混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
-ノエ視点-
体が辛い……怠い、痛い。いつもこの技を使うとそうだ。体の節々が痛み、頭は
ちくしょう……この代償が無ければ、今すぐにも地球連合国を焼き払えるのに……
忌々しい体のセーフティに愚痴を零す。これが無ければ死ぬかもしれない。だがそれ以上に地球連合国が憎かった。
ガタガタと揺れる車内。ゆっくり走れば大して気にならない道路のデコボコだが、猛スピードで走る車内ではジェットコースターのようだ。
だがそんなことも俺にはもうどうでも良くなってきた。もう意識が遠のくからだ……
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-タチバナ視点-
バックミラーで後ろをを見ても追っ手は来ていない。こちらに気付いてるはずだが、更なる被害に恐れをなしたか。
隣で突如静かになった白い死神。死んだかと思ったが、ちゃんと息はしていた。だが呼吸数はかなり少ない。まるで冬眠でもしてるのかように。
今の自分の考え一つで白い死神の生死が変わるかもしれないと思うと心が怪しげに揺れる。
引き返して日本独立戦線に引き渡せば生涯安泰。むしろ豪遊出来るだろう。
だがそんな考え以上にこの男には恨みが有った。こんな所で死なせてたまるか。自分がこの男を殺さなければいけない。
再度決意を決めると、更にアクセルを踏み込む。
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山口の部隊が基地に戻ってくる。将軍を止められたのかと期待して外に出るが、戻ってきた兵士達は誰もが暗い顔をしていた。
装甲車に乗った山口を見つけると掛け寄って山口を引きずり出す。
「どうなっている? 止められたのか?」
山口は目線を落とすと呟くように話し始める。
「……俺らが駆けつけた時には、既に将軍配下の部隊は壊滅していた。全て、全てがっ!!
どれだけの惨劇か、現場に行ってない俺には分からない。だが山口の悲痛な叫びにとても酷い有様だったのだろうと想像出来る。
「全ては白い死神がやったのか?」
「発動した所を見てないから分からないが恐らくそうだ。敵は少数だった」
自信無さそうに呟く山口。いつも自信ありげな態度を取っていた山口にしては珍しい。
やはり白い死神はヘブンズジャッジメントを使ったに違いない。威力は散々使われている地球連合軍から提供された資料で知っている。あれを使われたら最後、そこにあるあらゆる物質が焼ける。因みにHAWも燃えたらしい。
あれだけの魔法を使うには代償が必ず有るはずだ。大出力の魔法を使い、体の魔力を枯渇させると魔法が使えなくなる場合もあると報告されている。だがノエは変わらずこれまでに何発も打っている。
魔力に余裕があるのか、それとも何かしら裏が有るのか……師匠が今、生きているのもノエの施しのおかげだ。あれがノエの魔法なのか、タネなのか分からない。
もしタネなら納得出来る点もあるが、新たに疑問な点も出て来る。それは何故ノエにその能力があるかだ。
ノエは光一族。プロテクトや光弾、転生雷光は光一族の伝統の技だが全部使える者は居らず、ましてヘブンズジャッジメントなんて技は無い。そうノエはポッと出の天才、いや奇才だ。
そしてあの師匠を回復させた物。あれが光一族の特徴とは聞いてない。
光一族の天才の延長として考えるには離れすぎているのだ。
ーーおっと、学者でも無い俺1人が考えても答えが出ないだろうノエの秘密にハマる前に現実に戻ろう。
「……山口は良くやったよ。追撃しなかったのも正しい判断だと思う。白い死神には俺から謝罪しておく」
「……ふんっ、お前に言われるまでも無い。最善を尽くしただけだ。……後は頼む」
下がっていた眼鏡を直し、再度車の中に戻る山口。後は任された。
執務室にある相互連絡用として渡された無線機を使って、ノエに連絡を取る。だが出たのはトウキョウで会ったノエの部下の男だった。
「こちら日本解放戦線、ラインです」
「……良くもまあ、連絡出来るもんですね」
明らかな苛立ちが無線機の向こうから感じ取れる。そりゃあこっちが一方的に約束を破ったのだから。
「こちらの不手際……いや明らかに我々の組織の
相手の男はせせり笑う。
「手を出さないだって? それはもう手を出したくないの間違いでは? 弱った獲物だと勘違いして、手を出したら噛まれた、という感じでは?」
同じ立場なら俺でもそう思うだろう。だがここで食い下がっては信用は取り戻せない!!
「それが違うという事を証明するにはこちらも誠意を見せないといけないと思います。そちらに私1人で行きます」
「……その意味を分かっておいでか?」
敵陣に単騎で行く事は死を意味している。それも交戦中だ。だがそれぐらいしなくてはこちらの誠意が見せられない。賭けだが、ノエは俺を殺さない。
「ええ、必ずやそちらに行きます。時間的に見ると柏崎港に空で直接向かいます」
向こうからの返答は無い。切れたのではなく、向こうは考えているようだ。
「……了解した。必ず1人で来い。そしてもう我々は敵同士だということを忘れるな」
いつでも殺せるぞ宣言をする男。だがここで折れるわけにはいかない。
「はい、今すぐ向かいます。無線機は持って行きますので連絡を密に行います」
何とか約束は取り付けた。後は俺次第だ。
通信が終わると体の力が一気に抜ける。日本解放戦線の全ての信用が俺に掛かっている。
何故部外者の俺にと思うこともあったが、師匠が寝こみ、将軍は行方不明。山口は交渉向きでは無い。他の面々もだ。
だから俺しか居ない。そもそもここまで関わっておいて部外者では無いだろう。HAWの指揮官すらやったんだぞ。
と自分の正当性を確認した所に山口がすっ飛んでくる。
「おい!! 柳生さんが目覚めたぞ!!」
「何!?」
師匠が目覚めた知らせは疲れも緊張も全て吹っ飛ばした。