混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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今日は余裕で間に合った。改稿が進まぬ……


13-17 戦士の交渉

 

 目の前に広がる東京本部。地球連合国の統治時代から存在していた建物を火星独立軍も使用している。その建物は主に統治用だが、構造は軍事用にも使えるようになっている。だが、こちらは日本人。過去に使っていた者もおり、敵以上に中の構造に詳しい。

 地下通路を使って、奇襲や寸断を行って優位に戦況を進めている。

 

 対魔法師に関しては、ハワイ攻略作戦の影響でほとんどが出払っている為、師匠の攻撃でほとんどを潰した。

 

 後は白い死神だけだ。だが白い死神が戦力のほとんどを占めていると言っても過言では無い。だからまだ敵の戦力は残っている。

 

 今の所、白い死神の発見報告は来ていない。

 

 師匠が席を立つ。その表情には強い覚悟が見られた。

 

「ライン、俺は白い死神と対峙する。お前も来てくれるか?」

 

 何か断る理由が有るだろうか。いや、ない。

 

「はい、お供させて頂きます」

 

 俺の変わった口調に師匠は頭を掻いて、困った顔をする。

 

「……言っとくが、その口調辞めろよ? 俺とお前は子弟関係である前に仲間なのだから」

 

「……はい」

 

 “仲間”と言ってくれた師匠の言葉にじーんと来る。今日は何だか涙もろいな。

 そして師匠が言うなら元の口調に戻そうか。

 

「山口、後の指揮は任せる。お前にならやれる」

 

「はい!!」

 

 山口の肩に手を置いてから、本丸に向かう師匠。山口は感動の余り、口を魚のようにパクパクさせていた。ふーん、山口も指揮官としてやれるのだな。

 

 戦場は今でも戦場特有の空気を醸し出していた。どの兵士も休んでは居るが目はギラつき、臨戦態勢を取っていた。流石は元日本国防軍。練度の高さは相変わらずだ。

 

 その一方、明らかに傭兵のような奴も存在する。柄は悪く、大声で下品な話をしている。戦力不足が否めない日本独立戦線には必要な戦力なのだろう。

 

 途中、1つの鎖に手錠が何個も付いている、一列で歩かされている敵兵士の集団にも遭遇した。集団で繋がっている為、逃げることが難しい。

 敵兵士の中にも多くの日本人が見られた。これは同族の戦いでもあったのか。

 だが同じ民族同士、負けと知るとあっさり降伏したのかもしれない。また捕虜の扱いもどこか気を使っている。

 

 そんな中、本丸付近で戦闘に遭遇する。

 手出しは不要、と現場の指揮官に言われ、上官である師匠も黙って従っている。見せ場を取るなと言いたいのかもしれない。

 

 黙って安全地帯から銃撃戦を見ていると、敵の1人の日本人兵士が叫んで突撃してくる。弾が切れたのか、精神が崩壊したのか、分からないが目は血走り、まともとは思えない。

 

「お前らも直ぐに知る!! この先には神がいらっしゃる!! その神に楯突いた自分達の愚かさを!!」

 

 変なことをわめいて更にこちらへ近づく敵兵士。だが冷静なこちらの部隊の射撃に、走ること1秒も叶わずに崩れ落ちた。

 

 神ーー白い死神、ノエの事を指しているのだろうか。確かにあれだけ無敵で、魔法を良く知らない者からしたら神に等しいのかもしれない。

 そしてこれは洗脳ではなく、勝手な妄信と言える。

 何故なら街中で出会ったノエは決して奢っている訳でもなく、宗教者でも無かった。むしろ彼は宗教なぞ信じないタイプだろう。

 

 そんな妄信者の戯言だが、ここに居る兵士には効果てきめんのようだった。死を恐れない兵士に士気はだだ下がり。

 

 そんな事態に師匠は現場指揮官に提案する。

 

「ここからは俺とラインだけで行く。お前らは一旦撤退しろ」

 

 だが……と、どもる指揮官に師匠は低い声で言う。

 

「足でまといだと言ってるんだ。分からなかったか?」

 

 強い殺気を放つ師匠に現場指揮官は体を震わせて、早々と部隊と共に引き上げる。

 今の俺なら分かる。師匠は戦力にならない者達を無駄に死なせたくなかったのだろう。全く不器用な人だ。これじゃあアリサも大変だろうな……

 

 二人きりになった本丸付近は意外にも静かだった。もう他の場所は片が付いてるのだろう。それか膠着状態になっているか。

 

 隣に立つ師匠は強面(こわおもて)で最初は怖かったものの今は様々な感情が見て取れる。今の感情は無駄な被害を防げた安堵と、これからの戦いへの覚悟だろうか。

 

 そういえば、さっき貰った魔鋼石で出来たAMAとロングソードを装備しているが、正直、ノエ相手には約に立たないだろう。奴の魔法剣は易々とAMAを貫くのは知っている。そして攻撃も俺には足りなすぎる。多分プロテクトにはまるで歯が立たないだろう。だが、注意を引くぐらいは……

 

 捨て石にもなる覚悟を決めていると師匠は俺の名を呼ぶ。

 

「ライン、この戦い、簡単にはいかないだろう。そうどちらが、いや両方とも死ぬ可能性がある。だがライン、お前は絶対に死ぬな。師匠よりも弟子が先に死ぬのは許さん。そしてお前には待っている人達が居るだろう?」

 

 師匠にもーーと言いかけたが、俺が言うのは間違っている。アリサ自身が思いを伝えるべきだ。

 そして俺は師匠に反抗する。

 

「その言葉には従えません。帰る時は師匠も一緒です」

 

 まだ日本すら解放出来ていないのに死ぬのはダメだ。この戦いに勝ってからが正念場だ。帰還するハワイ攻略部隊や集結する火星独立軍からどう守り抜くか考えないといけない。その時に師匠は必要だ。戦力としても人柄としても。

 

 揺るがない意志を師匠に見せつける。

 溜息を付いた師匠は微かに笑う。

 

「……そうだな。この戦いが終わったらいっぱいしごいてやるから覚悟しろよ?」

 

 うわっ、墓穴掘ったかも……

 だが決して死なないと言わなかった師匠に一抹(いちまつ)の不安を感じた。

 

 

 

 本丸の扉を開けると中はそこそこ広い執務室であった。中にはたった一人の男ーーノエだけであった。ノエは椅子に深く座って長らく待っていたようだ。

 

「ようやく来たか。待ちくたびれたよ」

 

 もの凄くリラックスしてカフェオレを飲んでいるノエ。師匠を前にしても全く動じていない。

 

「一杯どう?」

 

 友達を誘うかのように飲むか聞いてくるノエ。だが師匠は殺気を放つのは変わらない。

 

「拍子抜けだな、白い死神。今ここは戦場だ。敵の入れた物を飲むと思うか?」

 

 確かにその通りだ。毒が入ってかもしれない。だがノエがそんな事をするとは思えない。

 するとノエは表情を一変させる。鋭く、冷徹な表情に。

 

「柳生、確かにここは戦場だ。だが、それ以前にお前は人間だろう? なら話が出来るはずだ」

 

 煽りとも取れる言葉の言い合い。一触即発の空気に冷や汗が垂れる。

 

 だが師匠は刀を抜かず、応接用にあるソファに座る。俺もそれに続く。

 

 ノエは俺達の正面に座り、話を始める。

 

「……まさかお前と戦場で会うとはな、ライン」

 

 俺を見つめる瞳は悲しそうに揺れていた。

 

「はい、残念です……」

 

 だがこれは俺には分かっていた事だ。これから戦う事も。

 

「こうして隣に居るという事は魔法師か……それもそこそこの。ならあの時何故魔法を使わなかった? 使ったなら余裕で行けたはずだ」

 

「それは他の魔法師を警戒しての事です。それにこうして魔法を使わなかったおかげで捕まってないのですから」

 

 腕を組んで考えるノエ。だが怪訝な顔付きになる。

 

「なるほど。ならお前は他国の魔法師か。だが尚更分からない事がある。何故他国の人間が日本人を、命の危険を冒してまで助けた? 見過ごせば見つかる事も、命の危険も無かったぞ?」

 

「それは目の前に助けられる命が有ったからです。それに車ではねられたぐらいで死ぬ(やわ)な体はしてませんから」

 

 死にはしなくても相当重傷になるだろう。助けて貰って良かった……

 

 するとノエは大きな声で笑う。

 

「面白い奴だ……まさか2つの実を同時に拾おうとしてたのか……よし、気に入った。ライン、俺の部下にならないか? 地位、名声、女、何でも思いがままになるぞ?」

 

 なんと低俗な誘いなのだろうか。あのノエとは思えない。

 

「お断りします。そんな物の為に戦っているわけじゃない」

 

 キッパリ断る。そんな物は戦わなくても手に入れる方法はある。

 

 断ったことに怒ったり、呆れるかと思ったが、ノエはむしろ喜んでいた。

 

「見事だ!! 一方、このような低俗な誘いを断れなかった者がこの世界を破壊した。その根本が地球連合国だ。頭ーー上層部が変わったからと言って直ぐに体ーー組織が変わるわけじゃない。

 それに今の政権も戦争という大義名分の元に存在してるだけだ。戦争が終わったら、必要とされなくなるだろう。

 そう、またあの悲劇が繰り返される」

 

 悲しげに呟くノエの表情に陰が落ちる。

 あの悲劇とは最悪の年の事だろうか。彼も被害者の一人なのだろうか。

 

「……私には政治の事は分かりません。でも仲間が居るんです。だからそれを守りたい……それだけ何です」

 

 何とも小さい願いなんだろうかと自分でも思う。でもこの理不尽な世界はそれすらも容易に奪っていく。

 

 俺の事を黙って見つめていたノエは頷く。

 

「そうか……ここに仲間を連れてくる事は? 俺の権限内で保護しよう」

 

 横に首を振る。仲間を保護して貰ってもまた更にその家族や友人……とキリが無くなる。

 

「……お前の勇気、機転、意志の強さを俺は高く評価している。俺と共に火星独立軍で戦わないか? 俺は守りたい物を守れる世界にしたい……」

 

 ノエは俺と同じような気がする……だが、余りにも立場が違い過ぎた。俺は離れられないんだエルス国を。

 

「……魅力的な申し出ですが、断らせて頂きます」

 

 頭を下げて断る。

 ふと思ったがノエとは一緒に戦える気がする。逆にこちらに誘ってはどうだろうか。

 

「良ければ私達と共に戦いませんか? もしここで受け入れて下さるなら協力を惜しみません。またこれで戦いは終わります」

 

 誘われて誘い返すという失礼な振る舞いだが、もし上手く行けば火星独立軍の戦力を大幅に減らし、こちらを大幅に増強することが出来る。

 

「……あいにく、火星独立軍以外でやるつもりは無い。もし地球連合国に敵対するなら考えてやる」

 

 地球連合国に相当な恨みが有るのだろうか。エルス国を代表して答える事は出来ない。そして日本独立戦線としてもこれは容易には答えられない。

 

 元々の計画としては独立を地球連合国に認めて貰う、保護して貰うことによって独立しようという算段である。日本を緩衝地帯として地球連合軍と火星独立軍が睨み合うという状況にしようとしているのだ。

 

 地球連合国としては無傷でハワイから追い払え、日本という中継基地が手に入るのだ。独立したと言えども、地球連合国の庇護下は変わらない。

 

 だがノエの提案に乗ると、火星独立軍、地球連合軍、両軍を敵に回して戦うことになる。それはノエが居ても物量作戦の前には不可能だろう。

 お互いに睨み合う状況もあり得るが、最強の魔法師がフリーという状況は両軍にとって恐ろしい事態だ。取り込めなかったら排除しか無いだろう。

 

 地球連合国の排除を目標とするノエとはどうやっても手を取り合えないのか……

 

「……交渉は決裂だな。さてそろそろ決着を付けようか、柳生」

 

「ああ、残念だが戦うしか無いようだ。戦う前に1つ、お願いがある」

 

 珍しい。師匠がお願いを敵にするなんて……

 

「ここでの戦いは俺とお前だけにして欲しい。そしてどちらか片方が死んだ場合、負けた方は降伏して欲しい」

 

 ……これはもし師匠が死んだ場合の事を示しているのか。師匠が死んだら日本独立戦線は降伏。もうノエは誰も殺さないと誓ってほしいのか。

 

「……分かった。その条件を呑もう。もし俺が死んだ場合、火星独立軍は撤退し、日本を放棄する。そしてお前が死んだ場合は、日本独立戦線の降伏を認め、国際法に基づき、適正に捕虜として扱おう」

 

 口約束だが、お互いに名高い戦士。必ず約束を守るだろう。

 

 その時師匠はチラッと俺へと視線を向ける。約束を守れないかもしれない事への謝罪ともし負けたらエルス国に戻れと言っている気がした。

 

 無言で頷いて了解した、と返事をする。

 本当は頷くのは嫌だ。だが師匠を困らせたくも無い。

 

 そして二人はカップを静かに置いて、直ぐに殺気を放ち始めていた。


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