第72話
一通り質問を聞き終えたら時刻は日付を跨ごうとしていた。私は時計を見ながら
「質問はまた明日聞こう。簪たちも疲れているだろうからな」
いくらセレスのサポートがあったとは言え投影。しかもEXランクの武具を投影した2人の疲労は相当なものだろう。椅子に腰掛けたまま少し舟をこぎ始めているのを見ながら言うと
「それもそうね。また何時でも話を聞かせてもらえるのかしら?」
「その必要があればいつでも話をしますよ。これからは備えなければならないですから」
ハーデスとベエルゼが同時に転移してきた。それはいつでも主力級がIS学園に転移してこれるということだ、そうなる前に備えておかなければならない
「そういってもらえると助かるわ。さてとヴィクトリアちゃんとラウラちゃん。それにクリスちゃんは元気そうね。弥生ちゃんとかを運ぶのを手伝ってもらえるかしら?」
ツバキさんは指示を素早く出して、自身はエリスを抱えてログハウスを出て行こうとして
「龍也さん……なんか変ね。やっぱり君ってつけるわ」
「別に好きに呼んでくれれば良いですよ」
「ありがと龍也君。会って間もないし、こんな事言える立場じゃないけど……自分をいつか許してあげてね?それと千冬のことは変
わりに私が謝るわ。ごめんなさい……それじゃあね」
ツバキさんを先頭にして出て行く弥生達。全員の気配がなくなったところで
「くっ……ぐうっ」
身体から力が抜けフローリングに倒れかける。シャルナとアイギナが動き出そうとするよりも早く
「兄ちゃん!!」
はやてが真っ先にそれに気付き私を支えてくれる
「大丈夫?やっぱり無理やったんやないの?」
「むり……でもやるべきだった」
あの場合弱った姿を見せれば強く出ることは出来なかった。だからこそ我慢してでもちゃんと交渉のテーブルに着くべきだった。何とか身体を起こそうとするが駄目だ身体に力が入らない
「フェイトちゃん。なのはちゃんそっち3人で支えれば何とかソファーまで運べる」
「すまん……」
「ええよって言いたいけど……もう1人で固有結界使わんといて……そのうち本当に死んでまうから」
表情こそ平然としているがはやて達の声は震えている……
「約束は出来ないが善処する」
好機の一瞬は無為な一生に勝る。あの時はリバウンドを恐れず「約束された勝利の剣」を使うのが最善だった。計算外だったのはベエルゼとハーデスの強襲だが……
(あいつらも無傷ではない筈だ)
約束された勝利の剣は千の剣の中でしか真名開放が出来ないほどの威力を秘めた。史上最強の聖剣だ……例えLV4であったとしても防ぎきれるものではない。恐らく魔力の殆どを消費したはずだ、だからこそ撤退した
「ふーはやて。お前たちはIS学園に戻れ。シャルナは3人に着いて行け……IS学園を覆っている結界の強度を上げておいてくれ。これを使ってな」
破邪属性の焔「蒼炎」を固形化させたものを4つ投げ渡し
「使い方は……判るな?……少し休む。後は頼む」
これ以上は意識を保っていられない……私はソファーに深く背中を預けコートを布団代わりにして眠りに落ちた……
「はぁ……急に寝てまうから焦ったで」
眠りに落ちた龍也に近寄りながらそう呟くはやてに
「傷は治してあります。あとは魔力が回復すれば意識を取り戻されるでしょう。それにしても腹正しいのはあのIS学園の連中ですがね」
不機嫌そうに言うシャルナにフェイトが
「私もそう思うけど……龍也が何もするなって言ったしね」
なのは達が千冬達を攻めなかったのは龍也の静止があったからだ。それが無ければ何一つ情報など与えなかっただろう
「ま、話すのも良いけど。今は龍也さんに言われたとおり結界の強化をしよう?」
なのはの言葉に頷きはやて達はログハウスを出てIS学園を覆っている結界の強化を始めた。
そんなはやて達を監視する者が居た。木の枝に逆さにぶら下がっていた何者かは
「なるほど。結界強化ですか。これは報告しておかなければなりませんね」
木の枝から足を離し地面に溶ける様に消えていったのだった……
翌朝。いつもの朝の訓練の時間にアリーナに行くと。既に回復したのか腕を組んで待っている龍也さんの姿があった。しかしその姿は昨日のものと違い。見慣れたとも言える高校生くらいの姿だった
「ふむ。やはり一夏達は来ないか。まぁ当然といえば当然か」
「一応あたしは声を掛けたぞ?」
「私もな、だがセシリアは暫く考えたいそうだ」
アップをしていた弥生さんとヴィクトリアさんがそう言う。ここに居るのは昨日龍也さんを助けた面子しか居ない
「まぁ構わん。悩むだけ悩め……答えは2つだけだ。そのどちらを選ぶかはあいつら次第だ」
そう笑う龍也さんに私は思わず
「答えってなんですか?」
「知りたいか?簪?」
その言葉に目に思わず身が竦む。全てを見通しているかのような蒼銀の瞳は心の中まで覗かれている様な気がする。だけどそれに臆することなく見つめ返すと
「くくくっ。お前にしてもエリスにしても芯が強い。弥生とヴィクトリアは直ぐにダウンしたのにな」
楽しそうに笑う龍也さん。どういうことか判らず首を傾げているとエリスが
「暗示だそうです。目を逸らしたくなるとか後ずさるとかの、これに対抗できるのは意志の強さが重要だそうです。弥生はしゃがみ。ヴィクトリアは後ろに下がろうとして転び、クリスは気絶しました」
「「「言うなあ!!!!」」」
ヴィクトリアさん達が怒鳴る中龍也さんはくすりと笑い
「それで良いんだよ。本当はな?徐々に抵抗できるようになるのが普通だ。簪とエリスが耐えれたのは一重に魔力のおかげに他ならない」
魔力……そういえば龍也さんが言ってた私とエリスには魔法の適正があると。どんな魔法が使えるのか気になるが今は
「答えってなんなんですか?」
「ん?ああ、簡単だ。目を閉じ耳を塞ぎ何も見ず何も聞かない事。そしてもう1つは恐ろしくても前に進むかどうかだ。簡単だろ?」
くっくくっと笑う龍也さんはコートの中から何かを取り出し、私とエリスに手渡してくる。それは無色透明な水晶が中心に埋まったアクセサリーだった
「龍也君。これなーに?」
「「うわっ!?」」
私とエリスの間から顔を出して笑うお姉ちゃんに驚く。お姉ちゃんはにこっと笑いながら
「で?これなんなの?」
「魔力適正と変換素質の有無を調べる測定器だ。とは言え簡易だから詳しいところは判らんがな」
そう笑う龍也さんは自身もそれを取りだし握りしめたすると
バチバチバチッ!!!!
とんでもない音を立てて蒼い炎が吹き上がり。測定器は粉々に砕け散った
「え?壊れて良いの?」
お姉ちゃんが砕けた測定器を見ながら尋ねると龍也さんは懐かしい物を思い出すような顔をして
「構わん。私の魔力など測定できん。ははは。昔私の魔力を測定しようとして基地中の測定器が全部爆発炎上したこともあるんだぞ?」
ははっと笑った龍也さんは天井を見上げて
「確か全部で1千万くらいだったかな?買いなおすのに自腹できったが」
単位がとんでもない。1千万を自腹って……もしかして龍也さんって凄いお金持ち?
「い、1千万!?龍也はお前は凄い金持ちなのか?」
ヴィクトリアさんがそう尋ねると龍也さんは
「んー私とはやての給料合わせると軽く億は越える」
「「「……魔法使いって凄い」」」
「ははは。でも大半はあれだネクロのせいで親や家族を失った者達の為に使っている。あとはあれだな、養護院とか孤児院の建設に使ってるよ」
そう笑う龍也さんは私とエリスに
「まぁ私の事はどうだって良いだろう?どこにでもいる普通の魔法使いだ」
どこにでもと普通に激しく突っ込みを入れたかったがそれを何とかこらえアクセサリーを握り締めると
バチバチ!!!
「で、電気!?」
「つ、冷たい!?」
エリスの手からは電気が走り。私の手の上には氷の結晶が現れていた
「うお!?すげえ……ちゃんと触れる」
弥生さんが私の手の上の氷を触り驚いた表情をする、多分私も同じような顔をしていると思う
「魔法とはこうも不可思議な現象を可能とするのか?」
「わお!凄いわね簪ちゃん♪」
偉い偉いと私の頭を撫でるお姉ちゃんを見ていると龍也さんが
「変換素質か。これはまた随分とレアだな」
変換素質?なんだろうそれは?機能の説明にはなかったと思うけど
「変換素質とはなんですか?」
「説明は難しいのだが、普通は魔力を変換して炎とか稲妻にしてるんだ。変換素質はその変換の過程を飛ばして炎や氷を発生させれる技能のことだ。結構珍しい」
「ふーん龍也君はできるの?」
「ん?腕を切り落とされて目をつぶされた後に出来るようになったぞ?」
さらりととんでもない事を言う龍也さん。そしてその言葉に昨日の固有結界でのリアルな映像を思い出し
「「「……吐きそう」」」
「気にするな。私は大体に死に掛ける、もう何年もそうだ」
「胸を張っていうことじゃないわ」
私たちでは突込みが出来ないのでお姉ちゃんがしてくれた。だが龍也さんは笑うだけできにした素振りを見せない
「なに笑ってるんや?」
「たいしたことじゃない。じゃあ簪とエリスははやてに魔法の事を聞くと良い。私は楯無達に」
龍也さんはお姉ちゃん達を見てにっこりと笑い
「1度地獄を見てもらおうと思うから」
地獄?地獄って何?私が困惑しているとはやてさんが
「ほな行こか?まずは魔法についての理論を説明するわ」
ぐいぐいっと背中を押されアリーナの片隅ではやてさんの説明を聞いていると
「いいやあああああああッ!!!!!」
とんでもない絶叫が響き渡りそっちのほうを見ると
「飛んでる……」
クリスさんが空高く待っていた、くるくると回転しながら絶叫しつつも、スカートはがっちり両手で押さえていた
「違います簪。あれは投げられているのです」
「あーあれや兄ちゃんの訓練の1番最初。恐怖になれるや……ただの体術で真上に放り投げられるのって超こわいんやで?」
「おち!落ちるううううううッ!!!!!!」
弥生さんが絶叫しながら宙を舞っているのを見ていると
「あっちはあっち、こっちはこっち。早く魔法の理論覚えてな?」
はいっと手渡された百科辞典並みの本を見て
「これ全部覚えるんですか?」
下手をするとISのマニュアルより分厚い、しかも字も細かい。これを覚えるのは至難の業だと思いながら尋ねると
「んー全部とは言わんけど基礎のところは見てな?判らんところは私とかなのはちゃんに聞けば良いから、んじゃまずは5ページの自分の属性を知るところから始めよか?」
はやてさんの言葉に頷き言われたページを開く。最初は管理局とは?とか機動六課とは?とか書かれていたけど直ぐに魔法に関するページになった。かなり小さい文字に四苦八苦しながら読み進め。簡単に要約すると
1 魔導師には様々なタイプが存在し。砲撃等の大火力を得意とするタイプや中間距離での打ち合い。もしくは戦闘タイプではなく補助や回復に長けたタイプが存在する
2 長い時間修練を積めばどんなタイプの魔法も覚えれるが最初は自身のタイプにあった魔法を重点的に学ぶと良い
「はやてはどのタイプなんですか?」
「私?広域殲滅をベースにしたオールラウンダーや。まぁ私の事はどうでも良いで。まずは自分のタイプの事を考えよ?」
はやてさんの言葉に頷き。また魔法についての基礎知識の勉強を始めるのだった。私は何度も渡された本を見返しながら
(一夏君たちはどうするのかな?)
このまま目を閉じ見ない振りをするのか?それとも前に進もうとするのか。どちらを決断するのだろう?私はそれがどうしても気になるのだった……
俺は寝不足の目を擦りながらあても無く歩いていた。昨晩の龍也の話とネクロの事を考えるとどうしても眠れず、かといって起きているのは辛いほど身体が弱っていた。なのに目を閉じると千の剣の丘とそこで戦っていた龍也と、血を吐き倒れた姿を何度も思い出し眠れなかった。
(どうすっかなー)
それよりも俺の心を蝕んでいたのは昨日の俺自身だ。龍也は俺達を助けてくれたのに罵倒してしまった。謝りたいと思う気持ちともっと他の方法があったんじゃないかと言いたい気持ち。相反する2つの感情が俺の中にあり余計に俺の頭を悩ませた
(どうやって声を掛ければ良いかわかんねえよ)
話しかけたらなんて言ってしまうのか判らない。謝ろうという気持ちに反してまた罵倒してしまうかもしれない……とにかく
(気持ちの整理がつくまでは龍也に話しかけるのはやめよう)
俺はそんな事を考えながら、恐らく自分と同じ状況になっているであろう「セシリア」「箒」「シャル」と話をしようと思い。1番近いシャルの部屋へと足を向けたのだった
「いらっしゃい。一夏」
「おう。悪いなシャル」
差し出された紅茶のカップを見ながらシャルの真向かいに座る
「僕のところに来たのは昨日の事で?」
魔王モードの視線ではなく何時も通りの優しい眼差しのシャルに頷くと
「んー僕も、もやもや感はあるよ?ラウラはラウラで軍人だから切り替え速かったけど、僕は正直良く判らないよ」
「良く判らないって?」
「龍也かな?あそこまで誰かのために行動できるのに、なんで自分をあそこまで許せないのか?それが判らないよ」
龍也は聖人と言えるだけの人格者に思えるよ。紅茶を飲みながら言うシャルは
「龍也は多分いろんな物を背負いすぎてるんだよ。救えなかった者、見捨てた者があまりに多すぎたんだ。後悔だらけの人生って言ってたでしょ?」
龍也の記憶を見た何度も泣いて絶望して、それでも歯を食いしばって前を見てきた。龍也の護るは俺とはまるで違う、護ってきた重み。失った哀しみ、その全てを背負ってきた。だからこそ龍也の護るは言葉の重みが違った
「謝りたいけど、何か別の事を言ってしまいそうで怖いんでしょ?今は時間を置いて気持ちを整理すると良いよ」
そう笑うシャル。確かにその通りだ……今は気持ちを整理すべきなんだ……
「だよな……悪い。時間取らせた」
「別に良いよ。僕自身も……色々と考えてるしね」
くすりと笑うシャルに頷き席を立ち礼を言ってから部屋を後にし、今度はセシリアの部屋に向かうと
「あら……一夏さん」
「大丈夫か?」
明らかに消耗した様子のセシリアにそう尋ねると。セシリアはにこりと笑い
「問題ありませんわ。どうぞ」
部屋に招き入れられセシリアの部屋のイスに腰掛けると
「一夏さんも随分と悩んでいるようですわね?」
その言葉になんと答えようと悩んでいるとセシリアは
「私はヴィクトリアさんに怒られましたわ」
力なく笑うセシリアは頬を抑えながら笑う。その右頬は少し紅くなっている
「もしかして?「ええ。思いっきり頬を張られましたわ」
「どうしてまた?」
「ふふふ。命の恩人に対する罵倒と恐怖。貴族として認めれるものではないと怒鳴られ。ビンタされました……しかしヴィクトリアさんの言うことは正しいです」
静かに語るセシリアに俺は
「ああ。それは俺も判ってる。龍也は命を懸けて俺達を助けてくれたのは俺も判る」
「ええ。無償で何の見返りもなくです……私達は恐れるのではなく感謝すべきだった……」
ですがと呟いたセシリアは自身の身体を抱くように
「私が恐れたのは龍也さんではありません。私が恐れたのはネクロです……」
セシリアは昨日のネクロの事を思い出したのか青い顔をして
「ネクロは人の魂や遺体から作られると龍也さんは言っていました。と言うことは私もああなる可能性があるということ……そう思うと私は恐ろしい」
そうだ。俺もそう聞くと恐ろしくて身体が震える……ネクロは元は人間だった……もし俺達が死ねばネクロにされるかもしれない。それはありえる話だ……セシリアは
「耳を塞いで目を閉じて全てが終わるまで隠れていたいと思います……だけどヴィクトリアさんは言いました「仮にも貴族だということを誇りにしているのなら立ち向かえと、私は貴族でもなんでもないが……立ち止まることはしない」と……ですが私には何をどうすれば良いのか判らない……頭の中がぐちゃぐちゃなんです……」
セシリアの今の状況は俺と同じだ。何をどうすれば良いか判らず混乱している……だが誰に相談してもきっと何も変わらない自分で何かを見つけなければ何も変わらない
「少し話をして気が楽になりましたわ。一夏さんどうもありがとうございました」
「いや。俺もだ、話が出来てよかった。じゃあなセシリア。少し休んだほうが良い」
「そうですわね……それではまた」
寝室に戻って行くセシリアを見ながら。俺も外に出て窓の外を見ると
「箒か?」
まるで迷いを断ち切るように竹刀を振るっている箒の姿が見える。シャルは時間を待つといった。セシリアは怖いと言った。では箒は何を考えているのか?俺はそれが知りたくなり箒のほうへと歩き出した
「むっ。一夏か……」
竹刀を置いて近くの木陰で休んでいる箒に
「よう。ほい」
買って来ておいたスポーツドリンクを手渡しながら箒の隣に腰掛ける
「何をしてたんだ?」
「考えていた。私がどうするべきなのかを……」
箒はタオルで汗を拭いながら俺を見て
「千冬さんの言うことも判る。龍也が居たからネクロがきた、確かにその可能性も考えられる。だが逆に私はこう思う。龍也と言う武力があるから私達は護られていたと」
「それは……「一夏。迷いを持つのは悪くないと父は言っていた。だが私は迷うのは好きじゃない、決めた道がないと……私は前に進めない。だからどうするか考えながら半日竹刀をずっと振っていた」
そこで箒を見て気付いた。きている胴着は相当汗を吸っているのがわかるし疲労の色が顔に浮かんでいる
「なんでそこまで……」
どうしてそこまでしたのかと尋ねると箒は
「迷いを断ち切り答えを見つけるためだ。逃げても時間を置いても何も変わらない。こんなことを言うのは何だが、昨晩は全部千冬さんが悪かったと思う」
その言葉にかっと頭に血が上るがそれを押さえて箒に尋ねる
「まず私は何も知らない。だからまずツバキ先生に聞いた。昨日の龍也の言葉があっていたのか?千冬さんは龍也を疑って観察することを選んだのか?結果は龍也の言うとおりだった。千冬さんは簪とエリスが人質にとられる前には近くに来ていたそうだ」
ツバキ先生が嘘をいう必要はない。だからきっと箒の言ってることは真実なのだろう
「その後はここでずっと竹刀を振っていた。私は馬鹿だからこうして考えることしか出来なかった。だけど判った……立ち向かうべきだと。弥生やヴィクトリアは既に立ち向かうための準備をしている、なら……私は立ち止まっている場合ではないと思う」
箒はそう言うと立ち上がろうとして少しよろめき倒れかけた、俺が身体を支えようとすると
「良い……大丈夫だ。昨日は殆ど寝てないから疲れが出ただけだ……汗を流したら寝る」
ふらふらと竹刀を抱え歩いていく箒は最後に俺を見て
「迷いとどう付き合うか。それが剣士として重要だと……師範は……父は言っていた」
箒はその言い残し寮にと歩いていった。俺は1人で空を見上げながら
(箒は立ち向かうことを選んだ……皆出した答えは違う)
シャルは気持ちの整理をつけるといった
セシリアは怖いとどうすればいいのか何もかも判らず怖いと言った
箒は恐怖はあるが立ち向かうと言った
皆それぞれに答えを出している。鈴はシェンさんと一緒にアリーナの見学に行くとメールをくれた、ラウラは普段通り訓練に参加しネクロの事を聞くとメールをくれた。
(俺はどうしたいんだ?俺はどうすればいいんだ?)
シャルの言うこともセシリアの言うことも箒の言うことも判る、でも俺は何をすればいいのかわからないままだ、そんな事を考えているうちに俺の意識は闇に沈んでいった
《よお。また会ったな》
脳裏に響く何かの声。これは、俺はこの声を知っている
《くっくくっそう怖がることはないだろう?同じオレだろ?》
膝を抱えくっくっくっと笑うオレ。俺は思わず数歩後ずさる
「お前は……お前は!お前はなんなんだよ!!!どうして俺と同じ顔をしてる!?どうしてそんな顔をしてるんだ!」
思い出した最近寝ると1週間に1度はこの男が現れる。だけどその手足は鎖でつながれ声を掛けてくるだけだ。そして男の周りには光り輝く壁があり。そこから男は出て来れないようなのだ
《前に教えてやったろ?オレはお前だ。そしてお前はオレだ。判るか?》
愉しそうに笑う俺は立ち上がり光る壁に拳をたたきつけ
《ネクロを見たんだろ?怖かったんだろう?力がない。力がないから奪われるのが怖かったんだろ?》
そうだ俺は怖かった。今のこの場所が奪われることが
《力が欲しいなら与えてやるぜ?オレはお前だ。オレの力はお前のものでもある。オレの力を使えばネクロなんて楽に倒せるぜ?》
力……そう力があれば。俺は思わず一歩足を前に踏み出したが
《《駄目》》
「君たちは……」
そうまたこの子達だ。俺がオレの言葉を聞いて動いてしまった時に毎回現れて俺を止めてくれる。白と黒のゴスロリドレスの少女たちは真剣な顔をして俺を自分達の方に引っ張りながら
《戻って。ここは駄目》
《闇に飲まれたら戻れなくなる》
《はっは!!!また来いよ!俺っ!!!何時でもオレは待ってるぜ?てめえが力を望むのよぉッ!!!》
その2人の心配そうな声と狂ったように笑うオレの声を聞きながら俺の意識はゆっくりと浮上していった
「織斑君?織斑君?大丈夫?」
「ぁ……えーと……誰でしたっけ?」
俺を揺さぶり起こしてくれた女性にそう尋ねると
「忘れたの?教員予備の黒城よ」
あ……ああ。そうだ、黒城先生だ。俺は身体を起こし
「すいません、起こしていただいて」
「いいわよ。大分魘されてたみたいだからね」
そう笑った黒城先生は寮を指差して
「そろそろ夕食の時間よ?早く行きなさい」
「え?あ……はい!ありがとうございました」
俺はそう返事を返し寮のほうへと足を向けたのだが
「あれ?俺……なんでここに?」
誰かと話していたような気もするが……何も思い出せない暫く考え込んでいると
「まあいっか。飯を食いに行こう」
俺はそう呟き寮の方へと歩き出したのだった……そのあと時間が経った後も結局俺は夢の内容も、俺を起こしてくれた先生のことを思い出すことはなく
(どうすればいいんだろうなあ)
自分がどうすればいいのか?それだけを考えていた……いつの間にか眠りに落ちるまで俺はずっと答えの出ない自問自答を繰り返していた
第73話に続く
今回は繋ぎなので少々短めです。色々と伏線を張っておいたので私が何を考えているのか?と考えていただけると嬉しいです
次回はネクロ・ウサギ・タスクの視点でお送りします。これからは暫くオリジナルの展開が続きますのでどうかよろしくお願いします