第98話
龍也に観光に連れて行ってやると言われて、車に乗って街に来たのだが……
「そう緊張するな!アイビス!」
「は、はいいい……」
途中で隊舎に行くはずだったアイビスさんだったが、龍也に丁度いいとか言われて。猫のように襟を捕まえれて強制連行。憐れである、更に街に到着すると同時に逃げようとしたから、襟を再度掴まれ捕獲、何と言うか不憫である
「何故連れて来たんだ?龍也」
千冬姉にそう尋ねられた龍也はうんと頷いてから
「いや、スバルとかもいないし、はやてとかも仕事だし。街の情勢を知るなら若者、そして丁度良い所に来たアイビス。それが理由だ」
私じゃなくても良かったんですか!?アイビスさんがそう叫ぶ、俺達はそんなアイビスさんを見て
(((何時まであのままなんだろう?)))
龍也に襟をつかまれたまま。猫のように連行されているアイビスさんはむちゃくちゃ目立っている。人数も多いし、何より龍也が目立つから視線が集中している。何と言うか憐れと言いたくなるような顔をしている
「八神大将。そろそろ離して貰えませんか?」
「ん?ああそうだな。すまない、じゃあアイビス。案内してくれ」
平然と言ってアイビスさんを降ろす龍也は任せたと笑っている。多分六課の人もこんな感じで振り回されているんだろうなあと思った。
「じゃあえーと案内しますね。若い人が多いならそうですね……買い物とかどうですかね?近くに色々店がある所があるんで、そこに行きましょうか?」
アイビスさんが手帳を見ながら言う、それを覗き込んだシェンさんが
「お菓子の店ばかりスクラップしてない?」
「う。別にそれはいいじゃない!この店美味しいんだから、それで八神大将。そこに行くのはどうでしょうか?聖王教会は見たなら、観光名所は夕方の方が綺麗だと思うんですが」
アイビスさんにそう尋ねられた龍也は首を傾げて
「そんな所あったけ?」
え?思わず目を丸くする。龍也はこの街で暮らしているはずなのに?と思わず龍也の顔を見る、だが何も言えないでいるとツバキさんが
「知らないの?住んでいるのに?」
「いや、私は殆どネクロとの戦いで殆どいないから……新しい店とかは知らないんです。アイビスその店は最近出来た店か?」
逆に尋ねられたアイビスさんははいっと頷いて、半年前に開店しましたと言うと
「じゃあ丁度IS学園にいたころだな。知るわけないのは当然だな」
あっはは!と笑う龍也。なんかこうして見ると本当に人の良いお兄さんって感じだよな~と思っていると
「まぁとりあえず行きましょう。こっちです」
アイビスさんに先導され俺達は街を歩き出したのだが
((凄い目立っている))
龍也が先頭を歩いているから物凄く目立っている。通り過ぎる人が1回立ち止まり2度見している。これを見た俺達はひそひそと
(やっぱり龍也は有名人なんだな)
(私は雑誌で見たが、どの雑誌も特集記事を組んでいたぞ)
(あたしはTVで見たけど、特集TVが多かったわね)
短くこの世界の生活でも判るほどに龍也は有名人だった。俺達ってもしかしてかなり凄い人に訓練をつけられているのかもしれないと思いながら龍也とアイビスさんの後を追って歩き出したのだった
アイビスさんに案内されて来た店は凄いお店だった。複合ショッピングセンターと言う奴なのだが、私達がいる所とは規模が違っていた。
(凄いわね、これは)
日本とは敷地が違うからといえば説明がつくのだが、それにしたった外の見た目と中の大きさが完全に違う
「龍也さん。これも魔法なんですか?」
簪ちゃんがそう尋ねると龍也さんはそうだと頷いてから
「空間魔法の応用だな。複数の魔法を発動させて、それを更に複数の制御魔法で空間を圧縮している」
魔法ってそんな事も出来るのね、私はただただ感心することしか出来なかった。色々と神秘的なことを見てきたつもりだが、これはかなりの極めつけね
「さてと行くとすれば服売り場とかどうですか?」
アイビスさんが私達を見て言う。この世界の服……確かに少し興味があるかもしれない。スバルさんとかの私服を見ると、お洒落でそして珍しいデザインの服には正直興味があった。それは勿論私だけではなく箒ちゃん達も同じだったようで、目が輝いている
「行きたいようだな。見に行くか」
龍也さんの言葉に頷き、レディースコーナーに向かう。そしてそこで私達は思わず
「「「わぁ……」」」
思わず歓声の声を上げてしまった。民族衣装のような物や綺麗な染め抜きの服……私達の世界では見た事のない服がこれでもかと陳列されていた
「素晴らしいですわね。これは……」
「本当だな。美しいドレスだ」
手にとって身体に当てているセシリアちゃんやヴィクトリアちゃん。姿見も完備されていて鏡で見ることも出来る、サービスが行き届いているわね
「一夏。姉さん、私は服はどういうのが良いか判らない。見てくれないか?」
「ん?ああ、そうだな。見てやろうマドカ。一夏も見てやれ」
「俺?俺もそう言うのは良く判らないぞ?」
そんな話をしながらマドカちゃんの服を選びに行く、織斑先生と一夏君
(皆興味津々って言う感じね)
皆それぞれに興味のある服を見ている。私も見に行こうかなと思って服を見ていると
「これはどうだ。楯無」
「え?」
ユウリに差し出された白いワンピースを見て、思わずユウリを見ると
「何だその顔は?ワタシに選ばれるのは不服か?」
ちょっとだけ不機嫌そうな様子で尋ねてくるユウリ。まさかユウリがこんな事をしてくれるとは思ってなかったから驚いただけと返事を返し、
「着てみようかしら?」
「いいんじゃないのか?見た目だけでも清楚にしてみてはどうだ?」
見た目だけでもって酷い!?乙女の純真をなんだと思っているんだと思っているんだと文句を言いたくもなったが
「ふふん、その発言後悔しない事ね!」
これでも私は更識家の娘として一通りのことは全部出来る。勿論もっとお嬢様風に喋ることも振舞うことも出来る、普段やらないのは疲れるからだ。私はユウリに差し出されたワンピースを手に試着室にへと向かったのだった……試着してお嬢様風に振舞ったら
「すまない。ワタシが悪かった……」
ユウリは直ぐに折れていつも通りに頼むといったのだった……
中国コンビ 魅了される
「鈴何を見てるの?」
じーっとショーケースを見つめている鈴にそう尋ねると
「指輪」
ぼそっと呟く鈴。鈴が指輪?珍しい、アクセサリーの類はあんまり好きじゃないのにと思いながら、後ろからショーケースを覗き込んで
(ふーんって指輪!?)
服売り場の筈なのにさも当然のように並んでいる。高価そうな指輪に驚いた。しかし……確かに
「綺麗だね」
「うん」
金のリングに青紫の宝石や透き通るような蒼の宝石が埋め込まれていて、とても美しい。それなのに値段は2000円弱と安い
「人工の宝石なのかな?」
「そうじゃないの?」
鈴とそんな話をしていると店員さんが声を掛けてきた
「その指輪は八神大将が考案した、簡易プロテクションを発生させる特殊デバイスです。こちらは突然のネクロの強襲に備えて買われていかれる女性が多い当店お勧めの品です。リンカーコアのない方でも使用できるのでお勧めですよ」
これもデバイスって奴なんだ……じゃあ
「このブレスレットとかペンダントもですか?」
同じように並んでいるブレスレットとペンダントを見ながら尋ねると
「その通りです、ブレスレットタイプとペンダントタイプは男性が良く買われていかれます。この真ん中の魔力石は時間とともに魔力を回復させるので何回でも使えるので便利ですよ」
商品を紹介してくれる店員さんにありがとうございますと言ってから
「鈴。買う?」
プロテクションは確か防御魔法。ネクロに襲われる可能性を考えると買って置いた方がいい気がする。私は買うつもりだけどと尋ねると
「あたしも買うわ。それと箒達にも声を掛けておきましょうか」
ネクロに狙われるのは箒さん達も同じはずだ。むしろ私より箒さん達の方が危険かもしれない。私はそんな事を考えながらブレスレットを1つとって
「最後に1つだけ、2000円とかで本当に安全なんですか?」
そう尋ねると店員さんはくすりと笑い。
「はい、この指輪やブレスレットを正規価格で買おうとすると1万はしますが、八神大将のご好意とスカリエッティ博士の研究の成果で量産体制が取れたため、半額以下でご提供させていただいております」
やっぱり龍也さんとスカリエッティさんは凄いんだなあと感心しつつ、私は自分で選んだブレスレットを購入したのだった。なおこのブレスを見た龍也さんとスカリエッティさんは、どうせならといって同じ色の魔力石。しかも更に強力なものに交換してくれたのだった
ドイツコンビ+α×2
「クリス、こういうのはどうだ?」
「判らない」
「ラウラ、これは?」
「判らない」
私と弥生は溜息を吐きながら、また服を選び始めた。ラウラとクリスに服を選んで欲しいと言われて引き受けたが
(これは予想以上に難敵だ)
ドイツ軍人として軍で育った2人の女子的感性はかなり低かった。何を見ても判らないの一点張り、どんな服がいいかと尋ねても良く判らないか、実用的なのが良い。としか言わない
(あーヴィクトリア。安受け合いしちまったなあ)
弥生の言葉に頷く。近くに居たからと言うことでクリスとラウラに声を掛けられ、いっしょにと誘われたので良いといったのが間違いだったのかもしれない。
(セシリア達は自分のを選んでいるか)
セシリアとシャルロットは自分の服やアクセサリーを選んでいるのが見える。私と弥生は自分の服を買うつもりはなく、別の世界の服と言うのを見てみようと思っていたから別に良いのだが
(どうせ選ぶなら喜んで欲しいのだが)
ちらりとラウラとクリスを見てみる。ラウラはいつもの無表情、クリスは携帯タブレットで何かを調べる、いや分析している。私も服装には疎いが、ラウラとクリスほどではない
(うーむ。どんなものがいいんだ?)
そう尋ねた所で判らないと返事を返すに決まっている。ではどうするかと考えた私は、店内の鏡を利用してラウラ達を観察することにした。無意識に見ている服に興味があると思ったからだそしてその作戦は成功した。ラウラもクリスも何回か見ている服が合った
(弥生あれだ)
(ん?あれか……)
ラウラはやはりボーイッシュな服装がいいのか上下セットに帽子を着ているマネキンを何回も見ていた。ボーイッシュと言っても可愛らしいタイプの服だ。ラウラみたいな小柄なタイプには良く似合うはずだ
クリスは白系統が好きなのかワンピースやブラウスを良く見ていた。あとは私と弥生の服を見るセンスが試されるわけだ。私はそんな事を考えながら、クリスの服を再び選び始めたのだった
「ふむ。マドカはこれが似合うな、あとこれとこれとこれ」
次々にマドカに服を手渡していく千冬姉。ぱっと見ているだけなのにサイズは全てマドカにぴったりなのが驚きだ
「これを全部試着するのか?姉さん」
俺が持っている服を見て尋ねてくるマドカ。俺はハンガーに掛かった服をこれでもかと持っており、ハンガーの首が指に食い込んでいて正直痛くなってきている
「試着?必要ないな、私の目利きを舐めるな。一夏の服だって全部私が選んでいる」
そう、そうなのだ。学生時代から俺は自分の服を言うのを選んだ事が無い。下着は自分で買っているが、Tシャツやジーンズは全て千冬姉の見立てだ。これは千冬姉の悪い癖とも言えるのだが
(自分の選んだ服を俺に着せて写真を撮るのが好きなんだよな)
千冬姉は写真を撮るのが好きだ。特に家族と撮る写真が、だからその写真を撮る時は一切の妥協をしない、服を見るセンスは確かに一流だから文句を言えない。しかも成長しているのにサイズは全てぴったりと言うのも正直驚きだ
「あとはうん。これだな」
「まだ買うのか!?」
「当たり前だ。マドカには私服がない。夏場・冬服・秋物全部買うぞ」
そんなにもてません。お姉様……千冬姉は自分の弟の筋力とかを過信していないだろうか?今でもかなりギリギリなのに……
「とりあえず会計して荷物を預かってもらおう。そしてまだ買うぞ」
勘弁してくれと思ったが、ふと思い出す。最後に千冬姉と買い物に来たときは2時間以上買い物に付き合わされた。無論俺の服を選んでいるだけでだ……
(龍也の予定とか大丈夫なのか?)
案内してくれる場所は夕方が良いとは言っていたが、食事とかもあるし折角の観光だから見ておきたい場所もある。とりあえず俺に出来るのは千冬姉が早めにマドカの服を選ぶのを止めてくれるのを祈ることだけだった
~1時間後~
「千冬。妹さんの服を選ぶのが楽しいのは判るけど、それくらいにしたら?」
「うむ。箒やラウラ達も待っているぞ?向かいのカフェでな」
俺とマドカを救ってくれたのは龍也とツバキさんだった。若干呆れたという顔をしているのはご愛嬌だろう。2人にそう言われた千冬姉は
「あ、ああ……すまない。多少夢中になっていたようだ。マドカの服の選ぶ続きはIS学園に帰ってからにしよう」
まだ買うのか?と言う顔をしている龍也とツバキさん、だが正直この程度ではまだ甘い。千冬姉は自分の事には無頓着だが、俺にはかなり甘い面がある。そしてそれは妹のマドカに対しても同じことだ、買い物するときは万単位で買い物をし、更に箪笥まで買うときもある。それで考えれば今回はまだ甘いと言わざるを得ない
「とりあえず会計だ、行くぞ一夏」
「うーい」
ふんっと気合を入れて服を抱えなおし、俺は千冬姉の後ろをついてレジへと向かったのだった。
財布を取り出して会計をしている千冬を見ていた龍也とツバキは
「軽く万は越えてますよね?」
「10万言ってるかもね」
買い込んだ量に店員も驚いている、しかも現金で買うと言っているから更に驚きと言う感じだ。しれっと会計をしている千冬を見て龍也とツバキはふうっと溜息を吐いて
「ツバキさん、あの荷物を積み込むのを手伝うので箒達の食事代はこれで」
「私も持ってきてるから大丈夫よ?」
「アイビスは有名な大食漢なんですよ、普通の人の2倍は食べますから」
「……そうね。じゃあ貰っていくわ」
ツバキは信じられないという顔をしてカフェに向かい、龍也は会計を済ませた千冬達の所に向かい。買い込んだ服を車のほうへと運ぶのだった……
「さてと……思ったより時間を食ってしまったな」
荷物がよそうより多いといった龍也は仕方ない最終手段とと言ってから、魔法で服を直接千冬姉とマドカの部屋に跳ばした。魔法を街中で使うのは駄目なんだがなと苦笑する龍也に、魔力反応と言うことで注意に来た管理局の人は龍也を見て回れ右で去って行った。さすがに自分のところのお偉いさんに注意する勇気はなかったのだろう
「それで満足したかね?アイビス」
「は、はひ!ご馳走になりました!」
箒達の話によると自分達の3倍はケーキを食べていたらしいアイビスさんが上ずった声で返事を返す。その様子に龍也は上機嫌に笑いながら
「食事もまた訓練と言う言葉がある。生きるということは食べることでもある、健康でいいことだと思うよ」
女性が食べる量を褒められても嬉しくないと思うんだけどなあと思いながら
「龍也どこに行くんだ?」
「ん?適当」
案内じゃないのか!?適当ってどういうことだ!?俺達が混乱していると龍也は冗談冗談と笑いながら
「海が近くにある。泳げるような場所じゃないんだが、近くにレストランとかもあるし、テニスコートとかもある場所がある。そこに行こうと思うのだがどうだ?」
運転しながら尋ねてくる龍也にセシリアが
「観光名所と言うのは?」
「あそこは夕方の方が良い。空が近くてな、星が良く見えるんだ」
星が見えるなら夕方の方がいいんだろうなと納得する。龍也はまぁ昼間は昼間で綺麗なんだけどなと笑いながら、ゆっくりと海のほうへとハンドルを切ったのだった……
夕方までテニスやバスケットボールで遊んだ後(千冬はスポーツの万能だったようで、代表候補である簪ちゃん達をらくらく抜いてダンクシュートを決めていた)ユウリや楯無は見ているだけだったけど楽しそうだった
「さて、じゃあそろそろ行くか。決着付けろよー」
龍也君がそう声を掛ける。バスケットコートでは
「抜かせてもらう」
「そう簡単には」
マドカと箒が1対1で勝負していた。さてどっちが決まるかな?と思ってみていると
「はっ!」
「くっ!させん!」
クイックターンで飛び上がったマドカのシュートを箒がジャンプして弾いた。身長差が勝負を決めてしまったようだ
「決着は付いたか。早く戻って来い。この時間は道が込むんだ」
龍也君の言葉に慌てて戻ってくる一夏君達を乗せて、車は街外れのほうに向かって走り出した
「龍也さん。この方向って」
「楯無とユウリはもう行ってたな。そう私が良く行く場所だ。少しだけ山を登るが……いいところだぞ」
どうも楯無とユウリは行く場所を知っているみたいね。私は
「どんな所なの?」
「小高い丘で街の明かりと星空が凄く綺麗な所でした」
へーそれは楽しみね。私はそんなことを考えながら、窓の外を見つめたのだった
「確かにここは連れて来たい場所よね」
龍也君に先導され上ってきた丘から見る、街と空は確かに綺麗で一見の価値があると思った
「確かに綺麗だな。日本じゃ見れないかも」
「そうだな。これは確かに素晴らしい」
ここまで上ってくるのは少し疲れたけど、十分に価値のある物を見れたと思って夜空を見ていると
「まだ。終わりじゃない、こっちだ」
そう言って龍也君が崖の方に歩いていく
「そっちはがけ……ええ!?」
龍也君の姿が溶けるように消えた。どういうこと!?と思ってみていると龍也君が顔を出し
「この先は関係者しか知らない。こっちへ」
関係者しか知らない場所?……そんなところに私達を案内する目的はなんだろう?と思い首を傾げているとアイビスさんが
「守護者の墓標……そっか。ここだったんだ」
守護者の墓標?1人だけ知っているという感じのアイビスさんにエリスちゃんが
「守護者の墓標?守護者と言うのは龍也さんの渾名なのでは?」
そう尋ねられたアイビスさんはそうといって頷いてから
「パンデモニウムが落下した際に、八神大将は1年の間行方不明になっているんです。MIA扱いで墓標が建てられたんです、それは関係者しか知らない場所なんです」
そう言って歩き出す、アイビスさんの後を追って崖の方に足を伸ばすと
「あっ地面がある」
見ているのは空なのに、ちゃんと地面がある。これも魔法の力なのねと思いながら完全に崖の方に身を乗り出すと、そこにはちゃんと丘が続いていた……その先には丘を登っていく龍也君の背中が見える。その背中を追って丘を登っていく
「ここは……」
上りきった丘の上は全く別物の世界だった。足元は街の光があり、顔を上げれば星に手が届きそうとさえ思える。そして丘の上にある墓標の前にしゃがみ込んだ龍也君は
「ここは私の墓でもあり、セレスの墓でもあり、そしてネクロとの戦いで死んだ者達の墓でもある」
龍也君は淡々と語りながら。コートから取り出した酒瓶を傾けて墓にかけている
「ネクロと戦うということは死を覚悟するということだ。今この場でもう1度問おう……お前達はネクロと戦うのか」
観光なんてとんでもない、これは最後の確認のためだったのね。日常を思う存分楽しませてから、それでもなお非日常に足を踏み入れるのか?と問いかける。それはずるいとも言えるが、確実な手だった。これで揺らぐのならネクロとは戦わないほうが良い。一夏君達は少し考える素振りを見せてから
「俺はもう決めてる。ネクロと戦う、逃げないってな。それに今日1日普通の事をしてて思ったんだ。この日常を護りたいなあって……だから俺は戦う。もう逃げない」
一夏君が一歩前に踏み出して言う。そして箒達も同意権だと言う感じで頷いている、龍也君はそうかと言って
「なら良い。私はお前たちが死なないようにするだけだ。選んだ道に後悔するなよ」
そう言って夜空を見上げながら、お前達も見ておけ。これだけの星は滅多に見れないぞと言った。私は空を見て
(確かにこの空は見えないわね)
星しか見えないその夜空は私の記憶にしっかりと残ったのだった……多分。一夏君達も同じなんだろうなあと思いながら暫くの間夜空を見続けるのだった
「やっぱ拒否反応が出たかぁ……」
私はポッドニ入って眠っているセリナを見てそう呟いた。やはり死体のネクロ化は不安定なのかもしれない、とは言えセリナは私に良く似ているので見捨てることも出来ない。出来るだけ拒絶反応を出ないように調整してあげたほうがいいのかもしれない
「ネル……ネル」
「ん?モモメノどうかした?」
私の服の裾を引っ張るモモメノの視線に合わせる為にしゃがむとモモメノは私の耳元で
「いる……LV5」
その言葉を聞いて、モモメノを抱き抱えて立ち上がると
「どーもー」
ぼさぼさ頭の着崩したタキシード姿の浮浪者が私を見ていた。当然ヨツンヘイムの中なので人間がいるわけが無い
「何してるのよ。ランドグリーズ、気持ち悪いわよ」
「あっははは。情報収集はこっちの方が楽なんですよ?魔力反応が消えますからね」
くっくっくと笑いながら。ぴんとしたタキシードにスカーフ姿になるランドグリーズは着込んでいたマントを椅子にかけ
「いい加減にうんっと言ってくれませんかね?」
「帰れ。勝手に椅子に座るな」
こいつは何時もこれだ、鬱陶しいことこの上ない。ランドグリーズは
「盟主に使えるのがそんなに嫌ですか?」
「嫌よ。私は私の意思で動くの、誰かに仕えるなんてうんざりよ」
「より強力なネクロになれるとしても?」
「しつこいわよ。帰りなさい、ベエルゼを呼ぶわよ」
ベエルゼを呼んだ所で戦力にはならないが、援軍をとかを言われるのは面倒なはずだと思い言うと
「ふー判りました。今回は帰ります、寄っただけですからね」
寄っただけ?珍しい。いつも来るときは私が折れるまで説得しに来る。だから盟主のいる所から直接来るのにと思っていると
「リーエを追いかけていた者で」
しれっと言うランドグリーズだったが、私は一瞬頭に血が上りモモメノを抱えているのを忘れ、力を入れてしまった
「ネル……痛い」
ぺちぺちと私の腕を叩くモモメノにゴメンと言いながら
「それを言いに来たの?最低ね」
「別に他意はありません。少々手こずる相手を仲間にしたみたいですのでね。一応教えておこうかと」
ランドグリーズが手こずる?そんな相手がいるのか?と思っていると
「聖魔王が仲間になったようです」
「!あいつ生きてたの?」
「ええ。生きていたようです、残念ですけどね。あれもLV5の器として優秀だったんですけどね。さてとでは失礼を、ベエルゼと遊んでいるのも良いですが、早々に切り上げてくださいね」
マントを羽織り溶けるように消えていくランドグリーズを見ながら。モモメノを降ろして
「お菓子でも食べてなさい。私は考えることがあるから」
「うん」
ぬいぐるみを抱えて部屋を出て行くモモメノを見送り。私はイスに腰掛け
「リーエ。お前はお父様に会わせない」
リーエ。お前は私が潰す、お父様のいる世界に行く前に叩き潰してやる……お父様の娘は私だけ、お前もあの子も消えれば良い
「もうそろそろ私もこの世界から手を引くときみたいね」
お父様がいるからこの世界にいるが、もうそれも良いだろう。私も本格的に自分の目的のために動こう……誰よりも何よりも優先するのはお父様だけ、だから私からお父様を奪おうとする存在は許さない……何をしても、どんな手を使っても
「殺してやる……」
私はそう呟き。セリナの眠る部屋を後にしたのだった……
第99話に続く
次回は少し時間を飛ばします。101話からはまたIS学園変の話になりますね。そこからは話を大きく動かすつもりです、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします