meet again 作:海砂
発見後、割とすぐに三枚のプレートを集めたハンゾーとの交渉は、何事もなく終了した。
「いやー3ポイント×2の方がなんとなく審査員ウケよさそうだしなー」
……ハンゾーが単純な人でよかった。余計な条件をつけずに済んだから、次でぶつかったとしても手加減なしに戦える。勝てるかどうかはともかくとして。
そうして、私たちは三枚のプレートを手に入れることができた。
私は、反対されることを重々承知の上で、それでも二人にこう言った。
「一人でヒソカに会いに行く」
予想通りの反応が返ってくる。行くなだの一緒に行くだの、もう一回殴っちゃるだの。でも、これは私が考えて、選んだ道だ。二人の説得では、頑固な私の考えを変えることはできない。……二人だけでも、無事クリアできる可能性があるのだから、余計な戦闘が起こるかもしれないこの道をともに歩くのは嫌だ。私一人だけでいい。
「……わかった。俺たちはスタート地点付近で待っている。お前さんは、こいつを連れて行け」
ウイングは手のひらから、小さなトンボを一匹生成する……
「俺の力じゃ一匹が限界だが、お前さんの動向くらいならわかる。状況によっては、お前さんがどう思おうが即座に加勢しに行く。俺が譲れるのはここまでだ。うまくプレートを手に入れることができたら、こいつで俺たちのいる場所まで誘導しよう」
「OK、でもできるだけ邪魔はしないでほしいな」
トンボを肩に乗せ、89番の札を受け取って、私は全開の『円』を発動する。全オーラを円に割り振るのは初めてだけど……たぶん、集中して、ウイングみたいに形を扇状にでもして、薄く浅く長く踏ん張れば300mはいけるはず……!
幸か不幸か、範囲内でヒソカの位置を把握する。間違いなく向こうも私に気づいただろう。
「じゃ、後で必ず」
「絶対戻ってこいよ! 無事でだぞ!!」
二人と別れ、ヒソカの方向へと足を向ける。およそ中間地点で、彼と相対した。
「……円をこれだけ広げられるなんて、キミ、やっぱりいいね♥」
足は、震えている。それはおそらくヒソカにも伝わっている。
「どうしてそんなに怯えるのさ♣ 別にとって食ったりはしないよ? もう、プレートも6点分手に入れたしね♦」
いや、お前はとって食うだろが! なんて心の中で突っ込むくらいの余裕はある。塔の時と違って不意打ちではないからね。……あのネットリとした視線は相変わらずだけど。ナチュラルに見るだけでセクハラできるなんて、相変わらずの見事な変態っぷりだ。
「お願いがあります」
「なんだい?」
「あなたの持っている……80番の札を、私の持っている89番の札と交換してください。あなたにとって、それらの札は等価値のはずです」
私の全てを晒されるような視線に耐え、私も彼の目を見つめる。たとえ体が震えていても。
「確かに……けど、何故そのことをキミが知っている? やはり何らかの能力を持っているんだろう?」
「違います。しいて言うなら、私はこの世界のほんのわずかな未来を、念能力無しで知っているということです。たとえば、今は寝ているあなたの相棒ギタラクル氏の正体。たとえば、蜘蛛の4番の秘密。たとえば、あなたがこの試験で見つけた『青い果実』」
ヒソカは大きく目を見開き……そして、くつりと笑った。にたりの方が近いかな。
「なるほどなるほど……でも、それは念能力ではない、と♦」
「そう。そもそも、そんな仔細まで知ることのできる未来予知能力を私が使えると思いますか?」
「それは確かに無理だね、将来はともかく♥」
私にそれだけの器があると思っているのなら、買いかぶりもいいところだ。けれどこれは賭け、ギャンブルだ。怯えが伝わっていたとしても虚勢を張る必要がある。
水は100度で水蒸気に 液体から気体へその形容を変える。
そんな変わり目を 私は今自分の身の内に感じていた。
そう……思えば思い返せば、
私には無かったのだ。今までの人生で「何者か」に変わる瞬間など。
ゆえにこれほど強くこれほど真っ直ぐに、感じたこともまたなかった……
己が存在の
生を……!
今確かに生きているという感触。その震えを……!!
私がカイジに脳内侵食されてる隙に、ヒソカがちらりとトンボを見た。特に隠しているわけではないので、これが念能力であることは100%ばれているだろう。ウイングの物だとばれているかどうかまではわからないけど。
「で、私の交換条件は呑んでもらえるのでしょうか」
「いいよ、ただし条件がひとつある♠」
来た! この条件、その内容によって私は道を再び選ぶ。逃げても彼は私を追ったり殺したりはしないだろう、占い通り。そして、内容によっては……受ける。
信じるべきは、オレの力…………!
勇気を出せ……!
二度三度なんて言わねぇ………
ここ一度だけ……
勇気を…………!
生き残るための勇気……
「……そちらの条件は、何ですか?」
勇気を振り絞って訊ねた答えは、予想外にあっさりしたものだった。
「ボクの彼女になってよ♥」
真顔。一瞬、私の脳はフリーズし、即座に何でやねん! って、つい思わずヒソカの胸にツッコミ入れてしまった。こう、右手でビシィっと!
「ヒソカ、ロリコン!?」
「ボクはキミが見た目と同じ年齢だとは思っていないよ? 念を覚えるとあまり年をとらなくなるしね……実際は18、9歳ってとこかな? 少なくとも、思考レベルや精神年齢は♦」
やばいな……ズバリ当たってる。いや、そういう問題じゃなくて!
「あなたの言う『恋人同士』ってどういう関係ですか?」
「そりゃ、一緒に手をつないで……バトルオリンピアでデートなんか楽しいかもしれないね♥ 二人でディナーを食べたり、もちろんキミが望むのならそれ以上の関係だって……」
「何でやねん!」
ごめんなさい。相手はヒソカだってのに、今度は側頭部にバチコーンとツッコミいれてしまいました。このままだとハリセン具現化してしまいそうです。っていうか何故避けないヒソカ!
「あの、私は仲間と、基本的には三人で行動してるんですけど」
「もちろん、彼らも一緒でいいさ♦ メガネの坊やは面白そうなカンジだし、バットの子もおいしそうだしね♥ 最終的には育ちきったキミ達とアットホームな修羅の家を作るのが目標かな♥」
はいはい変態乙変態乙。なんか段々怖くなくなってきたな。強い変態じゃなくてキモい変態に見える。ハートマーク乱舞するなキモい。
「そう、キミは怯える必要なんか無いんだよ? 必要であれば守ってあげるし、目的があるのなら協力しよう♥」
「守られるだけの女に興味なんかないでしょ」
退路なんか、もうねえんだよっ……!
「フフ、よくわかってるね♦ これだからキミが気になって仕方が無いのさ♥」
「これ以上ハート出したらその頭かち割ります」
何も怖くないのはたぶん、そういう雰囲気にヒソカが持っていってるんだろう。悔しいけど、間違いなくからかわれている。
「……怖いなァ♣ それで、条件は呑んでもらえるのかな? できればキミたちと一緒に行動したいんだけど、勝手に壊れないでいてくれるなら離れていても問題は無いよ? 時々会って、お茶でもしよう♦」
……ヒソカの言う恋人に深い意味なんてない、深い意味なんてない……よし! ……人生初カレがヒソカっちゅーのがなんともビミョーだけど命と貞操さえ守れるならこの際目を瞑ろう!
「交渉成立ですね。……ただ、私たちが天空闘技場の200階未満にいる時だけは、声をかけずそっとしておいてもらいたいんですけど」
「理由はわからないけど、そのくらいなら構わないよ♦ そのうち、じっくりと、キミの秘密を聞かせてもらうことにしようかな……♥」
手渡しで、89番と80番のプレートを交換する。そのついでに、手の甲をとられキスされた。あとでしっかり消毒しておこうキモイキモイキーモーイー! どうせテメーは変化系だろがすぐに飽きてポイ捨てするんだろが今すぐ捨てやがれ! いや、でも飽きたらカストロみたいにあっさり殺されるのか? それは困る、さすがに。
「じゃあね、この試験での健闘を祈るよマイハニー♥」
ウインクをオマケにつけて、私に頭をかち割られる前にヒソカは姿を消した。
ある意味無事に、ある意味自爆しつつ、私は何とか交渉を終えた。肩からするりとトンボが飛び立って、二人の居場所へといざなう。……あー、戻ったらきっと、盛大におちょくられるんだろうな……そしたらヒソカと間接キスさせてやろうそうしよう。