いながら私はペガサスの言葉に耳を傾けたのだった……
龍也とペガサス達の交渉の場に同席するように言われていた俺は場違い感を感じていた。千冬姉やスコールさんは判るが、何故俺を指定したのかが判らないのだ
「俺の目的は1つだけだ。覇皇ハーデスを殺すこと。俺はそれだけの為にネクロになった」
「……復讐か」
龍也の呟きにペガサスはそうだと頷いた。復讐の為にネクロ化?どういうことだ?
「意思がネクロの因子を上回ったって事か、随分と無茶をするなあ?」
龍也とはやてさん達は理解しているようだが、俺達には何の事なのかさっぱり判らない。俺達が首を傾げていると龍也が
「ペガサスは生身の時にあえてネクロの細胞を受け入れ、人間からネクロになったのだろう。通常は直ぐに意識もネクロ化するのだが、ペガサスは意思でそれをねじ込んで自分の意識を保っているんだ。違うか?」
「ああ。かれこれ1000年近く、ネクロの因子と戦っている。最近は発作の間隔が短い、俺には時間がないんだ」
発作の意味が判らないが、恐らく完全にネクロ化するまでもう時間が無いと言う事なのだろう。だからこうして龍也の所に来た
「でもそれなら確実性を取ってなのはさんとかフェイトさんに協力して貰えば」
「それが出来れば苦労はしない。ハーデスは魔力吸収・反射の能力を持つ。倒すには物理。しかも近接攻撃しか手が無い」
吸収・反射。ネクロって言うのは本当にどれだけ能力を持っているんだ。ペガサスの言葉に龍也は考える素振りを見せる、その能力のことと俺の能力を考えているのだろう
「なるほど、大体判った。だがそれで何故一夏を指定する。まだ一夏はLV4と戦えない」
「ハーデスは強力なバリアを展開できる。それを破ろうとすれば体力も魔力も消耗してしまう。ならばバリアー貫通能力を持つやつに最初からやらせれば早い」
バリアー無効って零落白夜のことか?だけどそれはISに対してだけだから意味が無いはずなんだが
「ISとデバイスは違うんでしょ?一夏君の零落白夜は効果があるの?」
「それだ。突破出来るという確信が無いのなら、そんな無茶な賭けに一夏を出すのは賛同できない」
千冬姉とツバキさんが反対意見を出す。俺も出来ることなら辞退したい所だ
「出来る。今の一夏のISはデバイスと融合している、少し調整すれば魔力障壁を突破することも出来る」
だが龍也が出来ると断言した。となれば後は俺次第と言う事になる……正直怖い……
「なるほどね。それなら一夏君が戦う価値は十分にあるわね。それにどうせネクロに襲われるのだから強い相手と戦っておく意味はあるわ」
「そやね。千冬のネクロも箒達のネクロも一夏を狙っとる……一夏。ここで覚悟をきめい」
覚悟……本当にネクロと戦うという覚悟を決める。膝の上の手が震える……これは武者震いなんかじゃない、これは恐怖でだ……z
「織斑一夏。護ると言う事は戦うことだ、逃げるのなら逃げろ。だがそうすればお前は2度と剣は取れない」
ペガサスの視線が俺を射抜く。その目は真剣そのものだった。俺は震える手を見つめて自分の意志でどうしたいのか?それを考えた
(護ると言う事は戦うこと……それはずっと見てきた)
千冬姉や龍也の記憶。そしてクラナガンで出会った隊員の人達……その人達も言っていた、怖いけど護る為に失わない為に戦うと……じゃあ俺は今ここで逃げていいのか?
(逃げたら俺はずっと逃げ続けるじゃ……)
逃げてどうなるんだ?俺はネクロと戦うと決めて覚悟を決めたんじゃないのか?じゃあ何で俺の手は震えてるんだ?
「一夏。決めるのはお前だ、お前はどうしたい?」
千冬姉が俺の肩にてを置いてそう尋ねてくる。その手は俺がこうありたいと思った手だ……俺は……俺は!
「戦う!俺はもう逃げない!!」
震えている手を机に叩きつけ強引に震えを止めて、龍也とペガサスを見て叫ぶ
「だ、そうだ。これで取引成立だな」
「ああ。とは言えハーデスは滅多に出てくるネクロじゃない、だが必ず仕掛けてくる、その時に俺はまたここに来る。じゃあな」
言うだけ言ってペガサスは闇に溶けるように姿を消した。俺は背もたれに深く背中を預けて溜息を吐いていると
「言い切ったな。まぁそれくらいの思い切りが無いとあかんで」
「だな。言い切った以上はやり遂げろよ」
龍也とはやてさんがそう声を掛けて部屋を出て行く、多分ペガサスからもらった情報を整理するんだろう
「一夏。よく言った。頑張れよ」
「白式はばっちり調整するからね」
「時間がどれくらいあるか判らないけど、私とオータムも貴方に戦い方を教えるから。頑張りなさい」
次々に声を掛けて部屋を出て行く。俺は深く溜息を吐きながら
「怖いとか言ってる場合じゃない」
クラナガンでは暴走はなかった。それに最近は夢も見ない、それでもいつ暴走するかもしれないという恐怖はずっと俺の中にあった。だけどペガサスはいつ完全にネクロ化するか判らない中それでも自分の目的のために戦っていた
「俺だって逃げてばかりはいられない」
俺は誰かを護れる人間にずっとなりたかった。俺はもう逃げないと決めた、そして戦うと覚悟を決めた
「もう逃げたくねえんだ」
ネクロからも、ISの暴走からも逃げない。俺は立ち向かう……俺は気合を入れるために自分の頬を叩く、ちょっと力を入れすぎて痛いが……これくらいで丁度良い
「しゃっ!行くか!!!」
話が終わったのならこれからは訓練だ。フェイトさんの訓練に参加している箒達と合流しようと思い、俺は地下のブリーフィングルームを後にしたのだった
何処か判らない紛争地に佇む一体の異形。漆黒の甲冑にその周囲を浮遊する棺のような形をした楯。その足元には無残に切り裂かれた戦車とそして人間だった肉片だけが落ちていた
「脆い。余りに脆い」
上半身と下半身がバラバラになっている肉片を踏み砕き、更なる獲物を探していると
「ハーデス様」
俺の後ろに転移してくるネクロの気配に振り返るとそこには
「ベルフェゴールか。どうした」
ハーデス付きのネクロの1体。ベルフェゴールが片膝立ちで俺を見ていた
「私も人間狩りの為に参上いたしました。ハーデス様の邪魔をする気はありません、どうか私もこの場で戦うことを許可してください」
「ふん。似合わぬ敬語は止めろ」
ベルフェゴールが敬語を使うのは何をしても自分の意を通したい時だけだ。
「ひゃは!ハーデス様!俺も暴れてもいいかぁ!」
「好きにしろ。魂狩りを忘れるなよ」
「ひゃーははははははは!!!!!皆殺しだ!人間共!!!!」
鎌を振りかざし人間へと突撃していくベルフェゴール。どうも俺の出番はなさそうだな、手にしていたヒュプノス・モロスを両腰の鞘に収め切り裂いた戦車の残骸に腰掛ける
「ぎゃああああ!」
「ばけもの!逃げ……ぎあああああ!?」
「はっはー!!!弱え!弱すぎるぞ!ゴミ共がぁ!!!!」
何度も繰り返し響き渡る肉を裂く音とベルフェゴールの嘲笑。その悲鳴と涙に思わず笑みが零れる。だが
(物足りない)
戦う相手がいない、嬲り殺し、引き裂き、蹂躙する。ああ、それもいいだろう、だが
(違う……俺の求める者はこれじゃない)
守護者が居るのに何故俺は闘いに出てはいけない。ベエルゼの回復がすんでないからか?俺は
(闘いたい。こんな一方的な殺戮ではなく闘いたい)
傷つき、傷つける。それでこそ闘いだ。前俺が目覚めた世界ではリンカーコアも魔力も蓄えがなかった、だから本能のままに動き世界を騒乱を起こした。人間同士の殺し合いの中で人間を喰らい、リンカーコアを取り込み体力と魔力を回復させた
(だがあの世界の魔導師は良かった、意識があればよかったのだが)
ただ殺すことしか考えられない状態で出会ってしまった不幸。俺の意識があれば闘いを楽しむことが出来たのに……
(あの手ごたえはまだ残っている)
腕を切り飛ばされ、楯も全て砕かれ、モロスは中ほどから砕け散った。ボロボロで限界状況の中この手で殺した女の魔導師。俺たちの中では有名な相手らしいが俺はその相手が誰かは知らなかった。封印されていた時間が長かったからだ……
(いつまでもこんなことはしてられん)
盟友であるベエルゼの回復のために魂狩りをしてきたが、これだけ人間の魂を狩れば十分だ。ベルフェゴールも相当な量の魂を刈り取っている。俺がいつまでも魂狩りをする必要はない筈だ
「ベエルゼに話をして見るか」
いつまでもこんな事をしていても意味が無い。守護者もこちらの動きに注目して行動を再開しようとしている。待つだけではなく、こちらから動かなければ俺はこの場をベルフェゴールに任せ、ヨツンヘイムへと帰還したのだった
魔力の消耗のせいで陥っていた眠りから目覚め、ベリトからの報告を聞いた私は王座に背中を預け
「そうか。守護者が戻ったか」
この世界から去っていた守護者が戻ってきた。それは恐らく私達に対する対策が練れたと考えるべきだろう
「ハーデスは?」
「魂狩りにでておられますが、そろそろ我慢の限界かと」
「今まで良くやってくれたと言うべきだ」
私の回復の為の魂をこれでもかと集めてくれた。ハーデスは闘いを好むネクロだからここまで良く我慢してくれた
「戻り次第王座に来るように伝えてくれ」
「畏まりました。それでは失礼いたします」
ベリトが頭を下げて部屋を出て行く、寝むり起きての繰り返しだったが今は気分が驚くほど高揚している。漸く回復がすんだと見て間違いないだろう
(しかし守護者が戻ったか、1度仕掛けるべきか)
ヨツンヘイムの改修はほぼ完了しているが、向こうの戦力の変化が気になる……
(1度威力偵察を出すか)
ハーデスを出すにしても1度向こうの戦力を確認しておかなければハーデスを消耗させることになる。ハーデスはその能力上短期決戦には強いが長期戦には弱い。情報収集は必要だ
(ベルフェとイナリ。それとベール達の中から1人出すか)
1度戦力を確認しておいたほうがいい。そして確実に撤退させるための策も必要になるだろう
(同時攻撃を仕掛けるか)
丁度手駒として使えるディースとディースガルムの数は揃っている。1度戦闘データを取りたかった所だ……この機会に出してみるか……
「そろそろ動くとしても、もう少し情報が欲しいからな」
守護者達の能力は判っている。私が知りたいのはそれ以外の戦力のことだ、守護者の世界にもネクロは出現している。必然的に戦力は分断される。だから単独でも戦力になる夜天達がこの世界に居る、だがそれ以外の戦力はどうだ?護りながら戦うのは難しい、特にこの世界の人間は弱いから単純に数がいるだけでは何の意味もない、だが守護者の下でクラナガンで訓練を受けたと考えると話は別だ。リスクは極力下げる、守護者相手では一瞬の油断が敗因になりかねないからだ
(ここはあえて慎重に行く。お前がどう出るか楽しみにしているぞ、八神龍也)
今はまだ仕掛けるべきときではない。慎重に慎重を重ねてもまだ足りない。守護者との戦いはそう言うものだ、それにこれ以上高レベルのネクロが増えないことを考えると更に慎重になる必要がある。そして相手の出方を見るには
(同時に3箇所だな)
複数の場所に同時にネクロを出現させる。ラクシュミがゲートを刻んでくれているので近くに出現させることが出来る筈だ。
「今一度お前の力を見せてもらうぞ。八神龍也」
1週間と言う時間は短くもあり長くもある。その時間であの学園の人間がどれほど変わったのか?それを知る必要がある、私は配下のネクロとその編成に頭の中に思い描き、仕掛ける時間を場所を念入りにシュミレートするのだった……
第105話に続く
次回は戦闘回で行きたいと思います。色々なサイドでやりたいですね、クラナガンでの訓練の件の成果とかを出したいので、出来たら3つのサイド位で書きたいですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします