第131話
アリーナの中を高速で移動している一夏。私はそれを見て眉を顰めた
(結界は正常に作動している)
最高レベルの魔導師が4人で発動させた結界の中であれだけの機動。何かある……魔力だけじゃ無い何かが……
「はやて。フェイト、少し調べてみてくれ」
これは別の観点から見てみる必要があると判断して、はやてとフェイトに声をかける
「りょーかい。私も少し気になってたしなぁ」
「だね。あのスピードはおかしいよ」
はやてとフェイトもそれを感じていたのか、直ぐ調べる作業に入ってくれる。私となのははモニターを確認しながら
「周囲にネクロの気配はないですね」
「まだ決め付けるのは早い。警戒を怠るな」
強いネクロの気配にネクロは引き寄せられる。今の一夏の状態はレベル4に近い、引き寄せられる可能性は充分にある。それに箒達のネクロがイチカの気配に惹かれてくる可能性も考えられるのだから
「今は動けないんだ。しっかり調べてくれ」
結界の維持をしなければならない、だから必然的に戦うことは出来ない。待機してくれているスコールたちとフレイア達が頼りだ
「す、すいません。調べなおします」
こういう時に捜索にたけたティアナとかがいると楽なんだけどな、とは言えクラナガンの戦力を落とす事も出来ないので仕方ない
(どうなるかだな)
戦い始めて5分、限界時間まで1時間弱ある……だがそれを越えると一夏の身の安全は保障できない
(それまでに決着をつけろよ。一夏)
心の中で一夏を応援し、私は戦闘モニターと周囲のモニターの両方を確認し、周囲の警戒を始めるのだった……
今まで何度か訪れた心の世界。だけどそれは見慣れたものでは無かった……
(クラナガン?)
龍也に連れて行かれた龍也の世界。クラナガンに酷似していた、別の世界の俺は魔導師なのだからおかしくはないが……
(どうして俺の心の中なのに……)
それだけ浸食されている事なのかもしれない……そう思うと一瞬恐怖を感じたが
(大丈夫。まだ何とかなる)
隠れながら移動していたのでわかったが、黒い場所と白い場所そしてグレーの場所がある。恐らく黒があいつの陣地だ、まだ白の方が多い。
(こっちのほうなら大丈夫か)
ISを解除していると向こうは俺を認識できないようなので、ISを解除してビルの間を上手く利用して隠れながら移動する。相手との力量さがあるのならまずは逃げ回ってチャンスを見る。龍也に教えられた事の1つだ
『いつまで逃げ回っているつもりだ?打ち合いに来いよッ!!!』
ビルを両断しながら姿を見せるオレ。俺は舌打ちしながら打鉄を展開して空へ逃れる
『よお。少し振りだな、いい加減戦う気になったらどうだ?』
ニヤニヤと笑うオレ。だが俺はその言葉に返答せずに後ろへの瞬時加速で距離を取る。精神世界だからSEやエネルギーを気にしなくていいのは良いが……
(このままだと殺される)
平行世界のオレか龍也によって殺される、精神世界の戦いは1時間が限界だと龍也が言っていた。今何分経ったか判らないが、このまま何時までも逃げているわけにも行かない
(なんとかして攻撃できるチャンスを!)
機動力も防御力も劣る打鉄では勝てない。もし攻撃できるチャンスがあるとすれば……
(あれを奪うしかない)
使っているのは雪片だと思っていた。だけどこうして見ると使っているのは雪華だ、雪片じゃ無い。雪華は平行世界のオレのデバイスだ。だけど雪片は違う
(だから今は逃げる!)
ISを解除して空中を落下して行く、精神の世界だから死にはしない。あいつに殺されない限りは……落下している最中にガラス窓を蹴り破りビルの中に転がり込む
「まだ時間はあるはずだ。落ち着け、チャンスを探すんだ」
自分に言い聞かせるように呟き走り出す。今は戦うことが出来ない、ならチャンスを待つしかないのだから
『精神だから死なない。ああ。それは正しいぜ?精神は死なない、気持ちが負けないならな。だが人間の精神が何度も己の死に耐えれると思うなよッ!!!!』
オレの怒声と共にビルが崩壊する。そして砕けた瓦礫が俺の頭を直撃し目の前が真紅に染まる。そして
「う。うがああああああ!?」
信じられない激痛が走る。頭だけじゃ無い全身にだそれは数秒だったが、その数秒でも気が狂いそうな痛みだった
「無事……でもいてえ」
頭はなんともない、手足もちゃんと動く。だけどさっきの痛みはまだ身体に残っている
(あれが精神の死……)
駄目だ。あれは何回も耐えることなんて出来はしない、見つかってしまうが仕方ない。ISを展開して身を護りながら走り出す、だが直ぐに追いつかれ
『これで2回目。お前は後何回自分の身体をしっかりイメージできるか?』
「がはあ!?」
背後から心臓を一突きにされ、再び気が狂いそうな激痛が俺を襲うのだった……
私は目の前の一夏を見て胸が痛んだ。黒い外骨格に蝙蝠の翼、それに人間のそれとは既に違う大きさをしている一夏を見て
(まるでネクロのようだ)
ネクロになるかもしれないと龍也には聞いていたが、正直目の前にするとショックが大きい
《オオオオオッ!!!》
雄叫びと共に放たれた光線を飛んで回避し、そのまま千冬さんと合流する、マドカは私が離脱する時間を稼ぐためにか
「こっちだ!」
当てるつもりのない威嚇射撃で一夏の注意を自分に引き付けている。マドカは回避に徹しているおかげでダメージが少ないが、こうして支援射撃をしているので弾薬の消費は激しいだろう。
「かなり不味い感じですね」
見た目完全にネクロとは言えずそう言うと千冬さんは眉を顰めつつも
「まだ30分だ。時間的な余裕はある」
時間的な余裕はある、だが精神的肉体的余裕は余りない。動く気配がないので紅椿の様子を確認するが
(損傷率25%。強化装甲7割消失、バックパック弾薬8割使用。SE50%)
防御に徹しいてもこれだ。凄まじい攻撃力と言わざるを得ない……
「この馬鹿一夏!!!いつまもでそんな所に居ないで出てきなさいよ!!!」
「そうだぞ!早く戻って来い!!」
鈴とラウラがそう叫ぶと一夏の視線が2人に集中する。その瞬間背筋が凍るような殺気を感じて
「離れろ!鈴!ラウラ!!!」
そう叫ぶがもう遅い、一瞬で二人の上空に移動した一夏の拳が2人を穿つ
「「がはぁ!?」」
凄まじい勢いで地面に叩きつけられた鈴とラウラのバックパックが砕け散り。その口から血が溢れる
「下がれ!これ以上は危険だ!」
千冬さんがそう怒鳴る。最初から最後まで徹底して防御に徹して、一夏に声をかけていた鈴とラウラだが今の一撃で強化装甲が砕けた。これ以上は危険だ……だが鈴は口元の血を拭いながら
「じょーだんきついわ。あたしは最後まで引かないからね」
火花が出ている装甲をパージして残ったのはブースターだけだ。そんな状態であの一撃を喰らえば間違いなく死ぬ
「鈴さん!危険ですわ!下がってください!」
「そうだよ!そのままだと死んじゃうよ!」
後方支援をしていたセシリアとシャルロットがそう叫ぶ。隣のラウラも
「これ以上は危険だ。教官の言うとおり下がろう」
肩を掴まれた鈴はその腕を振り払って
「さっきから聞いてれば危険だのなんだの……うるさいのよ!!!怖いなら引っ込みなさい!目障りよ!!!」
鈴は私達を見てそう怒鳴る。その声に反応したのか一夏が鈴に襲い掛かる
「どんな姿をしてようがっ!一夏は一夏ッ!!!危険でもなんでもない!!」
一撃一撃が髪を顔を掠めるが、それを避けながら鈴は一夏の姿をしっかりと見つめたまま叫ぶ。助けなれればと判っているのに身体が動かない
「今は少し声が届かないだけ、なら何度だって何十回だってあたしは一夏の名前を呼ぶ!!攻撃もしない!怖いと思うなら!危険だと思うのなら!早くあたしの目の前から消えなさい!そんな奴が呼んだって!その声は一夏には届かない!!!」
そう言えば鈴は最初からただの1回も一夏に攻撃をしていない。ずっと耐えているだけだ……私は手の中の雨月と空裂を見つめて
「そうだな。鈴の言う通りだ」
それをそのまま粒子に返し、バックパックに手を回して搭載されている盾を掴んで
「一夏!いつまでも暴れているな!早く戻って来い!!」
《うがあ!!!》
強烈な振り下ろしを盾を斜めにして受け流し、そのまま前に踏み出して
「お前はそんなに弱い奴じゃ無いだろう!だから早く戻ってくるんだ!」
「そうよ!早く戻ってきなさいよ!皆待っているんだからね!」
鈴が一夏に呼びかける。いや鈴だけじゃ無い……
「一夏さん!早く戻ってきてください!」
「待ってるから!いつもの優しい一夏に戻るって判ってるから!」
「力に飲まれるな!一夏は私とは違う!そうだろう!お前は強い!私よりもずっと!」
セシリア・シャルロット・ラウラが叫ぶ。すると少しだけ少しだけだが一夏の動きが鈍る……
「戻って来い!一夏!私達の所へ」
「やっと家族に戻れたんだ……私達の所へ帰ってくるんだ!」
そこにマドカと千冬さんの声が重なった瞬間。一夏の目が紅く輝き
2つ声が重なったと思った瞬間とんでもない衝撃波が私達を飲み込もうとする。それでも下がる事無く
「「「「「一夏ッ!!!」」」」」
一夏の名前を叫んだ。その瞬間破損していたISの装甲が輝き、その衝撃波を受け流した……
「せ、セカンドシフト……したのか……」
ネクロとの戦闘を考慮したとしか思えない重厚な装甲。そしてより力強さを増したシルエット……
(ありがとう、紅椿)
今なら出来る。きっと一夏を救うことが出来る、攻撃で解けていたリボンを解き、代わりに誕生日に貰ったリボンで素早く髪をまとめる
《オオオオオッ!!!!》
叫び声を上げて襲ってくる一夏の両手を私と鈴で掴み
「「一夏ッ!!!!早く戻って来い!(きなさいッ!!!)」」
力強くそう叫んだ。鈴の言う通りだ、何回だって叫ぶ、一夏がまた私達の所に戻って来れるように。この声が枯れたとしても、私は絶対に一夏を呼ぶのを止めない……きっと今の一夏は迷っているんだ、だから戻ってこれるように、道しるべになってくれると信じて……私達は一夏の名前を呼び続ける……
もう何度殺されたか判らない。最初は痛みつつもイメージ出来ていた自分の手足でさえも、おぼろげで左腕と右足が消えてしまっている
(痛い。もう痛いのは嫌だ)
何度殺されても心は死なない。気持ちが負けない限りは……だけどもう俺は負けてしまいそうだった。この痛みにも、そして目の前のオレの強さにも
(オレなら皆を護れるのかもしれない)
俺は弱い。だけどオレなら皆を護れるかもしれない。そう思うと抵抗しようと言う意思が消えていく……
『良く頑張ったって褒めてやるぜ。だけどここまでだ、もうお前は自分の死に耐える事が出来ない』
ああ、その通りだ。もうあの痛みには耐える事が出来ない、身体が砕けるあの痛みも、心がバラバラになるようなあの鈍痛にも耐える事が出来ない
『安心しな。お前が護りたいって思っている連中はオレが護ってやるさ。オレだってあいつらは大事なんだ』
そうだろうよ、お前はオレだ。護りたい者だってきっと同じだろうよ……
『あばよ』
雪華を振りかぶるオレ。逃げようにも足がないから逃げる事もできない……目を閉じようとした瞬間
『一夏!いつまでも暴れているな!早く戻って来い!!』
箒……?どうして箒の声が……いや、箒の声だけじゃ無い
『そうよ!早く戻ってきなさいよ!皆待っているんだからね!』
珍しい鈴の泣き声が聞こえる……らしくないぜ、俺が心配させてるからか……
『一夏さん!早く戻ってきてください!』
セシリア……ああ、そうだよな。こんな所にいたら駄目だよな……
『待ってるから!いつもの優しい一夏に戻るって判ってるから!』
シャル……優しいかぁ……そう言われると何か恥ずかしいなあ……
『力に飲まれるな!一夏は私とは違う!そうだろう!お前は強い!私よりもずっと!』
ラウラ……そんな事はないぜ。お前の方がずっとずっと強いと思うぜ……
『戻って来い!一夏!私達の所へ』
『やっと家族に戻れたんだ……私達の所へ帰ってくるんだ!』
千冬姉……マドカ……ああ、帰りたいな。家族の所に……仲間の所に……
【気持ちで負けるな、一夏。お前は強い……あんな平行世界のお前よりもな、何よりも気持ちで負けなければ精神の戦いで負けはない】
龍也に胸をどんっと叩かれたのを思い出す。その痛みのおかげか、意識がハッキリしてくる。失っていた左腕が一瞬で再生する
「返してもらうぜ!俺の剣を!!!」
再生した腕を全力で伸ばす。鞘に収められたままの雪片を掴んで引き抜く。これだけは譲れない、千冬姉から継いだ大事な物だ
『貴様ッ!!!』
オレの腰から雪片を奪い取り振り下ろされた雪華を弾く、打鉄が消えセカンドシフトする前の白式へと変化する
「誰に負けたって良いさ。俺は弱いからな……」
まだ俺は弱い。千冬姉や龍也のように誰かを護る事も出来ないさ……箒や鈴にも迷惑をかけることもあるだろうよ、うだうだ考えても判らない事を考えてさ……自分が弱いって事は嫌ってほど判っている。だけど!
「だけどな!俺は俺には負けねえ!絶対にな!!!」
誰に負けても良い。だけど自分にだけは負けない……負けてはならない
『やってみろ!お前がオレに勝てると思うなよ!!!半人前がッ!!!』
「やるさッ!絶対に俺はお前を倒す!!!」
くるって逃げた俺には負けない。どれだけ苦しくても悲しくても、絶対に俺は狂気になんて逃げはしない。だから俺はお前には絶対に負けない!!!
(大切な者を護る。この誓いは……この願いは絶対に違える事なんてできないッ!!!)
俺は取り返した雪片を両手で握りオレを睨みつけると同時に
「いっくぜええええッ!!!!」
零落白夜を全開出力で起動し、更に瞬時加速を使いオレ目掛けて斬りかかって行った……絶対に俺は勝つ!外で待っている箒達の所に帰る!!!絶対に帰るのだから
「俺はこんな所で負けられないんだッ!!!!」
俺の渾身の一撃はオレを捉え、その姿を掻き消したのだった……
停止している一夏。私はそれを見て眉を顰めた……まだだ。まだ終わってない、私の感が告げている。これはまだ終わりではない、これは始まりだと
【全員距離を取れ!魔力が蓄積している!最大攻撃が来る!】
セカンドシフトをしたのは計算外だが、恐らくセカンドシフトをした機体でも耐える事が出来ないほどの強力な一撃が来る、そう叫んだ瞬間。翼が更に増え、両腕の篭手が開き砲門が姿を見せる
《グルオオオオオオオオオッ!!!!!》
アリーナを震わせるような強力な咆哮と同時にただ圧縮されただけの魔力が周囲に叩きつけられる
「楯無。ユウリアリーナに行け、合流してやってくれ!」
返事もせずアリーナに走っていく楯無とユウリ、煙が晴れたそこに居たのは
「最終暴走。ここからが正念場だな」
さっきまでの獣同然の姿ではなく、スラリとした騎士を思わせるその姿……それは間違いなく平行世界のイチカ自身……
【正念場だ。向こうのほうも佳境に入っているだろう……負けるなよ】
ここからは一番酷い暴走になるだろう。後は箒達次第、いや一夏次第だ……
「はやて。なのは、フェイト。難しいとおもうが、この場は任せる。頼んだぞ」
返事を待たず管制室を出て転移する。目的地はアリーナの外
「これはこれは全員で来て何ようかな?」
アリーナの外で飛び出すタイミングを計っている桜鬼達を見据える
「今は敵対する気はない。見ているだけだ」
代表して話してくる千冬のネクロ。確かに殺気や闘気は感じないが、はいそうですかと信じることも出来ない
「そうかい。じゃあ私もここで見ていよう」
腕を組みその場で浮遊する。向こうとて数のほうでは有利だと知っているが、私の特性をベエルゼから聞いていれば動く事はないだろう。嫌そうに眉を顰める桜鬼達を見ながら、アリーナを見下ろしたのだった……
第132話に続く
次回デ暴走編は終わりにしようと思います。ネクロ化箒達が動くは気にしないでくださいね。今回は観察がメインになっていますので、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします