混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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投稿忘れてました汗

そろそろ寒くなってきたので体調気を付けてくださいね。


13-13 底知れぬ恐怖

 

 白熊は戦士らしく俺と1対1の戦いを望むらしい。なら俺は出来るだけ距離を離す。近づかれたら最後、近接戦は敵の独壇場(どくだんじょう)だ。

 だから俺は距離をとってレールガンの冷却を待つ。この雷鳴ならば行けるはずだ。

 

 俺へ突撃してきた白熊に対して背中を向けて逃げる。白熊は批難するかと思われたが、むしろ嬉しそうにしていた。

 

「良い判断だ。戦場では逃げるも戦略の1つだ。そして不要なプライドも勝った者だけが主張出来る特権だ。さあ逃げてみせろ。俺はお前だけを狙ってやる。味方の事は気にせず、お前の戦い方を全て見せろ!!」

 

 背中を向けて逃げる情けない姿の俺を、味方を攻撃せずに追いかけてくれる白熊。ああ、アナタが戦士で良かった。助かる。

 

 正直総力戦になったら負けるのは分かっていた。敵の練度、連携力は高く、エース白熊始動からの攻撃は我々には防げないだろう。

 だが白熊抜きの戦いなら敵の突破力は落ちる。そして連携することによって数の差は埋められる。だからこれが1番戦力差の無い戦いのはずだ。

 問題は俺なのだがな。いくら最新鋭機と最新鋭装備と言っても、イル・アサルトと白熊の組み合わせは雷鳴すら凌駕する。残る変動的要素は俺の技量だけだ。アカデミーではそれなりの成績を取ってきたが、現実の戦いは想定外ばかりだ。そして敵はいつも俺の予想より上回る。

 

 牽制の為に振り返って後進しながらマシンガンを撃つ。だが白熊は同じ人型と思えない程に全く読めない軽やかな動きでかわしていく。先読み出来るはずの射撃連動システムがもはや約に立たない。むしろ何度もあちこちに先読みするのでロックオンターゲットが目の前にチラついてうっとおしい!!

 

 ヘルメットに映る射撃連動システムを解除して、照準をマニュアルで行う。もちろん射撃反動吸収システムは入れたままだ。俺には反動すら計算に入れて狙い撃つ自信はない。

 

 白熊の動きを目で追って撃ち続けるが全く当たった手応えが無い。何発かは当たっているだろうが、致命傷に至ってはないようだ。その間にも相手の射程内に入ってしまった。

 敵のサブマシンガンが唸る。咄嗟に盾で防ぐと盾に銃弾が当たり、けたたましい音が鳴り響く。だがそれは盾で防げている事の証拠だ。音が鳴っている間は安全だが、ずっと防ぐ訳にはいかない。マズい、距離は離さなければ……やはり後進しながらではスピードが落ちる。

 

 仕方なく無防備な背中を晒すしかない。でないと近接戦に持ち込まれる。

 

 盾を横に戻し、背中を向ける。それと同時に背部に受けた攻撃で機体が激しく揺れる。

 そして目一杯ペダルを踏み込んで距離を開けていく。

 賭けだったがこの機体の防御力ならばなんとか耐えきれたな。

 

 背部というHAWの弱点。背部にはブースターや弾薬、また予備の武器がある。レールガンは前に抱えた為、大丈夫だったが燃料タンクが故障してしまった。爆発しなかったのが幸いだが、そう長く逃げれなくなったみたいだ。

 180秒逃げるつもりだったが無理そうだな。近接戦で挑むしか無い。

 

 状況は圧倒的不利だ。なら俺は冷静に1つ1つ使えるカードを分析しなきゃならない。

 機体はまだ余裕で、戦闘には問題ないようだ。レールガンも使える。

 次に戦場。味方の援護は期待出来ない。本部の援護を頼るには遠すぎる。地形は山岳地帯。距離が離れなければ見通しが良い。

 そしてパイロット。体調、士気共に問題ない。技量と経験が劣っている。後は……魔法師であること。

 

 だが残念ながら魔法師の有無はHAWには関係ない。まだエルス国の試験段階の魔法増幅機能が付いてればな……

 改めて確認するが雷鳴には魔法増幅機能なんて付いていない。そんな都合良くあるわけ無い。

 

 ふと師匠との修業を思い出す。師匠とは気の練習をしたな。確か気は動と静に分かれると。動の気を今やってもコクピット内でどうしろと言うのか。俺が早く力強く動けても意味が無い。動くのはHAWなのだ。

 そして静の気。静の気は心を静めて、敵の気配、気の流れを探知出来るーーん!? 気の流れ!?

 

 確か師匠は気の流れで先読み出来ると言っていた。相手の考えている事が読めるから最低限の動きで躱せるのだと。

 だがHAW越しで出来る物なのだろうか。でも試す価値はある。俺にはもう他に手がない。

 

「そろそろ決着を付けようじゃないか。動けなくなった所を倒すのは忍びない。戦士ならば全力で戦って散ろうじゃないか!!」

 

 白熊からの決闘のお誘いだ。

 

 やはり燃料タンクの異常に気付いてるか。思いっきり狙われていたからな。

 

 良いだろう。もうこれ以上逃げてもダメだ。覚悟を決めろ俺。

 

 逃げるのを辞め、止まって振り返る。白熊も一定の距離を保って静止した。

 

 覚悟を決めて、心を落ち着かせる。以前までの俺なら死ぬかもしれない状況で落ち着くのは到底無理だ。だが師匠、アリサとの修業で目をつぶって瞑想状態に入る。白熊は俺からの答えが無い限り攻撃しないはずだ。少しの時間、情けで与えて貰おう。

 

「ふむ。覚悟を決めたようだな。うん? 瞑想か? 良いだろう。万全の状態で掛かってこい」

 

 やはり瞑想を許してくれた。それが命取りになるかもしれないのに。俺が時間稼ぎをしている可能性すらあるのに白熊は待ってくれた。戦場で出会った事を悔やむよ。

 

 許可されて遠慮なく全力で瞑想に入る。さっきまで殺気立っていたのに静かだ。俺も相手も落ち着いているのだろうか。

 そして少し離れた所に大きな気を感じる。そこからは様々な感情が感じられる。楽しさや苦しみ、悲しみ、重荷。俺よりも多くの感情が複雑に絡み合っていた。これが白熊の心なのか。

 

 目を開ける。相変わらず見えるのはモニターや計器類だったが、見えないはずの白熊がぼやけて見える。いや感じ取れるといった方がしっくり来る。

 

「敵ながら、情けをかけてくれた事に感謝するウルス殿。今から俺の全身全霊によって戦う事を誓おう」

 

 画面越しに見える成熟した40代ぐらいの男に返答する。

 白熊は満足そうに微笑むと敬礼する。

 

「人間は散り際に1番本性が出る。死を覚悟した者の顔は一生で最も精悍な戦士の顔つきになる。そう戦士の顔は醜い戦場を少し彩る(いろど)のだ」

 

 喜んでいるように聞こえる言葉だが、その秘められた感情はとても悲しんでいた。

 

 俺も敬礼を返す。戦場という人の本性を現した醜い場所に、こうやって最後まで理性ある人間ーー戦士として戦えた奇跡に、そしてお互いに、敬意を持って敬礼をする。

 

 そしてその敬礼をもって通信は切られる。

 惜しい人だが、ここは戦場。お互いの複雑な立場が剣を取らせ、殺し合いをさせる。なんて戦場(ここ)は醜い場所なんだ。

 

 白熊のおかげでレールガンも冷却が完了し、撃てる。1発きりの必殺技をどう使うか。

 

 そしてお互いに武器を構えてからどちらかともなく、戦いを始める。

 

 お互いの銃の弾倉が無くなるまで打ち続ける。そして弾が切れた瞬間、近接戦に移る。不思議なことに長年のパートナーのように息が揃う。お互いに本当の意味で理解しあえたのかもしれない。だけど戦場(ここ)で、それは意味を成さない。どちらかが、それとも両方が、死ななければならないのだ。

 

 ここからでも白熊の様々な感情が読み取れる。動きだけではなく、思いも。

 先読み出来る分と機体性能差で白熊との技量差を埋めていた。

 

 最初はお互いの実力が拮抗し、完全に打ち消し合っていたが、次第にお互いに疲れが見え、防御が疎かになっていく。

 何合打ち合ったか分からない。もうお互いに精魂尽き果てていた。

 

 もはやモニターなんか要らなかった。空が見える剥き出しのコクピットから息の上がっている白熊の姿が見える。

 

 どちらとも機体はボロボロで、腕や脚を損失している。もう満足に戦闘することが出来ない。次の手は……とにらみ合っている間にお互いのレーザーソードのエネルギーが消失する。後は殴り合いでもするしかないのだが……

 

 機体の殴り合いで決着を付けても良いが、もう機体も保たないし、帰れなくなる恐れがある。それは白熊も同じように考えていたようでお互いに剣を収める。

 

「ライン・グレス。俺と互角に戦った戦士の名として覚えておこう。だが次は機体性能差も無くなっているだろう。その時がお前の死に場所だ」

 

 確かに機体性能差がこれほど離れていなければ俺は瞬殺されていたかもしれない。イル・アサルトと同じ機動力を持ちながら高い防御力、火力を保有する雷鳴の性能に助けられたようだ。

 

「……それまでには私は貴方を追い越します」

 

 俺から突きつけられた挑戦状に白熊は嬉しそうに笑う。

 

「言ってくれるな……次会うときが決着の時だ」

 

 そう言うと機体をよろめかせながら飛び去る白熊。

 その背中を見つめていると、ふともう1人の俺が俺に囁く。今ならレールガンで殺せると。何考えてんだと思ったのも束の間、腕が勝手に操縦桿を握り、レールガンを構える。

 その先には白熊が居た。このまま撃てば白熊に当たるーー敵を倒せるーー

 

 俺の心は反対する。だが俺の体は勝手に引き金を引いたーー

 

 だがレールガンはエネルギー切れで放たれなかった。もう機体にはエネルギーが残ってないのだから。

 

 撃たれなかった兇弾に俺は安心して体の力が抜ける。

 ははは……俺はなんて事を……

 

 俺の意識と違う意識が俺の中に居る気がして底知れぬ恐怖を感じた。

 

 


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