第115話
地面に横たわる鈴を見て小さく舌打ちする。私が念の為に渡しておいたプロテクションを発生させるブレスレットと鈴が自前で買ったであろう指輪。二重のプロテクションを簡単に打ち抜いている。
(……骨は肋骨の5番と3番。右腕と左足骨折……強い衝撃による脳震盪……それと軽度のネクロの因士の感染……この程度なら御の字か)
ハーデスの一撃はどう考えても生身の人間ならそれで即死しかねないほどに強力な一撃だった。二重のプロテクションで一命を取り留めている。ネクロの因士に感染しているが、この程度ならば治療できる……そ魔力で直接酸素を与え窒息しないようにしてから
(なのは!フェイト!これ以上こっちに箒達が来ないように監視しろ!鈴がこっちに来て重傷だ。今から治療に入る、念話には対応できない!)
なのは達に念話でそう怒鳴り、鈴の治療を始めるのだが
(ちっ、いつもより回復のスピードが遅い)
ペガサスのネクロの因子を抑えるのに魔力を回している分。魔法の効力が薄い……暫くは治療を続けないと駄目そうだ。だが戦況は
ハーデス・ペガサスそして暴走している一夏。とてもじゃないが、良い状況とはいえない……
(泣き言は言ってられん。まずは肋骨からだ)
今このタイミングで鈴の意識が戻ると危ない。鈴が目を覚ます前に肋骨の治療だけは終わらせる!上手く魔力を集中できない中。鈴の治療を始めるのだった……確実に助ける事はできるが、これは少しばかり骨が折れる
(何とかしのいでくれよ)
ネクロ化しかけているペガサスにハーデスと暴走している一夏の相手は厳しいと判っている。だから少しでも早くペガサスに合流できるように、治療に専念するのだった……
(ちい……暴走なんて生易しい者じゃないぞ)
俺はハーデスに加えて暴走している小僧の2人を相手にしなければならないのだが、ハーデスよりも暴走している小僧が厄介だった
「オオオオオッ!!!」
見境なく飛ばされる黒い魔力刃。牽制目的なんかではない、それでこっちを仕留めると言いたげに殺意に満ちた攻撃だ
「くっ!いい加減に目を覚ませ!!」
俺とハーデスの両方に殺到する魔力刃を何とか弾きながら叫ぶが
「ハハ!オレはお前など知らん、俺は知ってるかもしれんがな!!!」
両手のブレードで切りかかってくる小僧。その一撃は重くそして鋭い
(徐々に鋭くなってきている)
打ち合うたびにその勢いは鋭さを増し、そして破壊力は増していく。既に弾くのが手一杯と言うレベルだ。いや殺すで掛かればまだやりようはあるのだが……
(殺すわけにも行かん。ここは)
小僧を殺すわけにはいかんし、当然自分が死ぬのは駄目だ。背後から切りかかってくるハーデスの気配を感じながら、神速に入る。自分以外がスローに動く中大きく飛びのく、次の瞬間には
「は!貴様が相手か!」
「どうでも良い!目障りだ!」
小僧とハーデスが切りあっている間に間合いを放し、手の中のクラウソラスを見て舌打ちする
(刀身の皹が回復していない)
これも俺の魔力がベースになっているから、恐らく回復にまわせるだけの魔力が俺に残っていないのだろう。それに身体の疲労感も段々強くなってきている
(ネクロの因子を抑えるのも限界か)
ネクロ化は抑えられているが、そのせいで弱体化していては意味がない。だがこのブレスレットを取れば一気にネクロの因子は活性化するだろう。
(俺の自我がどこまで持つかだ……今はだめだ)
守護者が戦えない以上、俺まで暴走するわけには行かない。呼吸を整えると同時に小僧とハーデスのほうに切りかかる
「乱戦に持ち込めばと思っているのか?」
「さあ……な!」
ハーデスの上段からの一撃をクラウソラスの柄で受け止め、そのまま回転しながら一閃し
「シッ!!」
「ちっ!」
即座に下から切り上げ小僧の剣を上に向けて弾く。それと同時に拳を繰り出す
「ぐう!?」
「俺は気が長い性質じゃないんでな」
いつまでもこんな硬直状態でいては何も変わらない。俺はクラウソラスを構えなおし
「腕の1本は覚悟してもらうぞ」
無傷で無力化しようなんて甘い考えは捨てた。俺の一撃なら切断面は乱れることもないだろう、切り落とした後で守護者になおさせれば良い。俺はそう判断したのだ
「出来るのか?今の貴様に」
俺の今の状態を知っているのかそう尋ねてくる小僧に
「なに心配する事はない、今の俺は完全ではないが、それ以上に充実している!「はあ!!」
ハーデスの横薙ぎを飛び上がり回避し、その刀身の上に着地し回し蹴りを叩き込むと同時に小僧目掛け
「手加減する気は失せた」
正確に言えば、自分を護る気がなくなったんだがなと内心苦笑しながら、身体に染み込んでいる技の構えに入る
「な……ぐはぁ!?」
血を吐き出し吹き飛ぶ小僧。あいつの目には閃光が走ったようにしか見えないだろうな……御神流奥義之参・射抜。御神流奥義の中で最も速く、リーチが長い突き技。見てから回避することなどできようもない、最速の技だ
「貴様にはこれをくれてやる!!」
俺の一撃を受け止めたハーデスの剣目掛けもう1度剣を振り下ろす
「ぐう!?き、貴様何を」
身体に走った衝撃に顔を歪めるハーデス。一瞬だけよろめいたその隙にクラウソラスを柄に収め
「答える義理はない!」
クラウソラスを柄に収めたまま走り出し、加速の乗った四連抜刀を繰り出す
「くっ?俺の楯が」
背後に滞空していた楯を2つと胴体に深い切り傷を受けて後退するハーデス。普段なら追撃に走り出したいところだが
(ぐう……不味い)
ネクロの因子が活性化するのを感じてその場に立ち竦む。御神流奥義之六・薙旋そして御神流奥義之肆・雷徹。2つの奥義に加え身体強化を同時に掛けた事で体内の魔力量が変わり、ネクロの因子の活性化が再び始まったのだ
(歯を食いしばれ!まだ終われないのだろう!)
歯が砕けるばかりに食いしばり意識を保つ。視界に移る俺の右腕に徐々に黒い魔力が集まっていくのが見える。それは物質化を始めていて
(ちい!いつまで持つか……)
ネクロの魔力の物質化が始まればネクロ化は爆発的に加速する。守護者の魔力で抑えているとはいえ限界が来ているのは一目瞭然だ。だがもう立ち止まれない、ここまで来たら進み続けるしかないのだから……音を立てて砕けるブレスレットを横目に俺は再びハーデスと小僧に向かって走り出したのだった……
俺は何をしているんだろうか……今自分が何をしているのか?どこにいるのかも判らない闇の中に俺はいた
(酷く眠い)
判っているのはそれだけだった。光りも何もない闇の中、目を瞑ればどこまでも落ちていくかのような、そんな感じがある。普段なら恐れる闇も何も感じることはなく、何故かとても穏やかな気分になっていた
(眠ろう……)
そうすれば何も考えなくて済む。後悔する事も、悲しむこともない……そう考え、開きかけた瞼をまた閉じようとしているとどこから声が聞こえてくる。小さな声だが、それは妙にしっかりと聞こえた
『それでいいのか?』
「ああ、これでいいんだ」
自然と零れる言葉。何も考えないほうが楽だ、痛みも絶望もないのだから
『逃げるのか?現実から』
その言葉にぼんやりとしていた思考が再びまとまり始める。俺が何をしたかったのかはまだ思い出せないが、何か焦るようなそんな感じがする
『俺は逃げた。逃げて逃げて逃げて……狂った。それで良かった、もう俺が護りたかった者は何もいなかったから』
後悔するかのような、しかしそれでいて懺悔するかのような声が聞こえてくる。その声が聞こえるたびに意識がはっきりとしてくる
俺は……こんな所に来るために強くなったのか……違う
このまま眠るのか……駄目だ。俺はもう逃げないと決めたんだ
頭の中がグルグルと回転している。そしてそれを見て笑う誰かの気配。だけど闇の中に居るから誰か判らない
『1度逃げたら逃げ続けないといけない。そしてその末路をお前は知っているはずだ』
そう言われて脳裏に浮かぶのは檻の中にいたもう1人の俺の存在。そこまで思い出した所で
「俺は!?」
如何して俺はここにいるんだ!?俺はペガサスと龍也と一緒にハーデスと戦っていたんじゃないのか!?色々な事を急に思い出し、軽く頭痛を感じながらも身体を起こすと同時に周囲の闇は溶ける様に消えていく
『目覚めたな?あのままでは完全に取り込まれていたぞ?オレにな』
そう笑う誰かの姿。今ならはっきり判る、その姿はクラナガンで見た龍也達と同じ制服を着込んだ俺の姿だった
「俺!?」
だけど夢の中で見る俺とは印象がまるで違う。いつもの狂っているような素振りはなくとても穏やかな雰囲気をしている
『良い反応だ。そう俺はお前だ。ただし魔導士として活動していた俺だがな』
じゃああの檻の中の俺はなんなんだ!?頭の中が混乱してきた。あのオレも魔導師なんだよな?じゃあ目の前の俺はなんなんだ
『深く考えなくて良い。俺とオレは同じ存在だが、あいつはオレが狂ったときに生まれたオレだ、まぁ簡単に言うと二重人格のようなものだが、あいつは力が強くなりすぎた。異なる世界の自分に干渉できるほどに』
白式が暴走しているのももしかしてそのせいなのでは……だけどそれ以上に俺の精神力が低いせいなのか?
『いいか。俺がお前を助けれるのはこの1回だけだ、お前がオレを何とかしないといけない』
「ちょっと待ってくれ!ど、どういうことだ!?」
俺の理解できない段階で話が進んでいるのを感じて俺にそう言うが
『悪いが時間がない。今は何とか俺の力で身体の主導権をお前に返すが、その後は俺でもどうにもならない。奴がこの世界に帰ってくると俺は取り込まれるからな』
「い、いや!だから待て!何の話なんだ!?」
『言っているだろう?時間がないと、今この瞬間がチャンスなんだ!いいか!次は負けるなよ!!』
俺に突き飛ばされると強烈な浮遊感を感じる。俺はそのまま遠ざかっていく俺の姿を見ることしか出来なかった
「いい加減にしやがれ!このガキが!!!!」
「ぐはあ!?」
目覚めた俺に待っていたのはペガサスの鉄拳でした。折角目覚めた意識がまた吹き飛びかねない威力だったのは言うまでもないだろう
『間が悪かったな。すまん』
一夏の中ではなく、白式に取り込まれているデバイスの中で呟く平行世界の一夏の元に
『貴様!何故オレの邪魔をする!』
『さぁな、オレとお前は考え方が違うんだよ。この世界の一夏の邪魔はさせない。俺が相手になってやる』
白と黒の閃光がぶつかり合い、均衡を繰り返していたが何回目かの衝突で僅かに白の光が黒を飲み込んだのだった……
「そっちも戻ったようだな。しかもより強くなった」
あの黒いISが再び白に戻り、その姿を変えていく、背中に砲台を装備した大型のISに変化している。そして感じる闘士が前よりも強くなっている事に笑みを零す。取るに足らないと思っていた相手が俺を脅かすものとなる……この瞬間こそが俺の楽しみの一つになっている
「いてえ……だが気付けにはなった」
「お前のせいで、いらん魔力を使った」
ペガサスから感じるネクロの気配は強くなってきている。もうじき完全にネクロ化するだろう
(守護者はまだか)
守護者はまだ小娘の治療に集中している。まだこっちに回ってくる事はないだろう。俺の目的としては守護者と戦うことの目標だったのだが、仕方ない
「良い感じに身体が温まってきた」
全身に力と魔力が行き渡っていくのを感じる。俺は闘いの中でしか生きれないネクロだ、そんな俺にとってこの世界はぬるま湯同然のくだらない世界だ。だからこそ俺はさび付いていた……
「この痛みが俺が俺であると認識できる」
ネクロは姿によって固有さがある。その中には自分が存在しているのに、存在していると言うことを実感できないネクロもいる。俺はそのタイプのネクロだった。だから戦いの中で感じる痛みと高揚感。それだけが俺が俺であると実感できる全てだった
「戦闘凶が」
「なんとでも言え、俺は戦いが好きだ、それの何が悪い」
元来ネクロは闘争本能の塊だ。ベエルゼやヴォドォンそしてベリトのようなネクロの方が稀少なのだ。
「人間とてそうだ。闘争の中で進化してきた。違うか?」
戦争で優れた兵器が生まれた。そして人間もその中で進化してきた。人間の歴史もまた闘争の歴史なのだ
「違う!お前達と俺たちを一緒にするな!」
小僧がそう怒鳴る。俺はにやりと笑いながら
「違うというのなら自分で示してみるが良い、俺達との違いをな!!!」
魔力が更に増量し俺の甲冑を作り変えていく、俺は闘争の中で己の姿を変える。この第3形態が俺の本当の姿と言える
(とは言え寿命を縮めるがな)
この姿は俺の魔力を無尽蔵に吸い上げる。故に俺にはリンカーコアを貯める能力があったのだと思う。魔力で作られた蝙蝠の翼を見つめながら
「この姿になった以上一瞬たりとも気を抜くな。でなければ……直ぐに死ぬぞ!!」
俺の身体から放出された魔力が刃になりペガサスと小僧に迫る。命中するというタイミングで
「わるいが、ここからは私も混ざらせてもらおうか」
剣を手にその魔力刃を弾く守護者を見つめながら両手のモロス・ヒュプロスに魔力をこめながら
「歓迎しよう。俺はお前とも戦いたかった!」
魔力は減っているがそれに反するかのように闘志は上昇している。身体が中から壊れていくのを理解しながらも、俺は笑みを零さずに入られなかった。これこそが闘いだ、そして生きていると実感できる瞬間なのだから……
凄まじい威圧感を放つハーデス。汗が浮き出て手が震える。ペガサスは苦しそうに顔を歪めている。良く見ると身体に黒い魔力が集まっているのが見える
(余計な詮索はするな。目の前に集中しろ)
龍也の言葉に小さく頷き、目の前に浮かぶ白式の状態を見る
(エネルギーは全開だけど、良く考えないと駄目だな)
海のときは一瞬で片付いたが、今回はどうなるのはわからない。零落白夜の発動は控えよう、雪片を構えながらハーデスの様子を窺う。ただ浮かんでいるだけだが、その威圧感はとんでもない。思わず後ずさりをしそうになる
「フッ!」
「流石と言う反射神経だな」
気がついた時には龍也とハーデスが打ち合っていた。全然見えなかった上にISのハイパーセンサーも作動しなかった
(これがネクロの本気なのか)
正直今の俺では足手纏いと思うがここまで来た以上。引くわけには行かない、それに気持ちはハーデスを恐れているが、不思議なことに身体は平然としていた。つまり後は俺の気持ち次第と言う事だ。俺は何度も深呼吸を繰り返す
(龍也が逃げろと言わない以上。俺にも出来ることがあるはずだ)
もし危険ならば龍也が逃げろと言う筈だからだ、俺はまだこのスピードになれてないから駄目だが、慣れてくれれば見れるはずだ
ゆっくりと深呼吸を繰り返し、意識を集中していると脳裏に声が響く
『少しの間なら力を貸せる、行くぞ。この世界の俺』
それは俺を呼び覚ましてくれた俺の声だ。全身を覆う魔力の光、それと同時に龍也達の動きが見えてくる
『慢心するな。集中しろ』
脳裏に響く俺の声に頷き、俺は雪片を右手に持ち。左腰から雪華を抜き放ちペガサスと龍也の放った魔力刃を避けるように飛び出してきたハーデスと切り結んだ
「ほう。良い反応だ!」
「くっ!このお!」
連続で繰り出される剣を必死で弾く。何とか見えるから弾くことは出来る。だが自分から攻め込むことは出来ない
「はああああッ!!」
俺が押されかけているとペガサスが鋭い気合と共にハーデスに近づき、何かの技を放つ。その間に龍也が俺の前に来て
「使え。こっちの方が役にたつ」
渡された装飾の美しい西洋剣を両手で構える。すると魔力が刀身を覆う、これならハーデスにもダメージを与えれるかもしれない
(自分から攻め込もうなんて思うなよ。身を護る事だけを考えろ)
龍也の警告の声に頷き高速で動き回るペガサスとハーデスの姿を見る。さっきまでは良く見えなかったが、今はしっかりと見えている。この魔力で身体強化されているからかもしれないが、これはとてもありがたい。正眼で構えた剣を見つめていると自分の精神が研ぎ澄まされていくのを感じる。だが慢心はしない
(ふー……落ち着け)
俺は自分に言い聞かせるように小さくそう呟き、龍也とペガサス。そしてハーデスの一挙手一投足を見逃さず、いつでも飛び出せるように身構えていたのだった……
第116話に続く
次回の話でそろそろ戦闘を終わりに向けていこうと思います。中々上手くまとまらなくて長くなってしまってすいません
次の戦闘は激しくなる予定です。どんな戦いになるのか?楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします