第127話
私はログハウスの前で腕を組んでうろうろと歩き回っていた。IS学園の近くのグラウンドにセシリアちゃんとラウラちゃんのネクロ。ヴィスティーラとラーベル・レーゲンが現れたと聞いている……
「あーもう!何で早く帰ってきてくれないのよ!!!」
龍也さんとユウリに文句を思わず言う。今帰ってきていると聞いているんだけどその姿は見えない……
(ああ……もうどうすればいいのよ!)
私の力ではとてもではないが、LV4ネクロ相手では何も出来ない。
「落ち着きなさい楯無。ここで慌てても私達には何も出来ないわよ」
スコールさんが私にそう声をかける。それが一番正しいと思う……それでもただ座っていることなんて出来ない
「それでもだ。落ち着け楯無……出来る事をする。それしか出来ないんだよ。相手が化け物だ……人間に出来る事は決まっている」
こういうのは経験の違いと言わざるを得ないのだろう。暗部とは言え人の生き死に関わるような仕事をしなかった私と、表に出る事
のない組織で動いていたスコールさんとオータムさん。その経験の差が出ているのだろう
「焦るのは判るわ。何かしてあげないと思うのも判る、だけど何も出来ないの。自分に出来ることをしましょう?恐らく衰弱しているであろう束と負傷しているかもしれないユウリやフレイアの治療。その為に私達はここにいるのよ?」
スコールさんの諭す口調。親が子供に言い聞かすような口調だ。そのおかげで冷静になってきた……無論子供と言われている気がして若干いらっとしたが実際子供なのだから仕方ない
「戻って何か飲もうぜ。そのほうが気が紛れる」
そう言ってログハウスに入っていくオータムさんの背中を見ていると
「オータムもあれはあれで気にしてるのよ」
スコールさんの呟きに振り返るとスコールさんは小さく笑いながら
「口は悪いけど面倒見がいいからね。ラウラとセシリアを心配してるのよ」
おかしそうに笑うスコールさん。確かに簪ちゃん達の訓練を見てくれていることもあるし、口は悪いけど良い人と言うのは間違いないだろう
「信じて待ってみるのもいいものよ?行きましょう」
そう笑うスコールさんに頷き、私もログハウスの中に足を踏み入れたのだった……ユウリも龍也さんもきっと無事だし、セシリアちゃんとラウラちゃんも大丈夫なはずだ。なのはさんとはやてさんがいるのだから……きっと大丈夫なはずだ、自分に言い聞かすように呟くのだった……
砂糖をこれでもかとカップの中に入れているラーベル・レーゲンとヴィスティーラ。セシリアは顔色が若干悪い……だがそれは無理もない
(ネクロになった自分がネクロフィリアとしればショックも受けるか)
軍の中には稀に存在する死体愛好家「ネクロフィリア」黒兎隊にはいないが、軍に関係する物ならば発症する可能性のある精神病だ……死に近い物で精神に異常を来たした場合そうなる物がいる
(一体何があったのか)
ネクロになったとは言え、何かのきっかけがあったのかもしれない。とは言え……その事を聞くわけには行かない。下手に聞いて気をそこねたら不味い事になりかねない……
「さて……私よ?何かを考えているのだろう?聞かないのか?」
ラーベル・レーゲンがにやにやと笑いながら尋ねて来る。どうした物かと考えているとなのはが私を見て小さく目配せをする。聞いてみろって事なのかもしれない……私は目の前の紅茶を一口飲んで気を静めてから
「お前は何がしたくてここに来たんだ?」
ヴィスティーラにしてもそうだ。一夏に残れと言った……それは間違いなくなにか理由がある筈だと思い尋ねるとラーベル・レーゲンは私とセシリアを見て
「なに誰を殺せば一番一夏が私を憎んでくれるのかと思ってな」
くくっと喉を鳴らすラーベル・レーゲンを見てヴィスティーラはやれやれという感じで肩を竦め
「ラーベル・レーゲンは憎悪を向けられたいんですよ。殺意でも構いません、強力な負の感情を向けられるのが好きなのですわ」
その言葉に私はぎょっとした好意ではなく憎悪を向けられたい。それはネクロフィリアと比べてもかなり特殊な物だと判る
「ネクロフィリヤよりかはましだ。あの時のイチカの憎悪……あれは今思い出しても素晴らしい物だった……」
自分の体を抱くようにして呟くラーベル・レーゲン。その目に正気の色はなく、完全に狂っているのが判る。今まで冷静な言動をしていたので少しはまともかもしれないと期待したが、やはりこいつもまともではなかった……それと同時に私にもそれを望んでいるのかもしれないと思うと苦しくなる……あの光を宿して居ない目が私を見ているとその闇に引きずり込まれそうな気がする……
「お前も判るかも知れんぞ?愛情と憎悪はとても似ている。狂ってしまえばそれさえも愛おしくなるぞ?」
ラーベル・レーゲンが私に手を伸ばしながら告げる。どんどん足元が崩れていくような気がする、それだけじゃない闇が私を飲み込もうとしているのが判る
「止めてくれへんかなあ?無理やり落とそうとするのは」
はやてが手をパンっと叩くとその嫌な感じは全て消えた。だが気持ち悪さと頭痛を感じて倒れかけると
「ラウラ!大丈夫か!」
一夏が素早く立ち上がり私の身体を支えてくれる。その暖かさに安堵し一夏の手を握り返すと
「……来ましたね。思ったよりも早かったです」」
ヴィスティーラが楽しそうに笑う。その目は期待通りの結果になったの言わんばかりに輝いていた……その隣のラーベル・レーゲンは楽しそうに笑っている
「見たか?……今の一夏の顔を……それだ。その目だ、そのその眼だ……怒りを宿したその目……その目をしているお前が最も美しい……私が憎いのだろう?この距離なら確実に私のコアを砕けるなあ?イチカ」
楽しそうに笑うラーベル・レーゲン。顔を上げると見たこともないくらい怖い顔をしている……一夏……その眼は普段の優しい一夏の物ではなくネクロのそれを連想させる……待機状態の白式が黒く染まっていく、まさか暴走!?咄嗟に一夏を止めようとするが、その凄まじいまでの殺気に身体が動かない……徐々に一夏を覆っている黒い気配が強くなっていく。それを見て笑みを深めているラーベル・レーゲン
「ラーベル・レーゲンッ!!!」
一夏の目が完全に闇に染まり、声のトーンも低くなる。それを見て更に嬉々とした笑みを浮かべるラーベル・レーゲン。私とセシリアを振りほどいて手を伸ばそうとする一夏、これは私の知っている一夏じゃない!暴走か!恐ろしいと思う、だけどこのままにしてはいけないと一夏の身体を押さえた瞬間
「一夏ッ!!しっかりせんかい!!!」
はやての強烈な一喝が響く。そのあまりの怒声に思わず、一夏を止めていた両手を放して自身の耳を塞ぐ。近くにいたせシリアは大分ダメージを受けたようで渋い顔をしている
「はっ!?お、俺は……何をしようとした……」
頭を押さえて蹲る一夏。今度は私とセシリアが一夏に近寄る。酷い顔色だ……それに汗も酷い……
「セシリア。ハンカチを私は脈を見る」
一夏の手首を掴むと信じられないくらい脈が高い。それに荒い呼吸を整えている様子を見るとただ事ではないと思う
「ヴィスティーラ!ラーベル・レーゲン!一夏さんに何をしたのですか!」
一夏の額の汗を拭いながら叫ぶセシリア。確かあの2人は怖い、だけどそれ以上に一夏を失うのは恐ろしいのだ。立ち上がって二人に詰め寄ろうとするセシリアに
「落ち着きなさい!下手に刺激したら駄目!そのほうが余計一夏の暴走を早める!」
なのはの怒声に私とセシリアの動きが止まる。どういうことなのか理解できない……私とセシリアがはやての顔を見ると
「ここに来たのはこの世界の一夏の存在を消して自分達の知っている一夏を呼び出すことか?随分と回りくどい事をするなあ?」
笑っているが目の笑っていないはやて。その顔は見たこともないくらい険しい顔だった、それくらい危ない状況だったのかもしれない
「うっ……」
小さく呻いて意識を失う一夏を私とセシリアで抱きとめる。その身体酷く脱力していて危険な状態だと判る……直ぐにでも医療室に運ばないと行けないと言うのは判っているのに、私はその場を動く事が出来なかった。なのはとはやて、ラーベル・レーゲンとヴィスティーラの間に発生している重い空気を前に私が出来たのは、意識のない一夏を抱き抱え、少しでもラーベル・レーゲン達から引き離す事だけだった……
惜しい所でしたね。もう少しだったのですが……私達がここに来れば私達の世界のイチカさんが出て来てくれると思ったのですが
「油断していました。貴女が高度の精神感応の術を使えるとは思っていませんでした」
あの一喝は只の声ではなかった。念入りに魔力コントロールをされた物……私達には効果はないが、普通の人間ならそれだけで意識を失いかねない物だ
「広域殲滅しか見せてないでなあ?この世界では、私はオールラウンダーや、幻術から回復補助まで何でも得意やで」
にやりと笑う八神はやて。話には聞いていたけど、この世界ではあまり戦闘に出てこないのでそこまでとは思っていなかったのだ
(分が悪いかもしれないですねえ……)
夜天の女神・雷光の戦乙女・星光の女神……そして夜天の守護者……その中で夜天の女神。すわなち八神はやてがもっとも強敵だと聞いていたが、本当のことだったようだ……索敵タイプの私の感知をすり抜けて発動した精神感応を考えると相手の実力が判ると言う物だ
「貴女が何を考えているのかは知りません!ですが!私達の一夏さんを奪おうとするのは許しません!」
今までの怯えの色はどこへ行ったのか、強い意志の光をその目に宿し叫ぶこの世界の私……仮に同じ立場だとしたら私だってそうするだろう……だけど
「何も知らない貴女に言われたくはないですね。私達が何のためにこの世界に来たのか、そして1度死んでもなお、蘇った私達の想いの深さも知らない癖に」
私達は人として死んだ。そしてネクロとしても死んだ……それでもなお生きている。だがそれには相当のリスクを背負っているのだ
「今一度死ねば私達の魂は完全に消滅します。転生することはないでしょう……判りますか?もう私達には道はないのですよ。この世界からすれば私達は異物……ほら……見てください。ただ1人を愛し、死んでもなおその人を追いかけた私達に課せられた罰はこれですよ」
私がこの世界の私に向けて伸ばした腕は徐々にその色を失い、黒く染まっていく……隣のラーベル・レーゲンも同様だ。正し彼女の場合は顔から黒くなっているが
「何が……起こっているんだ」
この世界のラウラが呟く、まぁ魔法のない世界の住人では私達に何が起こっているのか理解出来る訳がありませんね
「……世界に喰われてもなお一夏を求める……それはもう愛じゃなくて呪いだよ」
流石は魔道師として高位な高町なのは。私達の今の状態を理解しましたか……世界からの異物は消えるだけ、この世界の私達が存在する以上私達は短時間しか同じ空間に存在する事ができないのだ……だけど今目の前にいるこの世界の私を消せば……
「何と言われようが気にしません。私は私の思いを貫くだけですわ」
この消えていく身体、だけど私のイチカさんへの思いは消えるわけもなく、強くなる
「確かに今の私は消えかけていますが……だけど……こうしたら私は永遠に存在できますわ!」
呆然としているこの世界の私に手を伸ばす。魔力が使えなくてもネクロの力を持ってすれば、人間の首をへし折るなんて容易い。一瞬で間合いを詰め首に手を伸ばそうとして
「ッ!」
体を反転させて無理やりブレーキをかける。直感的に感じた……自分の死のイメージを……
「勘が鋭いな。楽に一体倒せると思ったんだが」
何もない空間から浮き出るように姿を見せる八神龍也。どうやらイナリの方は失敗したようだ……奇襲を仕掛けて傷をつけることが出来れば御の字だが……
(逃げれそうにないな。如何する?ヴィスティーラ)
完全に臨戦態勢になっている八神龍也の隙を突くなんて不可能に近い。険しい顔をしているラーベル・レーゲンの問い掛けに眉を顰める。
「さて。このような場で血を見せるのは些か本位ではないが、この機会逃すにあまりに惜しい……苦しまぬよう……一刀で死ね!」
来る!咄嗟に飛びのいて交わそうとするが、足は動かない。良く見ると影が私の足を縛り上げている
(しまった!八神はやては影使いだった)
影だけではない。光に闇・水に炎。ありとあらゆる属性魔法に長けているのが八神はやて……腕をクロスして防ごうとした瞬間
「ちい!」
舌打ちと同時に八神龍也は自身のコートで炎を防ぐ。そして私とラーベル・レーゲンには怒声が届く
「ヴィスティーラ!ラーべル・レーゲン!早く撤退しろ!!」
イナリの怒声と私とラーベル・レーゲンの後ろに現れた桜鬼
「馬鹿が、勝手な事をするからだ」
その言葉に何も言い返すことが出来ない。素直に頭を下げ桜鬼の腕を掴むと同時に私達の姿はこの場から消えたのだった……
桜鬼と言う箒のネクロはどうやら空間を繋ぐ事が出来る様だな、私の結界を何の苦もなく潜り抜けて行った姿に確信する。桜鬼の能力は空間移動にたけた能力なのだろう。一瞬現れたベリトとイナリの姿も見えない……束とクロエをログハウスで待機していた楯無たちに預け直ぐ転移してきたのだが、逃げる事を目的にしていたベリト達を捕らえることは出来なかった
「無事とはいえそうにないな?大丈夫か?」
青い顔をしているセシリアと気絶しているであろう一夏を抱えているラウラ……
「精神攻撃を防ぐのが手一杯で何も出来ませんでした、すいません」
なのはが謝る。ラウラとセシリアを護るのに手一杯で話し合いに参加する余裕がなかったことを謝っているのだろう。だけどそれがなければラウラとセシリアも危険な状態になっていたかもしれないので、それを叱責するのはお門違いだろう
「束は?」
アズマを助ける事は難しいとはやてには話していた。私には判っていたのだ、アズマがクローンだと……だからアズマの事を尋ねてこないはやてに
「保護には成功した。ただ……アズマ・ワンイレイサは死亡した」
あの爆発の中では生き残れないだろう。自分の道を貫き通したアズマには敬意さえ感じる……死んだという言葉に更に青い顔をするセシリア。だがラウラは違っていた……
「龍也……教えてくれ、ネクロになった私が私を狙う理由を……まだ何か隠しているんだろう?教えてくれ……」
軍人であるラウラは震えてはいるが、既にもう会話の出来る状態だった。確かに私は隠している事があった。まだ教えるには早いと思っていたが、こうしてIS学園の周辺に来た事を考えると時間的な余裕はない。一夏にしてもそうだ
「判った。IS学園に戻ったら話す」
もう隠すのも難しいだろうし、覚悟を決めさせるのにもいいかもしれない。こうして本格的に動いてきた事を考えるとベエルゼが動き出そうとしているのだと判る……私は気絶している一夏を肩に担ぎ
「はやてとなのははラウラとセシリアを頼む」
気丈な素振りは見せているが、2人も相当限界が来ている。なのはとはやてが軽減したがそれでもネクロの魔力は人体には有毒だ
「りょーかい、ラウラ。いこか?」
「う、うむ。頼む」
はやてに手を借りて立ち上がるラウラ。軍で鍛えているからか、若干のふらつきは見えるが足取りはしっかりしている
「大丈夫?セシリア」
「だ、大丈夫ですわ」
セシリアは今にも倒れそうな顔色をしている……精神的に来ているのは判るが、それでも前を向いているセシリアの精神の強さには驚く。私は気絶している一夏を落とさないように気をつけ、このグラウンドを後にしたのだった。とりあえず、このグラウンドはもう使えないなと思いながら……こうして転移してきた以上この場所はもう安全ではないのだから……
第128話に続く
今回は謎を多く残してみたつもりです。活動時間に限界のあるセシリア達のネクロとかですね。次回でそこの所を書いていこうともいます。束が来たIS学園に、一夏の暴走のことを書き終えたら決戦変に入っていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします