第73話
ウサギの思惑。義娘の想い
【おお凄い!これが魔法ってやつ!?】
【ネルちゃーん。ガンバレー】
【なにこの剣の墓場見たいの?守護者とか言っておきながら狂人じゃん♪】
【おおッ!?血を吐いて倒れた?これは死ぬかなぁ?】
けらけらと聞こえてくる束様の声を聞きたくないと思い。離れたところにあるアズマの部屋に向かいながら
(束様は変わられてしまった)
昔。そう私を義娘にするといってドイツから連れ出してくれた時はまだ人を思いやる心を持っていた。それはきっとアズマのおかげ。でも数年前から接触し始めた「ネクロ」そして「ネルヴィオ」達のせいで段々言動がおかしくなってきたと私は感じていた
「あら?こんにちは、クロエ」
「……どうも」
緑色の法衣を纏った女性。いやネクロのラクシュミから顔を逸らしながら挨拶すると
「そんなに嫌わなくてもいいのに♪ところで私のISのトライアウトは済んだのかしら」
ラクシュミはネクロしての戦闘力はなく、束様に依頼して自分用のISを作らせた。しかも2機の試作品を要求し、気に入ったほうを自分用に調整するようにと我がままざんまいだが、束様は快く了承し2機のISを作成した
「ネクロディア・ゼフィルス。ネクロディア・ゴスペルは完成した。今は試運転中。もう少しで貴方専用のISができる」
尋ねられたらこう答えるようにと言われていたのでそう言うと
「そう。それは楽しみだわ。それじゃあね、クロエちゃん」
にこにこと笑うラクシュミに返事を返さず、そのままアズマのラボに向かう
「ん?クロエかどうした?」
「アズマこそ何をしているの?」
アズマ・ワンイレイサ。束様と瓜二つの容姿をし、頭の作りも殆ど同じ。束様との関係は絶対に聞いてはいけないタブーになっているので気になっても聞きはしない。アズマのラボの椅子に座りながら
「何を作っているのですか?」
アズマのラボに設置されたパッケージはクアッドファランクスに似ている様な気がしたが。どうも印象が違うのでそう尋ねると
「強襲用のパッケージだ。いずれ必要になる」
かなり大型のパッケージにいくつも追加武装をつけた。機動要塞とも見える、だがそれでいてある程度の機動力もある用に見える
しかしそれはどうみても過剰戦力と思えるほどの武装を積んでいて思わず私は
「それを使うのは人間にですか?それともネクロ?」
私がそう尋ねるとアズマは私の頭を軽く撫でながら
「心配する必要はない。そうお前は何も心配しなくていい、束はいま少し環境が悪いだけだ、きっとネクロから離れれば元に戻る。だから心配することはない、私が全部上手くやるから」
私に言っているはずなのにそのことばはどこか遠くに向けられているような気がした。アズマが何処か遠くに行ってしまうような気がして思わず手を伸ばしかけたところで
「くーちゃん♪アズマちゃん♪なんかさーラクシュミがお昼を奢ってくれるっているから行こうよ!なんと三星レストラン、たまには外食もいいよね?ん。んんん?アズマちゃん、そのパッケージ何?」
アズマの前のパッケージを見て不思議そうな顔をする束様にアズマは
「お前の敵を倒すためのものだ」
「そーなんだ♪ありがとアズマちゃん♪」
嬉しそうな束様とその背中を軽く撫でているアズマ。私はアズマの言葉を考えていた
【お前の敵】
アズマが思う。束様の敵って誰なんだろう?魔法使い達?それともIS学園?はたまた亡国企業?
(ネクロはないですよね?)
アズマの言う敵がなんなのか今の私には判らなかった、そしてアズマの敵がわかったとき、それはもう全てが取り返しのつかなくなったときだった……それは今から遠くない未来に起きる、その時私は初めてアズマの真意を知ることになる……
闇の陣営
この世界での基地であるヨツンヘイムに戻ったところで
「ぬっぐうう。流石に無理があったか」
「……奴の魔力は俺達には毒だからな」
ハーデスと揃って膝を付く。何とか奴の攻撃を凌ぐ事が出来たが、正直言って余力はない……
(夜天達がいなかったのはついていたな)
もしあの場に夜天達がいたら私達はやられていただろう
「全く初めて見たが守護者はあんなに化け物だとは聞いてないぞ」
「私の知る守護者よりも一回りも二回りも強かった。情報収集が甘かったということだな」
魔力を溜め込んでおいたISコアを王座の後ろから取り出しハーデスに投げ渡す
「またこれか、俺はリンカーコアの方が良い」
「無理を言うな。この世界に魔導師の適正のある人間など殆どいないのだからな」
私達が見つけた3人のリンカーコア保持者は既に拘束して、精神を壊し魔力を出す機械として使っているが。それでもなお魔力は足りない
「空間転移で纏めて連れてこればいいものを」
平行世界の移動が出来る事を知っているのでそう言って来るハーデスに
「そんなことをすれば膨大な魔力反応でこの場所が見つかる。そんな危険を冒すことは出来ない」
守護者達突出戦力をこの場に呼び寄せるとしてもそれはもっと先のことだ。今はデクスもこの世界で作ったISと人間の融合態のディースやガルム達の数も足りない
「それでどうするつもりなんだ?俺達の魔力が回復するまでの攻撃は?」
「それについてはベルフェゴールとヴォドォンに任せる。あの2人なら何も言わずに素体を集めてくるからな」
今回ベルフェゴールは命令違反をしたが。それは別に良い、ベルフェゴールは闘争本能に特化したネクロだから当然だ
「それにもうじきあいつらも動けるようになる。後は徐々に戦力を集めていけば良い」
私がそう言うとハーデスは思い出したように
「あんな1度死んだネクロを再生するくらいなら。それなら普通のネクロの方がよほど役に立つ」
「そう言うな。あいつらは普通のネクロとは違う。人間のときの感情とネクロ化による破壊衝動が交わり全く異質なネクロになっているからな」
ヨツンヘイムを手にした世界で見つけた死に掛けの6体のネクロ。それは珍しい人型のネクロでしかも感情も強く出ていた。無論狂気と言う感情だけだが、それを寄り代に死ぬかける身体を無理に維持していた。その執念は役に立つと思い回収しネクロコアと魔力を与えて再生治療を始めた。それがもう直ぐ終わるのだ
「まぁお前がここでの指揮官だ。好きにするがいいさ」
「どこへ行く?」
甲冑の上から魔力によるカムフラージュをして歩き出そうとするハーデスにそう尋ねると
「人狩りだ。魂でも喰って体力を回復させる。安心しろお前の分も狩って来る」
言うが早く転移で姿を消すハーデス。結局のところ暴れたりないだけだろうと思い王座に背中を預けると
「ベエルゼ様。お加減はどうですか?」
「ベリトか。しばらくは行動できそうもないが問題ない、それでなんのようだ?」
「量産先行型ネクロディアを人間にいくらかお渡ししたいのですがいいでしょうか?」
ネクロディア。ベリトが製作しているネクロコアをベースにしたISもどきだ
「ほう。もう使わせることが出来るのか?」
「はい。その為にテストして、捕獲していた亡国企業とやらの人間を使いたいのですがよろしいでしょうか?」
「好きにしろ、どうせ殺すか魂食いにしか使わん。死のうが鹵獲されようが何の痛手もない」
この世界の情勢も判ったし、大体のISの情報もわかった。もう捕まえておいたあの人間も必要ないと思いながら言うと
「それではそのように話を進めます。スコールは利用しても構いませんか?」
スコールか。私が始めてこの世界に来たときに接触した人間だったな。
「構わん。好きにしろ、使い潰しても良い。作戦の立案は全て任せる、ネクロも使いたいのがいるのなら使え」
判りましたといって頷き出て行くベリトを見ながら。守護者の事を考える、人格者であり最も強い魔導師。それが奴の表側の評価だ。だが私は知っているそんなのは奴の偽りの姿だ、奴の本心は血に飢えた悪鬼だ
(私が戦いたいのは守護者としての貴様ではない)
脳裏に浮かぶは私たちと同じくネクロの力を使い竜人となった八神龍也の姿。そして私はその姿を恐れた絶対に勝てないと思い身を引いた。だからLV4まで生き残ることが出来たが、そのせいで私のプライドはずたずたになった。その失ったプライドを取り戻すためには
(あの姿の貴様を倒す以外のほかの方法はない)
態々この世界に留まっているのはそのためだ。ネクロとしてはこんな世界はさっさと去りたいだが、騎士として武人として与えられた屈辱を晴らすまでこの世界を去るつもりはない。私は目を閉じ王座の背もたれに背中を預けゆっくりと眠りに落ちるのだった
亡国企業の最後の好機
ネクロのIS学園襲撃は失敗に終わったらしい。その事に安堵しながら
(何時マドカをIS学園に送ろうかしら)
このままマドカをここにおいておくのは危険だ。その前に八神龍也に預けたい、何とか都合の良い任務はないかと考え込んでいると
「スコール、貴女に頼みたいことがあるのだけど?」
闇から聞こえてきた声に驚きながら振り返り
「ラクシュミ……驚かされるのはやめてくれないかしら?」
ネクロは転移と言う瞬間移動のようなことを得意にしている。突然現れ話しかけられると流石に驚く
「それはごめんなさい」
全く悪びれた様子のないラクシュミ。また何か厄介ごとだろうか?と思っていると
「近い内に2体のディースと6体のネクロを預けるわ。その後誰でもいいから貴女達から1人人間をつけて、IS学園に仕掛けてもらうわ」
「昨日返り討ちにあったと聞いてるけど。そんなに直ぐ仕掛けるの?」
ネルヴィオが朝ふらりと来て襲撃失敗とか言って笑っていたのを思い出しながら言うと
「直ぐ仕掛けるから良いのよ。まぁただの捨て駒だから、気にしなくていいわ。ただ攻撃を仕掛けてくれればいいのよ」
本当にネクロって言うのは人間を捨て駒程度にしか考えてない見たいね。その事に若干の苛立ちを覚えながらも頷くと
「そう言ってくれると思ったわ。それじゃあね?スコール」
微笑みながら消えていくラクシュミを見ながら私は
(これが最後のチャンスかもしれない)
ネクロの主力は消耗している。このチャンスが唯一マドカを無事にIS学園に送る機会だ。無論戦いになる事は避けられないが
(ユウリと八神龍也には話を通している、きっと上手くいく)
「マドカ?ちょっと来てくれるかしら?」
部屋の奥にそう声を掛けると面倒くさそうな顔をしてマドカが顔を見せる
「なんのようだ?またISの強奪か?」
「違うわ。ネクロと共同でIS学園に襲撃してもらいたいの」
私がそう言うとマドカの瞳に怪しい輝きが宿る。憎悪や敬愛が入り混じった危う色だ
「襲撃……ユウリと一夏は殺してもいいのか?」
マドカは織斑一夏を殺すという目的で亡国企業に来た。そして裏切ったユウリを許さないといっていた、大分時間が経ったがその感情は何も変わってないようだ。それともネクロのせいで変わらなかったのかもしれない
「そこらへんは貴女に任せるわ。好きにして」
多分無理だろうけどねと思いながら言うとマドカはにやあと歪んだ笑みを浮かべて
「は、はは!たまにはネクロも良い仕事を持ってくるものだな!」
上機嫌に笑うマドカは私から背を向けて
「襲撃の日時が決まったら教えろ。それまではISの調整をする」
今マドカのISがアスモデウスだ。ゼフィルスはネクロが回収してしまったから別の機体を使用している。性能自体は第3世代に該当するが中身は第2世代、しかも専属メカニックのユウリがいなくなったから細かい調整が必要になってしまったのだ。これで出撃の日程が決まるまでマドカは部屋から出てこないだろうと思っていると
「スコール。マドカがえらい笑っていたが出撃なのか?」
ネクロと亡国企業が集めていた情報を整理していたオータムがリビングに入ってきながら尋ねてくる
「そうよ。ネクロからの指示でね」
私の言葉にオータムは返事を返さず、代わりに部屋の隅に設置されたワインセラーからワインを取り出し、私の真向かいに座りながら
「これで少しは肩の荷が下りるか?」
マドカのことが私とオータムの悩みだった。だからこそ八神龍也に取引を持ちかけた。そして八神龍也はそれを引き受けてくれた
そのチャンスが来たのだ。だけどこれは分の悪い賭けとしか言いようがない
「それは判らないわ。これからだもの。所で頼んでいたのは?」
マドカが大人しく戦うことを諦めてくれるかどうかも判らないし、もしかするとネクロに回収されてしまうかもしれない。マドカがどうなるかはユウリと八神龍也にかかっている、後はどうなるかなんて私にだってわからない
「仕込み済みだ。あとは神のみぞ知るだな」
そう笑ってワインのコルクをあけて自分の分と私の分を注ぎ
「これからが正念場だ。気を緩めずにいこうぜ、スコール」
「ええ。その通りねオータム」
グラスをぶつけると澄んだ音が響き渡る、それを聞きながら私はこれからの自分たちの行動を考えていた
(どうせネクロは私達を殺すわ。ならその前に八神龍也と合流する)
出来るだけネクロの陣営の情報を集めてからこのマンションを廃棄してIS学園に向かう。距離はそんなにないが、私達が裏切ったと知れば全力で妨害に来るだろう。もしそうなれば
「どちらか片方だけでも八神龍也と合流する。それでいいわね?」
「ああ、私としてはお前に辿り着いて欲しいけどな」
出来るなら2人一緒が良い。だけど早々上手くいくとは思えない、ネクロは凶悪でそれでいて賢い、もしかすると私たちの行動は筒抜けなのかもしれない。それでも行動を起こさずにはいられない
「あら。空ね、今度は私がつぐわ」
空のグラスにワインをつぎなおし。そのグラスを掲げるとオータムも同じようにグラスを掲げ
「「私達が願った未来が訪れることを願って!!」」
2人だけの部屋にグラスを打ち合わせた澄んだ響きが響き渡る。人に対して必要な悪を成し、世界に対しての正義を成す。それが亡国企業の理想。もう2人だけになってしまったが、それでもその理想は夢は私たちの中にある
(ただ利用されるだけで終わらない。必ず一泡吹かせてやるわ。ネクロ)
私は心の中で決意を新たにした、恐らくオータムも同じ。ここからは私達は反逆への策を練る例え逃れられない、死が待っているとしても人としての尊厳、そして誇りは捨てない。最後まで抗い続ける……
それが私とオータム。もうたった2人だけになってしまった亡国企業としての誇り。
この想いだけは絶対に失うわけにはいかないのだから……
第74話に続く
私の中では亡国企業は必要な悪をなす正義の組織と言う認識があります。スコールとマドカが好きと言うのもありますけどね
次回はIS学園編でユウリさんや楯無さんとかを出してISの改修の話にしようと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします