第37話
「もう1度言って下さい簪。そして良く考えるんです自分が何を言ってるかを」
仲の良い友人のエリスが目に巻いていた包帯の下の。水晶の様な左目に射抜かれながら私はエリスの手を掴み
「今度の週末エリスも一緒に!!」
「だから! 何で自分のデートの私を連れて行くという発想が出来るんですか!?」
いつもの冷静な態度ではなく動揺した様子のエリスに
「1人だと怖いの……だから。お願い」
いざ、週末に近付いてくると怖くなり始めた、龍也君と出掛けれるのは良い、だが2人きりと言うのは怖いのだ
「まぁ判らない事も無いですけど……なんで私なんですか?」
「エリスも好きでしょ?」
「…………ナニヲバカナ」
「うん、動揺してるのがバレバレだよ?」
目が泳ぎ、読んでいた本を取り落としたエリスに
「お願い、エリス」
「……まぁ……龍也君が良いと言うのなら考えなくもないですが。多分駄目と……」
「良いって言ってるよ?」
メールを見せる。エリスに言う前に龍也君には相談してる
「……なるほど、私はもう詰んでましたか」
そういったエリスは立ち上がり。
「で? 明日着ていく服は決めてるんですか?」
「え? 適当に……痛い!! 痛いよ!! 無言でウメボシなんて酷い!?」
その激痛に耐えながら言うとエリスは
「簪の女子力の低さには呆れますね。何時もロボットアニメとか変身ヒーローとかのTVを見てるからですよ」
苦笑しながらいうエリスは
「まぁ幸いにも私と簪は体型が似通ってますし。本音とかの服も借りれば良いでしょう」
「胸のサイズが合わないよ?」
お互い無言の時間が3分ほど……さきに現実と向き合ったのはエリスだった
「……そうですね。私と簪ので何とかしましょう。必要なら楯無にアイデアを借りましょう」
「そうだね」
お姉ちゃんのアイデアを借りるのも悪くない
「変わりましたね。簪は楯無が苦手だったのでは?」
「うん。苦手だったよ? 私自身が作った勝手なお姉ちゃんのイメージが」
あの暴走事件の後何度かお姉ちゃんと話した。それで判ったのだお姉ちゃんは完璧などでは無く欠点もあり苦手なものもある。私と同じ人間なのだと、それが分かったら今までお姉ちゃんから逃げてた自分の愚かさが判った。やっぱり話し合うと言うのは大事な事だ
「そうですか、それは良かったですね。では準備をしますか」
「うん」
エリスのクローゼットと自分のクローゼットから服を取り出して週末に着て行く物を考え始めた……
「大体安請け合いも考え物ですよ」
「良いじゃないか。ちょっと簪に付き合うだけだ、どこに問題がある?」
よくスバルとかとも出かけるし大したこと無い。と付け加えると
「はぁ……はやてが全部悪い、龍也の異性に対する反応の鈍さは全部はやてのせいだ」
「あんまり居ない人間を悪く言うなよ?」
「ほらやっぱりはやてのせいだ」
なんで私の言った事がはやてのせいになるんだ?
「まぁちょっと遊ぶだけだ。何にも無いから心配ないって」
「そう思ってるのは龍也さんだけですよ」
全く如何してこうも私は信用がないかね?
「ちょっとした気分転換に付き合うだけさ。お前らが心配する事など何も起きないさ。じゃあ私は寝る」
魔力もまだ本調子じゃないし血も流しすぎたダメージも残ってるし早く寝るに限る。私はそんな事を考え布団に潜り込んだ
ザワザワ……
「何か騒がしいですね?」
「そうだね」
日曜の朝。待ち合わせの駅前広場に向かいながら簪とそんな話をする。服については色々悩んだ結果。私がワンピース。簪はブラウスに丈の長いスカートに決めた
待ち合わせより早めにと20分前に来たのだが。そこには既に龍也君の姿があった……壁に背中を預けジーンズと黒いシャツに何時もの黒いコート。長い銀髪は首元で結び、大き目のサングラスをかけた龍也君の周りには誰も居ない。そこだけ時間と外界から切り離されたか
のような錯覚を受ける。きっと彼の存在が騒がしさの原因だろう
「……早いな、エリス、簪」
私と簪に気付いたのか龍也君が背中を預けていた壁から離れ近付いてくる。そしてそれに伴い周りの人の視線が全て私達に集中する。凄く……気まずい。だが何時までもここに居るわけにも行かないので
「行きましょうか」
「ああ」
そう返事をして歩き出す龍也君だったが、数歩歩いたところで立ち止まり
「所でどこへ行くんだ?」
「……まぁ着いて来て下さい」
昨日の龍也君のメールには自分は遊びには疎いので、其方で考えてくれると助かると言う一文があった。それからは楯無に相談し今日の計画を練った
「龍也君、服のセンス良いんだね」
簪が何か話題をとそう言うと龍也君は頬を掻きながら
「適当に着てきただけなのだが」
世の中にはただ服を着るだけでも様になるタイプの人間が居る。私の知る限りでは楯無と龍也君がこのタイプだが。実際こう言われると複雑な気分だ。2時間ほど掛けて服を選んだ自分達馬鹿に……
「それを言うのなら簪とエリスのほうがセンスが良いだろう? 2人の雰囲気に良く似合っていると思う」
全然馬鹿じゃない! 時間をかけて選んで正解だった!!
「あ、ありがとう」
「何が?」
お礼を言われる理由が判らないのか首を傾げる龍也君に
「時間に遅れるんで早く行きましょう」
今日の予定は映画→買い物→昼食→カラオケかボーリングで回るつもりだ、普通の遊びと言う感じで……
「うわあああああんッ!!! フーセン」
映画館に向かう途中で風船を手放して泣いてしまっている幼稚園くらいの子が居た。近くなら取って上げたいが、街路樹の天辺くらいにまで上がってるので私では取れない
(どこで風船を配ってるんでしょうか?)
風船を配ってる場所を探して新しい風船を貰って……
「ふっ!」
軽い音を立てて壁を2回蹴った龍也君が手を伸ばし風船の紐を掴み着地し
「はい、もう手を放したら駄目だよ」
「うん! ありがとう!! お兄ちゃん」
そう笑い走っていく少年を笑顔で見送った龍也君は
「どうも子供が泣いてると無視できなくてな。悪いな」
そう笑う龍也君に
「良い事をしたと思うよ」
「そう言ってもらえると助かる」
簪が笑いながら言った。私も同感だあれだけ泣いてる子を無視するという事はしたくないし
「じゃあ、行こう! 映画に遅れるから」
やっぱり龍也君は良い人だ。私と簪は改めて龍也君の良い所を知り。少しだけ軽い歩調で歩き出した
先導するかのように歩く簪とエリス、その後ろを歩く龍也を見る影
「楯無。ターゲットの好感度が上がっているようです」
「良いわ、そのまま監視。変な事しそうだったら撃ちなさい」
「了解」
「なんであたし達がこんな事を……」
「お嬢様の命令……拒否権はない」
暗部3人娘の内、スナイプが得意なアイアスと、成り行きでつれてこられたシェルニカが溜め息を吐きながら。3人を監視していた……
「つまらなかった?」
「いや? そこそこ面白かったが?」
私が見たかった映画。世界を渡る仮面の戦士の映画。すこし子供っぽかったかなぁと思いながら尋ねると。龍也君は面白かったぞ? とは言ってくれてるので一安心?だが
「……良く判らなかったですね。まぁ面白い? といえば面白いんですけど……興味がないからいっぱいキャラクターが出て来ても判りませんし」
あの映画のウリは今までTVで放送されたシリーズのキャラクターが全部出てくることだが。どうも知らないエリスには判らなかったらしい
「では次は買い物ですね。ちょっと見たいものがあるんですよ」
今私達が居るのは駅前と言うにはおかしいが。駅と一つになった大型ショッピングモールの「レゾナンス」だ。映画館や各種レジャーにレストランやその他の店も完備のここなら1日過ごせるといったエリスの提案でここにしたのだ
「買いたいものとは?」
「あはは、見るだけですよ。服は高いですからね」
それにウィンドウショッピングも楽しいものだし
「買うのは小物の類で服は見るだけですよ。さっ行きましょう」
今度は服飾品店が揃ってる2階へと向かった
「簪はこういうのは如何ですか?」
「う、うーん……あんまり似合わないと思うよ? エリスはこの白いワンピースとかどう?」
「私の銀髪とは合わないですね。この銀髪は好きですけどインパクトが強すぎて合う服が少ないんですよね。でもこう言うのなら似合うかもしれないですね」
エリスが服を進めてくれるが、きっと私には似合わない……でも薄い水色のワンピースは髪にとは合うかも。でも値段がなぁ……女性優遇でそれなりに値引きされているが額はそれなりにする。とても手の出る物ではない。エリスもエリスで自分に合う服が少ないので良く見て髪
と合うのを見ている
「今度買いに来れば良いじゃないですか。その時の為に欲しい物は見ておいたほうが良いですよ」
「う、うん」
エリスに頷き、斜め後ろを見る。こう言った話題は駄目だと言いたげに肩を竦める龍也君に
「龍也君も服見れば良いじゃないですか」
「私はそう言うのはてんで疎いんだ。大体服なんて自分で選んだ事ないぞ? 私が選ぶと黒一色になるから駄目だってよく言われるからな」
えっじゃあ? あのセンスの良い服とかは……休日に龍也君が来てるのはお洒落な服が多いのに自分で選んだ事がないってどういうこと?
「いやなぁ? 私の服は大体なのはとかフェイトとか妹が選んでくれたものでな。私的には服など着れれば良い程度の認識しかないんだな、これが」
それを聞いたエリスは
「確かこの通りの奥に、安い量販店がありました。龍也君の服を見に行きますよ」
「うん」
龍也君は格好良いんだから、ちゃんとお洒落しないと、私とエリスは嫌そうな顔の龍也君の手を引き。奥の店に向かった
一通り買い物を終えカフェで昼食を摂りながらエリスが
「結局良いのはありませんでしたね」
「すまん」
この上背では合う服のほうが少ない。選ぶのだけでも大変なのだ
「龍也君が謝る事じゃないですよ。また今度見に来れば良いんです」
「うん。もうちょっと予算とか考えてからね」
別に私の服なんか選ばなくても良いだろうに……
エリスと簪にしてみれば自分の選んだ服を着て貰いたいと言うのがあるが。龍也にしてみれば服など着れれば良いという認識だ。その認識の違いは大きい
そんな話をしながら仲良く昼食を食べている3人を見る影
「ああー乙女みたいな顔をして。まぁ良いけどな」
監視中のシェルニカとアイアスは持ち込んでいたサンドイッチを食べながらそんな話をしていた
「僕は気に入らないけど。エリス様とお嬢様が好きなら文句は言わない」
サンドイッチを両手で持ちゆっくり咀嚼するアイアスに対して。シェルニカは一気に半分ほど噛み切り咀嚼していた。これも性格の違いと言えば違いなのだが。
この食べ方のせいでシェルニカは地獄を見る
「ふぐっ!? 辛ッ!! 辛いッ!!! 何だこれ!? あたしはこんなの作ってないぞ!?」
赤い鶏肉の挟まれたサンドイッチを見て絶叫するシェルニカにアイアスが
「僕が作った奴。唐辛子とかの辛い香辛料を適当にヨーグルトに混ぜて。鶏肉をつけて焼いた奴。美味しいでしょ?」
「この味覚音痴がアアア!? もう何食っても味しねえよ!! 人の味覚崩壊させてんじゃねえよ!!!」
「乱暴は良くない、そんなんだから脳筋なんだよ」
「黙れええ!! この味覚音痴がアアア!!!」
平和な食事をしている龍也達と比べシェルニカとアイアスの食事風景は殺伐としていた
昼食の後ボーリングとカラオケをやり、門限の前にとIS学園へのバス乗り場に向かう途中で
「悪いが、少し買う物がある先に行っててくれ」
今日はそれなりに楽しかった。やはりこうして私も楽しめるように考えてくれた2人にはお礼をするべきだ、私は早足で2人から離れた
「今日は楽しかったね」
「そうか、それなら良いのだが。悪いなぁ私はここら辺の地理は詳しくないし、誘っておいて2人に任せてしまって」
「いえいえ、そんなの気にしないで良いですよ。私達も楽しかったですし」
簪をうんうんと頷きながら話をしながらゲートを潜った所で、龍也君が
「今日は楽しかったからお礼だ。気に入って貰えれば良いんだが」
「はぁ……綺麗ですね」
水晶が埋め込まれたブレスレットを手渡される、そういえばこれ簪がつけてるのとおんなじ意匠だ
「これ手作りですか?」
「これと言ってとりえのない私の数少ない特技だ。気に入らなければ捨ててくれて構わない」
そんな事ない。銀細工のフレームに埋め込まれた蒼い水晶はとても美しく。私は一目で気に入った、大切にしよう
「良かったね、エリス」
「ん。これは簪とエリスに」
コートから出されたのは午前中に見た服屋の袋が2つ
「これは?」
「2人が見てた服だ。私では判らんからそれを買った」
「わ、悪いよ!! だってあの服1万くらいの」
「気にしなくて良い。礼だからな、じゃあまた明日」
強引に手渡し寮に戻っていく龍也君を見ながら
「これどうしよう……」
「返品は出来ませんしね」
プレゼントとして貰った物をつき返すなんて失礼な事は出来ないが、もらい物にしては高価すぎる……
「と、とりあえず!! 大切に仕舞っておきましょう!」
「そ、そうだね」
貰ったブレスレットは何時も見につけておけるが。この服はここぞと言うときにだけ着よう……私と簪はどう扱って良いか良く判らない服を大事に抱え込み、自室へと戻った……これはまた今度龍也君と遊びに行く時に着ようと思いながら……
エリスと簪がIS学園に戻ってきた頃ツバキは自分の研究を進めていた
「むー。どうしたら自立式に出来るのかしら?」
大破した無人のISを調べるがどうしたら独立式に出来るのかわからない
「他の方法で代用してみようかしら?」
幾つかプログラムを組み、思考ルーチンを与え、ビット兵器に似た特性を与えれば……
「駄目ね。それじゃあジャミングとかに弱い。やっぱりなんとかして自立稼動の方法を調べないと」
今回のヤタガラスの暴走の原因は、コアネットワークを介してのハッキングが原因だった。それの対策としてIS自身を保護し、ハッキングに耐性を与え、機動力や火力を上昇させる物
「独立可動式パッケージ……何かヒントがあれば良いんだけど」
外装と武装だけは完成しているが今のままでは精々普通のパッケージとしての使用が限度。私の求めるものには程遠い
「とりあえずは思考ルーチンで代用しましょうか。テストは……アイアスちゃんにお願いしよう」
シェルニカやフレイアでは表立ってISを起動させれないし。適任なのはアイアスちゃんだろう
「そうと決まれば早速テストしてもらいましょう」
本当ならエリスちゃんの専用のパッケージだが。今の段階では他のISに搭載する事もできる。データ取りは重要だから業と他のISにも装備できるように調整してある
「エリスちゃんのはサポートの処理と飛び道具だけだけど、折角データを取るんだから射撃とか近接武器のデータも欲しいわね」
別にエリスちゃんだけの為のものじゃない。黒い悪魔に対する私の出した答えとして、この自立式パッケージの完成は急がなければならない
(次は貴方たちの思い通りにはさせない)
トーナメント時に乱入してきた黒い悪魔に私達は何も出来なかった。ただ1人だけ怪我を負ってまでも戦ってくれた龍也君は既に信用に値する。それに回収したコアとパーツの部品。それにエリスちゃんの暴走の時の黒い細胞
(黒い悪魔は人を侵食する)
悪魔とは良く言ったものだが。まさか人間に寄生し凶暴性やISの動力を回復させるなんて夢にも思わなかった。もし何の備えも無く遭遇すればIS事侵食される。推測だがあの時現れた悪魔がISを身に纏っていたのは。侵食され黒い悪魔と化したIS操縦者だと私は見ている
「この学園の生徒を守る為にもエリスちゃんを守る為にも。このパッケージの制作は必要不可欠、急がないと」
粒子化した武装データとパッケージの試作型を待機状態に戻し。私は地下の研究所を後にした
『エリスの無事も確認したし、暫くこの街で情報を集めてからドイツに帰る』
夫からのメールにも気付かずに……しかもアイアスはアイアスでデータ取りとの為にほぼ徹夜で武装等の稼動データを取らせることになる……
その頃機動六課では
「ほほう? 兄ちゃんは向こうでもフラグを立ててると?」
「まぁそうなるなぁ。見たところ妹系の子だったが?」
ふんふん……チンクさんの話を聞いた私は立ち上がり
「決めた。私も兄ちゃんの居るところに行くわ」
「はっ!? 仕事は?」
「知らん、私の進む道は誰にも邪魔させん。それになのはちゃんとフェイトちゃんじゃ兄ちゃんのフラグ生成能力を防げんのなら私が行くしかないやろ?」
魔王が動き出そうとしていた……
第38話に続く
ただでさえ苦手なデートの話に加え。久しぶりだったので上手く出来たか自信がないですね。面白いと思っていただければ良いんですけど
次回は楯無と龍也で悪戯コンビ始動の予定です。その後は3巻の内容に入っていくつもりです。それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします