いつもとは少し違う「現われたる神なる刃」を愉しんでいただけると嬉しいです
それと寄贈してくれた「普通の狐」様どうもありがとうございました!!
第56話
「なんだか最近ついてないなあ」
私は廊下を歩きながらため息をついた。
ここIS学園に来てからの私はどうにもついていない気がする。
具体的に言えば、親友が病んでたり男友達に太らされたりエトセトラ。
とにかく、私は思った。たまには休みが欲しいと……ゆっくりと穏やかな気持ちで一日を過ごしたいと思った、だが……
「とは言っても、鈴が不安だし……」
勿論、鈴のことを応援していないわけじゃない。むしろ、親友として鈴のことを心から応援したい気持ちでいっぱいだ。親友としては、だが……
「だけどなー行動が不安すぎるんだよね。鈴は……」
客観的に見ると、鈴……だけじゃなくて他の面々もやたらと危うい。しかも、龍也君の妹さん……はやてが来てからそれが加速した気がしてならないのだ。
「うーん……どうしよう」
ただでさえ病んでいた鈴が、ここに来て病状を悪化させている。一夏君が好きなのはわかるが、そのうち魔王に恐れをなして、IS学園からひっそりと一夏君がいなくなっているのでは、と心配になる。
自重……はまあ、無理だろうしね。魔王と化した者が人の都合を考えるわけ無いし……
誰か手伝ってくれる人はいないだろうか。
「龍也君だったら、頼めば手伝ってくれそうだけど……」
以前から世話になりっぱなしだし、こんな時まで頼るのは申し訳ない……だけど、他に頼めそうな人もいないのだ。
クリスあたりは大丈夫かもしれないけど……魔王相手となるとそう簡単にはうんとは言ってくれないだろう。一応は頼んでおこうかなとは思うけど……
「……ってわけなんだけど。あ、クリスにも頼んであるんだけどね」
結局、龍也君に頼ることにした……何時も周りにいるはやて達がいない間に昼休みに龍也君に声をかけ、考えたこととかを説明する。
私とて人間であるので、ストレスというか負担ばかりかかって発散できないままでは死にかねない。
一夏君も悪乗りして私をいじめることがあるのだからなおさらだ、とまあそんな感じなのだが、と龍也君に話すと
「なるほどな……はやてには私から言っておくが、流石に私が彼女達全員を止めるのは無理だと思うが?」
「だから、目をつけててくれるだけでいいの! またお礼はするから、お願い!」
龍也君の存在自体が強大な抑止力となる。あんまり度が過ぎると幾らなんでも龍也君も止めに入ると皆知ってるからだ
「わかったわかった、とりあえず頭を上げてくれ」
こんなところ見られたらあらぬ噂が立つと龍也君に言われ、土下座の体勢から頭を上げる。とりあえずスカートの中身が見えないように立ち上がると、改めて龍也君にお礼を言った。
「ホントにありがと! 土曜日は遊びに行ってくるから、その間見張りをお願いね」
そうやって頼んだとき、ふと背後から禍々しい視線を感じる。
「……」
恐る恐る振り向くと、はやてが私のことを睨みつつ何やら言っていた、耳を澄ますと
「殺す……潰す……切り刻む……」
怨嗟の声100%。お化け屋敷なんて非にならない恐怖だ。えっ?……もしかして、私も標的にされた? 1番凶悪な魔王に?
「あ、えと、じゃあ私はこれで!」
龍也君にお礼を言ってすぐその場を逃げ去る。
なんか怖かった……このままこの場にいたら誤解から殺されかねないと思った
「何の話をしてたんや?」
シェンと兄ちゃんの姿が見えなかったので気配を探って探し当てると、兄ちゃんとシェンが話をしていたので、警戒の意味を込めて殺気を飛ばしていたら。シェンは慌てて逃げ去ったのを見ながら尋ねると
「なんでも鈴とかシャルロットの面倒を見るのを疲れたから、今度の土日にゆっくり休みたいから、魔王化を警戒して欲しいと頼まれてたんだ」
ふーんと返事を返しながら
(惚れたとかじゃないか? まぁ要警戒やけどな)
兄ちゃんの魔性にも似た魅力のスキルは警戒しておかないとあちこちでフラグを立てるので警戒はしておかないと不味い
「まぁ判らないでも無いからな。そろそろ教室に戻ろうか」
「うん」
兄ちゃんに返事を返して後ろを歩きながら、要注意の人間リストにシェンの名前を書き足しておいた……
そして土曜日。
龍也君に依頼したのが水曜日だったので、木、金と二日間私は鈴を制御していたわけだ。相変わらずの魔王さ具合だった
例を挙げれば
一夏と呼んで腹部に強打を打ち込み気絶させようとする
一夏君がセシリアやラウラと話しているとISを部分展開して殴ろうとする
どこかから持ち出した手錠を大量に制服のスカートに仕込んでいた(これは流石に危険なので取り上げた)
監禁願望と殺傷願望が日に日に増大してる気がする……
私は一夏君と同じクラスなのでよく一夏君絡みのイベントが起きるのをよく目にするのだが、その度に鈴が来て病むので、止める方としては一苦労である。
ついでに言えば、一夏君がそれを労ってくれるかといえばそうでもなかったり……もう慣れたけど。あと案外龍也君がご苦労様とか言ってクッキーとかをくれるのは嬉しいが、体重と魔王の視線×6にさらされるのでトントンと言う感じだ。
常識人は辛いなあ、というのがこのクラスで過ごしていて感じる気持ちの全てである……魔王のクラスメイトに担任教諭の行動に驚かされるのも大分慣れてきた。正直慣れたくは無いことだけどね……
「それはそうとして、久しぶりに羽を伸ばせそうだし……買い物するぞー!!」
もっとも、私はそこまで物を買う人間じゃないんだけど。とりあえず、臨海学校の時に水着を買った駅前の大型デパートに向かう。
あのデパートは色んなものが売っているのですごく便利……日用品もあるし、趣味も充足できるし、満足できる場所だなあ、と思っていたその時。
「あら、シェンさんじゃありませんか。奇遇ですわね」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはセシリアが立っていた。思わず固まってしまうが、セシリアに不審な目をされたのでできるだけ自然に振舞った。
今日はのんびり過ごせると思ってたんだけどなあ……
「奇遇だね、セシリアさん。どうしたの?」
「お気に入りの食器が壊れてしまいまして。せっかくなので、いいお皿があるか品定めをしようかと」
「そうなんだ。今日は一人?」
聞いてから、私は思った。聞かなければよかったのに、なんで自分から関わりに行ったんだろうと……セシリアさんは
「いえ、一夏さんとその他諸々も一緒に来ていますわ」
「だよねー……はあ」
やはり、私は苦労する星の下に生まれたのかもしれない。
「とりあえず、私は買い物してくるよ」
「ええ。では、また学校で会いましょう」
「うぅ……あんまり服にはこだわらないんだけど、珍しく買っちゃったよ……」
結構な時間が経ってしまい、今は夕方になっている。私は両手に複数の袋を持って駅前を歩いていた。
袋に入っているのは、お小遣いで買った服とかお菓子とか。度々ダイエットをしなければならないのでお菓子は不安だけど、まあ大丈夫だと信じたい。
「龍也君の訓練を受ければすぐに落ちるしね」
足腰立たなくなるまで投げられ、いなされ。徒手での戦い方をきっちり叩き込まれるあのハードトレーニングはすぐに体重が落ちるので、ダイエットと訓練の一挙両得だ
「それにしたって買いすぎたかなあ……袋が重い」
少し買いすぎたなと後悔しながら歩いていると
「ん、シェンじゃないか。お前もここに来てたのか」
「あ、龍也君……」
駅に今日何度目かの、知り合いの声を聞いて後ろを向く。
立っていたのは龍也君だった……夏場だと言うのに黒の長袖・長ズボンに長い黒のロングコート。暑い筈なのに相変わらずその額には汗は無い。どういう身体の作りをしているんだろうか?
そんな龍也君の周りには珍しく誰もいない。必ずと言ってはやてかなのはが傍にいるのにこれは非常に珍しいと思う
「そんなたくさん荷物を持って大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫……IS学園も遠くないし、なんとかなるよ」
そうは言うが正直重いし疲れてきた……龍也君はそれに気付いたのか
「……少し息が荒いが」
多分それは今日一日で精神的に疲れたからだと思う。休みに来たのに何回か目撃したのは腕を捻り上げられ絶叫する一夏君や、容赦の無いリバーブローで悶絶する一夏君と
IS学園と大差ない光景だった……
まさか、ここに来てまでいつものメンバーに会うとは思わなかったし……そういえば、常識人枠とは会ってないかも……
そんな事を考えていると龍也君が、私が持っていた袋を取り上げた。
「私が持とう。疲れているんだろう? なんでかは知らないが」
「ああ、うん……ありがと」
結局、また龍也君に頼ってしまった……よく考えたら、水曜日に頼んだ内容はしっかり果たしてくれたんだろうか。
「龍也君、今日は鈴大丈夫だった?」
「ん? ああ、いつもどおりだったぞ?」
「そっか……いつもどおりって、結構危ない気もするけど」
鈴のいつもと言うと骨を折りかねない強打と関節を粉砕しようとする強烈なサブミッション。下手をすれば傷害で起訴されなかねないと思う
「まあ、一夏も慣れてきているだろうし逃げ切るさ」
「慣れるのもどうかと思うけどね」
そんなことを話しながら、私は龍也君と2人きりで帰りながら、ふと気になった事を尋ねてみる
「はやてさんとかはどうしたの?」
魔王筆頭のあの3人の事を尋ねると龍也君は
「なんか鈴とかシャルロットと秘密の買い物とか言ってたが?」
「それ凄く怖いね」
魔王同士の秘密の買い物なんて恐ろしい事この上ないと思う。そんな事を考えていると
「そういえばシェン」
「ん?」
「お前の私服姿はあまり見たことがなかったんだが、普通に可愛いじゃないか」
「……え!? いや、いきなり何言ってんの龍也君!?」
私は服にはこだわらない……というかおしゃれには興味がないので、あまり種類を持っていない。動きやすさ重視の服装ということで、肌色のジーンズに白いTシャツ、ちょっとは可愛くしてもいいかと黄色のパーカーを着ているしバッグなんて持ってないので財布はポケットに入れてるし、靴に至ってはスニーカーだ。
そんな服装なのに、いきなり龍也君から褒められたので思わず顔が熱くなってしまう。夕日がなかったら真っ赤な顔が見られちゃうんだろうな、と思うくらいに熱かった。
「いや、見たままの感想を言っただけだが……大丈夫か、シェン。顔が赤いぞ」
「ゆ、夕日のせいだから」
この人は本当に何を考えているだろうか? どうしてこうもフラグを立てようとするのだろうか?
「そうか……体調が悪いなら無理はするなよ」
うん、と頷いた瞬間、足元に何かが刺さった。
「?」
見てみると、何故かナイフが私の足元に突き刺さっていた。こ、このナイフって……確かはやての
「全く。はやてめ」
「へ?」
私の顔目掛け走った4つの閃光を認識したところで顔を上げると龍也君の左手には4本のナイフが握られていた
「え? えええ? 私今死に掛けてた?」
あれ明らかに顔を狙ってたよね? 私が動揺していると龍也君が
「すまん、私の妹が迷惑をかけた、後で言って聞かせておくから」
ナイフを回収している龍也君にふと気になった事を尋ねてみる
「……ちなみに、どこから投げてたの?」
近くに姿はなかったから何処かから投げてきたのか気になり尋ねると
「少ししか見えなかったが、多分数軒先の家の屋根だろう」
「遠くない!?」
非常識すぎることにも驚いたし、それ以上に私の命が現在進行形で危なかったという事実に驚いた。
なんでこう、せっかくの休みなのについてないのか……思わず、ため息をついてしまう。
「はあ……」
「?」
そして、その原因の一角を担うクラスメイトは、私のため息の理由がわからずに首をかしげるのだった。
「で、鈴はどうだった?」
「また一夏に逃げられたわ……次はどんな手を使うべきか」
「正直、一夏君には優しくした方が好いてもらえると……って、もう遅いよね」
夜、私は鈴と話をした。鈴は今日も一夏君に詰め寄っていたらしい。他のアプローチの方法は思いつかないのだろうか?
それを聞いたあたりで鈴が私に逆に質問してきた。
「で、シェンはどうなの?」
「どうって、何が?」
「シェンって龍也が好きなんじゃないの?」
「なんで!?」
「今日もいい雰囲気だったじゃない」
今日も? と一瞬首をかしげて、直ぐに思い当たる。
「……もしかして、私たちが帰るの見てたとか?」
「一夏を追ってたらたまたまね。まあ、一夏は別の道だったみたいだけど」
「そっか……んー……龍也君はかっこいいとは思うけど、恋愛的な意味で好きではないかなあ」
「えー、なにそれつまんない」
「いやいや、人の恋をネタにしないでよ」
相変わらず人の不幸を蜜にしそうな性格だなあと思う。鈴は根が優しい性格であると知っているので、嫌いにはならないけれども。
「っていうか、私のことより鈴のことでしょ? 応援してるんだから、頑張ってよ」
「そりゃあ頑張るわよ。セシリアとかシャルロットとかに負けてられるもんですか」
「そうそうその意気!」
「……そういえば、結局休めてないじゃん」
夜、お風呂に入ったあと休憩している時にふと思った。寝る直前にそんなことを思ってしまい、ガクッと来てしまう。
本来の目的が果たせずがっくりきたけど、もう終わってしまったものは仕方ない。
「髪を切りに行こうと思ってたんだけどなー。まあ、息抜きできただけでいいにしよ……」
帰りに髪を切るつもりがリアルな生死の境を前に完全に忘れていた。明日も出かけると言う選択肢はあるが明日は日曜日だし、ゆっくりと寮で身体を休めたい……それに日曜日だから鈴はまた一夏君に物理的なアプローチを仕掛けるに決まっているから。きっと休めるはず。
そう前向きに捉えて、私は眠りにつくのだった。
だが明日は明日でそれなりの災難が待っていたりする……
第57話に続く
次回はこの話の続きとなる話になります。ここの所多かった戦闘やシリアスは無しで行こうと思います。それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします