それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします
第60話
「生きてるか? 弥生」
食堂の机に突っ伏している弥生にそう声をかけると
「逝ける、逝ける」
どこか遠い世界を見ているような虚ろな視線でそう返事を返す弥生
「字が違う気がしますわ」
セシリアの言葉に思わず頷く。さっきまで龍也主導の自主錬に参加していたのだが結果は
「……死ぬ」
「ラウラ。目が死んでる」
「どうやったらあの化け物に一矢報いることが出来るのかな?」
「だよね。どうやったら8方向からの同時攻撃を避けれるんだろう?」
いつもの如くボコボコに叩きのめされた。特に何度も立ち上がり攻撃しようとしていた弥生のダメージが深刻だ
「はぁー取りあえずさぁ。お茶でも飲もうよ……」
疲れたように言うシャルロットに頷き
「弥生。何がほしい?」
「……メロンソーダ」
動く気力のない弥生のリクエストを聞いてから、私は食堂のドリンクサーバーに向かった
「でさー正直聞くけど。一夏ってどこがいいの?」
ようやく復活した弥生がメロンソーダを飲みながら尋ねてくる
「はい?」
「だからさー箒も、セシリアとかもなんで一夏が良いのかなーってさ? 気になるじゃない」
女子が集まれば恋話と決まっているしとか言い始める弥生に
「そういうお前は?」
「あたし? あたしは断然年上、包容力がある人がいいかな。それで強ければなおよし」
即答する弥生。私が感じているような恥じらいはないようだ、だがこのままでは私にも回ってくると判断し立ち上がろうとすると、鈴が
「逃亡は認めない。座れ」
「どこから取り出した、そのナイフ」
突きつけられたナイフに溜息を吐きながら、椅子に座りなおし強制的に恋話談話に参加させられることになった
セシリアの場合
「というわけでまずはセシリア。あんたから見て一夏の良い所は」
「拒否権は?」
「ない」
魔王の笑みで言う鈴さんに溜息を吐きながら
「目ですかね?」
「目? あんた馬鹿?」
「失礼ですわね。あの強い意志の光を持つ目は好感が持てますわ」
初めての模擬戦の時のことを思い出しながら言うと
「さてこれについて賛同できるのは……ラウラだけ?」
手を上げたのはラウラさんで、ラウラさんは
「戦闘時に限りだが、目標を決めた一夏の目は力強いと思う」
「あーなんか判る。前だけ見てるあの感じの目は凄く良い。写真も撮ったし」
「待ちなさい。いつ写真を撮ったのシャルロット?」
「ラファールをちょっとね?」
なんか違法行為をしてるような気がします……
「チェンジ」
「いや」
「2」
「OK。交換」
鈴さんとシャルロットさんが何かの写真を交換してるのが見えますけど……突っ込まない方がいいですね。主に私の身の安全の為に
「じゃあ、次は箒さんですわね」
箒の場合
「じゃあ、次は箒さんですわね」
あっさりと自分の番が回ってきた。私は思わず眉をしかめてから
「幼馴染だし、気がついたらってやつだな」
「あ、それあたし判る。なんか一緒に遊んでたら自然ってやつよね」
うんうんと鈴と頷き会っていると
「なんか別にありそうですね。例えば……いじめとか?」
「「うっ!?!?」」
クリスの指摘に鈴と一緒に呻くと
「よくあるパターンだね」
「一夏の正義感ならありえるありえる」
微笑ましい物を見るような目で私と鈴を見る視線に耐え切れず
「じゃあ、次! シャルロット!!」
このままだとさらに自爆しかねないのでシャルロットに回した……そして回すんじゃなかったと後悔した
傍観者簪さんの場合
「僕が一夏が好きな理由かぁ……簡単だよ」
シャルロットさんがくすくす笑い始める。それに伴い空気がどんよりと重くなる
(私この空気苦手)
龍也君に訓練をつけて貰い、その後箒さん達と食堂に来たのが全ての間違いだったのかもしれない
「一夏はねえ、僕に幸せになる権利があるって言ってくれたんだぁ……だから僕は一夏が好き。そして一夏が欲しい、何をしてもね。うふふふふ」
くすくすと怖い笑みで笑い続けるシャルロットさんの顔が物凄く怖い。居心地が悪く隣のエリスに
(エリス、凄く怖い)
(私もですよ。この空気は心臓に悪い上に恐ろしいです)
出来ることならこの場から逃げ出したいが、今ここで動くのは何か不味い気がするので動くわけには行かない。じっと椅子に座りシャルロットさんの話を聞くしかない
「だからねぇ……一夏が欲しいんだよ? 判るかな? かな?」
くすくすと笑いながら、シャルロットさんは怖い笑みを浮かべたまま鈴さんを見て
「鈴は判るんじゃないかなぁ? 僕の言うことが」
そう尋ねられた鈴さんは
「判るわ。何をしても欲しいと思うのはあたしも同じ」
賛同してから鈴さんは
「自分の居場所だと、ここに居ても良いんだと思ってしまったらその居場所は絶対に欲しくなるものよね?」
「そう! そうなんだよ……非合法なことをしても良い、この手を血に染めても良い。一夏が手に入るのならば……なんでもする」
空気が重くなる、殺す事も視野に入れて考えているシャルロットさんと鈴さんに背筋が凍る。
「まぁ、僕の考えはここまでで……鈴は何かある?」
そう尋ねられた鈴は肩を竦めて
「箒もセシリアもシャルロットもあたしの言いたかった事は言っちゃったし、何も言えないから……何か他の話わっと」
うーんと頭を抱えた鈴さんは手をポンッと叩いて
「じゃああたし達から見た、龍也の話でもしましょう。好みとかどうとかじゃなくて、純粋に龍也をどう思うか? って話をしよう」
何か想像もしない方向に話が進んでいる気がする。かと言って席を立つ訳にも行かず、私は突然始まった龍也君の話を聞き始めた……
ヴィクトリアの場合
「龍也をどう思うか? 結構難しい話だと思うが?」
私がそう言うとセシリア達も
「確かに龍也さんほど何を考えているか判らない方はいませんよね?」
「色々と凄いって言うのは判るがな」
ラウラが賛同してくれる。私からしても龍也は凄いと思う、剣の扱いも槍の扱いも同年代とは思えないし、ISを使わせても難しいビットと本体の同時行動を難なくこなす。どこの国でも代表として迎え入れたい人材だろう
「あたしは結構凄いやつだと思ってるかな。あれだけ何にも出来ず負けたのは初めてだ」
弥生の言い分は判る。体術のレベルが高いからギリシャの代表候補にスカウトされたのに……そういう面では私以上にショックだろう……
「あー私も判る。私は弥生と違って自己流だけど龍也君の格闘のスキルの高さは判るよ」
うんうんと頷きあう、弥生とシェンを見ながら私は
「だが。それ以上にあの剣の技能は素晴らしいとしか言いようがない」
片手剣、両手剣、細身剣、どの扱いを見ても素晴らしいとしか言いようがない。尊敬できるだけの剣の技を龍也は持っている
「西洋剣だけではなく、日本刀の扱いも素晴らしいぞ。一度だけ見せて貰ったが、あの居合い切り素晴らしかったと思う」
「あ、それは判ります、私も見ました。一息で2連続抜刀なんて初めて見ましたよ」
剣の話に乗ってきた。そう言えばエリスの機体は完全近接特化だったな
「ああ、本当に凄いと思う。ビットを一息で3機両断されたのは初めてだ」
龍也の近接。特に剣の技は何をしても覚えたいものだ……うんうんと頷きあう箒とエリスを見ながら私はそんな事を考えていた
シェンの場合
なんかあっちはあっちでなんか話が固まってない? 武装が剣で固められている面々は龍也君の剣の技について真剣に話し合っている
「私達って何の話をすればいいのかな?」
「まぁあいつらと同じ話題なら、徒手空拳か?」
弥生さんの言う事は判る。あの格闘の技をISで使えたのなら……格段に戦闘力が上がるというのは判る
「シェンっていま何分立ってれたっけ?」
「私? 私は良いとこ1分30分くらいかな?」
私がそう言うとラウラは
「私は2分だな、掴まれなければの話だがな」
「掴まったら逃れる術が無いしな~投げられても受身が取れれば何とかなるかもしれないけどな」
そう笑う弥生にラウラが
「三半規管を揺さぶられてどうやって受身を取れというんだ?」
「だから取れたらって言ってんだよ」
龍也君の投げ技は多種多様でしかも、投げ方が独特なので投げられた瞬間。一瞬何が何だが判らなくなる、そのせいで禄に受身すら取れない……かなり独特な投げ方だ
「まぁそれもあるが……何においても一番厄介なのは」
ラウラがクリスから貰ったであろう、画像を私達に見せながら
「この滑るような移動方法だ」
一歩で7歩以上進む、あの移動方法。あれを攻略しない事には勝機は無いだろう
「む? シェン、弥生ここを見てみろ」
ラウラが再生していた画像を停止して、ある一箇所を指差す
「あれ? なんかおかしくない?」
「ああ、何がとは判らないけど……なんかおかしい」
どこが? と言われると難しいが何かがおかしい。もしかしてこの違和感があの龍也君の歩法の正体なのかもしれない
何度もそこの所を繰り返し再生して。その違和感を解明することに挑戦した……
「何をしてる。龍也」
瀕死の織斑一夏を肩に担いで歩いている龍也に偶然会い、思わずそう尋ねると
「うむ。浸透勁で打ち抜いたら気絶した。引きずっていたんだが周りの視線が痛いから担いでいる」
この男はずれているのだろうか? ネクロが危険だの何だの言っていたが正直よく判らない。ワタシから見ると天然という印象しか抱けない。
「う……うお?」
肩の上で織斑一夏が呻きながら意識を取り戻す
「お、起きたか」
龍也が下ろしながらそう尋ねると織斑一夏は
「生きてる! 俺生きてる!!」
なんか生きてる事に歓喜していた。その光景を見たワタシは
(こいつどんな訓練をこいつらにさせてるんだ?)
基本的にIS学園の地下で整備をしているワタシはその訓練光景を一度見て見たほうが良いと思った
「あーえーと、ユウリ・クロガネさん? でしたっけ?」
ワタシを見てそう尋ねてくる織斑一夏。年上だと知っているから敬語と言うのは判るが
「ユウリで構わん。ワタシも一夏と呼ぶ」
「あ、ああ。よろしくユウリ」
にかっと笑う一夏、別に馴れ合う気はないが……別に疎遠になる必要も無い。ある程度の交友は必要だろう
「一夏と夕食に行くのだが、一緒にどうだ」
龍也がそう声を掛けて来るが、ワタシは手を振って
「まだやる事があるんでな。悪いが断らせて貰う」
ワタシはそう返事を返し……龍也と一夏に背を向けて歩き出した……
「なぁ龍也。あれどうなってるんだ?」
「さぁ?」
龍也と食堂に行くと箒達が頭を抱えている。俺が気絶している間にいったい何が? 気になりはするが、聞かない方が良い様な気がする。俺がそんな事を考えていると
「兄ちゃーん♪」
龍也の背中に飛び乗るはやてさんと目が合う
「おー一夏かぁ。今日も絞られた見たいやな?」
にやにやと笑うはやてさんを見て
「なのはさんとフェイトさんは?」
何時もいる2人の姿が無くてそう尋ねるとはやてさんは
「んーISの整備で忙しくてなー。部屋で食べるって言うてるわ」
そうなのか、やっぱ専用機持だからそういうのもやる方が良いのかな? 俺はそんな事を考えながら龍也とはやてさんと一緒に、呻いている箒達の方に向かい
「何やってるんだ?」
「!? 一夏? もう訓練は終わったのか?」
俺に気づいてそう尋ねてくる箒に
「もうって、もう6時だぞ? 2時間もずっと何を考えてたんだ?」
ふーんと返事を返しながら、椅子に座りそのままいつもの様に箒達と一緒に談話をしながら、食事してから自室に戻った
「まだまだ全然だよなぁ」
今日も龍也に訓練をして貰ったが、やはりと言うか何時も通りと言うか……龍也に一撃すら入れることが出来ずISでも組み手でも負けた。
「あー同年代の筈なんだけどなー」
がりがりと頭を掻きながらベッドから立ち上がる。別に自分が強いだなんて思っていないがここまで負け続けると、さすがに自信を失ってくる
「とりあえず今日はもう寝よう」
簡単な話だ、龍也の方が俺よりもっと頑張って来た。だから力の差が明確に出てる、積んできた修練の差とでも言えるだろう
(とりあえず、走る距離を増やして、筋トレももうちょっと頑張ろう)
もっと強くなりたい……誰かを守れるように、悔しいが今の俺ではきっと何も守れない。だからもっと強くなりたい、そんな事を考えながら歯を磨きタオルで口を拭い、ふと顔を上げて
「ッ!?!?」
声にならない悲鳴を上げて思わずその場に尻餅をついた。鏡に映っていたのは前に夢に見た、憎悪と殺意に支配された俺の顔だった……
「え、あ? う、嘘だろ?」
訳が判らない恐怖を感じながら顔を触るが、何時も通りのはずだ……あんな顔をしてるはずが無い。ゆっくりと身体を起こし鏡を見る、そこには何時も通りの自分の顔があった……
「当たり前だよな……」
鏡を見たら違う自分がいるなんてあり得ない。きっと疲れていたんだろう
「今日は結構頑張ったし、疲れてたんだな、きっと」
自分に言い聞かせるようにそう呟いて、ベッドに潜り込んだ……
一夏がベッドに潜り込み目を閉じた頃、洗面所の鏡には先ほどと同じく一夏の顔が映っていた。そこにもう一夏がいないというのに……ベッドで眠る一夏を見た偶像の一夏の顔は歪み、憎悪と殺意に満ちた狂人とも言える笑みを浮かべながら
『そうだ……もっとだ、もっと力を望め。かつての俺のように』
何の光も宿していないその双眸で眠る一夏を見つめながら呟く偶像は
『そうすれば、俺は表に出れる』
偶像には力が無かった。いや……力はあった、ただ一夏には雪の少女の加護があり、そして白が彼の心を守っていた。ゆえに狂気に落ちた偶像はまだ一夏の心に触れることが出来なかった……
偶像が一夏に触れるには
もっと一夏が絶望しなければならなかった
もっと一夏が己の無力さを知らなければならなかった
そしてもっと力を渇望しなければならなかった
そうかつての己のように……
『くっくっくっ……』
偶像は歪んだ笑みを浮かべ溶けるように鏡の中にと姿を消した……
第61話に続く
ちょっぴりシリアス雰囲気でしたかね? この偶像の一夏はのちのちに大きく関わってくるのでどうかかわるのか楽しみにしていてください。なおイメージcvは宮野真守さんだったりします、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします