第29話
「ユウリ、少し付き合ってくれるかしら?」
「また面倒ごとか?ワタシはサイレント・ゼフィルスの調整があるのだが?」
持っていたスパナを床に置きながら言うと
「そう言わないで頂戴。今回はオータムやMじゃ駄目なのよ。なんせあのネクロの幹部との対談だからそれなりに準備をしたいのよ」
ネクロ……あの化け物集団か
「そう言うことなら話は別だ付き合おう。しかし何時裏切られるかもわからん奴と良く手が組めるな」
「敵の敵は味方、手を組んでいられるうちは手を組むわ」
「寝首をかかられんと良いがな」
サイレントゼフィルスを待機状態に戻し戸棚に置く
「着替えてくる。出発は何時だ?」
「今から1時間後、汗臭いからちゃんとシャワーを浴びてから着替えるのよ」
スコールに判った、判ったと返事を返しワタシはシャワールームに向かった
「この身体にも馴れた者だな」
最初は戸惑ったがまぁそれも良い思い出か。まあ出来る事なら
(元の身体に戻りたいがな)
素肌についた傷を撫でながらそんな事を考える。まぁ今更もとの身体に戻るのも考え物だがな。身体を拭いて何時もの様に首元で髪を縛り黒いノースリーブの上着を着込み。スコールの元へ向かう
「あら早かったのね?もう少しゆっくりシャワーを浴びるかと思ったわ」
「汗と油を流せればそれで良い。行くぞ」
「自分の身体には馴れた?」
「嫌味かそれは?」
ワタシの経歴を知るこいつが偶に憎い時がある。
「そう言うつもりじゃないけどね。じゃあ行きましょう?街のカフェテリアで待ち合わせなの」
「……あの化け物が?カフェで?」
1度ネクロを見たことがあるがどう見ても騒ぎになるとしか思えんのだが
「向こうが指定してきたの。何でもいろんなタイプが居て人と同じ姿のも居るそうなのよ」
つくづく信じられんな……ワタシはそんな事を考えながらスコールと共にマンションを後にした
「貴女かしら?ファントムは?」
カフェの一角に座る女に話しかけるスコール見た目は完全な人間だが
「そうよ、ファントムタスクのスコール・ミューゼル。そしてユウリ・クロガネ。いえ黒武士と呼ぼうかしら」
ワタシの事もお見通しか、ワタシは椅子に腰掛けたスコールの後ろに立ち警戒しながら2人の話に耳を傾けた
「確認しましたか?お嬢様」
「ええ。亡国企業のスコール。そして黒武士。確かに確認したわ」
通信機から聞こえてくるフレイアに返事をする。街を見張っていたフレイアからの報告でスコールを見つけたと聞いた私はIS学園を抜け出し、監視に来ていた
「それでやはりあの男が黒武士ですか?」
「後姿だけじゃ確信できないけど、多分ね髪の色が同じだし」
あのときの研究所で見た顔を確認して無いからなんとも言えないが。恐らく同一人物
「近くに盗聴器は?」
「仕掛けてあります。ただ私の位置では周波数が合いません。お嬢様しか話を聞けないかと」
「OK。じゃあ私に近寄る敵が居たら教えて。私は話と黒武士に集中するから」
盗聴器の電波が悪い。それの話に集中して無いと聞き逃す可能性がある、こういう時1人では無いと言うのは心強い。背中を護ってくれるからだ、私はそんな事を考えながら盗聴器から聞こえてくるスコール達の話に耳を傾けた
『どうも……ネル……が、勝手に……てるみたいなの』
『……は、貴方達には……ごうなのかしら?』
通信が乱れて何を言ってるか良く聞こえない
『あの子は……天の……護者……に執着……してるから、……こっちにの……画なんて。おかまいなしなの……』
『夜……守……貴女達の敵……やはり……威なのかしら?』
『ええ、……守護者……は私……達の仲間を……1人……3000体……したの』
聞き取れた単語をメモする
「夜天の守護者……。もしかして黄金の騎士のことかしら」
都市伝説でまことしやかに語られる存在の事かもしれない。ではスコールと話しているのは
「黒い悪魔なのかもね」
黄金の騎士と対成す黒い悪魔なのかもしれない
『私達は……ぎで……園を……撃する……魔はしないで欲しい』
『判ったわ……イナリ……こっちは……まだ……ける段階じゃないし』
園?……IS学園のこと!?襲撃計画!これは連絡しないと
『貴女……の……画は。判ったわ……何時……かしら?』
襲撃の日時!これだけはちゃんと聞かないと
『教えたいけど……駄目……ネズミが……てるから』
「お嬢様!!早くその場を離れてください!!急に貴女の背後に!!!」
フレイアの言葉を最後まで聞く事無く反射的に飛び退きミステリアス・レイディを展開する
「ほほう、ネズミかと思えば小癪な牙を隠した猫であったか。くっく」
「なっ!?」
私が居た場所に振り下ろされたシャムシール。それを手にしていたのは
(ば。化け物!?)
黒い身体を持ち左胸を覆うグレーのブレストプレートを身に着けた。狼の様な顔をした異形がそこにはいた
「ふふん。良い反応だ。やはり戦いとはこうでなくてはな。詰まらんイナリに着いて来て意味があると言うもの。さあ剣を取れ強者よ。このLV3アヌビスが貴様の命を刈り取ってやろう」
その言葉を聞く前に私はビルから飛び降りた、本能的に理解したあれには勝てないと
「逃げるか……貴様は強者などでは無く弱者であったか。ならば早々に死ね!!!」
空気が爆発した音と共に後追ってくる異形の気配を感じる。なんとか振り切らないと下の交差点に着地した私は思わず我が目を疑った
「なっ!?時間が止まってる!?」
人が……車が……舞い散る花びらが全て空中で静止している。何が起きていると言うの
「静止結界。我の存在はまだ知られるわけにはいかないのでな。張らせて貰った」
「っ!?」
瞬時加速で一気に後退しながらラスティーネイルを展開する
「ほう。剣か、良いぞ我が剣をその程度のおもちゃで受けられると思うなよ!!」
一気に間合いを詰めたアヌビスとか言う異形が上段からシャムシールを振り下ろす
「な!?」
ラスティーネイルが一瞬で砕かれ粒子に還る
「ふん、一合とも打ちあえんとは興ざめだ。やはりこの世界の人間は余りに脆い」
この世界!?訳が判らないだが逃げないと私はそれだけを頭にアヌビスから背を向け逃げ始めた
(ふ、振り切れない!)
ブースターを全開にしても振り切れないそれ所か
「逃げれるものなら逃げてみよ!我を楽しませれば見逃してやらん事も無いぞ!」
時折黒い光弾を放ち、私を追いかけてくる……どう見ても遊ばれている
(私1人じゃ逃げ切れない)
「何だ。この程度か……」
「!?」
何時の間に!?何時の間にか私の進行方向に回りこみ剣を振りかぶっているアヌビスが見える
「死ね。人間」
アヌビスが無慈悲にシャムシールを振り下ろす、それはやけにゆっくりに見えて
(ここで死ぬの?)
避けれないそれが判った。単純な話だ私とアヌビスの力量さがありすぎる。
(簪ちゃんと仲直り出来ずに死ぬなんて……)
仲直りしたかった最愛の妹と……でもそれは無理な話。何故なら私はここで死ぬから
「ええい!何をしている!更識家当主!とっとと逃げろ!!!」
ヒュンヒュン
音を立てて飛んで来た剣がアヌビスのシャムシールを弾く。驚きに目を見開き剣の飛んで来た方向を見るそこには黒いISを展開した黒武士の姿があった
(くっ。ワタシは何をしている)
自分の行動が理解出来ず、心の中で自分を叱咤する。更識の当主を助ける事にワタシに何のメリットも無い。いや寧ろデメリットしかないのにワタシはスコールの元を離れ。更識の当主の元へ向かっていた
(理解できん。ワタシは何をしている)
「貴様は……確かイナリが手を組んだ組織の黒武士だったか?なぜ我の邪魔をする」
異形がシャムシールを向けそう尋ねてくる
「悪いが……今のワタシは黒武士ではなく。ユウリだ、黒武士でないワタシはお前達とは何の関係も無い。ワタシの意思で邪魔させてもらう」
瞬時加速で倒れている更識の当主をかっさらいそのまま逃走する
「ほう。よほどこの世界の人間は追いかけっこが好きなのだな。ならばそれに乗るのも一興。我から逃げ押せて見よ」
異形の声を聞きながらワタシは再度瞬時加速を発動させた
「どうして私を助けたの?」
「助けたわけじゃない。お前はワタシの獲物だ、横から攫われるのは納得いかないそれだけだ」
同じ様に瞬時加速しながら尋ねてくる。更識の当主に
「この先にワタシが来た道がある。それでここから出れるはずだ」
「筈って……確信は無いの?」
その問いかけに無言で返答する。あのネクロとか言うのにワタシ達の常識は通用しない。どれも憶測でしかない
「嫌なら1人で戦え。ワタシは知らん」
「じょーだん。あんなのに1人で立ち向かうなんて自殺行為よ」
ちらりと後ろを見る。シャムシールで車やビル、街頭を切り裂き瞬時加速に迫る勢いで追って来るネクロの姿
「ワタシもそう思う」
「なら早く逃げましょう」
その言葉に頷き再度瞬時加速に入るが
「それはもう何度も見たぞ。人間」
!!
瞬時加速と同等だと!?振り切るために使った瞬時加速だがそのスピードに軽々ついてくるネクロ
(つくづく化け物だな!こいつらは)
見た目通りの化け物具合に舌打ちしながら
(この先だ。次の通路の右に曲がって2ブロック先の交差点だ)
(本当なら短いと思う距離なんだけどねえ)
ISなら一瞬とも言える距離だがネクロのせいでとんでもなく遠く見える
「興醒めだ。もうお前達は死ね」
腰の鞘から抜刀されたシャムシールが更識の当主に向かって振るわれる。やけにゆっくり見えるその瞬間ワタシは初めてしっかり更識の当主の顔を見た。その顔はワタシが護れなかった■■■と同じ顔をしていた。それを見たワタシは
「ちいッ!!」
「えっ!?」
反射的に更識の当主の腕を掴み自らの胸の中に抱き抱えた
バキャン
「ぐうッ!!!」
振り下ろされたシャムシールの刃がアマノミカゲの装甲を砕く。
(何をしてるんだかワタシは!!!)
ターゲットだった筈の女を助けて負傷するなんて間抜けにも程がある。今の一撃でブースターがやられた失速しながら腕の中の更識の当主に
「ブースターが死んだ。もうさっきまでのスピードは無い、先に行け……」
「そんなの聞けるわけ無いでしょ!後少しなんだから!!」
逆にワタシを抱え直し飛翔する更識の当主に
「お前は馬鹿か?敵を助けて何の意味がある?」
「貴方は言ったわよね?黒武士じゃなくてユウリとして邪魔をするって。なら私は当主としてじゃなく更識楯無として貴方を助ける」
にっと笑う楯無の顔がまた■■■に見えて。思わずそっぽを向きながら
「逃げ切れんと思ったらワタシを捨てろ」
「残念♪最後まで逃げ切るわよ。運びにくいからIS解除してくれない?」
「ああ」
アマノミカゲを待機状態に戻す
「それじゃあ敵さんの距離とか宜しく」
「お前こそ行き成り回りこまれたとか止めてくれよ」
こうしてワタシと楯無の奇妙な共同戦線が始まった
「右後ろ75!シャムシール来るぞ!!」
「右75ね!」
急旋回でシャムシールをかわすがその旋回でスピードが著しく落ちる。その隙を狙って加速してくるネクロ目掛け
「射撃は苦手なんだが。致し方ない」
ガウンッ!!ガウンッ!!!
「コルトパイソンって……随分古い銃ね」
「ふん。特製の弾丸を撃つのに普通の銃じゃ駄目なんだよ」
「こんなものがッ!!なにぃッ!!!」
銃弾が途中で螺旋状に開きネクロの身体にめり込む
「なにあれ?」
「弾丸の持つ慣性エネルギーでその銃弾自身を変形させ爆発的に威力を高める物だ。まぁ材料がISの装甲なんでそうは作れんがな」
「あと何発ある?」
「あと2発だ。それまでに辿り着け」
「無理を言ってくれるわね!!!」
投擲された街頭を避けながら言う楯無に
「死にたくないだろう?なら頑張れ」
「当然!」
距離は後700Mと言った所か……ワタシは自分が来た場所を見ようとして
「なっ!急げ!!閉じかけてるぞ!!!」
「嘘!?」
ワタシが来た時より狭間が狭くなってる。このままでは脱出は無理だ
「逃がさんさ。ここで狩らせて貰う!」
そうかこの世界はやつの世界。出口を閉じるのは道理か!どうする!どうやって逃げる!ワタシが必死に頭を回転させ脱出方法を考えていると
「そのまま進め。結界は私が壊す」
何処かから知らない声がする、アマノミカゲを部分展開しハイパーセンサーでその声の主を探す
(居た!何者だ?)
太陽を背に弓を引き絞る男の姿がビルの屋上にあった。だがその顔は見る事が出来なかった、太陽の光ぐらいでハイパーセンサーの視覚は乱れない筈なのだが
「我が骨子は捻れ狂う……写・螺旋剣ッ!!!」
ゴウッ!!!
空気を引き裂き剣が弾丸となり閉じかけていた結界に突き刺さる
ギャリギャリッ!!!
耳障りな音を立てて剣が螺旋回転しながら進んで行く
「馬鹿な!あの剣は!」
ネクロがその剣を見て驚愕の声を上げる中剣が爆発し。ワタシと楯無が脱出できるだけの穴が開くワタシと楯無はそのままその穴へと飛び込み結界の外へと逃げ出した
「貴様……何故ここに居る?」
「ふむ。貴様らの思惑通りに行かせるわけないだろう?」
2人が脱出したのを確認してからネクロの前に飛び降りる。街中にネクロの気配を感じ教室に幻術を施し、そのまま転移してきたがまさか楯無が居るとは思ってなかった。少々焦ったが間に合ったので無問題の筈だ
「さて?見たところLV3の様だが……戦うというのなら相手になるぞ」
投影でグラムとレーヴァティンを呼び出し構えると
「流石に分が悪い。取引をしないか?」
「ほう?取引?私がそんなのを受けるとでも?」
ネクロ相手にかける情けはない。取引など受ける気はない
「あの2人が逃げた先にはLV4の1体が居る、我が連絡すればすぐに2人に襲い掛かるだろう。我を見逃すと言うのなら連絡はしない。どうだ?守護者」
「その程度にブラフに引っ掛かるとでも思っているのか?街中にお前以外のネクロは反応はなかった。そんな取引に乗る理由はない」
グラムを向けるとネクロは
「お前は忘れていないか?人間にネクロの細胞を植え付けネクロ化させる事を?我らがどれだけの世界に渡り手を伸ばしているか判らぬお前ではないだろう?」
人からネクロ化した者は活動を開始しないとネクロだと判らない。こいつのいう事は一応的を射ている
「なるほど、確かにお前の言う事は判る。だがお前を見逃したところでお前が約束を護る保証はない、貴様を倒しすぐに2人の元へ向かうのが最善だと思うが?」
「はっ!我は自らの剣に誇りを持っている。嘘はつかんし誓いも破る気はない。我はネクロだがそれと同時に誇り高い戦士だ。その誇りに賭け嘘偽りは言わん」
にらみ合うこと数秒、私は投影していた剣を破棄した
「とっとと行け、次ぎ会えばお前の命はない」
「その台詞そっくりそのまま貴様に返すぞ、守護者」
ネクロはそういうと転移して消えた。私はそれを確認してから2人の気配を探ったが。2人のそばにネクロの気配はない、どうやらあのネクロは嘘は言ってなかったようだ
「やれやれ。本格的にやつらが動き出したか。これは警戒のレベルを上げる必要があるな」
私はそう呟きその場から転移した。太陽を背にしてたし幻術も使ってたからばれてないとは思うが……まあその時はその時考えるとしよう
「た、助かった」
私は思わずへたり込んでそう呟いた。あの異形との戦闘は正直きつかった……その極度の緊張から開放され思わず気が緩む
ヒタ
「何のつもり?」
「言った筈だお前はワタシのターゲットだと」
喉に突き当てられたサバイバルナイフを見ながら
「へー助けられた恩を仇で返すんだ。男らしくないんじゃない?」
「そんなのは気にしない。ワタシは依頼を遂行するだけだ」
冷静な物言いだが
「その割には手が震えてるんじゃなくて?」
「くっ黙れ」
「貴方は私に誰を見たのかしら?」
さっきユウリの首元から鎖が切れ落ちたロケットペンダントを見せる
「お前!中を見たのか!?」
「失礼ねー、幾ら興味があっても他人のロケットの中なんか見ないわよ。さっきのブラフだったけど図星だったみたいね。ユウリ」
私の喉に突き当てていたサバイバルナイフを元の腰の鞘に戻しながらユウリは
「返せ。それは大事なものなんだ」
「それは黒武士にとって?それともユウリにとって?どっちかしら?」
あの能面のような顔が歳相応の顔に変化する。今彼は亡国企業の黒武士と私を助けたユウリの狭間にいる。今は武器による戦いではなく話による戦いをするべきだ
「……ユウリにとって大事な物だ」
「じゃあ依頼は関係ないわよね?」
「……そうなる」
「もう私を攻撃しない?」
「ユウリとしてのワタシにお前を攻撃する理由は無い」
殺意が消えた事を確認してから立ち上がり
「じゃあ。お茶でもしない?」
「はっ?」
「だからお茶しない?疲れたし、喉渇いたし、お腹空いたし、ちょっと休みたいし。だからお茶しよ?」
「ワタシを誘っているのか?生憎だがそんなものに付き合う気は「これ捨てちゃおうかなー?」
川に向けてロケットを投げる振りをすると
「判った!!付き合う!!だからそれを返せ!!!」
「お茶が終ったらね?」
ロケットを胸の中に突っ込む。これでユウリは力づくで奪い返す事ができない
「性悪女」
うらめしそうな目で私を見ながらユウリがそう言うので
「捨てるわよ」
「判った!悪かった!!謝る!!」
なんとなーくこのユウリと言う少年のあしらい方が判ってきた。
「じゃあいきましょう、近くに美味しいケーキを出すって評判のカフェがあるのよ」
「……何が如何してこうなった」
がっくりと項垂れるユウリを引き連れ私はお目当てのカフェに向かった
「で、改めて自己紹介するわね。私は更識楯無。ご存知の通り更識家の現当主よ、で貴方の名前は?」
「ユウリ」
「苗字は?」
「どうしてそこまで言う必要がある?ワタシはまたお前の敵になるかもしれんのだぞ?」
「それでもよ。ほら早く言いなさい」
「クロガネ。ユウリ・クロガネだ」
不貞腐れたように名乗るユウリに
「私は季節のタルトを頼むけど、ユウリは?」
「……同じので良い」
「はいはい。すいませーん!季節のタルト2つ。あとレモンティー2つ」
頼んだ品が来るまでの間。私とユウリは何でもない話をしていた
「そういえばさ。前研究所であった時。生きる目的について話したわよね?」
「………」
「捨てるわよ」
「まだだ。そう簡単に見つかるものか」
観念した様子で喋るユウリに
「じゃあさ。夢とか無かったの?」
「……夢はあったが……もう叶わない。ワタシは何も護れなかった弱い人間だ……約束1つ護れなかった」
とても辛そうなユウリ……変な事を聞いてしまったかも
「お前はどうだ?何よりも護りたいものはあるか?」
「あるけど……ちょっと複雑なのよね。私の場合」
苦笑するとユウリは
「当主として育てられ。完璧であり続けなれば無かったゆえのこじれか?」
「……結構詳しいのね?更識家の事」
「仕事上。情報は嫌と言うほど頭に叩き込んでいる」
無表情でそう言うユウリは
「失言だった。謝ろう」
「あーううん。良いの私も変な事聞いたし」
………
この沈黙が痛い……何か話題は無いのか?
「ワタシから1つアドバイスをしよう。家族や姉妹は大事な物だ、大切にしろ。何もかも失った後では遅いぞ」
「それと似たような事を言われたわ」
あー誰かに似てると思ったら八神君に似てるのね。雰囲気とか喋り方とか
「嫌がられてもその手を掴め。決して離すな。ワタシはその手を離してしまったお前はこうはなるな」
「1つ聞いてもいいかしら?エリス・V・アマノミヤと貴方の顔は良く似てるけどなんで?」
「他人の空似だ。ピピピ……呼び出しか。悪いが戻らなければならないペンダントを返せ」
「あ、うん」
隠していたペンダントを返す、ユウリは馴れた手付きでそれを首から下げた
「ねぇ?依頼で動くって言ってたわよね?もし私が貴方を雇うって言ったらどうする?」
「そうだな。引き受けるかもな……あそこに居てもワタシの探す物は見つからないだろうしな」
空を見上げるユウリに
「じゃあ。私が今度雇うわ。それで見つけましょう?貴方の生きる目的を」
「次があればな。ワタシにはもう次の仕事の依頼が入ってるんでな。運があればまたあおう」
ひらひらと手を振り歩いて行くユウリを見送り私は深く椅子に腰掛けた
(どうにもユウリはほっておけないのよね)
どこまでも落ちていく、彼の手は誰かが掴まなければならない……そんな気がしてならない
(変なの……自分の命を狙った相手なのにね)
どうしてそんな事を考えたのか判らず私は溜め息を吐いた
「お待たせしました。季節のタルトになります」
丁度その時店員がタルトを持って来てくれたが……もう1つ食べる予定だったユウリの姿は無い
(太るかしら?)
私はそんな事を考えながら2人分のタルトに手を伸ばしかけ
「そういえばあの人は?」
ビルの上で弓を構えていた男の事を思いだす。あの異形は男の事を知っているようだったが
「考えても仕方ないか」
正体不明の男として報告しよう、もしかすると黄金の騎士の可能性があると加えて。私はそんな事を考えタルトを食べていたのが数分後、血相を変えて走ってきたフレイアに物凄く怒られる事になるのだが。それはまた今度語るとしよう
「セリナ……空は青いな」
離れたところでぼんやりと空を見上げる
「闇に居ては見れぬ光。1度は諦めたが……また探してみるのも悪くないかもな」
楯無と居るとどうにも素が出てしまう。それはワタシにとって珍しい事だ。仮面を被り続けたワタシにとっては……
「闇の中で見た光……もう1度掴んでみたい物だ」
「貴方がスコールに紹介された黒武士ね?」
「そうだ。ファントム、仕事の内容を聞こう」
「話が早くて助かるわ。貴方の仕事は1つ、エリス・V・アマノミヤに貴方の素顔を見せるだけ。簡単でしょう?」
「報酬は?」
「欲しいと言っていたマルチタスクのプログラムの廃棄データを上げましょう。それを好きにカスタムすれば良いわ」
「確かに引き受けた。だが何故顔を見せる必要がある?」
「ふふふ……それは貴方には関係ないわ、プロは仕事の内容を詮索しない事よ」
確かにその通りだな
「決行はIS学園の学年末トーナメントの日よ。それじゃあちゃんと仕事をしてね」
手を振ったと思ったら空気に溶けるように消えたファントムを見ながら
「さてと……次の仕事は……どこのを請けるかな」
そうは言いつつ。ワタシは次の依頼主はもうスコールではないと感じていた……そうきっとワタシが今度依頼を受けるのは……あいつに違いない
そして各々の策謀が巡る中学年末トーナメントの日が来た……
第30話に続く
今回はネクロと亡国企業がメインでした。次回はトーナメント編です。と言ってもメインサイドだけになると思いますが……文才が無いので全部の戦闘描写は恐らく無理ですから。もと上達して同時進行で戦闘描写が出来るようになりたいですね。それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします