IS~現れたる神なる刃【凍結中】   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回は一夏さん達の視点の話になります。一夏達から見た固有結界と詠唱の和訳
それを知り何を思うのか?が最大のテーマです戦闘回はまだ続きますしシリアス回も続きます
それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


第68話

 

 

第68話

 

男の話をしよう

 

男には何もなかった

 

名も。感情も。夢も。希望も何もなかった

 

男が持っていたのは

 

絶望と嘆きだけ。どこまでも空っぽな男は出会いを繰り返し

 

その中身を満たしていった……

 

しかしてそれが幸福なのだろうか?

 

空っぽな男に幸福は理解できない

 

なぜなら男は空っぽなのだから

 

誰も知ることのなかった

 

暗き時代が幕を開ける

 

 

 

 

キンッ!!キンッ!!

 

「邪魔だ!失せろ!!」

 

両手に西洋剣を構え四方八方から迫るネクロを全て両断し進んでいく龍也君を見て

 

(なんて強さ……)

 

私は思いあがっていた訳ではない。だが最悪IS学園の教師全員とフレイア達が居れば龍也君を制圧できると考えていた。その為に戦闘終了後、もし龍也君が怪しい素振りを見せたら捕獲できるように近くにフレイア達を待機させていたが

 

(勝てるわけがない……)

 

例え第3世代が1小隊分あったとしても勝てない。それ所か一矢報いることが出来るかどうかでさえ怪しい

 

「燃え盛る炎の大剣《レーヴァティン》ッ!!!!」

 

天を燃やし尽くすかのような炎の刃を持つ剣を一閃するごとにネクロが炎に呑まれ消滅していく。

 

(強すぎる……あれが魔法使いの全力だというの)

 

次元が違う……強さとして全く異なる存在だ

 

「消えうせろ!!」

 

【プロヴィデンス マキシマムドライブ】

 

漆黒の球体が龍也君ではなく私達の方に向けられた瞬間

 

「私の後ろにはただの1つの攻撃など通さん!!!」

 

瞬間移動としか思えない。かなり離れていたのに龍也君は一瞬で私たちの前に移動し

 

「全ての呪いを弾く盾《フォースシールド》ッ!!!」

 

美しく輝く緑色の盾がその球体を弾き飛ばす。その反動でか砂煙が上がった瞬間

 

「ひゃははははッ!!!!」

 

ドシュッ!!!!

 

肉を裂くおぞましい音が響く思わず目を背け掛けるが前を見ると

 

「ひゃははは!!死んだかぁ!?」

 

全身に目玉のあるネクロが手に持っていた鎌の切っ先が丁度背中から心臓の辺りを通って龍也君を貫いていた……

 

「「「ッ!?!?」」」

 

エリスちゃんたちが息を呑むのが判る。今彼は私達を護ろうとしたそして心臓を貫かれた……もう生きているわけが

 

「死ぬ?私が?何を言っているベルフェゴール?」

 

「ひゃはっ!?」

 

鎌の切っ先を握り潰しながら龍也君が身体を前に動かし無理やり鎌を引き抜き。ネクロの頭を掴んで走り出す、その先には廃墟に突き刺さり切っ先を向けている無数の剣群がある。龍也君はネクロを掴んだまま壁に体当たりした再び肉を裂く嫌な音が響く

 

「げがっ!?てめぇ……なんで傷がねえ!?」

 

その言葉に良く注意して見ると龍也君の身体には一切の傷がない。さっきの鎌の傷もだ

 

「なぜ?簡単な話だ。私の命は私の物で私の物でない。この世界はその象徴……この結界がある限り。私が負う筈の傷は全て一時的に無効化される。この世界がある限り私は心臓を抉り出されようが、頭を砕かれようが死にはしない。判るか?お前たちの不死性と言う有利さはこの世界では何の意味もない!!!」

 

その腕を剣に刺し貫かれながらネクロを殴り飛ばす。案の定傷が一瞬出来るが直ぐに消え去る

 

「守護者だなんだと言われておきながら。その本質は剣鬼か」

 

「はっ!私は何度も死んださ。いまさら死に対する恐怖などない!私が恐れるのは!誰も護れない事だけだ!」

 

剣を2本抜き放ちネクロにと突進していく。ネクロもその手に2本の剣を持ち何度も何度も打ち合う。受けきれなかった一閃が龍也君を引き裂くがやはり傷は直ぐに消える。一種異常とも言える光景に言葉もなくただ呆然と見ていると気付いた

 

(あ、あれ?簪ちゃんだけじゃない一夏君とかの傷もない?)

 

ネクロとの戦いで一夏君達が負っていた傷も跡形もなく消えていた。

 

(中の人間の傷を全て無効化する?それがこの世界の能力?)

 

私は自分の中でそう仮説を立てたが、それは違っていた……龍也君を意味する「守護者」そしてさっきの

 

【負う傷の全てを一時的に無効化する】

 

一時的にという言葉が意味する本当の意味。それを私が知るのは全てが終わったときだった……そして全てを知った私は理解した。

 

八神龍也という存在はどこまでも真っ直ぐでどこまでも歪んだ人間なのだと……

 

 

 

 

 

「シャル……龍也がなんて言ってたか判るか?出来たら日本語で判る範囲で良い。俺に教えてくれ」

 

龍也が剣を振るい次々とネクロを切り裂いていくのを見ながらそう尋ねると、シャルではなくヴィクトリアが謳うように

 

「己が命が己が為にあらず、己が体は人にあらず。我が身は守護の剣なり。私が聞き取れたのは最初だけだ。他に聞き取れたものは?」

 

ヴィクトリアさんの問い掛けにユウリが

 

「どれほど時が流れても。どれほど言葉を投げかけられても。我が生き方に変わりはない。かなり早口の上に発音がかなり聞き取りにくかった」

 

ほんの一瞬で聞き取るのは難しい。英語に長けた者で無ければ聞き取れるものではないだろう

 

「ただ己が愛した者全てが笑う世界を……誰も涙を流す事ない世界を……それを作る為に我は戦う。ですわ。なんとも哀しい言葉ですわね……完全な自己否定ですわ」

 

完全な自己否定。龍也は自分で自分を認めれないのか?命も自分のものではない、身体も人ではない。じゃあ龍也は何のために生きているんだ?人としての全てを捨てて何をしたいんだ……

 

「幾千の戦場。幾万の世界。その全てを見据え我は願う、誰もが幸せな時代が訪れる事を……」

 

ぼそりと呟いたエリスさんの言葉に続くように簪さんが目に涙を溜めながら

 

「その時まで感情全て隠し我は笑う。その生き方こそが我が得た唯1つの答えなのだから……千の剣の……墓標」

 

固有結界。心を移す魔法……そしてそれを発動させるための言葉……その言葉にどれだけの葛藤が、どれだけの嘆きが込められていたのか俺は勿論。誰もわからない、否判る訳がない

 

(お前は何者なんだよ……)

 

優しくて相談に乗ってくれた龍也。その強さを持って俺達に身の護り方や適切な戦術を教えてくれた。優しく面倒見の良い龍也と

 

簪さんとエリスさんを撃って冷酷な笑みを浮かべた龍也。能面のような表情をしてネクロと戦っている龍也。恐ろしいほど冷酷で残酷な龍也

 

(どっちがお前なんだよ……龍也)

 

長い事友人だと思っていたし、これからもずっとそうだと思っていた。だけどそんな当たり前の日常は終わってしまった……

 

(俺には駄目だ……お前がわからねえ……わからねえよ……龍也)

 

龍也の1を切り捨てて9を救うという正義も……

 

龍也が黄金の騎士だったってことも……

 

龍也がどんな光景を見てきたのか、何を考えているのか。

 

何もかもが俺には判らなかった……

 

俺には龍也の背中しか見えない。龍也がどんな顔をして戦っているかも、その目に何を写しているのかも何も見えはしない。

 

俺は墓場のような世界を見ながら。龍也が何を考えているのか、何を見てきたのか。ただそれだけを考えていた……

 

 

 

 

 

なんて哀しい場所なんだろうか……血の様に赤い大地。墓標のように立ち並ぶ無数の剣。そして崩れ果てた廃墟の街並み。どれを見ても龍也の心の中とは信じがたい

 

(一体どれだけの涙を流してきたのだろう……)

 

この世界には嘆きと悲しみしかない。そして墓標のように並ぶ剣や斧……それが龍也の悲しみの証だというのは考えるまでもなく判ることだ……

 

「うう。ここ苦しい……凄く空気が重い」

 

「ちょっ!?シェン大丈夫!?うっ!?やば……なにこれ……あたしも頭痛い」

 

シェンが膝をついて頭を抱える。それに鈴が駆け寄って触れると同じように頭を抱えて蹲る

 

「うっ!?なんだこれは!?何かが見える!?」

 

「ユウリ!?だい……うっ!?なにこれ私にも見える!?泣いてる子供?なに!?なんなの!?」

 

ユウリが鈴に続いて蹲り。ユウリの肩に手を置いた会長も蹲り何か呟く。何が起こっているかわからず混乱している中。箒やセシリア。織斑先生達も頭痛を訴え蹲っていく。化け物達の怒号の中でも皆のうめき声が聞こえる。

 

「うっ!?私もか……」

 

ラウラが倒れ。それに続くかのように私の頭にも激しい頭痛が走り脳裏に何かが浮かび始めた……

 

《おとーさん!おかーさん!!》

 

舌足らずの子供の声と暗い海に沈んでいく男女の姿と何かの光に包まれ宙を浮かんでいく子供の姿。黒い髪に首からは龍を模したペンダントを下げていた

 

(龍也?でも髪の色が違う……)

 

一瞬龍也の記憶かと思ったが違う。龍也の髪は銀で子供の髪は黒。それに雰囲気や目つきもまるで違うではこの子供は?私がそんな事を考えているうちにまた場面が変わる

 

《また別の孤児院に回ってもらうから。じゃあね》

 

《……》

 

面倒くさそうに言う女性に何の反応も示さない子供。その目は光が一切なく生きているのか人形なのか、思わずそんな事を考えてしまうほど。感情と言ったものを感じさせなかった……その少年を見ているとその女性と入れ替わりで

 

《君が■■龍也君かい?》

 

《……誰?》

 

《僕は君のお父さんの弟なんだ。やっと見つけたよ……ごめんね。こんなに遅くなって》

 

《なんで泣いてる?》

 

感情がない。それが私が見た過去の龍也の印象だった。何もない空虚な存在、それが子供のときの龍也だった

 

《行こう。君は■■龍也ではなく。八神龍也になるんだ……そして私の息子に成るんだ》

 

《行きましょう?龍也君》

 

子供の時の龍也は不思議な顔をして何度も伸ばされた手を見つめ。そしてその手を掴んだ。そしてまた場面が変わる

 

《なあなあ兄ちゃん。兄ちゃん》

 

《なに?はやてちゃん?》

 

《ぶー私と兄ちゃんは兄妹やからちゃんはおかしい!!》

 

まだ小さいはやてが龍也にじゃれ付いている。それに対して龍也の顔は若干固いように見える。まだ幼いはやてと小学校低学年に見える龍也では考えることも違うのだろう

 

《でもあれやろ?今日。お父さんとお母さんが帰ってきたら、兄ちゃんもお父さん言うんやろ?》

 

《うん。1年経ったし……今なら言えると思うんだ》

 

固い笑顔で言う龍也。そしてそれと同時に電話が鳴る

 

《おばさんかもね。出てくるね》

 

《はいなー》

 

ニコニコと笑うはやてに見送られ電話に出た龍也は

 

《え?し。死んだ?交通……事故?》

 

龍也の手から電話が滑り落ち。また場面が変わる……

 

《お父さん……お母さん》

 

墓標の前で泣くはやてを見て拳を握り締める龍也。

 

【僕のせいだ……僕が居たから叔母さんと叔父さんは】

 

あの日は龍也が八神家に引き取られて丁度1年だった日。自分がいなければ2人が死ぬこともなく、はやてが両親を失う事もなかった。どこまでも暗い考えが龍也を満たしていく、それと同時に私の周りに数本の剣が姿を現し墓標の様に突き刺さる。その数は4本……死んだ龍也の両親とはやての両親の数と同じだった。龍也は泣いているはやてを抱きしめて

 

《大丈夫。大丈夫だ……はやてお前は……私が護るから》

 

その目には危ういとも取れる輝きが灯っていた。そしてまた場面が変わる

 

《ぐっ!?なんだこれは!》

 

街中を走る龍也。少し成長していて小学校高学年くらいに見える。何か判らない黒い影が龍也を追い回している。まだ幼さが残る物のその雰囲気や態度は今の龍也と殆ど同じのように見える

 

《がっ!?ぐうう!!!》

 

化け物の牙が龍也を捉えその身体を高く持ち上げる。

 

《がっ!?ごぼっ!!》

 

その牙は身体を貫通しているのか龍也の口から大量の血液が吐き出される。それと同時にそこかしこから息を呑む声が聞こえる。どうやら私だけではなくラウラや簪もこの光景を見ているようだ

 

《まだ……まだ……ごぶ……私は、私は……し。死ねない……》

 

震える手で化け物を殴る。まだ死ねない……それはきっと幼いはやてを1人にしたくないから

 

《まだ……死んで……堪るかアアアアア!!!!》

 

咆哮めいた声と共に龍也が首から提げていたペンダントが輝き。それが化け物を弾き飛ばすと同時に甲冑が龍也の身体を覆い隠す

 

《なんだこれは?いや……どうでも良いか》

 

龍也は剣を抜き放ちそれを片手で構え

 

《私の道を妨げるものは相手がなんであろうが!叩き潰すだけだ!!!》

 

剣を手に駆け出していく龍也を見て私は

 

(あれが龍也とは思いにくい)

 

感情の起伏は殆どない。どこまでも空っぽな表情をしている龍也と今の龍也は余りに違いすぎる。ではこれから今の龍也に近づいていくのか?私がそんな事を考えているとまた場面が変わり始めた

 

《ふふふ。死になさい闇の書の主》

 

《あ、ああ……》

 

車椅子の上のはやてに迫る黒いローブの女が手刀を突き出す。はやての手には紅いドレスや緑のドレスが握られていた。女は手をゆっくりと引きそれをはやて目掛けて突き出した

 

《止めろおおおおおッ!!!!》

 

その直後空の方から龍也の怒号が響き渡り。蒼い閃光が走る……そして

 

ドシュッ!!!!!

 

《ぐっ……がぼっ》

 

《あ、あああッ!!兄ちゃん!兄ちゃんッ!!!》

 

女の手は龍也の胸を貫いていた。それはどう見ても即死の傷……食道や肺を完全に貫いていた。龍也は糸が切れた人形のようにはやてのほうに倒れた。それは奇しくも私の居る方向と同じで何の光も宿していない目が私を写し思わず身を抱いた。人の死ほど暗いものはない……それが例え遠い昔の出来事であっても変わりはしない

 

【し、死んで堪るか……私は死ねない。死ぬわけには行かない!】

 

脳裏に龍也の声が響く。まだ死ねないと繰り返し呟くその声は段々その響きを強くしていた

 

【まだ私は役目を果たしていない。まだ何も終わっていない!まだ死ぬわけには行かない!!!】

 

その声は怨念に似た暗い響きがあり。思わず自分の身を抱く

 

《い、イヤアアアアアアアアアアッ!!!!!》

 

はやての絶叫と共に暗い闇が吹き出し龍也とはやてを飲み込んでいく。そしてまた場面が変わった

 

《なぜ夢に溺れない?夢の中には何の苦しみも悲しみもないのに?》

 

銀髪に紅目の女性が訳が判らないと言う感じで問いかける。すると蒼い光が走りそこから学生服の龍也が姿を見せ

 

《夢を見ているのにまた夢を見るわけがないだろう?》

 

《何を言っているのですか?兄君は?》

 

《私は今まで2度死んだ。そして今3度目の死を迎えようとしている、いくらなんでも心臓を貫かれて生きていられる人間は居ないだろう?》

 

《だからこそ夢の中での死を私は与えようと思いました。あそこは全てが満たされている幸福な場所のはず。嘆きも涙もない場所だったはず、なんで目覚めようとするのですか》

 

《言ったはずだ夢を見ているのに夢を見るわけがなかろう?今私は絶対に醒めたくないと思っている夢を見ている。亡くしてしまった筈の家族がまた増えた。はやて、ヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラ……私は十分に幸せだった。そして思う、あの場所は死者がいるべき場所ではない。私はあの時死んだ、故にもう良い……この胸には抱え切れないほどの思い出をもう貰った……だから私は何の悔いも無く死ねる。最後まではやて達を護ってな》

 

学生服は甲冑に変わる、だがその甲冑はひび割れ、自身の血で真紅に染まっている

 

《私はもう死んだ人間だ。この身に恐怖はない、私はただはやてを護るというだけの存在だ。そんなものは人間とは呼べないただの人形さ。人形は踊るだけだ哀れで滑稽な踊りをな》

 

くっくくと笑いながら龍也は剣を振るい。自身が居る場所を切り裂きそこから飛び出して行った

 

そしてまた場所が変わった……だがそれと同時に身体を締め付けるような痛みが私を襲った

 

雪の振る何処かの世界で

 

《調子に乗るな!!この死に損ないが!!》

 

《ぐあっ!!!》

 

黒い騎士と龍也が戦っている。だが龍也の左腕は無く大量の血液が流れているのが判る。いやそれだけじゃない右目も刃で裂かれたのか固く閉じられ血を流していた

 

まだ幼いなのはと見覚えのない紅いドレスの少女がそう叫ぶ中龍也は右手で剣を構え抵抗の意思を示している

 

《まだ立つか、それほどこいつ等を守りたいと言うのか……いいだろう。こいつ等を見逃してやろうか?》

 

《なに?》

 

黒い騎士は剣を龍也に向けながら

 

《だからこいつ達を見逃しやろうかと言っているんだ。俺の目的は貴様を殺すだけだからな》

 

《私を殺せばお前は此処から消えるのか?》

 

《ああ。そのとおりだ。如何する?お前が決めろ3人とも死にたいならそのまま立ってろ。2人を見逃して欲しいなら其処に座れ》

 

龍也は剣を捨てその場に座り込んだ。

 

《いい覚悟だ。仲間を救うためその命を差し出すか。いいだろう2人の事は見逃してやろう》

 

黒い騎士はそう言うと剣を腰の鞘に収め浮かび上がると、左手に魔力を収束し始めた

 

《兄貴。なにやってるんだよ、早く逃げろよ!!》

 

《龍也さん、逃げてお願い!!》

 

なのは達の悲壮な叫びが響く中。それとは別の声が私の脳裏に響く

 

【これで良い。2人を救えるのならば私の命など……】

 

囁くような呟きだったが妙に私の耳に残った……

 

《消えろ!!カオスブレイカー!!!!》

 

騎士から放たれた黒い光が龍也を飲み込む寸前。龍也は泣きそうな顔でなのは達を見て

 

《なのは。ヴィータ、はやてにすまなかった……》

 

龍也は最後まで言うことなく黒い光に飲まれて消えた……

 

《……》

 

今度は私達が知らぬ間に別の場所に居た。街を見下ろすことの出来る崖の上に佇む龍也。長い黒髪とコートを纏うその姿はまだ幼さを残す物の今の龍也と殆ど変わらないように思えた

 

《行くぞ。これ以上やつらの思い通りにはさせん》

 

《はい。全ては王の御心のままに》

 

龍也の隣に現れた女性はそのまま溶ける様に消え龍也の身体の中に消えていく。すると龍也の瞳が蒼銀に染まり髪は美しい銀髪になる。その姿は完全に今の龍也と同じだ。龍也は崖の上から飛び降りながら両手に剣を作り出し

 

《貴様らアア!!!》

 

ネクロはその町の住人を殺し回っていた。鬼の形相でそう叫んだ龍也はネクロの中に突っ込んでいった

 

《う。ううう……》

 

瓦礫の中で何かを抱きかかえ蹲る龍也。その腕の中には虚空を見つめている少女の亡骸があった

 

《王よ。貴方は正義をなした、1000人のうち100人救えなかったが残りの900は救えた。嘆く必要は》

 

《100救えなかった!私は全てを救うことを願って力を手にしたのにまた救えなった!また護れなかった!》

 

亡骸を抱え泣き叫ぶ龍也の顔をはじめて良く見た。その顔は余りに幼くまだ13~16の間くらいだった

 

(私達よりも年下の時になんて酷い経験を)

 

死を見る。それは兵士としては基礎的な部分だ。兵士ならば死に直面することもあるだろう。だけどこの龍也はまだ子供だ、精神が耐えれるとは思えない。そしてまた場面が変わる

 

《もう大丈夫だ。おいで》

 

《……ほんと?》

 

《本当だとも》

 

瓦礫の中で泣いている子供に手を伸ばす龍也。そして子供が泣きながら龍也に手を伸ばした瞬間

 

ドスッ!!!

 

《え?あ?》

 

《!!》

 

どこからから飛来した剣が子供の心臓を貫く。龍也の伸ばした手はその子供が吐き出した血で真紅に染まる

 

《う……うそつき……だいじょ……って……のに》

 

子供は龍也にそういいながら地面に倒れ絶命した

 

《あ、アアあっ!!あああああああああーッ!!!!!!!》

 

龍也は泣き叫びながら振り返るそこには、4つの鞘を背負ったネクロがにやにやと笑っていた。

 

《良い顔ですね。絶望と慟哭。それに染まる人間の顔と言うのは何時もても良いものです》

 

《ヘルズウ!!!》

 

龍也が飛び出そうとした瞬間。宙に剣が現れ切っ先を下に向ける

 

《判りますか?この切っ先が何を狙っているか?》

 

その切っ先の下を見ると瓦礫の下に隠れている街の人々の姿が龍也の顔が青ざめた瞬間

 

《そう、その顔が見たいのですよ。守護者、貴方に何人護れますかな》

 

《や、やめろおおおおおおおッ!!!!》

 

龍也の叫びを嘲笑うかのように剣は雨のように降り注ぎ辺りから

 

《ぎゃああああ!?》

 

《いたい!?痛いよおお!!!》

 

《いやだ!?死にたく……あ》

 

剣に刺し貫かれ絶命していく住人の悲鳴が木霊する

 

《あ、あ……う、おあああああああああああッ!!!!》

 

龍也の悲鳴が私の心を抉る。余りに深い絶望と嘆きその悲鳴を聞いているだけで心が軋んでいくような気がする

 

《あははは!!1人も救えなかったようですね!そう貴方に私達を止めることなどで気はしない。全てを捨ててもね》

 

《ヘルズううううう!!!》

 

涙を流しながらネクロに向かっていった龍也だが

 

《そんな攻撃にあたってあげれるほど暇ではないのでね。眠っていなさい守護者》

 

ネクロの蹴りが龍也の胴を捕らえひっくり返ると同時に

 

ザン!!

 

《あ。ぐああああああ!!!》

 

空から剣が降り注ぎ龍也を昆虫標本のように地面に縫い付ける

 

《ふふふ、ではまたいずれお会いしましょう?壊れた正義の味方さん?》

 

痛みと絶望にすすり泣く龍也を見下ろしそのネクロは消えて行った、残されたのは墓のように地面に突き立つ剣と全身から血を流す

龍也の痛々しい姿だけだった

 

雨の降る中龍也は手足を引きずるように廃墟を歩いていた。その目は必死そのもので何かを探して……いや何かなんかではない。龍也は生存者を探しているのだ

 

ガラリ

 

瓦礫の崩れる音に龍也が振り返る。そして振り返ると同時に涙を流した。瓦礫を蹴ったのは生存者ではなく

 

《キキ》

 

《アアアアアッ!?》

 

ネクロになり始めていた街の人間だった。黒い細胞に浸食されている街の住人は涙を流しながら手を伸ばす

 

《殺せェ!?殺してくれえ!!化け物になんか……キガぁ!?》

 

《痛いイタイイタイ!!!やだやだアア!!!化け物なんかになりたくないイイイイッ!!!》

 

ネクロになりたくないと泣き叫ぶ街の住人を見る龍也。龍也は涙を流しながら

 

《う、うおおあああああああッ!!!!!》

 

獣のような咆哮を上げて剣を構えネクロになりかけている街の住人に向かっていった

 

《がふっ……ありがとう……》

 

知らぬ間に場面が変わり龍也が涙を流しながら小さな身体に剣を付きたている場面に変わる。その子供は龍也が救えなかった子供だ

 

《化け物になるより……死ねたほうが良いよね?ありがとうお兄ちゃん》

 

化け物になる前に死ねたと言って感謝の言葉を口にする子供

 

【言うな!礼など……言わないでくれ】

 

血が出るほど歯を食いしばり涙を流す龍也の前でネクロになりかけていた子供がゆっくりと崩れ落ちる。龍也が剣を握り締めたまま空を仰ぐ、龍也の顔から零れ落ちた涙が血で染まった大地に落ちる

 

《王よ、嘆くことはない。貴方は正義をなした》

 

龍也の隣に現れた女性がそういって涙を拭おうとするが

 

《違う!こんな!こんな物は!私の望んだ正義じゃない!!人を殺して何が正義だ!!!》

 

《違います。あの者達はネクロにとなりかけていた。その前に殺してもらえてあの者達は嬉しかったはずだ》

 

《ふざけるなあ!違う!こんな!こんな物が正義であるものか!!!》

 

血でぬれた隻腕で顔を押さえ雨に打たれながら絶望の声を上げる

 

《私は……全てを救いたかった。手の届く全てを護りたかった……なのに私のしたことは何だ!?ただ全てを無に返しただけだ!こんな物が正義であるわけがない!!!そうだろう!?》

 

《違いません、貴方は正義をなした》

 

《ふざけるな……ふざけるなぁッ!!!馬鹿野郎ッ!!!!!!!》

 

【違う!違う!!違う違う!!!こんな!こんな事をするために!!!私は力を手にしたんじゃない!!!】

 

余りに重い絶望と慟哭が私を押し潰しに来る。心が軋み独りでに涙が溢れ出す

 

(こ、こんなの耐えられない!)」

 

絶望・嘆きそれが心だけではなく身体でさえ押し潰さんとしてくる。だがそれだけでは終わらない景色は次々と変わっていく。それと同時に剣も増え続ける

 

《また!まただ!また私は何も護れなかった!!!》

 

《……ううっうわああああああああッ!!!!》

 

場所、時間が変わっても龍也の嘆きは絶望は消えない。誰よりも尊い願いを抱き続けていた龍也は殺し続けることに耐えられなかった

 

《殺してやる!殺してやる!ヘルズゥゥゥッ!!!!》

 

嘆きは狂気となり龍也を満たす。その瞳は憎悪と絶望だけを写し他の何も写してはいなかった、ネクロは速やかに殺し救えぬ者は見捨て。ネクロになりかけているものを殺してももう龍也は涙を流さなかった。いや違う。流す涙も枯れ果てていた……能面のような表情で進み続ける。届かないと判っている理想を追い続けその身体を傷つけ、心を磨耗させて……きっと龍也の進む先には何もない。あるのは破滅だけ、そこに救済などない……

 

《龍也。君は変わったね》

 

《そうか?》

 

《ああ。変わったとも、良く笑うようになったよ》

 

《そうか。では笑うのはもうやめよう》

 

《なぜそうなるね?》

 

臨海学校でいたジェイルとかいう博士と龍也が並んで月を見上げている。この龍也は能面のような表情ではなくぎこちないながら笑みを浮かべることが出来ていた

 

《許されないからだ》

 

《何にだい?》

 

《全てにだ》

 

《そりゃまたなんで?》

 

龍也は自嘲の笑みを浮かべながら左腕を天に掲げる。それは機械の骨格が見える義手だった

 

《俺は数え切れないほど罪を犯した。もう決して許される事ではないだろう。咎人が笑うなど許される者ではない》

 

《そうかい。じゃあ私も同罪かな?》

 

《なぜだ?》

 

《ネクロに娘を人質に取られ奴らの悪事に手を貸した。ならば私も同罪だろう?》

 

《違う。お前は救われるべき人間だ》

 

《じゃあ龍也もだろ?》

 

《……駄目だ。俺は殺し続けてきた、この身は血とネクロの血で汚れきっている。もう光の元に戻る資格などない》

 

違う。そんなことはない。龍也は誰よりも尊い理想を抱いた、確かに悪と呼ばれるだけのこともしただろう。だけどそれ以上に人を救ってきたはずだ。そんな龍也が許されないわけがない

 

《……もう行く。ネクロがまた動き始める》

 

《また人知れず君の家族を救うのかい?合いたいと探し続ける家族から逃げてなんになる?》

 

龍也はふっと笑いながら月を握り締めるかのような動きをしながら

 

《煉獄の炎に焼かれてもなお決して届かぬ光を見る事は許されよう。しかし咎人に許される物などない、この身は命尽きるまで罪を償うことしか出来んのさ、ではな》

 

そこから飛び降り炎の翼で飛び去る龍也を見ながらジェイルは

 

《龍也……君は誰よりも救われるべき人間だ。どうしてそれが判らない?》

 

どこまでも心を閉ざした龍也を見てジェイルは涙を流していた

 

どこまでも尊い理想を抱き

 

誰よりも優しくて

 

誰よりも人を護ってきた

 

その変わりに得たのがこの剣の世界……

 

そんなのはおかしい。おかしいに決まっている

 

誰よりも優しく、誰よりも涙を拭いたいと願ってきた

 

そんな龍也がこんな世界に閉じこもるなんておかしいに決まっている

 

 

「はっ!やってくれるな!!!」

 

「お褒めに預かり光栄だ!!」

 

気が付いたら私たちは元の場所に戻ってきていた。全員が全員涙を流し龍也の背中を見つめていた

 

「こんなの……悲しすぎるよ……龍也くんは何も悪い事なんかしてない!ただ救いたいって願っただけなのになんで!なんでこんなのが……こんな……こんな場所が……ぐすっ。龍也君の心の中なの……」

 

剣の丘を見て涙を流し崩れ落ちるシェン。簪やエリスなどは顔を抑えて押し殺した泣き声を上げている。あまりに感受性が強すぎてしまったのだろう。だがそれは私にも言えた事で

 

「龍也……お前は誰よりも救われるべきはずの人間だ……」

 

誰よりも龍也は聖人だった。自身のみを捨ててまで、心を捨ててまで、全てを護り救ってきたなのになぜその末路がこんな世界なんだ……

 

「是、射殺す百頭《ナインライブズッ!!!!》」

 

龍也の背丈を上回る巨大な斧剣を片手で構え。裂帛の気合と共に振るわれる。九つの斬撃がネクロを切り裂き消滅させる。剣の丘に立つ龍也は前を向いたまま

 

「身体は剣で出来ている。私にそれ以外の価値はない。全てを救いたいと願い、全てを失ってきた。こんな男にまともな未来も最後も必要ない」

 

剣を2本新たに抜き放ちネクロ達を獣を思わせる目で睨みながら

 

「私に未来は必要ない。未来はもっと相応しい者達の為にある。壊れた男にはそんな物を担う資格はない。私は未来を築くための道となる。そしてその役目を終えれば……もう私は世界に必要なくなる。私が眠る場所は穏やかで会ってはならない咎人が眠るは地獄が相応しいだろうよッ!!!!」

 

「はっ!ならば俺が貴様を地獄に送ってやる!!」

 

「何時までも未練他らしく現世に残らずとっとと死になさい」

 

ペガサスとヴォドォンが同時に地面を蹴り龍也に迫る。超高速の挟み撃ちだったが

 

「ごめんこうむる。まだ私にはやるべきことがあるのでねッ!!!」

 

それを見ることもなく弾き返し剣を捨てて別の剣を手にし

 

「私は剣として生きてきた。剣は泣かない、剣に名は必要ない、剣に未来は必要ない。剣はただ目の前の敵を屠るだけだ!!!」

 

たった1人戦い続けた。夢も願いも捨てて心も名も捨てた。剣としての人生を歩み。絶望と嘆きだけを繰り返し続けてきた

 

それが八神龍也という男の余りに哀しい人生だった。

 

あの優しさは悲しみを知るからこそのもの

 

どこまでも優しい壊れた男に救済などありはしない。それこそが八神龍也に架せられた罪なのだから……

 

第69話に続く

 

 

 




シリアス回でした。龍也さんの青春は絶望と慟哭だけ、そんな状態でまともな精神状態になるわけがありません。夜天3部作「夜天」「宵闇」そしてタイトル未定の「第3部」この3つで龍也さんがどうなっていくのかを描くのが私の目的なのです、ですので今回は暗い話になってしまいましたが、これも後々に生きてくるので今回はやむなしと言う感じです。次回かその次で戦闘回は終わらせたいと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
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