第121話
束の研究所に用意されたセンサーの数々が次々と接近してくる人間の存在を教える
「嘘!?なんでこのラボがわかったの!?」
絶叫しながらPCを確認する束。時間を確認すると丁度ネルヴィオが言っていた2時間だ。まさかここまで正確だと思ってなかったので思わず苦笑しながら
「束。私が出て逃げる時間を稼ぐ。脱出の準備をするんだ」
「だ、大丈夫だよ!アズマちゃん。この束さんのラボはそう簡単には落ちないよ!」
えっへんと胸を張る束。確かに普通の人間相手なら崩れるわけがない、これだけの防衛設備があるのだから人間相手なら何の心配もない。だが
「念の為だ。大丈夫そうなら直ぐに戻る。だが念には念を入れておくだけだ」
あくまで念の為と繰り返し言うと束はあんまり納得していないという顔はしたが、何とか納得してくれたようで
「判ったよ。念の為に開発中の紅椿とそのほかのデータを纏めておくよ。だけど念の為だけだよ!束さんのラボはこの程度で陥落しないんだから!!」
自分用のラボに走っていく束を見送り、近くで待っていたクロエに
「後の手はずは判っているな?」
「……はい」
悲しそうに頷くクロエの前にしゃがみ込み、私のほうでも纏めておいたUSBメモリをその小さい手に握らせて
「ここに私の意志を残しておく、多分束は怒るだろうし、誰の話も聞かないだろう。だけど、もしかしたら聞いてくれるかもしれないだろう?」
遺言ならばもしかすれば束の心に届くかもしれない。そんな淡い期待を持つ
「あ、アズマァ……アズマも一緒に隠れよう?ね?」
クロエがその手で私のスカートを握り締める。私も出来る事ならそうしたい、だけど私は私の進む道を決めた。もう引き返すことは出来ない、ゆっくりとクロエの手を放し
「それはできない。どの道私はもう長くない。もう話したな?私の存在を」
どの道私は長く生きれる身体ではない、束の手術を何回も受けたことで辛うじてここまで生きながらえてきたが
「自分でも判るんだ、もう限界だとな」
自分の中で自分が壊れていく感覚がする。正直な話、もう既に自覚症状もある。吐血に記憶の混濁、それに意識の喪失……
「作られた身体では……まがい物の身体でここまで持っただけでも御の字なんだ」
私は束の遺伝子から作られたクローン。無理に性能を上げられたことで死に掛け、廃棄された所を束に助けられた。だから私は最後まで束のために戦い、そして命を賭ける事が出来る
「アズマ……」
ぽろぽろと涙を流すクロエ。その涙を指で掬いその小さい身体を抱きしめて
「私はもう居なくなるが、頑張れ。大丈夫だ……全てを託すことが出来る人間はいる」
八神龍也。あいつが来てくれればきっと束もクロエも無事に生還できる。そこまで時間を稼ぐ事……それが私に出来る事だ
「だからクロエ。後は任せたぞ、束を頼む」
束は確かに優秀だが、あまりに精神が幼すぎる。誰かがそばに居てやらないと駄目だ、だからクロエにその役目を託す
「アズマ……アズマ……頑張って」
涙を拭いながら言うクロエノ頭を撫でて、束のラボのほうへ背中を押してやる。名残惜しそうに1度だけ振り返ったクロエだが、直ぐに前を向いて歩き出した
「さてと私もいくか」
私の研究所に用意してある。魔力発生装置の電源を入れる。後は時間が経てば魔力を放つだろう、これで八神龍也はここに来てくれる筈だ。エネルギーを最大までチャージし、サブタンクを積んだブラッドバニーの装甲を撫でる
「これで最後だが最後までよろしく頼むぞ」
ISスーツは服の下に着こんである。エプロンドレスを脱ぎすてブラドバニーに背中を預ける。素早く起動していくブラッドバニーから周囲の除法が流れ込んでくる
(画像リンク開始、敵熱源の索敵開始)
このラボの防衛システムとブラッドバニーの回路をリンクさせ、そのままリフトアップし、研究所の外に出る
(やはりイオスか、しかも拠点制圧用の)
正式な記録を残すわけに行かないのでISが来ることはないと予想していたが、やはりイオスだったか……ISと比べればお粗末としか言いようがないが、戦争の道具としては充分だ。
(まずは先制攻撃だな)
向こうはこっちを殺す気出来ている、私とブラッドバニーに対戦車ロケット弾ジャベリンを叩き込んできた。当然それはラボの防衛設備のガトリングで迎撃されたが
「殺しに来た相手に手加減する理由はない」
まずはこちらも本気だと理解させるために、アームドベースに搭載したミサイルポット「ハイドロミサイルランチャー」を射出する。これはある程度進むと炸裂し小型のホーミングミサイルを放つ、ISなら牽制程度だが、イオス相手なら充分致命傷になるだろう。だがこの初弾はあえて外す、これは最後通告だ。ここから先は本気で攻撃するという意思表示でもある
(あとは八神龍也が来るまでネクロディアが来ない事を祈るだけだな)
操縦者をネクロ化させる機構を搭載した。ネクロ製のISが来ればさすがの私も不利になる。そこまで向こうが追い詰められる前に、八神龍也が来てくれれば良いのだが……私は防衛プログラムを全て起動させ、接近してきている人間全てに標準を合わせる。どうせここに居るのは切り捨てられた軍人達だろう、生き残っても国から処罰されるのだからここで殺してやるのが情けと言うものだ
「先に冥府へ行け。文句はそこで聞いてやる」
どうせ私も死にあいつらと同じ場所に行く、私が殺すのだからきっと同じ場所に落ちるだろう。だから文句はそこで聞いてやると呟き、トリガーを引く……ブラッドバニーとリンクしている防衛設備の全ての火器から焔が奔り、人間の悲鳴と苦痛の絶叫が周囲に木霊し始めるのだった……
束の研究所に攻め込ませてから20分……私は手にしていた懐中時計を懐に収め
「どうみます?イナリ」
小声でそう尋ねる。イナリは閉じていた目を開き
(予想外よ)
周りに人間がいないことを確認してからイナリは手を広げ、偵察に飛ばしていた式神を回収する
「どういうことになっているのですか?」
私には遠見をするような技術はないので、イナリから聞くしかない。イナリは不機嫌そうに式神の型紙を破きながら
「要塞型のISで近づいてくる相手は片っ端から狙撃してるわ。これじゃあ人間は役に立たない」
シナリオでは人間に攻め込ませる予定だったのに。その人間が攻め込むことが出来ない、これでは人間に憎悪を持たせることが出来ない……指を噛み締めるイナリに
(無能な指揮官のせいでしょうね)
この周囲に来ている各国の軍人が指揮を取っているらしいがどれも有効打にはなりえない。人間とは愚かとしか言いようがないですね。私は溜息を吐き
「イオスを1つ私に回してくれませんか?」
この場の指揮を取っていたアメリカの軍人に頼み込む。特別なオブザーバーとしてこの場に招かれているのだからこれくらいの我侭は通るはずだ
「……ミスタにイオスの稼動経験は?」
「ありませんが似たようなパワースーツの扱いはありますのでご心配なく。このままでは他の国に出し抜かれますよ」
この言葉に決心したのかハンガーを用意するといってコンテナのほうに歩き出す。私はイナリに
「私がアズマにダメージを与えます。私の能力を使えば容易い事」
腐敗の教義を間逃れた人間はいない。これで体内を攻撃すればアズマは嫌でもラボに引っ込むだろう。
「それでネクロディアを出せばいいのね?」
イナリの確認の言葉に首を振り。私は周囲を見て
「今のうちにこの周囲の軍人を全て支配下に置いて下さい。どうせ処分される存在なのですから問題ないでしょう」
どの国もこの襲撃作戦に参加した人間は排除する予定らしいのでここで排除して、操り人形にしても問題ない
「……派手に暴れて頂戴、その隙にやるわ」
札を指の間に挟むイナリ。能力は高いのだが、札と言う媒介を必要とするイナリは直接戦闘には向かない。だがこのような策謀戦には強い、だからこそこの場の指揮を任されたのだろう
「はい。よろしくお願いしますね」
イナリと打ち合わせを済ませたところで軍人に呼ばれ、そこでイオスに乗り込む
(出力はまあまあですか。感じは鈍いですけど問題なしと)
この程度でどうこうなっていたらLV4にまで進化できていない。大丈夫ですか?と尋ねて来る軍人に
「問題ないです。ハッチを開けてください」
ハッチが開けられると同時にランドローラーの出力を全開にして密林を強行突破する。出力が少し弱いので魔力でブーストを掛けて強引に弾幕の中に身を投じる
「この程度ならば避けることなど容易い」
そもそもネクロに重火器なんて通用しない、AMF弾ならまだしも大量生産の鉛玉など恐れるまでもない、イオスの前面のシールドで充分だ。弾幕の雨を強引に突っ切りアズマの前に飛び出す
「お前は!?」
私の顔を見て眉を顰めるアズマ。やはり私の事を知っていましたか、だけどもう遅い
「こうしてお会いできて喜ばしい。早速で悪いですが、引っ込んでもらいましょうか」
左手に腐敗の教義の紫のオーラを纏わせ、一気に突っ込む。ほんのかすり傷でも致命傷を与えることが出来る、それで全てが終わ
「くっさせるか!!」
アズマは私の能力を知っていたらしく、間合いを詰めさせないように両手を向け。そこからエネルギー弾を打ち込んでくるが
「無駄ですよ」
腐敗の狭義に触れたとたんそのエネルギー弾は消失する。どんな物でも腐敗させるそれは実体のないエネルギーでも代わりはない
「貰いました」
間合いを詰め、多少被弾するがそれを無視してアズマのISの左肩を穿つ。凄まじい速度で色を失い、錆びていく装甲。これで終わり
「甘いな!お前がくることは考えていた!!!」
金属音と共に私の破壊した装甲がパージされる。だがそれを見て嫌な予感がしてイオスをバックさせようとした瞬間
「ここで墜ちろ!!」
アズマが指を鳴らすと同時にパージされた装甲が爆発する
「うぐああ!?」
至近距離の爆発。そしてイオスと言うガラクタが更に爆発し、私は大きく弾き飛ばされ森林の中へと弾き飛ばされた
「くっ……やってくれますね」
即座に態勢を立て直し地面に着地する。あのガラクタがなければあの爆発も回避できたというのに……これだから人間の振りは疲れます……私は深く溜息を吐きながらガラクタの残骸を振りほどき
「さてとですがこれで最低限の仕事はしましたね」
退却していくアズマ。完全には決まらなかったが、腐敗の教義の武器はその感染速度と範囲にある、間違いなくアズマは腐敗の教義に感染している
(あとはそれとなくラボに紛れ込みますか)
雪崩のように踏み込んでいく人間の中に紛れ。私も束とやらの研究所の中に足を踏み入れた、当初の予定と折り紛れ込んでいるディースとネクロディアを展開している人間を確認し、これでこの研究所が落ちることは間違いない。
(私は私の出来ることを始めますか)
どこの国も自分の国に束を引き入れようと考えている成果、人間同士で殺し合いをしている。そして
「へたくそ。どこを狙っているのですか?」
肩に鉛玉がめり込む。私も敵だと判断したのでしょう、あながち間違いではないですけどね、ただし束とお前たち両方の敵ですがね
『プロヴィデンス』
カソックからUSBメモリを取り出しボタンを押す。私から襲うことはないですが、襲われれば反撃する。それは至極当然のこと
「変身」
骸骨をあしらった甲冑と王冠を思わせる仮面。そして全身から溢れる圧倒的な魔力
「その命。神に捧げなさい」
ここからは私の好きにやります。人間でネクロになるのなた迎え入れ、そうでなければベエルゼ様の糧として持ち帰る。私の姿を見て逃げ出す人間達を見て小さく笑みを零し
「さあお覚悟を。殺すということは殺される覚悟も当然あってしかるべき。今更逃げるなど許しはしませんよ」
銃剣ルシファーを腰のホルスターから抜き放ち、逃げ出す人間達の後を追いかけて、私はラボの中をゆっくりと歩みだしたのだった……
「まさかあいつが出てくるとは……はー……はーッ!!」
荒い呼吸を何度も深呼吸をして強引に整える。即座にアーマーをパージしたが
(腐り始めている……ぐうっ……)
左肩が徐々に黒くなり腐った嫌な匂いが漂う。私は服を破りそれを口に詰め込み
「ふーっ!!!!」
マインゴーシュを呼び出し、腐り始めていた肩の肉を切り離す
「うううっ!!!!」
そのあまりの激痛に思わず絶叫しかけるのを噛み締めた布で我慢し、更にブースターの熱で過熱し傷跡に押し当てる
「ぎゅぎゃあああああ、あがっ!うぐああああ!!!」
流石にこの痛みを我慢することが出来ずそう叫ぶ。肉の焼ける不快な匂いに眉を顰める
「はっ……はっ!はっ……ふー」
切り離した肉は瞬く間に腐り消失した、焼いた傷跡は出血も止まり腐っていく気配もない。体力はかなり消耗したが、これでよかったはずだ
「やはり思い切りは……大事だな」
あのまま躊躇っていれば腕を失っていた。この場合はこれが最善だったわけだ、だが予想よりも数段早く人間がラボの中に足を踏み入れてきた。幸いにもこの通りを護っていれば束の所に行くことは出来ない。そして一本も道だから奇襲も出来ない、だが私が撤退すれば敵を束の所に案内してしまう最悪の場所だ。早くこの場を離れなければ
(損傷度は68%。武装消耗率は27%)
弾薬の消耗が少ない、これならまだ戦える。アームドベースの弾薬はまだたっぷり残っている。それにこのラボの地形を理解している私にとっては有利に戦える場所に陣取ることも出来る。一番近くの格納庫で弾薬とSEを補給して、その先の十字路に陣取れば時間を稼げる
(いくか)
まだ八神龍也が来る気配はない。それまでなんとしても持ち堪えなければならない、それに武装の切り替えもしなければこのままではネクロとの戦闘は到底出来ないだろう。あくまで今装備しているのは対イオスと人間用のものだ。ここからはネクロ戦を考慮したAMF弾に換装しなければ勝機はない。私は一番近くの格納庫に入り、装備の変更と新入経路を分析し、待ち構える場所を考え始めた……。僅かながらにも魔力を発生させる機械は稼動している。八神龍也が来る可能性は充分にある……それまで持ち堪える事ができれば私の勝ちだ……
だがアズマは知らない。既に龍也達はこのラボの近くにまで来ていたのだが
「「「グルルルルル」」」」
「「「キシャアアアアッ!!!」」」
狼がISを展開したようなネクロに加え、神話のケルベロスと同じく三つ首のネクロ……
「やれやれ、まさかこんなのがいるとは予想外だ」
「ワタシも知らなかった」
予想だにしないネクロの奇襲を受け、攻め込むことが出来ずにいた。無理に突っ切ることは出来るが、狼の外見から考え機動力があると推測した龍也達は無理に突破するのは危険だと判断し、そこで迎え撃つことにしたのだ
「使えフレイア」
唯一AMF加工を施された武器を搭載していないフレイアに投影した武器を貸し与える龍也、一瞬だけ怪訝そうな顔をしたフレイアだが使い慣れた西洋剣と言うことで直ぐに構えなおす、そしてそれと同時に
「「「ギャオオオオッ!!!」」」
雄叫びと共に狼のネクロが群れとなり龍也達に襲い掛かるのだった……龍也達が知る由もないが、このネクロに与えられた使命は1つだけ、龍也達をこの場に足止めすること、そしてこの近くには邪悪な笑みを浮かべる女性。ネルヴィオだ、ネクロと戦う龍也を見て心底嬉しいという顔をしながら
「ふふ、お父さん。やーと会えたね」
ネルヴィオが潜んでいるという事を龍也達は知らないのだった……
第122話に続く
次回も戦闘メインで進めて行こうと思います。メインはアズマとユウリの視点になると思います。あと2話くらいまでで何とか束編を終了させたいですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします