123話
アズマが1人で侵入者と戦い始めて既に1時間……普通の人間相手なら何の心配もないが、ネクロが相手と言うことを考えると不安になるし、心配になる……
「もうそろそろアズマちゃんも帰ってくるかな~♪」
楽しそうに鼻歌を歌いながらプログラムを組んでいる束様。束様はまだネクロが味方だと思っているようですが
(私はそうは思えません)
束様に意見をするつもりは在りませんが、それでもネクロと言う存在は危険で邪悪だと思う。人間を殺し、その魂や遺体から生まれる悪性の生物。とてもまともとは思えません……
「クロエちゃん~アズマちゃん疲れて帰ってくると思うから、甘いココアでも用意してあげて~勿論束さんもね~」
ニコニコと笑いながら言う束様に頷き研究室を出る。3重の障壁で護られているからネクロでも侵入できないだろう。それにアズマがこのエリアの前で陣取っているのだからネクロが侵入できるわけがない……
「アズマ……」
障壁のせいで音も衝撃も何もかもが聞こえない。今アズマがどんな状況なのかが判らない……まだ無事なのか、それとも……
「大丈夫。アズマはきっと大丈夫」
自分に言い聞かせるように呟き、束様に頼まれたココアを入れに行く。ポケットの中にあるアズマから託されたUSBメモリ……
(帰ってきて欲しい)
アズマ1人では無理かもしれないけど、八神龍也が来てくれたのなら、もしかすればアズマが助かる可能性もある。だから私は思わず信じてもいない神にアズマの無事を祈るのだった……
私とユウリでラボに下ろされた隔壁を解除し、先に進んでいるのだが……
「進めば進むほど酷いな」
思わずハンカチで鼻と口を塞ぐ、私は元は傭兵だから人間の死体になれているつもりだったが、これは酷い。獣に食い殺された後に加えて残った肉片が完全に腐敗している。こんな短時間で腐敗するわけがないので、間違いなくネクロの攻撃だろう
「完全に腐敗している。ヴォドォンだな……奴がいる」
ヴォドォン……確か腐敗させる能力を持つネクロだったはずだ。臨海学校とIS学園の襲撃時に戦ったと聞いている
「しかし奴がいるなら直ぐに襲ってくるんじゃないのか?神の教えと言っているんだろう?ネクロ化を」
「狂っている奴の考えている事は判らん」
身も蓋もないが確かにその通りだ。狂っている人間の考えでさえ判らないというのに、狂っている化け物の考えなんて判るわけがない
「確かにな、その通りだ」
「だろ?奴がいるかもしれないと警戒するだけで充分だ」
そう笑って歩いていく龍也。床や壁の血や肉片に一切顔色を変えず進んでいく龍也。私とユウリは大分見慣れた光景だがさすがに気分が悪い……
「どうしてそうも顔色を変えないで歩く事ができるんだ?」
ユウリがそう尋ねると龍也は前を向いたまま
「ここは敵地だぞ?あまりぺらぺら喋るな。自分達の位置を知らせることになる、話があるならプライベートチャンネルを使え」
龍也の言葉にはっとする。あまりに凄惨な光景の中を歩いていたせいか、不安に思い饒舌になっていることにプライベートチャンネルを起動させ
【近いのか?ネクロの気配は?】
ネクロの気配が近いのか?と尋ねると龍也は怪訝そうな顔をしながら
【気配が良く判らない。死臭が多すぎるせいなのか……それとも普通じゃないネクロがいるのかもしれんな】
龍也でも特定できない……その事に嫌でも緊張感が高まる。周囲の死体もそれを加速させる……いつでもISを展開できるようにしながらゆっくりと血に塗れた通路を進む。さっき障壁を解除したときにこのラボの地図も確認し、龍也の感で一番奥の居住エリアを目指している。時折聞こえてくる銃撃音と悲鳴、別の通路ではネクロと戦闘している軍人がいるということだろう
【……近いな。どうする?】
【へたな事を考えるな。今回の目的は束の救出だ、軍人を助ける意味がない。あの手の連中を助けても利点はないぞ】
龍也の言葉一理ある。あの手の連中は自分に与えられた指令を全うする事を第一に考える。かりに助けたとしても敵になると判っている相手を助けても意味がない
【……別に助けようと言いたい訳じゃあない】
ユウリが何を考えているのかは判らない。だが考えられるのは殺された軍人がネクロ化する事の危険性を危惧しているのだろう
【死体は直ぐにネクロ化するのか?】
もしそうなら今私達が来た道も安全ではない筈だ。そう危惧したのだが龍也の返答は
【心配ない、この世界のネクロはネクロ化させる能力が低い。それに腐敗の教義で殺された人間はネクロ化しない】
腐敗の教義……ヴォドォンの能力だったか……この悪臭は肉が腐る物だ。気分が悪くはなるが安全と言うことなら良いか……とは言え気分の良い物ではないが……周囲を警戒しながら進んでいると突然甲高い金属音がする
「飛べ!ユウリ!フレイヤ!」
それが何なのか気付いた龍也がそう叫ぶ。それと同時に床が抜け闇が足元に広がる
「くっ!」
前回り受身の要領で安全エリアに飛ぶが若干反応の遅れたユウリは
「っちい!!」
「ユウリ!」
龍也が手を伸ばすが、間に合わず闇の中に落ちて行った……
「ちっ!分断されたか……」
忌々しそうに舌打ちする龍也。だがこれはネクロの攻撃などではなく、運悪く通路の耐久力が来てしまったのだろう
【大丈夫だ。上手く着地できた、さっきの場所で地図も把握している。この先で合流しよう】
ユウリはその返事を最後に進みだしたようで、暫く声をかけないでくれと言ってプライベートチャンネルをOFFにした。単独行動だから慎重にならざるを得ないと判断したのだろう
「少し急ぐぞ、何かあったら遅いからな」
龍也はそう言うと黒い大型バイクを自身の隣に出現させる
「それは?」
「べヒーモス。これで強行突破する。壁もな」
壁を?バイクで?正気の沙汰ではないとおもうが、これだけ自信満々の顔を見ると勝機があるのだろう。だが
「私にタンデムしろと?」
タンデムシートしかないバイクだ。必然的にそうなる龍也はそうだが?としれっと返事を返しバイクに跨り、エンジンをふかす
(ハヤテ達の気持ちが少し判る気がする)
この男は何もかもがずれている、エリス様がやきもきするのも納得だ。
「早くしろ。時間がない」
龍也に急かされバイクのタンデムシートに載る、大型バイクだから思ったよりも安定しているな
「行くぞ」
「ちょっと待てええエエエ!!!」
いきなりアクセル全開で走り出すバイク。狭くそして暗い通路を高速移動する恐怖。思わず絶叫してしまった悪くない筈だ……
ネクロ達は一定の距離を保ったまま動く気配を見せない。どう見てもダメージを受けていないのにも関わらずだ
(グランチャードカノンを警戒しているのか?)
2発目が運よく射軸上のネクロを3体纏めて貫き、残りは3機……両手のヘルゲートの照準をその3体に合わせているとISから警告音がし、その警告に従いちらりとその方向を見て舌打ちする
「「「お、オアアアア」」」
完全にコアを砕く事ができなかったのか、徐々に回復を始めているのが見える……あいつらが攻めて来ないのは仲間が回復するまで時間稼ぎをするつもりだからか……
(持久戦は不味い)
ハイドロミサイルランチャーはあと2回で全弾撃ちつくす。手持ちの火器の弾丸はまだ大分あるが、数の差で押し切られる……それになによりも
(ちっ……目がが霞む……)
ヴォドォンの腐敗の教義から逃れるためとは言え、肩の肉をごっそり切り落としたのは不味かった。傷口を焼いて止血していたが、失った血液量が多すぎる……閉じかける瞼を必死に開いてネクロを視界に納める。この状況で意識を失うと言う事は自殺行為に等しい……歯を食いしばり意識を保つ、しかしこの状態ではグランチャードカノンの衝撃には耐えられないだろうし……
(不味いな……)
ラボに踏み込んで来た軍人達の第一陣はネクロと防衛設備で大半が全滅したが、センサーには第二陣・第三陣の反応が近づいてきている。今この状況を切り抜けることが出来る確信もない……
(ジリ貧か……)
負けはしないが勝てる要素もない……だが引くことも出来ない。嫌な状況だ……弾薬もSEもかなり減少しているし……
「ジリ貧と言うのは間違いですね。ここで貴女は死に、束と共にネクロと化す。それが正解ですよ?レデイ」
突然響くこの場には似つかわしくない丁寧な口調。ネクロの後ろの通路から姿を見せるのは漆黒の甲冑にマントを纏った異形
「何者だ」
ネクロであるのは間違いない。だが私の知るネクロではない、答えが来るとは思ってなかったがそう尋ねると
「この姿では初めましてですね、ヴォドオンですよ。お忘れですかな?」
深く頭を下げるヴォドォン。その仕草は楽しくて仕方ないと言う感じだったが、私には絶望的だった。触れたもの全てを腐敗させるヴォドォンの能力の前ではISの防御など何の役にも立たず、束達がいるフロアの前の障壁だって簡単に破壊されるだろう……
(ここまでか!?)
八神龍也は間に合わなかった。正確にはこの場所を伝えるはずの魔力を発生させる装置の起動が間に合わなかった……私は失敗したのか……
「ただの人間にしては素晴らしいですよ、良くここまで耐えました。苦しまず逝かせて上げましょう。そして我らの同胞へ」
ゆっくりと近づいてくるヴォドォン……だめもとでAMF弾を放つが
「無駄ですよ」
弾丸はヴォドオンに当たる前に腐敗し消滅する……グランチャードカノンも恐らく効果はないだろう
「では良き同胞の誕生を「うおおおおおッ!!!」なぁ!?ぐあ!?」
ヴォドォンが私に手を伸ばした瞬間。横の壁から黒い影が飛び出しヴォドォンを跳ね飛ばす
「は?」
突然の事に思考が思わず停止する、私の目の前に止まっている大型バイクの後ろから赤髪の女が倒れこみ
「吐く……吐く……あの野郎……むちゃくちゃだ」
「お、おい?大丈夫か?」
思わず心配になりそうな顔色をしている女に思わずそう尋ねる。それほどまでに酷い顔色をしていた
「ぐう・や。やってくれますね……八神龍也」
よろよろと身体を起こすヴォドォンの言葉に八神龍也は返事を返さず、代わりにバイクのエンジンを蒸かし片手に剣を持ち
「ぐはあ!?」
再びバイクで突撃しヴォドオンを跳ね飛ばす。じ、人身事故……そのままアクセルを吹かし続けネクロを跳ね飛ばし、前輪で踏み潰し、後輪で殴る
(あれは間違っている、バイクとしての使い方じゃない)
八神龍也の中ではバイクは物理兵器なのかとんでもない荒っぽい使い方をしている
「ごふう……貴様。そんな戦い方で「黙れ」げぶああ!?」
正面から轢かれついにヴォドォンは動かなくなった、八神龍也はそれからバイクを降り剣を振り下ろしたが
「ちっ逃がしたか」
舌打ちする、良く見るとヴォドォンが倒れていた床は完全に抜け落ちており、それで逃げたようだ
「無事か?」
そう尋ねて来る八神龍也、確かに助かった。助かりはしたが……どこか釈然としない物を感じながら
「ああ。助かった……」
そう返事を返し、私はその場にへたり込んだ。肉体の疲労もあるが、さっきの惨劇を目の前にした精神的疲労があまりに大きすぎるせいだ……
龍也とフレイアとはぐれ暗い通路を進む。幸いアマノミカゲにダウンロードしたこのラボの地図があるから迷う事はないが
(神経をすり減らすな)
どこからネクロが現れるか判らない。アマノミカゲのハイパーセンサーの感度を最大にして警戒しつつ進む
(ここがE-7のフロアだから、E-6からD-5に上がれば合流できるか)
今ワタシのいるエリアはISの装備などを開発していたエリアなのか、パーツが散乱していて正直歩きにくいと思う。そして隠れ場所が多いので少し進むだけでも以上に疲れる。それでも警戒を緩める事無く進んでいると突然パーツが崩れて落ちてくる、後方に下がり龍也から預かったハンドガンを構える。そしてそれと同時に酷い寒気を感じた
(セリナ……)
パーツの上で腰掛けているネクロ。それはワタシが救うことが出来なかった、そしてワタシとエリスの妹になる筈だった……セリナ。ワタシが救うことが出来なかった家族がそこにいた……判っていた事だった。セリナは敵だと、だがこうして目の前にすると手が震え、視界が霞む。それでもなおAMF弾を装填しているハンドガンの照準をセリナの胴に合わせる、ヘッドショットは実戦では愚策といわざるを得ない。もし銃を使うのなら的の大きい胴または機動力を落とす足を狙うのが定石だ。ネクロだからそこまで効果はないはずだが、少しは時間を稼げるはずだと思っていると
「ユウリ。やっとゆっくり話が出来るね」
「!?」
今までのセリナと違う。知性を感じさせ、そしてワタシの記憶の中のセリナと同じ口調だ
「そんなに警戒しなくてもいいよ、ここは魔力が少ないから何とか表に出れた。私はセリナだよ、ユウリの知っているセリナだよ」
そう笑うセリナの目を見る。普段縦に割れている瞳孔は通常の人間と同じようになっていた……手にしているハンドガンを腰のホルスターに戻す。その言葉に、その目に嘘はないと判ってしまったから
「どうしてワタシの前に現れた?」
「お願いがあって、だけどあの人がいるとネクロの本能が強くなるから、ユウリだけ来て貰ったんだ。話し終わったら元の場所に送るよ」
そう笑うセリナはパーツの山をどけて下に隠れていたコンテナに座る、ワタシも同じようにコンテナに腰掛けセリナを見つめる。その姿はやはり楯無に似ているが、いや楯無がセリナに似ているのか?それはワタシには判らない。そして成人間近の姿に成長しているのは恐らくネクロ化の影響もあるのだろう
「私がユウリに頼みたいのは……」
セリナはワタシを真っ直ぐに見つめて、迷う素振りも見せず
「私はもう戻れない。きっとこれが最後になるとおもう、次に合うとしたらそれは私じゃなくて、ネクロとしての私。だからその時は……私を殺して」
その言葉にワタシは自身の血が凍りついたように感じた。ワタシがやらなければならないと判っていたのに、本人から言われたその一言が……深くワタシの心を蝕むのを感じるのだった……セリナはワタシの今の迷いに気付いていないのか、穏やかに微笑んでいるだけでその目が、何をワタシに言おうとしているのか?ワタシは理解出来ず、今言われた殺してくれの言葉が延々と繰り返えされていたのだった……
第124話に続く
今回の話は比較的シリアスだったと思います。潜入工作と言うのは書いてみると意外と難しい物ですね。なのでキャラの心情をメインにして見ました。次回はアズマとユウリをメインにしていこうと思います。それでは自壊の更新もどうかよろしくお願いします