混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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何とか次の話で日本編は終わりそうかな


13-22 楔

 

 師匠が起きたという知らせは俺の中の何もかも吹っ飛し、足は勝手に山口の後ろを追い掛ける。

 

 逸る気持ちを抑え、医務室まで早歩きで行く。病人の近くで走っては迷惑だろう。

 

 山口の後ろを付いて行かなくても師匠の場所は分かっていたが、わざわざ抜かすまでも無いだろう。

 

 山口が医務室のドアを開け、俺も続いて中に入ると、そこには陰鬱(いんうつ)な表情で師匠はベットに腰掛けていた。

 

「柳生さん、ラインが来ました」

 

 山口が知らせるものの、師匠は俯いたままだ。

 再度声を掛けると、やっと気付いたのか顔を上げる。

 その顔はやつれ、前の精悍(せいかん)さが感じられない。まるで死人のようだ。やはり技の後遺症だろうか。

 

「……ああ、ラインか。大事ないか?」

 

 まだ30代なのに一気に老けた顔で微笑む師匠。命は取り留めたが、以前の師匠ではなくて寂しさで心が揺れる。

 

「……はい、私は見てただけですから……」

 

 見てただけーーあの戦いに手が出せなかった自分の実力不足に歯がゆさを感じる。俺も強くなりたい。だけど、もう仲間を傷つけたくはない。あの力を制御しなくては……

 

 気の力ーー未だ俺には使いこなせてない。だからこそ師匠にはまだ現役で居てくれないと困る。何とも個人勝手な理由だが、日本にも必要な人だ。

 

「師匠、私は今から単身、敵陣に乗り込みます。どうか見てて下さい、不甲斐ない弟子の勇姿を」

 

 皆から尊敬され、白い死神と互角に戦い合う立派な師匠に対して、力の暴走から、手出しが何も出来かった不甲斐ない弟子だった。

 

 だから今回は俺に与えられた挽回のチャンスだ。

 

 しかし俺の言葉を聞いて師匠は突然体を震わせる。顔は歪み、それは恐れからだと理解出来た。

 

「……あの方にはいつか元に戻るかと期待していたが、そのまま死んでしまった……お前は死なないよな?」

 

 はい、とは言えなかった。もちろん死ぬ気は無い。

 

 だがそれにしてもなんて気弱な師匠になってしまったのだろうか……こんな師匠は見てられない。何とかして師匠を元に戻そうと思い、ここは死すらカードに使おうと思った。

 

「師匠、俺は今の師匠には会いたくないです。こんな師匠ならば死んだ方がマシです」

 

 俺に突き放された師匠は顔を絶望で歪め、手を伸ばすが足に力が入らず、地面に倒れてしまう。

 

 心が痛い。だけど突き放さないと師匠は戻ってこない。

 心身共に強いと思っていた師匠も人の子。俺には将軍と師匠の関係は知らない。だけどそこに強い繋がりが有ったんだろう。だからこそ師匠は壊れた。

 

 だがそのまま壊れたままで居ることは俺は許さない。貴方は休んで良い人じゃ無い。俺の理想の為、日本の為に身を粉にしてもらう。

 

「師匠、次会うときまでにはその弱さを捨てといて下さい」

 

 俺は既に大切な人を2回も失った。もう壊れる心は持っていない。

 それに対して師匠は死には慣れているが、大切な人を失うことには慣れていなかったのかもしれない。

 

 接し方が冷たいと自分でも思うが、静の気を通して感じたもう1人の俺がそこに居た。アカデミーの楽しい生活で忘れていた冷酷非情な自分が存在し、それは紛れもなく自分の一部だと。

 

 俺は仲間も守りたい。だけど復讐も俺の一部で、生きる意味なんだ。

 だから俺は共に生きていく、もう1人の自分と。

 

 そして山口が医務室を出る俺に襲いかかりそうな殺気を送っていたが、俺は気に留めなかった。

 

 

 

 

 

 -----

 

 医務室から出て、広場に向かう。そこにはあらかじめ、ノエ達が居る柏崎港行きのヘリを用意していた。

 ヘリのローターが回り、風が起こって砂埃が目に入る。目を細めた所に、待っていたのはアリサだった。

 

 アリサは車椅子に乗っていた。俺が暴走したせいで起きた下半身不随なのか、一時的な物なのか今の俺には分からなかった。

 

 アリサは俺を見つけ、慣れない手つきで電動車椅子を操作する。今までは直ぐ来れる距離を方向と速度を操作しないと来れない不自由さをここから見て取れる。

 

 やっとの事で俺の前まで来られたアリサは苦笑いを俺に向ける。

 

「……はぁ。こんな少しの距離なのに不便ねぇ。まさか自分が乗るとは思わなかったけど……」

 

 その感想に俺は何も答えられない。俺のせいでこうなったのだ。これは一生付きまとう責任かもしれない。

 

 するとそんな様子を見たアリサが俺の腹を軽く殴る。

 

「……どうせあんたの事だから詰まらない事考えてるんでしょうけど、全部忘れなさい。あそこで巻き込まれたのは私の意志。そしてこの麻痺は一時的な物。時間は掛かるかもだけど完治するってお医者様が言ってたわ」

 

 俺の心を見透かしてたような答え。そう俺は彼女に許して欲しかったんだ。

 だが彼女の言ってることが本当か分からない。一生の下半身付随を誤魔化して嘘をついてるかもしれない。だけどそれは俺を思っての事。ならば俺は感謝を伝えるだけだ。

 

「……アリサには敵わないな。……でもありがとう」

 

 アリサも俺の笑顔見て満足そうに微笑む。

 

「だから……死ぬなんて言わないで。生きて帰ってくるとここで誓いなさい」

 

 その表情は真剣そのもの。

 俺も顔を引き締めて返事をする。

 

「ああ、必ず生きて帰ってくる」

 

 確証はない。だけどこれに応えるのがせめてものアリサへの償いだった。

 

 アリサを残し、ヘリは上昇する。

 

 髪を抑えながら上を見上げるアリサの表情はいつまでも笑顔だった。

 

 

 

 

 

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 柏崎港へは1時間程で着く。

 

 向こうへは事前に通告してるから落とされはしないだろうが、これも確証はない。こちらは約束を破ったのだから、向こうも守る必要はない。また部下には俺が来ることを通達されてない、勝手に動くという事もあり得る。

 全員に恨まれても仕方ないのだ。

 

 ヘリじゃ対空砲火の前に何もする術も無い。高度が低ければ、魔法で何とか降りれるかもしれないが、そんな賭けのような事もしたくも無い。

 

 そんな最悪の結果を予想しながらヘリは柏崎の町に到着する。

 もう近接対空砲火の射程圏だが、撃たれてない。統率が行き渡ってるのだろうか。

 

 そして無線からの誘導管制に従って、決められたスペースに着陸する。操縦士には悪いが俺が帰ってくるまでここで待機して貰おう。

 

 ヘリを降りると、そこには完全武装した兵士達がズラッと並んでいた。銃口は向けられてないものの、一様に殺気立っていた。

 

 予想通りの重い雰囲気で、俺の一挙一動に視線が集まる。少しでもおかしな事をしたら殺されるだろう。

 

 そして強面の兵士達に囲まれながら、天幕に入っていく。そこで待っていたのはノエでは無く、トウキョウで会った男だった。

 

 あの時は優しい笑みを浮かべていたが、今はその面影も無く、何とも冷たい視線を俺に向けている。

 

 そして簡易テーブルを挟んで対面に座らされる。

 

 向こうには男だけ、俺の方には兵士達が監視するというまるで囚人にでもなったみたいだ。

 

「……さて、敵陣に単騎で来るという約束を守ったことは評価しよう。だがまだ約束を破った事には釣り合わない」

 

 冷たさと怒りに満ちた態度。静かに怒る男は相当我々を信頼してたのだろう。

 

「大変申し訳ありませんでした。約束した柳生は昏睡状態で、その時の指揮権は他の人に有りました。またその人は柳生よりも上層部で我々には止める術がありませんでした」

 

 言い訳だが、これを言う言わないでは向こうの理解度が違う。

 

「……では、今回の攻撃はそちら全体の意志と考えて宜しいと? 上層部がそれならば軍隊はその方向に向かうのですから」

 

「いえ、その作戦中に柳生よりも上の指揮官はMIA(作戦中行方不明)になり、現在全軍の指揮権は柳生派にあります。これ以降攻撃することはあり得ません」

 

 何とか言いたい事は言えた。これでこちらの状況は伝えられた。

 

 だが男は半笑いを返してくる。

 

「なるほど。現在は柳生派が統率されているとの事ですが、MIAの上官が見つかる、残党が反撃に出るとか否定出来ないですよね?」

 

 意地悪な質問だが、確かにその通りだ。上官が見つかれば、指揮権は上官に移る。また残党が勝手に攻撃するかもしれない。

 

「……我々には柳生以上の上官は存在しません。失礼しました。先程申し上げたのはMIAではなく、KIA(戦死)でした。

 また我々、日本独立戦線では無い部隊がうろついているとの情報も入っています。もし見つけた際には迎撃、またはお知らせ頂ければ、こちらが排除します」

 

 俺の答えに男は笑い出す。だがそれは俺を馬鹿にした物では無く、満足感からの笑いだった。

 

「お見事です。従わない者は味方とは認めないという、英断。こちらはそちらの部隊では無いので、抗議も出来ません。全て、正体不明の部隊として片付ければ良いのですからね」

 

 満足そうに頷く男に俺の緊張は解ける。何とか上手く行ったみたいだ。

 

 だがノエが現れない事がまだ俺の心に楔を打ち込んでいた。

 

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