混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
狭い執務室の中で日本最強と世界最強の二人が殺気を放ち始めていた。
やる気は満々。何がきっかけで戦闘が始まるか分からない。
巻き込まれないように距離を取ろうとした時、ふとノエは殺気を引っ込める。
「そういえば、ここでやったら間違いなく建物崩壊するから外に出ないか?」
ノエの提案に険しい顔を直ぐに引っ込める師匠。2人共再度コーヒーに口を付けて、飲み干すと2人は建物の中をゆっくりと歩いて外に向かう。その間に味方の兵士と遭遇するが、師匠の脅しが効いているのか素直に道を譲る。
だがそのノエを見る視線は敵意に満ちた物だ。
ノエと話した俺にはどうしてもノエを敵とは思えない。いや敵なんだけど、明確に悪意、敵意を向けてくる敵と違って、こうしてちゃんと話せた人と戦うのは躊躇いがある。白熊と同じように立場が、環境が戦いを避けさせてくれない。
外に出ると強い陽射しが照りつける。歩いてる途中で指示を飛ばし、そこから既に味方を退去させていた。
誰も居なくなった静かな広場で2人は対峙する。
その時ふとノエが不敵に微笑む。
「……狙撃で俺を仕留めるつもりか? 無駄な事を……」
狙撃?
辺りを見渡しても俺には分からない。でも師匠もノエと同じく気付いてるようだ。
師匠は大きく溜息をつく。
「将軍殿も何とも小心者なのだろうか……これは部下を信頼していないと言ってるのと同然だ」
愚痴のように言っている師匠にノエはニヤリと笑う。
「無能な上司を持つと苦労も絶えないだろう。もし望むなら俺の部下にならんか? お前の実力なら俺と同程度になることも出来そうだが?」
寝返れとのお誘い。確かに師匠はあの将軍の元に居る理由も無いはずだ。師匠の実力とカリスマ性と人気の高さなら今直ぐにでもトップになれるはずだ。だが、何故従うのだろうか。
「……俺を評価してくれた魅力的なお誘いだが、断らさせて頂く。武士は二君には仕えないのでな」
「何故そこまで忠義を尽くす? 今は戦乱の時代。寝返りなんぞ当たり前だ。昨日の友は今日の敵。それぐらい普通の事だ。現に俺は火星独立軍なんぞに忠義は更々無い。地球連合国を倒す、その目的が同じだけだ」
これがノエから感じられる強い意志なのか。何にも考えず、与えられた正義と共に敵と戦うだけの兵士では無く、自分なりの正義を持って選んで戦うノエ。だからこそ強い、自分の足で進む人は。
「そしてもし、火星独立軍が人道から外れるのならばーー」
「ーー俺は上層部を皆殺しにする」
躊躇いの無い言葉。この発言は反逆罪と問われても可笑しくない。だが幸い誰も俺らの他には聴いていない。
またこんな危険人物を重用する火星独立軍の上層部にも興味が湧く。
全く得体の知れない火星独立軍上層部。聞くところによると俺と同じぐらいの若者が居るとの事だが、どのように軍を起こしたのだろうか。そして地球連合軍に対抗出来る大規模な軍隊を統率し、ユーラシア大陸丸々に及ぶ広い範囲に善政を敷く火星独立軍上層部。
日本でもそれなりの善政だったらしい。統治されたばかりだからまだ行き渡って無いものの、時が経ったら……この作戦も成功しなかったかもしれない。
考えれば考えるほど火星独立軍上層部に興味が湧く。もちろん俺も背負ってる物がある以上寝返るつもりは無い。
ノエの問いに師匠は目線を落とし、一考してから答える。
「……確かに今の将軍殿は小物だ。だが日本攻防戦の際は見事な采配だった。だが地球連合国に見捨てられ、戦力差が絶望的になった時に壊れてしまった。守ろうとしている国を守る手段を突如奪われてしまったのだから。
今は落ちぶれようとまたいつか陽が昇るかもしれない」
信じているのだろう、あの将軍を。いつの日か、また共に戦える日を。
ノエは師匠の言葉を聞いて、呆れ顔で笑う。
「ふぅ……ここまで来れば簡単には折れないな。そんなに俺も口が得意じゃねぇ。ならもう根元から行くしかねぇな」
首を回し、体をブラつかせて体操を始めるノエ。師匠や狙撃を前にして何とも緊張感の抜ける行動だが、そこに隙は全くない。
師匠はもちろん分かっていて、何にもアクションは起こさないが、狙撃はどうなんだろうか。将軍が有能なのか、狙撃手が有能なのか、どちらか分からないが現在、狙撃はされてない。
だがノエの舌打ちと共に何かが弾かれた音が聞こえる。ノエを見るとプロテクトを発動させていた。
そしてノエが忌々しく見つめるのは彼方。狙撃か。指示なのか、勝手な判断なのか分からないが、師匠はもの凄く怒っていた。
手元の無線を掴んで、吠える。
「馬鹿野郎!! 何処のどいつだ!! 撃ったのは!?」
誰も答えない。いや答えられないのかもしれない。師匠の余りの剣幕に。
もう撃たないのではと感じたのだろうか師匠はそれ以上追求せず、無線を地面に放り投げる。
無線は繋がったままで大きな不快音がイヤホンから俺の耳に入り、思わず耳から外してしまう。
そして師匠はノエに対して頭を下げる。
「済まなかった。こちらの不手際で戦いを
一方ノエはそんなに気にしてない様子だった。
「いや、指揮官としては至極当然、の事だ。だが俺には無駄だっただけだ。敵との力量差を測れない者なんて何処にでも居る」
悲しげに呟くノエ。今まで降りかかる多くの火の粉を振り払ってきたのだろう。
「まあそんなことはどうでも良い。これでもう邪魔されないだろう」
嬉しそうに笑うノエに師匠も微笑む。
「ああ……ライン、お前は絶対に手出しするな。足手まといだ」
また“足手まとい”。これは師匠なりの優しさだ。実際、俺はノエに対して一撃の隙すら作れるだろうか。いや無理だろう。なら俺はこの戦いを見届けるのが使命だ。
「分かってます。必ず、生きて戻ってきて下さい」
無言で頷いた師匠の背中は覚悟を決めた男の背中だった。