態々撤退するほどの問題。何が起こったのか?そこを楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします
第126話
龍也さんの姿がIS学園になく、そしてはやてさん達もピリピリした雰囲気をしているのでなにかあったんだと思い。今日は自主訓練にすることにした。シェンさんやセシリアさんも誘ってIS学園の近くのグラウンドでしっかりと身体を動かす事にする、本来ISを動かすのに体力や腕力はあんまり関係ないんだけど、ネクロのことを考えるとしたほうがいいという結論になったのだ
(本当はお姉ちゃんに色々と教わりたかったんだけどなあ)
龍也さんと一緒に行動しているユウリさんの事もあり。ログハウスで待機していると言ってごめんね?と手を合わせていたおねえちゃんの事を考えていると
「簪。遅れていますよ、頑張って」
先を走っているエリスがそう声をかけてくるけど、正直これで手一杯だ。シェンさんやクリスさんは平気そうな顔をしてどんどん周回を重ねている。今は考え事をしているときじゃない、しっかりと自主訓練に集中しないと……
(もっと身体を鍛えないと……)
体力にしてもそうだけど、私は体力が大分少ないようだ。もっと鍛えておかないと……大きく深呼吸をして走る速度を上げようとした所で声を掛けられる
「無理しては意味はないぞ?出来るペースでやればいい」
後ろから追いついてきた弥生さんがそう声を掛けてくれる。一番距離を走っているのが弥生さんと箒さんだ、弥生さんは身体能力を買われてギリシャの代表候補になったと聞いているけど……やっぱり体力があるなあ。それと同じ距離を走っている箒さんも体力が凄い……剣道をしている人ってやっぱり体力があるんだなと思いながら、走り出したときよりも大分遅いスピードでグラウンドを一周すると
「簪そこまでだ。トラックからでて身体を休めろ」
グラウンドのそばで愛用のノートパソコンを膝の上に乗せたクリスさんがそう声をかけてくる。彼女は基本的に分析をしていてある程度スピードが落ちたり、これ以上無駄だと判断した所で声を掛けてくれる。その言葉に頷きグラウンドから出て近くのベンチに座り
「ふー……」
大きく深呼吸をする。ランニングの距離が少しずつ伸びてきているけど、箒さんとかお姉ちゃんと比べると全然だ。
「大分記録は伸びて来てると思うよ?今度からは微弱な魔力強化を交えてやって見ようか?」
織斑君の魔力の事もあるので訓練に同行してくれていたなのはさんがそう言ってくれる。だけど私的にはかなりの不安があった……魔力だけなら使える。だけど魔力を使いつつ別の行動をする。と言うことが今の私には出来ないのだ、エリスは元々近接や射撃訓練を軍で行っていた為。私よりも高いレベルのマルチタスクを身につけている……しかし私はそれが出来ないのだ
「最初は皆そんな感じだよ。訓練してこつを覚えて、徐々に出来る事を増やしていくの。だからゆっくり頑張りましょう」
にこにこと笑うなのはさんに頷き返し、購買で買って来たスポーツドリンクを冷やしているクーラーボックスからスポーツドリンクを取り出し、訓練をしている鈴さん達を見る。基礎体力の向上か近接訓練を優先するかは自分で決めているので、これと言った特別な訓練ではないんだけど、龍也さんが作ってくれたISの武器を模した特製の木刀を使う事で、自分の武器の間合いや相手とのやり取りを重点的に学ぶための物だ。私のも3分割で作ってくれているから、少し休んでからエリスかシェンさんに頼んで訓練をしてみようかな?と考えていると突然空気が重くなる
「一夏!マドカ!早くこっちへ!!!」
隣で笑っていたなのはさんが突然怒声を上げる。もしかしてネクロの攻撃なのかもしれない、鞄から待機状態の打鉄弐式を取り出そうとすると
「無粋ですわ」
静かな女性の声と同時に黒い閃光が走り私の手からISが弾き飛ばされる。私だけではなく箒さんやエリスも同様だ……黒い空間から伸ばされた手が闇の中に消える。それと同時に闇が砕け散り
「ッ!」
セシリアさんが息を呑むのが判る。私達も同じだったからだ、私達の目の前にいたのは白い日傘を差した瞳孔が縦に割れた女性の姿
「ごきげんよう。そう怖い顔をしないでくれませんか?」
穏やかな口調だが、目が全く笑っていない。それに信じられない寒気を感じる……姿は完全に人なのに、纏う雰囲気が違うだけでこうも恐ろしい物なのか……
「あまり魔力を使うな。面倒な事になるぞ、ヴィスティーラ」
「失礼。ラーベル・レーゲン」
セシリアさんのネクロの影から姿を見せたのはラウラさんのネクロだった。表情や雰囲気はラウラさんと同じだが、その雰囲気は鋭い、まるで首筋に鋭いナイフを突きつけられているかのような感覚だ
「何をしに来た?」
なのはさんがデバイスを展開しながら尋ねるとヴィスティーラとラーベル・レーゲンは懐から待期状態のISらしき物を取り出して
「どうぞ?お預けしましょう。私のコアはこれですので身につけてなければ魔力を使う事は出来ませんわ」
「正し。破壊しようとすれば私達の手元に来る、今の私達に敵対の意思はない」
何を考えているのかが判らない。なぜなのはさんにISを渡したのか?そして何をしに来たのか?
「何をしに来たの?」
「簡単ですわ。ベールだけが一夏さんとお会いしたというのがどうしても納得行きませんの、敵対する意思はありませんわ。折角の昼下がり。お茶会などはいかがですか?」
「無論。私も武器は持ってない。完全に無防備だ。ネクロだから身体が武器といわれればそれまでだが……敵対する意思のない人間を敵に回すほど愚かな真似はしないだろう?高町なのは?」
余裕と言う態度を崩さないヴィスティーラとラーベルレーゲン。それに対してなのはさんは渋い顔をしている、龍也さんがいないから決定権ははやてさんにあるが、向こうの真意が判らないので判断に悩んでいるのだろう
『ええで、正しIS学園では駄目や。この場所で1時間。それだけや』
空中に現れたはやてさんの映像がそう言う。どうやら向こうでも2人の出現に気づいていたのだろう
「充分ですわ。参加者としてこちらが指定するのは一夏さんのみ、後の取るに足らない人間は……どうでもいいですわ」
完全に私達を見下す目をしているヴィスティーラにセシリアさんとラウラさんが
「私は同席します!誰に何と言われようと!」
「私もだ。問題ないな?なのは?」
2人の目を見たなのはさんは溜息を吐きながら私達を見て
「一夏とセシリアとラウラを残して全員IS学園へ、私とはやてちゃんじゃ3人が限界だから」
自分も当然と言いかけていたマドカさんと箒さんがうっと呻く。だけどそれだけ危険なのだと判断し、セシリアさんとラウラさんと織斑君を残してIS学園に戻ろうとしたんだけど
(簪、これを)
なのはさんが私の手の中に小さな機械を押し付ける。なのはさんは前を見たまま
(フェイトちゃんの使い方を聞いて。ツバキさんの所で待っているはずだから)
前を見たままで念話で言うなのはさん。ヴィスティーラやラーベルレーゲンに気付かれないように小さく頷き、私達はグラウンドを後にしたのだった……
訓練に来ていたグラウンドに現れた、私と瓜二つの顔をしているヴィスティーラと名乗るネクロ……背は私よりも頭半分ほど高い、すらっとした体型をしていて、ネクロではないと言うことを知らなければもしかしたら姉と思ってもおかしくはないと思うくらい私に似ている。ラウラさんも同じようで気難しい顔をしている
「お茶のご用意をしても良いですか?」
日傘を畳んで笑うヴィスティーラ。なのはさんは表面上は笑いながら
「はやてちゃんが持って来てくれているから心配しなくていいよ」
「心配ではなく、警戒しているの間違いではないのか?」
ラーベル・レーゲンがにやりと笑いながらなのはさんに挑発的な視線を向ける。ただ会話をしているだけなのに空気が重い……残ると言ったのは間違いかもしれない。だけど……一夏さんだけを残して去る事も出来ない。それに平行世界の私と言うのも気になっていた。あの強気な鈴さんがあれだけ落ち込んでいた平行世界の自分の存在。いつかは私も対峙するかもしれないのだからあっておこうと思ったのだ……だけど
(思っていたよりきついですわ)
自分と全く同じ姿をしているネクロ。覚悟はしていたつもりだが、こうして目の前にするとかなりきつい物がある……互いに無言で過ごしているのもつらい。早くはやてさんが来てくれないかと思っていると
「待たせたなあ?ちょっと遅れて待ったわ」
魔法瓶を2つ手にしたはやてさんが来てくれる。これで少し代わると思い、差し出された紙コップの紅茶を1口飲もうとしたところでぎょっとした。ヴィスティーラもラーベル・レーゲンも砂糖をこれでもかと入れ、更にミルクも大量に紙コップの中に入れていたからだ
「そ、そんなに入れて味がするのか?」
黙っている事のできなかった一夏さんがそう尋ねるとラーベル・レーゲンは
「むしろこれくらい入れないと味がしない。ネクロの味覚は人間と違う、なまじ人間の記憶があるというのもつらいものだぞ?なんせ記憶で美味いと思っていた物の味がしないのだからな」
ふふっと小さく笑うラーベル・レーゲン。味がしない……どんな物なのか想像も出来ないが考えるだけでも判る。食べる事は生きる事なのだから
「それで?本当にお茶会をしに来ただけなんか?」
はやてさんにそう尋ねられたヴィスティーラは穏やかに笑いながら
「そうですわ。イナリやヴォドオンがいないので抜け出してきました。ベールだけと言うのは不公平でしょう?」
一夏さんを見てふふふと笑う。その仕草も私に似ていてそれが更に私を混乱させる……こうして見ると本当に人間と同じだ。敵だと判っているのだが……
「どうしてヴィスティーラとラーベル・レーゲンだけなの?他のは?」
「寝ている。私達が目覚めるのが早かったそれだけの理由だ」
寝ている……?言葉短く呟くラーベル・レーゲンは私とラウラさんを見て
「気になるなら聞けばいいだろう?答えてやるぞ?元々は同じ存在、そう敵対する理由もない。いや敵対する理由はあるが、今は殺す理由がない。まだその時ではないからな」
言葉の中に自然と出た殺すという言葉。それは確かに簡単に言葉に出来るが、私達の言う言葉とネクロが言うことではその重みが違う。こうして向かい合って紅茶を手に話をしている、普通の光景だが。少しでも対応を間違えれば瞬きをする間に殺されるかもしれない……私はその殺すの一言で今時分がどんな状況になっているのかと言うことを理解したのだった。流れる汗を見たヴィスティーラが
「恐れることはないでしょう?今は殺しませんよ?今はね?楽しいお茶会に血は必要ありませんもの……まぁ動かなくなった人形を作るのはやぶさかではありませんが……」
一夏さんを見てくくっと小さく喉を鳴らすヴィスティーラ。動かない人形?……その言葉の意味を理解できないでいるとはやてさんとラウラさんが
「「ネクロフィリア」」
死体愛好家……まさか……顔から血の気が引いていくのを感じながらヴィスティーラを見る。ヴィスティーラはにやりと笑いながら
「正解ですわ。動く事もなく、喋る事もない。しかし私だけを見てくれる最高の人形。それを欲して何が悪いのですか?」
笑いながら言うヴィスティーラだが、その顔は酷く歪み、歪な物だった。見ているだけで嫌悪感を感じるそんな笑み。私はヴィスティーラその言葉はどうしても許容できず、文句を言いたかった。だけどそれはできなかった。どんよりと淀んだ目、その瞳に映るのは歪んでいるが真っ直ぐな好意。
(あれは私……私の中にもあんな闇があるというのですか)
死体でも良い。自分を見てくれるなら……今の私にそんな考えはない。だけど……私の心の奥底にある欲求がそうだとしたら?……そう考えると手が震える……私は凄まじい喉の渇きを感じ紅茶を飲んだのだが、その味を一切感じることはなかったのだった……
ヴィスティーラとラーベル・レーゲンが出現したと聞き。私も行こうと思ったのだけど、はやてからここで待機して欲しいといわれた。その理由は龍也からの連絡もあるだろうし、それに私は近接タイプの魔導師だ。下手に警戒させる状況を作るのは良くないと判断したはやての判断に従う事にしたのだ
「フェイトさん。これなのはさんからです」
「ありがとう簪」
簪から渡された正方形の機械を見る。これは多分スカリエッティが最近開発した新型のサーチャーだろう。新型として配置型ではなく、2つ1組で運用されサーチャーと言うよりかは離れた所から監視するカメラとでも言えばいいのだろうか?
「フェイトさんそれは?」
ツバキの問い掛けに私は手にした機会を机の上に置く。説明するよりも話したほうが良い……虚空に浮かぶディスプレイにはヴィづティーラとラーベル・レーゲンの姿が映っている
「これは通信をしているのか?」
マドカの問い掛けに首を振る。最近多い人型ネクロ。本来はそれの監視もしくは発見を目的にしたサーチャーなのだが……
「本来はネクロの捜索もしくは人に紛れている人型ネクロの発見用のサーチャーなんだけど、今回はヴィスティーラとラーベルレーゲンの目的を知るのに使おうと思ってね」
本来の使い方とは全く違うし、普通にTVとかデバイスによる監視をすればもっと早い。だけどこれにはこれの利点がある
「態々こういう機械を持ち出したということは何か利点がある?」
ノートPCを立ち上げながら尋ねて来るクリス。分析を得意とするクリスらしい着眼点だ
「そ、これは魔力も発生しないし、電波も発生させない。まぁこっちからも完全に通話とかは出来ないんだけど……それなりに便利なのかな?」
「疑問系なのはなんでだ?」
箒の問いかけに苦笑しながら正直に言う
「いや、私って本当は執行官で、えーと現場の指揮とか法に順ずる操作の権利とかを持ってるんだけど……最近は現場に出るのが多くて、最新の装備を使うのってこれが正直初めてで」
あははと苦笑しながら言う。執行官としての仕事を疎かにしているとは自分でも判っているけど、ネクロの事もあるから中々思い通りに行かないのが現実だ。支給はされたが使うのは初めて、多分なのはとはやても同じだと思う
「大丈夫なの?初めて使うんでしょ?」
不安そうな顔をしているツバキさん。だけど私は初めて使うが、なんの不安もなかった
「大丈夫だと思います。ちゃんと正規装備として支給されてるものだから大丈夫だと思う」
正規の手順を踏んで支給された物だ。ネクロとの戦いに関するもので中途半端な物は許されない、そう考えれば初めて使う機械だとしてもなんの不安もない
「そろそろ会話が始まるみたいだね。向こうの出方も知りたいし……それになによりも……」
向こうから態々出向いてきて、武装を解除した。友好的と言うよりかはただ気まぐれとでも言うのだろうか?人が他のネクロは極めて人間に近い思考をしている。一夏に会いたくなったと言われるとその可能性もありえると思う自分がいる。
「一夏やセシリアにラウラは大丈夫なのか?」
弥生の心配そうな声に頷く。向こうも馬鹿じゃない、多分龍也がこの場にいないことは計算のうちだろう……だけどその程度でどうこうなるような甘い戦場を潜り抜けてきたのではない……こういう事態もしっかりと想定している。
「さてと……始めますか」
モニターでなのはとはやての位置を確認しながら、微調整を繰り返しながら座標軸を入力していく。本当ならはやてならもっと早いんだけど……こればっかりは仕方ない
「何をするつもりなんだ?下手に動くとセシリア達が危険に晒される事になるぞ?」
「そりゃなのはとはやてがいるから心配ないって言えばそうだろうけど、一応友達だし、一夏が危険な目に合うのはいやだからね」
「やっぱり今からでも僕は戻るよ。AMF弾を片っ端から装填すれば……」
ぶつぶつと呟いているシャルロットに怪訝そうな顔をしている鈴とヴィクトリア。口にはしていないが文句を言いたそうな顔をしている箒達。私はキーボードを叩く手を1度止めて
「皆が助かる最善の手はあれしかない。判るかな?判ってないんだよ。ネクロの脅威って言うのをさ……今やってるのだって増援が来ないように空間を封鎖する結界を作っている。これから箒達は自分のネクロに会うかもしれないんだよ?今目先の事じゃない、もっと先のことを見てみたらどうかな?」
向こうも馬鹿じゃない。龍也が来れば自分たちだけでは不利だと判りきっている。恐らく今回の来訪は独断、その上で負傷をすれば自分の立場が危うい。だから今回は攻撃をして来るはずがない。それに龍也には連絡をしてある、とは言え束の保護に成功したが、束を連れては転移は出来ないからすぐに来れる訳ではないが今こっちに向かってくれているのだ。それまで時間を稼ぐ事を考えればいい、しまったという顔をしている箒達にツバキが声を掛けてくれる
「判ったら落ち着いて座って話を聞きなさい。少ないけど情報が得れるチャンスなのよ?それを無駄にするのは止めなさい」
こういう時自分の経験のなさを感じる。私はこういう精神的なフォローは正直苦手だ。ツバキがいてくれて良かったと安堵の溜息を吐く。これで自分の作業に集中できる。はやて達とヴィスティーラ達の会話を全て録音するのと同時に封鎖結界を展開する準備を進めるのだった……
127話に続く
ヴィスティーラとラーベル・レーゲンの来訪。前の話の中であったイナリとベリトが撤退したのはこの2人の独断行動のせいです。
慎重に話を進めたい所でこういう不測の事態と言うのは嫌な物ですからね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします