meet again   作:海砂

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二度目の講義中

……十人ほど、ですか。結局、出席をとらない講義の出席率など、こんなところなのでしょう。

 

「流河、僕に見せたいものって、成瀬先生の講義だったのか?」

 

「はい。面白そうなので是非よければ夜神君も一緒にと思いまして。すでに成瀬先生の講義をとっているとは計算外でしたが」

 

 私と夜神月を目の前にして、成瀬拓がどう反応するか……。先週声をかけたとき、彼は私を見て必要以上に動揺していたふしもある。まさか、すでに夜神月から成瀬へ情報が漏れているとは思いがたいが……。

 

「おーっす、おはよー。……あーこのクラスも人の集まり悪いなー。よーしお前さんら前来い前。プチゼミ形式でおしゃべりしようや。寝ててもいいぞ。別に採点下げたりはせん」

 

 教卓前に、次々と生徒が集まる。そこにつどった私と夜神月の姿を見て、成瀬先生は……盛大に、むせた。

 

「グェホッ、お前ら、俺を殺す気か! ゲホゲホッ、あーびっくりした。俺の授業は東大主席が勢ぞろいするほどクオリティ高くねーぞっ。そもそも夜神はおとといの講義受けただろーがっ!」

 

「すみません。しかし成瀬先生の講義はとてもユニークですし、是非流河と一緒に受けたら、さらに深いところまで掘り下げられるかと思いまして……」

 

……成瀬は既に夜神と接触した……この形式の講義ならば、既にそれなりの仲になっているのは間違いないだろう。しかし最初の接触は、先週の私の接触よりも前か? 後か?

 

「……いよーし、こうなったら毒を食らわばテーブルまで食っちゃる、まとめてかかってこいや! でもあんまり無茶苦茶な質問とかはやめてね、俺の知識、底が浅いから。えーと、流河、立木、大石、溝上、上村、田中、毛利、畑、牛島、それに夜神か。OK、じゃあ始めようか。あ、座り方自由、飲食物の持ち込み自由な。とりあえず最初にちゃんと講義に出てきたお前さんらに俺様から棒キャンディを進呈しよう」

 

 このおどけた様子はフリか? 地か? ……それに顔だけで、学生の名前をともに把握させている。それなりの記憶力はあるということか……あるいはもしや、『キラとして動くために』顔と名前を常に一致させるよう習慣付けているのか。

 

 ワタリの報告によれば、成瀬拓はおととしまで、高校で日本史を教えている。それが去年突然辞めて出身大学の講師となり、今年からはこの東応大学の講師になっている。……少し変わった経歴ではあるが、それほど不審な点はない。同居家族はなし、遠方に両親は健在で、兄弟はなし……。見た感じでは、キラとして動くには少し頭が足りない気がするが、それも演技かもしれない。注意深く様子を観察する必要があるだろう。

 

「えー、お前さんら、幕末っつったら何をイメージする? 黒船か? 新選組か? 坂本竜馬か?」

 

「私は榎本武揚が好きです」

 

「あーお前さんはそう言ってたな。だが榎本の活躍は幕末でも終期、それから明治五年以降だ。なのでお預け! 今後の講義に持ち越しとする。……まー別にやってもいいんだが。えー、黒船の襲来以降日本は上を下への大騒ぎになっていた。これは幕府・朝廷クラスから民衆まで、ほぼ全ての階層に渡ってだ。そして、日本を守るため・日本を救うためと称して江戸三百年の治世を終わらせる未曾有の内乱が勃発することになる。簡単にいやー倒幕派と佐幕派だが、事はそんな簡単じゃねぇ。それぞれの人間が未来を憂いて、誰に率いられるでもなく日本のためにと立ち上がった、近年まれに見る自意識過剰な奴らの集まりだ。……まぁ、中には俺みたいに金や地位や、自分のために立ち上がった奴も少なくはないだろうがな!」

 

 言っていること、講義内容はいたって平凡なものだ。まぁ、他の講師に比べれば若者がとっつきやすいように工夫してあるといえなくもない。

 

「先生、『日本のために』と言っていますが、実際は内乱状態になった……何故彼らは同じ方向へと道を束ねることが出来なかったのでしょう?」

 

「俺に対する嫌がらせか夜神、いい度胸だ。えー、人間考え方は千差万別だ。戦前の日本みたいに天皇バンザイって奴もいれば、徳川バンザイって奴もいる。外国と手を結んで強くするべきだという声もあれば、怖いから全部追っ払え、って意見もあった。中でも尊王攘夷思想は時の大老井伊直弼に逆らう形になるということもあって、安政の大獄へとつながる。ちなみに安政の大獄のキッカケは、井伊直弼が天皇の許可なしに日米修好通商条約を結んだのに腹を立てた孝明天皇が水戸藩に勅書を下賜したところから始まっている。この勅書の内容は、簡単にいやー許可なしに条約結んだ井伊直弼にコラーって言いつつ、攘夷を進めろーってところだ。それが幕府を通さず臣下である水戸藩に渡ったことが、幕府を蔑ろにしていると判断され、尊王攘夷運動を取り締まるキッカケになった。ついでに裏話だが、このとき既に井伊直弼の暗殺計画は持ち上がっていて、それが安政の大獄をより厳しいものにした。それから、この安政の大獄で捕まった水戸の天狗党の中に、後の新撰組筆頭局長、芹沢鴨も含まれている」

 

……夜神月からの質問の回答にはなっていない……微妙に話を逸らして、うまく講義の形へともっていく。講師としてはそれなりの実力を持っているということか。

 

「様々な思想が入り乱れ、けれどそれぞれが己の信念を正義と信じ戦った、そんな時代だ。例えば新選組、彼らは今でこそヒーロー扱いで大河ドラマの主役にも抜擢されるような存在だが、ごく最近、昭和初期くらいまでは悪役として認識されていた。それを覆したのは子母澤寛や司馬遼太郎といった偉大な作家達の創作だといっていいだろう。その辺は読んだこと位あるだろ? ま、そのせいで沖田総司は美形なんていう間違った妄想も広がってしまったわけだが……それは司馬本人が、『みんなが俺の創作をパクりやがる』とか笑い話で言ってたくらいだがな。……あー、まあ、正義なんてそんなもんだ。時代によって変わるもんだし、俺は個人的には正義のために、って言葉があんまり好きじゃない。その旗印の下に何でもやっていいって輩も多いからな。中世欧州の十字軍しかり、二次大戦の軍国主義しかり。彼らはいたって真面目に『正義』のために虐殺だのなんだのやらかしてる。枯葉剤やクラスター弾だって同様だ」

 

「……そして、現代におけるキラも同様……ですか」

 

 私の言葉に、成瀬拓は硬直した。そしてこの発言を皮切りに、ここにいる人間達の間でキラとLに対する討論が始まってしまい、成瀬は一切それに関与しようとしなかった。自由に討論をさせていると見るべきか、自分がその話題に関わるのを恐れているととるべきか……。

 

 この討論で、夜神月がキラとよく似た思想を持っていると分かったのは僥倖だった。そして、成瀬も私の推測では、キラと似通った視点を持っている。悪は裁かれるべきであり、その罪を死刑を持って断ずるもやむなし、というところが。

 

 とりあえず、今日の講義は『正義と悪の判断は非常に難しい』ということで決着を迎える。これは、早晩結論が出るような問題でもない、そう成瀬は締めくくった。

 

「先生、今日の講義は非常にためになりました」

 

「僕もそう思います」

 

「ん、あー、そっか? お前さんらにそういってもらえると教師冥利に尽きるってもんだ!」

 

 そう適当にはぐらかして、成瀬は私達の前からそそくさと去ってしまった。

 

「流河、キミともいい討論を出来たと思っているよ」

 

「ええ、私もそう思います」

 

……夜神と成瀬を繋ぐ線はやはりキラ。だが、一体そこにどんな関係があるというのか……今の私には、想像することしかできない。

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