第122話
本国からの指示で篠ノ野束のラボに侵入し、篠ノ野束を探しているのだが
「ちっ!さすがはISの開発者の秘密ラボだな」
あちこちから銃器が姿を見せ狙撃してくるし、センサー製の地雷で既に3人死んでいる
「ジャック。先行してくれ」
生身の俺達が先に進むのは危険になってきた。篠ノ野束のラボの場所を教えてくれたという女性が提供してくれたIS。ネクロディアを纏っているジャックに声をかける。彼女が展開しているISを見て俺の脳裏に浮かぶのは、本国が作成したあるIS……暴走事件を起こして凍結処分になった……銀の福音の姿だ
(銀の福音に似ているのは何故だろうな)
イスラエルと共同で作った銀の福音に似ている、そのISに首を傾げる。だが性能は銀の福音よりも上なので、外見が似ているのは偶然だろう
「了解。少し下がってて」
4枚の翼からエネルギーを発生させて進んでいくジャック。絶対防御のおかげか、防衛装置のレーザーや地雷も完全に無効化している。これで俺達も先に進む事ができる
「行くぞ。時間がないからな」
他の国も捕獲するために動いている。ここから先は時間との勝負だ、それに……
(他の国にもネクロディアを渡しているようだしな)
あの玉藻と名乗る女は相当な狸のようだ。稼動データを取りたいと言っていたが、まさか他の国も渡しているとはな……性能が同じなら決めるのは操縦者の腕、元々ナターシャと銀の福音の正操縦者の座を争っていたジャックの錬度に勝っているわけがないのだから
「「イエッサー」」
敬礼して携帯用のアームシールドと銃器を手に走っていく隊員を見ながら、俺も広いラボを走る
(なにか嫌な感じだ)
作戦は何の問題もなく遂行できている。俺達アメリカがかなり深い所まで進んでいるからだ……だが何といえばいいのか判らないが
嫌な予感がする。
(無事に戻れればいいが……)
俺達は言うならば存在しない事になっている軍人だ。戸籍も何もなく、社会的にはもう死人と同じ扱いになっている。だから死んでも本国の腹が痛む事はない、悪く言えば使い捨てとも言える。だが俺達はそんな戦場を幾つも乗り越えてここまで来た
(今回も無事に生き延びてやる!)
そして本国の地で死んだ仲間の墓を作るんだ。誰も知らなくてもいい、俺達が知っていればそれでいいのだから
「急ぐぞ!向こうも動いているからな」
先ほどまで1人で多数の襲撃者を退けていたIS操縦者の事もある。恐らく篠ノ野束の護衛であり、専用IS持ちなのだろう。EOSの特攻で後退していたが、既に10分近く立っている。確実に態勢を立て直しているはずだ、防衛線を張られるときつくなる
「了解!派手にいくわよ!!!」
4枚の翼からエネルギー弾と両手のスタンナックルで防衛の機械を粉砕していくジャック。その楽しい背中に笑みを零していると吹き抜けに出る。そして強烈な殺気を感じて
「来るぞ!散会!」
そう指示を出して背負っていたハンドキャノンを構える。特殊弾だからISにもある程度のダメージを与える事が出来る一品だ
「「……」」
声も無く俺たちを見下ろしているネクロデイア。どうやら俺達が一番乗りじゃなかったみたいだな。
「貴様達はここで死ね!」
挨拶代わりに投げ込まれた手榴弾が戦いの合図となり、重火器の弾丸が同時に放たれたのだった……
(AMF弾の装填完了。装甲の仮修復も済んだ……)
障壁で特定の通路を塞いだので敵は全て私の前に来る筈だ。その証拠にブラッドバニーのセンサーに熱源反応が映っている
「そろそろ行くか」
僅かながらに体力も回復した。SEの補充と弾薬の補給も済んだ……あとは八神龍也が来るまで時間を稼げばいい
(もう少しで発動するな。それまでは持ち堪えるだろう)
魔力を発生させる機械の充填率は65%まで上がっている。予定より時間が掛かっているが、まぁ良いだろう。
(ん?熱源が減少しているだと?)
こちらに向かっていた熱源は全部で12。モニターでも確認していたので間違いない。なのに今はドンドン熱源が減っている
「嫌な予感がする」
同時打ちで減ったと考えるのが普通だが、第六感とでも言えばいいのだろうか?とてつもない嫌な予感がする。AMF弾を搭載したハンドガンを両手に持ち、アームドベースのガトリングキャノンをいつでも撃てる様に準備し格納庫から出て十字路に出る。そしてむせ返る血の匂いに眉を顰めた
(何があったんだ)
散乱している人間の肉片と臓器……普通の戦闘の後ではない……まさかネクロか!?周囲を警戒しながら、ISのハイパーセンサーを頼りにこの惨劇を起こしたであろうネクロを探す……だが……
(反応がない。どこから来るんだ)
隔壁は下ろしてきた。私も逃げることはできないが、その代わりネクロも向こう側に行く事は出来ない。ここさえ護り切れれば束とクロエは無事だ……向こうに行くにはここを通るしかないから、ここで待ち構えていれば向こうから姿を見せるはずだ。うるさいまでに音を立てる心臓の音……そして額を流れる冷や汗……そして汗が地面に落ちた瞬間。金属の床を吹き飛ばしネクロが姿を見せた
「「ウルオアアアアアアアアアアッ!!!!!!」」
私を睨んで咆哮を上げるネクロ。その姿は僅かに人型をしていたが、獣同然の姿をしていた……どす黒い身体の後ろに方に見える金髪を見て
(操縦者を取り込んだのか!?)
まさかと思うが、そのネクロはISのパーツのような物を纏っている所を見るとまず間違いない
「くっ、まさかこんなのが相手とはな」
ただのネクロ相手なら大丈夫だと思っていたが、ISの特製を併せ持つネクロ……しかも敵は2体とかなり不利な条件が揃っている
「「ルルルルルル」」
唸り声を上げながら飛び掛るタイミングを計っているネクロ。こういう場合はやはり様子見で威嚇射撃が定石なのだが……
(向こうの出方が判らない以上。下手に攻撃して刺激するのは良くない、ならば)
両手のハンドガンを腰の装甲に格納し、アームドベースのガトリングキャノンに手を伸ばし構える
「「!キッシャアアアアアアアア!!!!」」
私の行動を見て攻撃に出るネクロ。それに会わせる様にガトリングのトリガーを引き
「特注の弾頭だ。持って行けッ!!!」
背部のハイドロミサイルランチャーの弾頭も長いこと時間を掛けて作った、AMF弾の弾頭。これならばダメージを与える事が出来る。無論ガトリングの弾頭もAMF弾だ。
「「!?」」
自分達のバリアを貫き炸裂したガトリングとミサイルランチャーの攻撃で吹っ飛ばされるネクロ。ミサイルの威力のせいでラボの壁は一部砕けたが、仕方ない……それにこのラボは廃棄する事になるのだから気にする事もないだろう
「「お、オアアアア」」
ゆっくりと再生を始めるネクロ。やはり魔力でないとダメージを与える事は難しいか、だが
「回復させる隙は与えん!!!」
全砲門を開く、確かに致命傷を与えるのは難しいだろう。だがこうしてダメージを与え続ければ、そのうち回復が間に合わなくなる筈だ。
(3発しか使えないが、使うならいまだ)
左右の肩にマウントしてある長距離狙撃砲「グランチャードカノン」の射撃姿勢に入る、これは直撃すれば絶対防御でさえ貫通し、操縦者を殺す、一撃必殺のキャノンだが。その反面姿勢制御と弾道予測が難しく、しかも弾も1つの砲塔に3発しか装填できない、そして左右が連動しているので3回しか使用できない
(ターゲットインサイト……照準。弾道予測……良し)
射撃姿勢に入る間もミサイルランチャーとガトリングを放ち続け、ネクロの回復と動きを封じつつ照準を完璧に合わせる
「行けッ!!!」
ISの防御があってもなお全身に響く衝撃とその爆音。そして
「「ギギャアアアアアア!?」」
胴体を打ち抜かれ苦悶の悲鳴共に消滅するネクロ。そして砕け散るラボの天井。大きく息を吐き、軽く咳き込むと口の中に血の味がする。凄まじい衝撃で中がいくつかやられたみたいだな……だがこれでひとまずは……
「そうそう簡単には行かないか」
ぼそりと呟くと同時に今グランチャードカノンで破壊したラボの天上から、更に2体のネクロが降下してくる、侵入者が使っていたISは全部で8機。残り6機……当然だがグランチャードカノンの弾は足りない
(早く来てくれよ。いつまでも持たないからな)
八神龍也来るまで持つかどうか、かなりギリギリのラインだ……少しだけ不安な気持ちになり、心の中でそう呟き。紅い目を爛々と輝かせ私を睨んでいるネクロに再びガトリングの照準を合わせるのだった……
凄まじい轟音と共に山の一部が吹き飛ぶ。間違いなくラボでは激しい戦いが行われている証拠だ
(ちい!完全に出遅れた!)
心の中で舌打ちする。私達がこの場に来たときはまだ軍人がラボに踏み込んでいないようだったが、EOSの突貫でアズマが後退した事で悪い流れになっている
(どうする。この場をどうやって切り抜ける)
どんどん姿を見せる獣型ネクロ。攻撃力は低い上に知性が無い、しかしその代わり回復能力に特化している。倒しても倒しても完全に倒しきる前に、波状攻撃で距離を取るとその隙にダメージを与えたネクロが回復してしまう。そして広域殲滅を使おうにもユウリとフレイアがいるので使う事もできない……
(私の戦い方を熟知している?何者だ)
私の戦術や戦法を完全に熟知している……私をこの場に足止めするのが目的だろうが……
「龍也。どうする?ワタシとフレイアが先行するか?」
唸り声を上げながら包囲網を作っている獣型ネクロを未ながら尋ねて来るユウリ。確かにそれも1つの手だが……
「戦力を分断するのは危険ではないか?敵はネクロだけではないのだから」
フレイアがマウントしていたマシンガンでネクロを迎撃しながら呟く。確かに……その可能性を考えるとユウリとフレイアを先行させるのは危険だ……ラボの中にネクロがいる可能性を考えると……
「……強行突破する。私の後ろにつけ」
ここで戦力の分断は無謀だ。そしてリスクが高すぎる……ならばユウリとフレイアと共にラボに強行突破するのが得策だ
「強行突破……この状況でか?」
周囲にいるネクロの数は10体以上……普通は強行突破できる状況ではない、獣型ネクロだから機動力もある。普通は突破できないだろうが……
「見てみろ。これだけ話しているのに襲い掛かってこない。だが足を少し前に踏み出すと」
「グルルルおおオオオオオッ!!!!」
ゆっくり足を踏み出す。すると周囲を窺っていた一体のネクロが唸り声を上げてネクロが飛び掛ってくる。そのネクロの顎を蹴り上げると同時に魔力弾を叩き込み、そのネクロを消滅させる
「なるほど……そう言うことか」
「リスクはあるが……行けるか」
ユウリとフレイアも理解したようだ。話している隙に攻撃してこない。恐らく与えられた命令はこの場に私達を足止めすること……だから私達が動かなければ、向こうも動いてこない……ならばあのネクロをラボの中に入れて、混乱に乗じてアズマと合流すればいい
「行くぞっ!!!」
一瞬包囲網が緩んだ瞬間私はフラッシュムーブ、ユウリとフレイアは瞬時加速でその包囲網を抜ける
「「「ウォオオオオオンッ!!!!」」」
雄叫びと共に追いかけてくるネクロの気配を感じながらラボの中に進入し
「止まれ!ユウリ、フレイア!」
私の怒声に停止するユウリとフレイア。それと同時に結界を作りだす、追いかけてきたネクロは私達の姿と魔力を確認できず困惑していたが
「「ひい!?化け物!?」」
引き返して来たであろう軍人を見ると本能に従いその人間を追いかけていく。それを確認してから結界を解除し
「ISを解除しろ、反応で見つかるぞ」
どうもここを襲撃しているネクロは魔力反応などに過剰に反応するタイプのようだ、侵入工作をするなら多少の不安は残るが生身の方が都合がいい、コートの中から武器と緊急用の結界発生装置の準備をしていると
「どうかしたか?」
私を見つめていたユウリとフレイアの視線に気付きそう尋ねる。少し考えてからフレイアが私を見て
「お前があんな事をするとは思わなかった。助けなくて良かったのか?」
さっきの軍人のことを言っているのか……私は苦笑しながらユウリとフレイアを見て
「私は善人じゃあない、人を遅いに来た人間まで助ける道理はない。因果応報だ」
ここにいるということは束を殺人または誘拐しに来た存在だ。そんな人間を助ける道理はない
「はやて達を連れて来なかったのはそう言う面を見せたくないからか?」
「さぁ?どうとでも取ればいい、1ついえるのは私は正義の味方なんかじゃないって事だな。さてとでは行くか」
AMF加工を施したブレードと弾丸をセットしたハンドガンをユウリとフレイアに手渡す、私は当然魔法と投影をメインにする
「散会するんじゃないのか?」
まぁ普通なら散会して効率よく探すのがベストなのだが、今回は事情が違う
「アズマはネクロの脅威を知っている、束の近くに陣取って防衛している事だろう。ならば態々散会する理由はないわけだ」
態々散会して各個撃破される可能性を増やす必要はない。
「では私とユウリを同行させた理由は?」
フレイアの問い掛けは最もだ、場所が判っているんだから私1人でも大丈夫と思うのは当然だ。視線でユウリとフレイアを促しラボの奥へと進みながら
「これだけの施設。防衛設備も完璧だろう、となれば人手は多いほうがいい」
軍人達もおそらく情報の回収班もいるだろう、その点私たちは3人であり、束の救出メインだ。束自身を救出できれば全て事足りるが
「この様子では進むのも楽ではないだろうからな」
シャッターに加えて、無数の防衛設備が私達に照準を合わせている。ここを越えていくには1人ではリスクがあるのだ
「露払いは私がする、ユウリとフレイヤは防衛設備の突破を頼む」
私でも出来ない事はないが、敵は防衛設備だけではない
「「グルルルル」」
「「キキキ」」
影から姿を見せるLV1とデクス。それを相手に防衛プログラムの突破なんて器用な真似はできん
「任された。5分で済ませる、フレイアハッキングツールを貸してくれ、お前はD-Fの障壁を頼む。ワタシはA~Cを解除する」
「お前に指示を出させるのは面白くないが、了解した」
私の背後で防衛プログラムの解除を始めたユウリとフレイアを背にして
「かかって来い、貴様ら如きに討ち取れるほど私の首は安くはないぞ」
「「「「キッシャアアアアッ!!!!」」」」
咆哮と共に襲い掛かってくるデクス目掛け、手にしていた剣を振るうのだった……
「あーあ、お父様行っちゃったよ。どうする?モモメノ」
結界の中でお父様の戦いを見ていたんだけど、強行突破でラボの中に突入されてしまった。うーん、もう少し見ていかったんだけどなあ……
「……追いかける?」
「それもどうかなあ?」
イナリがうるさいだろうし、お父様に見つかってしまうのも不味いんだよね。いや、むしろお父様じゃなくて私の方が不味いんだけど……
(感情が爆発しそうになるから)
見ているだけなら我慢できるが、顔を見合わせてなお平常心でいられる自信がないのでそれもNGだ……
「ワタシがいこうか?」
突然聞こえた声に振り返る。振り返るとそこには私の部屋で寝ている筈のセリナの姿があった
「セリナ?どうしてここに?」
調整中だったはずだから出てこれるはずがないのに、どうしてここにいるのか判らず尋ねる。セリナはラボを見つめて
「ユウリ……ユウリがいる」
ぼそぼそっと呟くセリナ。そっか……ユウリが来ているのに気付いて本能的に出てきてしまったと言うことね。セリナはユウリともう1度話をしたい、その一念でネクロになったと言えるのだから
「いいよ、セリナ。行っておいでよ」
セリナと私は同じ、だからセリナの気持ちは痛いほど判る。私はこれ以上自分の立場を悪くすることも出来ないのでここで待つが、セリナは関係ない。セリナは自分の思いで動いていい
「イイの?」
「良いよ。行っておいで」
嬉しそうに笑ってラボのほうへ飛んでいくセリナの背中を見つめつつ、隣に座っていたモモメノを抱っこして
「早くお父様と一緒にいたいね」
「……うん」
会いたいけど……会いたくない
好きだけど……大嫌い
憎んでるけど……愛してる
この複雑な気持ちはネクロになったせいなのか、それとも私が元から持って来た気持ちなのか?それが私には判らない、だからもしお父様に会うとしたら
(この気持ちが何なのか整理がついてから……)
出会ったとして、気持ちを抑えることができるのか?それともネクロの本能に飲まれてお父様を殺そうとしてしまうのか?それとも私の気持ちが勝り、お父様とゆっくり話が出来るのか?そのどちらになってしまうのか?それが判らない、だから気持ちの整理がつくまでは
(見ているだけで良い……)
この狂おしいまでの愛おしさが憎しみから来る物なのか?それとも純粋にお父様を愛しているからなのか?それが判るまでは……私は見ているだけで良い……それまではお父様に会うのは我慢できるから……
123話に続く
ネルヴィオの扱いは実は結構難しい、暗躍をしているし、はやて達の前に姿を見せることもあるけど、龍也の前にだけは現れないのはその複雑な感情と言うのが理由だったりします。束の話は3話構成にするつもりでしたが、もう少し続きそうですね。125話くらいまでかな?それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします